誤魔化しちゃって状況悪化させる人。ラブコメでよくいる:First encounter
「……凄い人がいる」
「まぁ王都だからね」
馬車に乗って王都を移動する俺は、カーテンの隙間から外を見る。
王都はラート町とは比較にならないほどの多くの人が行き交っている。
町人はもちろんのこと、多種多様な恰好をした商人や旅人が目立つ。冒険者はそこまで多くない気がする。
まぁ、冒険者は護衛とか採集とか多種多様なことをこなす仕事だけど、一番は魔物と戦うことだからな。そして一種の自然災害というか、強力な獣害。
そんな魔物が多い地域にわざわざ王都は建てないか……
あれ、いや。ロイス父さんたちがマキーナルト領を貰い受ける数十年前まで王都ってアダド森林とバラサリア山脈からの魔物の防壁を担っていた?
だよね。マキーナルト領と王都って普通に接してるし。
あ、じゃあ昔は王都にいた冒険者がマキーナルト領に流れたっていうのもあるのかな。
結構問題じゃない? 人口流出だし。いや、それよりも魔物の被害の方が大きかったとか。
……まぁいいや。どうでもいいや。
それよりも人族以外もいるな。
獣人はもちろんだし、エルフやドワーフ。鬼人族もいるか?
割合的には人族とそれ以外で七対三くらいだが、それでも俺が色々と読んだ本の印象よりもずっと多い。
マキーナルト領は人族とそれ以外が四対六くらいなのだが、それは世界的に見ても珍しいはずだ。世界の人口割合だと人族が全体の半分を占めているし、人族以外の種族は固有の国で集まっているのが多いからな。
俺はロイス父さんを見やる。
ロイス父さんは俺が何が言いたいのか分かったのか、鷹揚に頷いた。
「エレガント王国は他の国と比べ、種族間の溝が小さいんだよ。流石に数の少ない種族は別だけど、獣人やエルフ、ドワーフくらいなら対等だよ。他の国だと市民権を得るのだって色々もめるけどね」
「数が少ない種族はなんで別なの?」
「文化だったり、特性が違いすぎるのが要因かな? セオはラート町でどんな人たちと関わってきたか分からないけど、妖人族がその最もだね」
「ルルネネさんの灰霊族みたいな?」
放浪兵団の副団長のルルネネさんは、灰の妖精と人族のミックスの子孫だとか。世界全体を見ても二進法を用いて片手で数えられる、つまり三十人前後しかいないとか。
人族が妖精や精霊と交わり生まれた妖人族は、絶対数が少ないのだ。
「文化が違うと市民権を与えづらいんだよ。割合の多い種族と特性が違うとなおさらに。難しいんだけどね」
「じゃあ、うちが受け皿なの? ロイス父さんたちが領地を貰う前に既に彼ら自身で固有のコミュニティーがあったんでしょ?」
そういうと、ロイス父さんは少し目を見開いて頷いた。
「そうだね。そもそもそういう人たちを中心にマキーナルト領は発展してきたからね」
ロイス父さんは活気ある王都をチラリと見て、目を細めた。
と、ライン兄さんと今、王都で流行っている絵画について話し合っていたアテナ母さんが俺に呆れた表情を向けた。
「セオ。アナタって領地経営とかやる気ないのに、そういうのには興味あるのよね。変わってるわ」
まぁ確かに領地経営にはやりたくないし、面倒そうなのでエドガー兄さんに任せるつもりだ。
けど、関わるのをやめるつもりは今のところないんだよな……
ラート町が好きだし、みんなが少しでも幸せを感じられる、そうでなくとも自らで幸せを感じられるような環境があって欲しいと願ってるし。
それで願うついでに、特段自分が動くわけではないが、アイデアとかをエドガー兄さんに提示できればいいな……と。
「……変わってる代表には言われたくないんだけど。あれだよ。魔道具を作る職人と魔道具を研究する研究者は別でしょ?」
「まぁ、確かに実践するか切り拓くかは別かしら……」
俺の説明に納得いったのか、アテナ母さんは頬に手を当てて頷いた。いや、少しばかり納得いってないのか。
まぁ、いいか。
俺は再びカーテン隙間から外を見た。
王都の交通は、少なくとも大通りはかなり整備されているらしく、人が歩く道路と馬車専用の道路に分かれていた。たまに逆方向に行く馬車とすれ違うが、基本的に前世の日本ではなく、西洋の道路と同じで右側通行らしい。
まぁ、人と馬車が分かれているとはいえ、馬車の数は多くない。普通に馬車通りを歩いている人はいるし、普通に横断していたりする。
ただ……
「なんか凄く注目されてない? 歩く人全員が止まってうちの馬車を見ている気がするんだけど」
旅人や商人はもちろん、町人も俺たちが乗っている馬車を一目見ると立ち止まり、興奮した面持ちで俺たちの馬車を見つめる。
子供がわーきゃー叫びながら俺たちの馬車を指さし、お母さんらしき女性が慌てて指を下げさせていた。
どっちにしろ王都に入った時よりも、なんか馬車の周りに人が増えてる気がするんだよね。
流石に進行の邪魔にはなっていないが、見世物小屋みたいな感じの気分になる。
だから、王都に入った瞬間、馬車のカーテンを全て閉じ切ったのか。
そういう視線をロイス父さんたちに向ければ、
「あ、あはは」
「う、うふふ」
二人とも頭痛が痛い、と言った感じに苦笑していた。せめて頭が痛いくらいにしてほしいと言わんばかりだ。
そして慣れているのか、ライン兄さんが得意げに教えてくれる。
「ほら、父さんたちはどうやって貴族になった?」
「ええっと、史上最悪と言われる死之行進を討ち払った英雄だったけ? それで冒険者から貴族に……ああ、そういえばラート町の人たちは結構気さくに話すけど、生ける伝説なのか」
「そうだよ。もともと王都って死之行進と直接接してたから、余計だね。あと、貴族、特に武闘派にもかなりの人気があるからね。セオ、生誕祭もだけど頑張って逃げるんだよ。ホント、父さんたちの面倒なファンが面倒な言いがかりを付けてくるんだよ。手合わせ願おうとか普通にあるから。しかも、普通に泊ってる屋敷に押しかけてくることもあるし」
「うげっ」
俺は思わず顔を顰める。
なるほど、前世での有名人の子息子女はこんな感じだったのか。
面倒だな。
ライン兄さんたちが面倒面倒と言っていた理由の真髄が分かった。ロイス父さんとアテナ母さんの威光で、色々な面倒ごとが寄ってくるんだ。
そういえば、一昨年の生誕祭で、エドガー兄さんとライン兄さんが縁談の話で苦しんでたけど、別に俺が魔道具を売りまくってやらかさなくても二人とも結構な縁談を貰ったのでは?
……やだ。やだ。
前世では大した恋愛もしていないし、付き合った人だって片手で余裕で足りるくらいだけど、うん、五歳で縁談とかどんな地獄だ?
っというか、ライン兄さんは兎も角、ユリシア姉さんとエドガー兄さんがまだ婚約すらしていないのが、不思議なくらいな環境なのか。
と、苦笑いしていたロイス父さんとアテナ母さんが、一転して真剣な表情で俺を見た。
「セオ、一昨年にラインにも言ったのだけれども、私たちに遠慮しなくていいのよ」
「たぶん、生誕祭で思い知ることになるけど、色々とやかく言われるんだ。僕たちの子供としてどうのこうのって」
ロイス父さんとアテナ母さんが俺の頭を撫でる。くすぐったい。
「けど、自らで選んで。気にしないのは難しいかもしれないけど、それが悪いことでない限り、アナタたちが望むのが私たちにとって一番だから」
「そのために全力を尽くす。今までも、これからも」
…………
とても優しくて温かくて。
とても嬉しくて、けれど少しだけ恥ずかしくて。
だから、ちょっとだけ誤魔化す。
「じゃあ、将来は屋敷に引きこもって食っちゃ寝したいんだ――」
「セオ?」
「セオ、口は災いのもとよ?」
「ひぇっ」
優しさと温かさは消えた。
恐怖が到来した。
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