わけわからん:eastern peninsula
「て、天狐じゃ! 天狐様じゃぞ!! 皆のもの、跪くのじゃ!!」
「んだばって、こんなところに天狐様がおらんが! 妖魔たちが騙っているだけばってん!」
「侍の連中ば、こんぎゃ侮辱するような真似をっ!」
「急急如律令、呪符退魔」
「陰陽師どもの呪術に備えろ! 何としても巫女様を守るのじゃ!!」
「シェェエエエエエエ!!」
「キエェエエエエエーー!!」
なんだ、この状況は。
森の中に俺たちはいた。
片や狩衣を着た男ども。みょうちくりんな文字が描かれた札を空中にばら撒き、前世で聞いたことがあるような呪文を唱えている。
片や裃を着た男ども。ぬるりと光る刀を握りしめ、剣道部からよく響いていた奇声をあげていた。
世界観……とツッコみそうになるが、自分たちの状況を顧みるとそんな余裕はない。
なにせ俺とレモンと静は両陣営が睨み合う中央で聳え立つ大木に埋まっていたからだ。
こう、胸元から顔が幹から飛び出る形で、下半身は幹の中に埋まっている状態なのだ。
なんで……?
Φ
からくり人形を作っていた時のことだった。
昨日静やご老公と呼ばれていた偉い人にお茶を配るからくり人形を渡したところ、二人ともとても喜んだ。
なので、もっと創ろうと思って金属をこねくり廻して歯車を作っていたのだが、キーっと鷹の鳴く声が響き俺の影の中から普通の鷹が現れた。
当然驚く。
「え、なにこれっ!?」
「あ、アランさんからの手紙です。セオ様の影とアランさんの影を繋げておいたんです」
「事前に伝えておいてくれない、それ……」
「まぁ、いいじゃないですか」
自らの肩に止まった鷹の頭を撫でたレモンは、鷹の足に括りつけられた通信筒を開きその中から手紙を取り出した。
手紙を読み始めたレモン。
「セオ様。ハティア王女殿下の居場所が分かりました」
「やっぱり東の浮島にいたの?」
「いいえ、この国にいます」
そう言ったレモンの表情はとても怖いものだった。不穏な空気を感じて、俺は弄っていた歯車を置く。
「何が書かれてたの?」
「……順を追って説明します。まず、ハティア王女殿下は東の浮島にいました」
「……いました?」
「はい。バック・グラウスと共に自由ギルドの総裁に依頼をするために訪れていたそうです」
「依頼?」
「はい。ただ、守秘義務があるとか何とかでヘタレクソ男――総裁が一切口を割らないせい依頼内容についてはまだ分からないそうです。ヘタレ――総裁とはいえ、腐っても自由ギルドの総裁ですから、私たち相手でもペラペラと物事を話してくれないんですよ」
レモンって自由ギルドの総裁の事が嫌いなのかな、という疑問が湧いたが、今は脇に置いておく。
「それで問題なのはこれからでした。依頼が締結した直後、ちょうど三日前だそうです。突如妖魔王と名乗る男が現れてハティア王女殿下を攫ったそうです。しかもその直後バック・グラウスも消えたそうです。ただ、彼の場合は自らの意思でその場所を離れたらしく」
「ハティア王女殿下を追いかけた?」
「いえ、違います。転移で移動したらしく、その痕跡を探ったヘタレクソ男の言葉ではグラフト王国のどこかに転移したそうです」
「は?」
状況を整理しよう。
まずハティア王女殿下はバック・グラウスと共に自由ギルドの本部を訪れた。そこで総裁にある依頼をした。
そして三日前に妖魔王と名乗る存在に攫われて、その直後バック・グラウスはグラフト王国へと消えた、と。
……うん、よくわからん。
けど、一番重要なのはハティア王女殿下が妖魔王に攫われたことだ。
「妖魔王の居場所は分かっているの?」
「……いいえ。静様の言葉から妖魔王がこの国に潜んでいるのは確かですが、具体的な居場所までは。自由ギルド本部もハティア王女殿下の捜索を始めたようですが、難航しているようです」
「……そういえば、静が陰陽師たちは妖魔に乗っ取られたと言っていたよね」
「はい。ですので、今から静様のところに伺い、詳しいことを聞きます」
俺たちはまだ妖魔王のことも陰陽師のこともこの国のこともあまり聞けていない。
尋ねようとすると静がはぐらかしてくるのだ。しかも、静の言葉には強制力があってはぐらかされたことを自覚できるようになるのが、次の日になってからだ。
けど、今日は違う。
実のところ、ここ数日無駄に観光を楽しんでいたわけではない。静の力への対策を練ったり、この国の情報を集めていたのだ。
この国でのハティア王女殿下の捜索を依頼したのも、そのため。もちろんハティア王女殿下の捜索という目的はあったが、それ以外にも捜索活動を通してヒネ王国がどれほどの諜報能力を有しているのか、どんな情報を有しているのかを探るためだった。
だから、今、俺たちには静たちと交渉する材料がある。
俺とレモンは静たちのもとに向かった。
そして俺たちは森に攫われて、直後陰陽師と遭遇した。
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次回の更新は3月の頭らへんです。