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いともたやすく行われる……:eastern peninsula

 その幼木(ようぼく)に触れれば、静の腕に瘴気がまとわりついた。


「セオ様! 私を締め上げてください!」

「……わかったよ」


 見たこともない形相をしたレモンが静に向かって駆けだす。殺気を放ち、体内の魔力を高めている。静に攻撃か何かをしようとしているのだ。


 さっそく、役割とやらを果たさなければならない状況になったようだ。


 気乗りしないけれど、レモン本人に頼まれたので仕方がない、と俺はフィンガースナップをした。ついでに、レモンに無理やりつけられた狐耳と尻尾を揺らす。


「ひゃあんっ!!」


 少し(なま)めかしい悲鳴とともにレモンがペタンと座り込んだ。


 耳と尻尾をピンッとたてて、耳と頬を真っ赤にしながら、振り返って俺を睨んでくる。


「セオ様! これは、いったい、どういうことですかっ!?」

「いや、だから、レモンの希望通り静を襲わないようにしただけで」

「それは、わかぁっています! そうではなくてぇ、この、からだのぉっ!」

「ああ……それね……」


 呂律が回らず涙目のレモンからちょっと視線を逸らしながら、俺は頬をかいて説明した。


「ほら、レモンほどの実力者を縛り上げるとなると、それなりに手荒なことをしなくちゃいけないじゃん? そうすると確実にレモンを傷つけるからさ。あんまり心情的にしたくなくて」


 俺は自分に生えた狐の耳と尻尾に触れた。


「レモンが神獣の加護を使って俺に耳と尻尾を生やしたのもあって、俺とレモンって魔力的に近い状態にあるんだよね。しかも、レモンの神聖魔力を補うために俺の変質させた魔力を譲渡したから、レモンの魔力の状態を操作できるようになってて」

「さらっと、やばいこといっれませんっ!?」

「言ってない。言ってない。それで、だから、その……尻尾とか耳とかさ。神経が集中している部分に魔力を集中させて、かき乱したんだよ。そうすると、力が入らなくて動けなくなるでしょ?」

「そ、そうれすけど! これは、なっとくいきましぇん! あとでロイス様たちに報告しますのでぇっ!」

「いや、それはやめてよ! 俺だって不本意だからさ!」


 いや、だって、これ以外に傷つけずにレモンの動きを止める方法がなかったからで、俺だって親しい女性にこんなことをしたかったわけじゃない。


「だから、静さん? その、蔑むような眼で俺を見ないでいただけると嬉しいんですが……」

「っ…………それは、できない相談です」

「できない相談なんだ……」


 半身に瘴気を宿した静は、顔を赤くして震えるレモンを一瞥したあと、俺に酷く冷たい目を向けてきた。女性の敵だと言わんばかりである。


 いや、分かってるよ。俺がレモンにしていることって、まぁ、そういうことに近いし。そういう目的があってしているわけではないけど。不本意だし。


「……とはいえ、このままだとレモンも会話に参加できないから……」


 俺はレモンに近づいた。


「レモン。一瞬だけ、役目に抗える?」

「……セオ様のいじわるがなければ、抗えます」

「……はいはい。じゃあ、合図をするから一瞬だけ抗ってね」


 俺はパンッと手を鳴らす。


「ッ!」


 へなへなと耳と顔を赤くしていたレモンは、けれど次の瞬間、静に向かって強い殺気を向けて立ち上がろうとした。


 けれど、一瞬だけそれを(こら)える。ピタっと石像のように静止した。


 同時に俺はレモンの手に触れた。また、分身を一体召喚し、その分身を強力な結界で封じ込める。

 

「……これでどう? 役目への衝動はなくなった?」

「っ……ええ、はい。確かに……」


 静への殺気も消えたようで、レモンはいつもの気の抜けた表情で目を丸くする。


「けど、どうやって……」

「ほら、さっきレモンの魔力の状態を操れるって言ったでしょ? レモンのその役目ってのは神聖魔力が由来。だから、その神聖魔力を弄ってその役目をレモンから消してしまえばいい」

「っ!? 私から役目を消し去ったって。そんな神獣の力に抗うなんてことができるわけ――」

「まぁ、実際には消し去ってもないし、抗ってもいないよ。誤魔化しただけだよ」


 俺は結界に閉じ込められた分身体を見やった。分身体は静に殺気を向けていた。


「俺とレモンは繋がっている状態。だから、その役目を含んでいる神聖魔力の因子だけを一時的に抽出して、俺を媒介に分身体に押し付けたわけ。あの分身体が消えれば、レモンに役目が戻る」

「………………役目の因子だけを抽出するって、どんな異次元のことをしたんですか」

「いや、俺がしたわけじゃないよ」


 恐れおののくような目を向けてくるレモンに俺は肩を竦めた。


 そう、この一連の作業は俺がしたわけじゃない。“研究室(ラボ君)”がしただけだ。俺は頑張って、と応援しただけだった。


――ホントだよ! 少しは手伝ってくれてもよかったんだよ!


 いや、俺じゃ流石に無理だから。


――ふん、嘘おっしゃい! セオ君はしないだけだよ! もう、まったく。


 ぷんぷんと怒り気味の“研究室(ラボ君)”に苦笑いしながら、俺は静に視線を向けた。


「さて、と。じゃあ、話をしようか」

「……話すことはありません」

「俺たちにはあるんだよ。特に、君の中にいる妖精……いや、精霊さんにね」

「っ」


 静は瘴気を宿した幼木を守るように俺らを睨んだ。


 その様子にあはは、と頬をかく。


「大丈夫だって、君を傷つけたりもしない。その木の精霊さんも。約束する。俺たちはただ、君たちを助けたいだけだ」


 ついでに、アイラのために静に恩を売っておきたいのもある。明日頃にはアイラがこの国に到着するわけだし、その時に便宜を図ってもらえれば、アイラのためになるだろうし。


「けれど……」


 俺の邪な打算が漏れ出しているのか、静は警戒を緩めない。


 どうしたものか、とレモンと顔を見合わせたところで。


「では、わたくしから話そうかしら」

「っ!?」

「えっ!?」


 ぴょんっ、と虚空から美しい少女が飛び降りてきた。


 行方不明のはずのハティア殿下だった。

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ドワーフの魔術師。           
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