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献上品を:eastern peninsula

「お帰りなさい、セオ様」


 城に帰った俺は静たちと分かれて用意された自室へと戻る。


 レモンが鼻歌交じりに裁縫をしていた。尻尾をフリフリとしながら、俺の顔を見て小首を傾げてくる。


「随分と機嫌が良いようですね。街の散策はそんなに楽しかったのですか?」

「まぁね。とっても」


 溢れる興奮を抑えてそっけながら頷けば、レモンは少しだけ目を見開いた。


「そんなに……。もしかして、米とかを買ったのですか?」


 興奮がちょっと抑えられなくなって、食い気味に頷く。


「正解! それだけじゃないよ。味噌や醤油、海苔や佃煮とか。魚も色々とあったし、貝類もあってね。そりゃもう沢山買ったんだ! 今は〝宝物袋〟にしまってあるけど、後で見せてあげるよ」

「つまり料理してくれるので?」


 レモンがニヤリと笑う。尻尾は機嫌良さそうに揺れている。


「そういうこと。日本食……俺の故郷の料理を作るのも久しぶりだからね。それに昨夜や今朝の食事からして微妙に味も違うだろうから、ロイス父さんたちに振舞う前に実験台になってもらおうかな、と」

「それはそれは役得な実験台ですね。楽しみです」


 ジュルリとよだれを垂らすレモンに呆れつつ、彼女の手にあったハンカチの刺繍を見やる。


「それよりそれは何? どうして刺繍をしてるの?」

「ああ、これですか。これはあとで献上するんですよ」

「誰に?」

「静様に。ほら、妖魔の王のこととかで取引はしましたけれど、一応ハティア殿下の捜索を依頼している立場ですし、そもそも私たちはよそ者です。礼儀は重要なのですよ。だから、ここは一つ高級品でも献上すればと思いまして」


 レモンはメイド服のスカートの中から、木の棒に巻かれた上質な生地を取り出した。


 どこから取り出したんだ、とは思うが、たぶん普通に異空間から取り出したのだろう。そんな反応もあったし。


 ……とはいえ、どうしてスカートの中から取り出したか全く理解できないが。


「メイドとはそういうものですよ。セオ様」

「どういうものだよ」

「メイドのスカートの中は秘密というわけです」

「はぁ」


 よくわからないが、ツッコむと面倒になりそうなのでスルーしておく。


「で、その生地がどうしたの? 見た感じ、エレガント王国の東の方で採れる生糸を使った生地だと思うけど」

「正解です、セオ様。王家にも献上される最高級品、つまりエレガント王国の特産物です。それに私の魔力を込めた特別な刺繍をすれば、小金貨十枚は下らない価値になります」


 ……つまり、そのレモンが鼻歌混じりに刺繍していたハンカチが日本円で一千万円ほどになるということか。


「いくら何でも嘘でしょ」

「嘘じゃありませんって。確かにハンカチそのものは小金貨一枚程度ですけど、私の刺繍が凄いんです。ほら、見てください。この細やかな刺繍を!」

「……まぁ、確かに凄いけど」


 ハンカチの縁はトリートエウの枝葉の刺繍が施され、四つの辺にそれぞれカンテラ、竜、狼、剣の刺繍が施されていた。


 本来ならば、施されている刺繍の数や種類が多くていくら刺繍の質が高くとも上品には感じないものなのだが、奇跡的な調和によって品位が高くてなおかつ落ち着いた雰囲気を感じる。


 と、ハンカチから不思議な魔力の反応を感じた。よくよく注意して観察すると、どうにも魔法が込められているのが分かった。


「これって」

「ようやく気が付きましたか。先ほど言ったでしょう。私の魔力を込めたと」


 レモンがドヤ顔する。ウザい。


「魔法というよりは加護に近いのですが、ハンカチが綺麗に保たれたりちょっとした幸運を招いたりといった効果が付与されているんです。ただ、これに気がつくのは相当な魔法の熟練者か、もしくは……」

「加護に親しい聖女とかってこと?」

「はい。なので、静様なら気が付くかと。そして気が付いたのであれば、どこの誰がこれを作ったのかが気になると思います」

「レモンの魔力が込められているんだし、直ぐにレモンって分かるんじゃないの?」

「ええ、そうでしょう。けど、重要なのは『どこの』の部分です」


 少し考える。


「つまり、エレガント王国には品質のよう生地を作る技術とそれに加護を付与できる人材を有しているって伝えたいってこと?」

「はい。あと数日もすれば海を越えてアイラ殿下がこの国にいらっしゃいます。その時、静様の言葉一つでアイラ殿下の待遇が大きく変わるのです。そのための布石といいますか、お節介をしようかと思っているんです」


 「私としても応援したいので」とレモンは俺のことを見ながらニコニコと笑ってそう言った。


 ……レモンが生暖かな目でニコニコと笑ってくる理由は全くもって理解に苦しむが、まぁアイラのために何かしたいのは分かる。


 頑張り屋は応援したくなるし、助けになりたくなるもんだ。


「……俺もなんか作ろうかな」

「へぇー。へぇー。へぇー」

「何ッ!? 気持ち悪いんだけど!」


 ニコニコがニヤニヤに変わり、凄く居心地が悪い。俺は茶化す雰囲気満々のレモンを無視して、ちょっとした玩具を作り始めたのだった。



 

いつも読んで下さりありがとうございます。

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お久しぶりです。前回の更新からかなり時間があいてしまいましたが、どうにか今年中に投稿できました。とはいえ、まだまだ本調子でないことや私生活がかなり切羽詰まっていまして(主に卒研及び卒論が修羅場)、通常通りのペースで投稿はできそうにありません。つきましては、ひとまず隔週で投稿していけたらと思っています。よって次の更新は1月の第三週あたりとなります。よろしくお願いします。

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新作です。ぜひよろしければ読んでいってください。
ドワーフの魔術師。           
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