掃討戦
私達は、大広間の前に戻ってきた。扉は、私が脱出した時と同じように開いており、その周囲には死体の山が出来上がっている。
「あんな教団の兵士にならなければ、こうならなかったのにね。」
ザムアが死体に憐みの視線を向ける。確かに、この死体達にも、やむにやまれぬ理由もあったかもしれないが、最終的にここに来てしまった時点で未来は無いだろう。
「でも、この死者たちも、神様が守ってくれるわ。」
そう、ザムアが願ったのは、死者を守る。ここで倒れている死者たちも例外ではない。
「それよりも・・・、あれよね。」
大広間の天井に付くか付かないかの大きさの鎧が、大広間の中央に聳え立っている。
その隣に、光る鉄板が数個、そして、それ以上の数の死体が転がっている。
「あの男がやったように、この鎧を起動するために人が要るようね。」
死体をよく見ると、全員が同じ服装、そして同じ装備をしている。そういえば、あの男も同じだったわね。
「でも、この鎧をどうするかしらね・・・。」
ザムアが腕を組んで首をかしげる。この質量の鉄は、ちょっと難しいわね。
「ねぇ、ハール・・・。あの鉄板、まだ相手の本拠地につながってるのかしら?」
光ってるということは、まだ転送機能は生きているとは思うんだけど、確証は持てないわね。
その疑問を解決すべく、私は地面に落ちている石を鉄板に投げ込む。
その石は、音もなく鉄板に吸い込まれて行き、このポータルは生きていることが判明した。、
「普通の鎧からも、同じ光が出ていたわよね・・・。それなら。」
両手で持ったスタッフを高く掲げるザムア。そして、次の瞬間、全ての鉄の板がザムアの元に集まる。
「ハール、少し離れてて。」
私は、その言葉通り、大広間の出入り口まで戻る。
「さぁ、この鉄板を溶かすわよ。」
手にしたスタッフが、真っ赤に輝く。そして、そのスタッフを鉄板に近づける。
すると、あっという間に集めた鎧が真っ赤になって溶け始め、周囲を焦がしながら赤い水たまりを作り上げた。
鉄の塊が完全に無くなったのを確認して、ザムアはスタッフをぐるりと円を描くように振る。
真っ赤になったスタッフは元の銀色を取り戻し、魔法が終わったことを私に知らせた。
「あの鎧全部は、さすがに溶かせないし、何者かわからないモノに、魔法は危険だからね。」
ザムアの目の前に広がる溶けた鉄の池を見ながら、ザムアが次の行動に出る。
スタッフを片手に持ち、空いた片手で、道具袋からワンドを取り出す。
そのワンドを、小さく振ると、溶けた鉄の池が赤から鈍い銀色に一気に変色する。それと同時に、淡い光が再び現れ始めた。
「やっぱり、どんな形状になっても、この鉄はポータルとして機能するのね。」
予想通りの結果に、満足気なザムア。そして、私に向かってあの鎧を何とかする作戦を告げる。
「ハール、これからあの鎧を浮かせるから、ゆっくり押してこの上に落として。この鎧、利子をつけて返却しましょう。」
そう言いながら、ザムアはネクロピースが詰まったギルドの指輪入りのバケツを鎧に括り付ける。
私たちの予想が当たるとなると・・・ポータルの先は一瞬で壊滅するわね。
いつもなら、こんな事はしないザムアだけど、完全に怒ってるから、もう止められないわ。
「じゃあ、作戦通りよろしくね。」
そう言って、ザムアがワンドを振る。すると、鎧が少し浮き上がる。
浮き上がった鎧を、私はゆっくりと押す。鎧はその力を受けてゆっくり進み、ポータルの上に差し掛かる。
「こんなおもちゃ、返品よ。」
ザムアは、ワンドを下げて、鎧をゆっくりポータルに落とした。
鎧はポータルの上で一瞬止まり、そのまま地面の下に落ちていくように消えていった。
「さて、私たちは高みの見物と行きましょうか。」
ザムアが指輪を操作し、バケツの中に仕込んだ指輪の周囲の状況を映し出す。
どうやら、出口が狭かったのか、バラバラになった鎧と、周囲にまき散らされたネクロピースがまず映し出された。
「あら、入口と出口が違うと、こうなるわけね。」
そう言いながら、ザムアが指輪を操作し、そこから引いた映像を表示させる。どうやら、そこはネクロコリスから少し離れた、海岸沿いの草原のようだ。
そして、バラバラになった鎧のそばに、驚いた表情で鎧を見るアナスタシス教団の兵士の姿があった。
「へぇ・・・転送先はアナスタシス教団の本拠地ってわけじゃなかったのね。」
しばらく見ていると、鎧に近づいた兵士たちが喉をかきむしりながら赤い泡を吐き倒れていく。
それを遠巻きに見ていた他の兵士たちが、急いでその場から逃げていく。うん、正しい判断ね。
「じゃあ、行きましょうか。」
ザムアが映像を切断し、スタッフを手にポータルを見る。もう、徹底的にやるつもりね。
私は、周囲の兵士の死体から状態の良い剣を手にして、ポータルの前に立ち、ザムアに手で合図をする。
「ハール、私もすぐに行くわ。」
その言葉を信じて、私はポータルに飛び込んだ。
「2人が、敵の本拠地に乗り込んだようですね。シャウ、あなたは大丈夫ですか?」
息が荒いシャウを覗き込みながら、サーが問いかける。
「死ぬ事はない・・・が、ここまで辛いとは思わなかった・・・。」
死という最大の鎮痛剤が、シャウには効かない。死ぬほど痛いが永遠に続くという事だ。
「そうですね、死なないということは、肉体から解放されないという事。痛みは消えませんからね。」
「サー、俺はいいから、ファントムロードを助けに行ってくれないか?」
シャウがサーに懇願するが、サーは首を横に振る。
「その必要は、なさそうですね。」
「それは、どういうことだ?」
「もう、そこに居ますから。」
サーが石碑を指さす。シャウがその先に首を向ける。
「シャウ・・・。」
すっかり見慣れたファントムロードの姿が、石碑の下から顔を出す。それと同時に、たくさんのファントムも現れる。
「全員、無事だったのか。よかった。」
その姿を見て安心したのか、シャウは大きく息を吐いた。
「また、助けに来てくれたのか。」
「仲間は守る、仲間の仲間も同じ、当たり前の事だろ。」
「そうか、なら、私もお前を守らないとな。」
そう言って、ファントムロードは錫杖を振り上げる。
「な、なんだ?」
黒い影が、シャウを一気に包み込む。
「落ち着いて、目を閉じるといい。痛みを忘れるには、意識を飛ばすのが一番だ。」
シャウを包み込んだ影は、ヒュプノクラウドと呼ばれる、闇属性の睡眠魔法だ。
「傷を治してやりたいのは山々なんだが、我らアンデッドには、致命傷を負った生者の傷を治す魔法は使えない。すまない。」
「・・・そうか。まぁ、死なないなら・・・、寝てても問題ないな・・・。」
シャウは、そう呟いて寝息を立て始めた。
「目が覚めた時には、きっと全てが終わっているはずだ。お前たち、一緒に居てやってくれ。」
複数のファントムが、シャウの周囲に駆け寄った。その表情は、シャウを守るという決意を固めていたようだった。
「ザムア達が準備した場所のほうが、安全ではなかったのですか?」
ファントムロードの側に寄って、サーが問いかける。
「確かに、あの扉を開けるのは無理だろう。しかし、このネクロコリス全部を浄化するなら、どこに居ても結果は変わらない。」
上から見る地上の光る魔法陣は、ファントムロードにとって禍々しく見える。
「それに、これ以上冒険者の手を借りるだけというのは、あまりにも無責任だろう。だから・・・。」
「自分たちも戦う、という事ですか。」
ファントムロードは頷いて答える。周りのファントムたちも同様に頷く。
「しかし、戦う術はあるのですか?ファントムロードは魔法が使えるようですが、他の者たちはそんな力は持っていないでしょう?」
「ああ、だから、他の者たちは魔法陣ができる前に地中を潜って逃げるように言ったのだが、いう事を聞かない者ばかりでな。」
シャウの周囲にいるファントム達が、サーの顔を見つめる。
「なるほど、心強い者たちですね。」
その様子を見ていたサーの表情が曇る。
「でも、それは蛮勇です。」
「だから、全員でここに来たという事だ。何かあった時、私が守れるように。」
ファントムロードが錫杖を掲げる。
「その判断は、正しいと思います。私もいますし。」
「いざというときには、私たちをお守りください。死神サー。」
「ええ、任せてください。」
サーがにこやかな笑顔を見せる。
「さて、私たちは、私たちのできる事をしましょう。」
サーはそう言いながら、外の魔法陣を見つめていた。
地面がなくなるような感覚が私を襲い、一瞬バランスを崩す。それでも、直ぐにバランスをとり、周囲を見渡す。
いつの間にか私は外に出ていて、周りの景色はネクロコリスから見たあの場所だった。
「う、動くな!!」
鎧を取り囲んでいる兵士たちが、私に制止を促す。私は、兵士の数を数えながらゆっくりと剣を抜く。
「少しでも動けば処分する!」
何しても処分する癖に。よく言うわね。それでも、もう少しだけ周囲の状況を知りたい。私は、剣を構えたまま周囲を探る。
何人かの兵士は、すでに魔導書を片手に、私にいつでも攻撃出来るように準備している。
「武器を下ろせ。そして、ゆっくりと手を挙げろ。」
私に命令を続ける兵士たち。その様子を見るに、どうやらちゃんとミストソーマが機能していて、私は剣士として認識されているようだ。
ネクロコリスに落ちてた兵士たちの鎧を着てくるべきだったかしら。私はそう思いながら、とりあえず地面に剣を突き立てた。
私が剣から手を離した瞬間、魔導書を持った周囲の兵士たちが、一斉に私に向かって魔法を放つ!
予想通りの行動だが、剣を手放した以上、私に対抗策はない・・・。でも、私は全く心配していなかった。
次の瞬間、私の周囲に衝撃と爆炎、そして煙が巻き起こる。その時、突如低い男の声が周囲に響き渡った。
「聞こえるか、我が安息を破りし愚かなる者共よ。」
私の周囲に散らばっていた鎧が、周囲をガードしている。私の後ろには、ザムアがスタッフを掲げて立っていた。
そして、ザムアが指輪を使ってぼそぼそと喋っている。その行動の後に、周囲に再び男の声が響く。
「我が安息を破ったお前たちに裁きを与える。我が僕の力、思い知るといい。」
その声の直後、私の周囲にある煙が少し晴れる。その時に見えた兵士たちの表情は、すっかり怯え切っていた。
今まで味方だった鎧が、私たちを守っている。兵士たちにとっては、信じられない事実だろう。
「ハール、お待たせ。さて、大掃除と行きましょう。」
ザムアが、笑顔を見せる。私は地面に刺した剣を抜き、まだ完全に晴れ切っていない土煙に隠れ、魔導書を持った兵士に向かって走り出す。
そして、剣を振り下ろして、兵士を切り落とす。魔法を使う兵士はそこまで重装備ではないようで、簡単に真っ二つに出来た。
二つに分かれた兵士の返り血が、私の体を赤く染める。それでも、私の本当の姿にならず、服がどんどん血に染まっていく。
てっきり、今までのパターンで、服が消えるかと思ってたけど、そうはならなかったわね。血は着るものじゃないという判断かしら。
ある程度敵の数を減らした後、私はザムアのほうに少し目を向ける。ザムアは鎧の破片に守られた状態で、そこから魔法で兵士を潰していた。
ザムアに近づこうとする剣や槍を携えた兵士は、魔法で死ぬか、周囲にばらまかれたネクロピースで死ぬかのどちらか。
弓で攻撃しようとすれば、鎧がその攻撃をはじき、魔法攻撃は私が暴れている為に使えない。最高のコンビネーションね。
そうして、周囲の兵士を粗方片付けた私は、さらなる増援が来ないことを確認して、ザムアの元にゆっくりと後退する。
「お疲れ様、ハール。もう少し残ってるけど、丁度いいわね。」
ザムアが再び指輪に向けてぼそぼそとつぶやく。そして、しばらくすると再び男の低い声が周囲に響き渡った。
「我が僕の力、存分に味わったであろう。これ以上の損害を出したくなければ、今すぐに消えることだ。」
その言葉の後、ザムアが指輪に向けて語り掛ける。
「ありがとう、ファントムロード。」
「これでよかったのか?」
「ええ、バッチリよ。相手も随分騙された感じね。」
周囲を見渡すと、置物になった兵士たち以外は、同じ方向に一斉に逃げていく。あの先に、拠点があるのでしょうね。
「そうか。お前たちに頼りきりになってすまないが、よろしく頼むぞ。」
「任せといて。」
一連の会話が終わり、ザムアが私の方に顔を向ける。あの声、ファントムロードだったんだ。
「こういうのは、慣れた人がやったほうがいいわよね。私にあの威厳の出し方は無理よ。」
ザムアの説明を聞いて、納得した表情を見せた私。それを見て、少し怪訝そうな顔をするザムア。
「フォローしてくれると思ったんだけどなぁ。」
少し口をとがらせて、不満を述べるザムア。私は、それを見て少し慌てる。
「冗談よ。さて、拠点を潰して、みんなのところに戻りましょう。」
ザムアが笑顔を私に見せる。その笑顔に答えるように頷いて、私は剣を握りしめた。
その様子を、少し離れた小高い丘から見ている司祭が居る。
「忌々しいアンデッドめ・・・。」
そう呟いて、司祭はネクロコリスを見る。魔法陣が薄らと輝いている。
「最後のトリガーが起動しないとなると、アレを動かすしかないか。」
司祭の視線の先には、兵士が集まる拠点がある。その拠点の片隅に、円柱型の鉄の塊が立っていた。
「今を生きる者が、止まった時を生きる者に負けるわけにはいかんのだ。」
そう言いながら、司祭は姿を消し、次の瞬間、鉄の塊の前に姿を現した。
「命が惜しいものは離れてろ!」
そう言って、司祭はその周囲にいた兵士達に警告する。その警告を聞いた兵士達は、拠点から少し離れた場所に一斉に移動する。
「さぁ、お前の力を見せてみろ。」
鉄の塊に手をかざす。すると、鉄の塊にネクロコリスの周囲にある魔法陣と同じ紋様が浮かび上がる。
「全ての不浄なるものを滅ぼせ。フェルトオーラティオ。」
鉄の塊が、不気味に振動を始め、ガラガラと音を立てて崩れ去る。しかし、その崩れ去った鉄の塊は、再び一つに集まり、翼を持った奇妙な鳥の姿に変化した。
変化したことを見届けると、司祭も兵士達の側に離れる。司祭が安全圏まで戻った直後、鉄の翼から炎が吹き出し、周囲の空気を歪ませる。
そして、そのまま鉄の鳥は陸地を離れ、ネクロコリスに向けて飛んで行った。
「あれは・・・何かしら?」
私達からも、その奇妙な鉄の鳥の姿は見ることができた。しかし、全くわからない私は、ザムアに首を横に振って見せる。
「早く拠点を壊滅させて、戻りましょう。嫌な予感しかしないわ。ハール、よろしくね。」
私はザムアに頷いて答える。自分も同じことを考えていたので、すぐさま行動に出た。
ザムアは魔法を唱え始め、私はザムアに頼まれた仕事をこなすために、逃げた兵士の後を追い、拠点に向かう。
私の目の先に、大きめのテントが3つほど見える。兵士たちはあわただしくテントの中と外を行ったり来たりしている。
間違いなくあれが拠点だろう。テントの奥の広場には、黒く焦げた地面が見える。
私は意を決して、拠点に突撃する。その瞬間、私の足から風が吹き出す。その風を利用して、私は空高くジャンプする。
その風に乗って、私はテントの天幕に飛び込む。その時の衝撃は、大きくたわんだ天幕がすべて吸収してくれた。
私は、すぐさまテントの天幕を剣で切り裂き、中に飛び込んだ。
「な、貴様!!」
中に居た兵士が、驚きながらも私に向かって武器を振りかざす。その声を聞いた兵士が、こちらに向かってくる足音が聞こえてくる。
私は道具袋から、お守りのネクロピースを取り出し、出入口に向かって投げる。人が1人すれ違えるかどうかの狭さだから、間違いなく仕事をしてくれる。
後は、この中の兵士たちを倒せば、ザムアの魔法で拠点を潰してくれるはず。
そのまま中の兵士たちを切り落としていく。一振りごとに、兵士たちの悲鳴が響き、あっという間にこのテントの中は兵士たちの死体でいっぱいになる。
その悲鳴に誘われるかのように、テントに兵士が殺到するが、仕掛けておいたネクロピースがほとんどの兵士を死体に変えていく。
それでも、数人の兵士が内部に入って私に向かってくるけど、毒に侵されて、動きが悪い兵士なんて、私の敵じゃないわ。
ある程度の屍の山を築き上げた私は、指輪に手をかざして、ザムアとの通信を開く。
「ハール!静かになるまで、そこから出ないでね!」
指輪からザムアの指示が聞こえてくる。私はそれに従うため、周囲の兵士たちを片付けて安全地帯を作る。
その直後、生きている兵士たちの動きが止まり、ざわめき始める。それがあまりにも奇妙な光景で、私も思わず見入ってしまう。
次の瞬間、テントが大きく揺れて私が入ってきた天井の傷が一気に広がり、テント内に風が吹き荒れた。
私は剣を地面に突き立てて、飛ばされないようにしっかりとしがみつく。兵士たちは、防御態勢が間に合わなかったらしく、テントの壁に吹き飛ばされている。
しばらく、風が吹き荒れた後、周囲が静かになる。嫌な予感がした私は、息のある兵士を放置し、テント外へ出る。
外の光景は、私が上から見た時とはすっかり違っている。周りにあったテントは、遠く離れたところで残骸になっていた。
「ハール、大丈夫だったようね。」
指輪からザムアの声が聞こえる。
「風の魔法で、周りを吹き飛ばしたから、もう大丈夫よ。」
私は、後ろを振り向いて出てきたテントを見る。ザムアの言う通り、私が居たテントを中心に魔法を発動させたから、あのテントだけは原形を留めてたってわけね。
「ザムア、私のところに戻って。残ったテントも片付けるわ。」
「待て。」
戻ろうとする私を呼び止める声が聞こえる。私は咄嗟にその方向に向き直り、剣を構える。
「あの中にいた、兵士の1人か。人の姿をしているが、俺の目は欺けない。」
私を指さしながら、男は私の正体を見抜いたと突き付ける。
あの中にいた兵士・・・もしかして、大広間に居た冷静な人かしら。だとしたら、慎重に行かないとダメね。
「ハール、私が話すわ。剣を構えたまま、適当に口だけ合わせて。」
私にしか聞こえない声で、ザムアが私に作戦を伝える。それに従って、私は口をパクパクとさせて見せる。
「あの大広間に居たの。なら、相当上の人ってわけね。なら、今すぐにあそこに飛んでる鉄の塊を自宅に帰しなさい。」
「それは、無理な相談だな。あれはもう俺でも止められない。ネクロコリスは、しっかり浄化して、我らが有効に使ってやる。安心して眠るといい。」
初めからわかってたけど、こんな奴らに交渉は無駄だったのよね。
「ハール、やっちゃおう・・・。」
再び、ザムアが私に問いかける。もちろん、いつでも行ける。今の私達に、慈悲はないわ。
私は、司祭を睨みつけながら、剣を向ける。司祭も、私に向けて手を向けている。
「アンデッドめ・・・。」
司祭の手が光り、私に向けて奇妙なオーラを放つ。
「浄化の光だ。貴様には耐えられないだろう。」
その光が、どんどん強くなり、私の体全てを包み込み、私の姿は視認できなくなる。
どうやら、強力な浄化魔法のようだが、今の私達には、浄化が効かない。そのことを一切知らない司祭は、高笑いを始める。
私は、その光を浴びながら、司祭に駆け寄り、手にした剣を振り下ろす。
司祭の両手が地面に落ちる。一瞬、何が起こったかがわからない司祭だったが、自分の手の違和感を感じ、その直後に痛みが襲いかかかって、初めて現状を把握する。
「な・・・何故だ!!!」
「何故でしょうね。」
ザムアが私の思ったことを言葉にしてくれる。そして、私はザムアがしてほしい事を実行する。
司祭の喉に剣を突き刺す。司祭は、恐怖で引きつった表情のまま、絶命する。
私は、のどに刺した剣を横に薙ぎ払って剣を死体から取り出す。そして、ネクロコリスの姿を見て呆然とする。
「ど・・・どうなってるの?!」
ネクロコリスの上空に、鉄の鳥が浮遊している。その鉄の鳥が、さっき私が受けた光をネクロコリスに向けて放っていた。
「ハール、さっきの光って、浄化魔法よね・・・?じゃあ、あれも・・・?!」
私とザムアは浄化魔法は効かなくなってるけど、ファントムロードは・・・。
あれ?それでも、今は神様がついてるわね。なら、大丈夫・・・かな?
「嫌な予感がするわ。ハール、急いで戻るわよ。」
ザムアが少し焦った声で私を呼ぶ。その声に答えるように、私はザムアの元に駆け出した。




