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ただ一人、セオだけは:eastern peninsula

一ヵ月以上、更新できなくてすみませんでした!

『ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』


 まるでクジラの鳴き声のように、その嵐は遠くに現れた。数多の木々をなぎ倒しながら、とてつもない速さでこちらに向かってくる。


――見ちゃダメ!!


 そして同時に、“研究室(ラボ君)”が今までにない焦った声音で叫んできた。俺は咄嗟に嵐から目を逸らす。


 チラリと確認すれば、レモンもハティア殿下も嵐を見つめている。戦闘態勢をとり、どのように対処するべきか睨んでいた。


「や、約束が違います! サクラには何もしないとっ!」


 静は嵐に向かってまるで懇願するように叫んでいた。


 そして次の瞬間。


――結界を張ってッ!


「つぁっ!」


 優しく、それでいてドロドロとした魔力とともにまばゆい光がはしった。


 そして目を開ければ。


「……誰も、いない」


 レモンもハティア殿下も静も、そして神樹の幼木もそこにはなかった。


 けれど、俺には焦りはあまりなかった。


「む? あっちかな?」


 不本意ながら動いてしまう、俺の狐耳。未だに制御がきかない、それはピコピコと動いてある方向の音を聴く。


 この耳はレモンの神獣の加護によって作られたもの。だから、レモンの居場所が分かるのだ。


 そしてその場所にいなくなった全員がいることも。


 あと、皆の命が無事なのも分かる。急を要する事態にはなっていない。


「それにしてもさっきの嵐は何だろう?」


 タッタッタとレモンたちのいる方向へと走りながらひとりごちれば、心の中にいる“研究室(ラボ君)”が答えてくれる。


――精霊の嘆きだよ。


 精霊の嘆き? 


――うん。精霊の厄子(うつわ)……巫女というのが、今は正しいのかな? けど、役割は似ているようで、少し違うらしいし。う~ん。


 “研究室(ラボ君)”は悩みだす。


 細かいことはいいから、端的に。


――つまりだね。あそこにいた神樹の幼木の子が、周りの命を取り込み始めちゃったんだよ。


 ……ヤバくない、それ。


――う~ん、どうだろう。直ぐに何かがあるわけではないらしいよ。ただ、死ぬまで目覚めないだけで。


 十分ヤバいじゃん!


 えっちらほっちらと走っていた俺は足に魔力をまわせるだけまわして、全速力で駆ける。


 そうして森の更に奥地へと足を踏み込めば、それはようやく見えてきた。


「なんじゃこりゃ。桜……?」


 そこには一本の桜があった。薄桃色の花を散らしていた。


 けれど、なんというか、異様だ。


 それは植物だと思えなかった。騙し絵というべきか、まるで綺麗な絵具で作ったかのような桜だったのだ。


 散る花も、どこかチープでもやがかかっている。


 試しに宙を舞う花びらの一枚を掴んでみれば、泥のようにねちょりとして潰れてしまう。


 よくよく魔力を詳しく調べてみれば、先ほど感じた優しく、それでいてドロドロとした魔力によってそれは構成されていた。


「……まぁいいや。レモンたちはどこに」


 この桜もどきの近くにレモンたちがいるはずなのだが、見当たらない。


 と、


『ぐぉぉおおおおおおおおお!!』


 先ほど以上におどろおどろしい鳴き声と共に、嵐が遠くに現れた。


 今度はこちらに向かってくるわけではなく、むしろ遠ざかっていく。


「南……海の方か」


 嵐を見ないようにしつつ、けれど嵐の移動方向だけは把握して。


 そしてすぐに、遠くで優しくそれでいてドロドロとした魔力とまばゆい光がはしった。


 同時に目の前の桜もどきが大きくうねり。


「っ!! アイラッ!!」


 遥か上空から、多くの人が落ちてきた。


 その大半は男性で、船乗りと思しき格好をしていた。


 そしてそんな中、異質な人たちがいた。


 クラリスさん、リーナさん、そしてアイラだった。


 みな、気絶していた。クラリスさんさえ、気絶していたのだ。


『ぐぉぉぉおおおおおお!!』

「っ!」


 落下してくる彼女たちに向かって、桜もどきが大きく鳴いた。それは先ほどの嵐の鳴き声と一緒だった。


 桜もどきはネチョネチョとした桜の花びらをアイラ達に向かって伸ばす。まるでアイラ達を食べようとしているみたいだった。


 咄嗟に魔術陣を浮かべて、風の魔法で花びらを吹き飛ばそうとするが、どういうわけか魔力を吸収されて逆に勢いを増させてしまった。


 ならばと魔法を消す魔法、〝魔法殺し〟を放つが〝何か〟に阻まれてしまった。


 このままではアイラたちが桜の花びらに飲みこまれてしまう。


「あぁっ!」


 そう考えた瞬間、自分でも想像もしないほどの馬鹿力が湧いてきて、俺は高く飛んだ。


 そしてどうにかアイラに触れた瞬間、桜の花びらに飲みこまれてしまった。



 Φ



――起きて。起きて。


 うぅん。もうちょっと寝かせて……


――起きろ!!!


「っ!」


 “研究室(ラボ君)”の怒鳴り声で、俺の意識はパッと覚醒した。


「ここは……」


 周りを見渡せば、どろどろとした液体が地面を覆っていて、そこに色々な人が眠っていた。


 先ほどみた船乗りはもちろん、陰陽師や武士、それにレモンや静、クラリスさんが眠っていた。


 アイラは俺の隣で眠っていた。


「嫌な、ところ」


――全くだよ。独りぼっちの悲しい場所。僕、ここ大っ嫌い。


 “研究室(ラボ君)”が強く同意する。それはまるで以前ここに来たことがあるかのような声音でもあった。


 それが少しだけ気になったが。


「うぅ、う。セオ……さま」


 アイラの苦しそうな声を聞いて、頭から直ぐに吹き飛んだ。


「あぁ、ひとり……ひとり……かなしいのは……」

「だめ、だめ、もう……いやなの……」


 アイラだけではない。すぐ近くで眠っていた静も苦しそうに呻く。他の人はそういった様子もなく、いたって穏やかに眠っているのに二人だけが悪夢にうなされている。


 そして徐々に生命力を奪われているようだった。


「どうにかしないとっ」


 解析の魔法でアイラたちの状態を調べているが、どうにも魔法で眠らされているわけではないらしい。


 もっと別の力だった。初めて感じる力で、よくわからないそれは複雑に絡み合い、アイラの奥底の何かを縛り付けていた。


「だけど、魔法で、解けそうな気配がする」


 試しにアイラに魔力を流しこんで、その複雑に絡み合ったよくわからない力に干渉しようとすれば、少しだけ動かすことができた。


 たぶん、頑張れば解けると思う。


 けれど、俺の頭だとこの複雑怪奇なものを解ける気がしない。


 だから、“研究室(ラボ君)”。力を貸して。アイラに、みんなにかけられているこれを解きたいんだ。


――もちろんさ! さっさとこんな場所からおさらばさっさしたいもんね!


 俺は沢山の分身を召喚して、それぞれの人に手を当てながら、複雑怪奇に絡み縛り付けているそれを解こうとした。

いつも読んで下さりありがとうございます。

面白い、また少しでも続きが気になると思いましたら、ブックマークやポイント評価を何卒お願いします。モチベーションアップにつながります。

また、感想があると励みになります。


言い訳です。

私生活が忙しすぎて、執筆時間がとれませんでした。すみません。


次の更新についてですが、今週の日曜日になるべく投稿したいと思っています。

最近は私生活がひと段落ついたため、多少執筆に時間をさけるようになったので、投稿頻度も上がるかと思います。たぶん

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新作です。ぜひよろしければ読んでいってください。
ドワーフの魔術師。           
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