ちょっと臆病なアル:Aruneken
アテナ母さんの気配はダイニングにあった。もうすぐ昼食の時間だからだ。
俺はレモンと共に一階に下りて、そっちへ足を運ぼうとしたら。
「あ、セオ。……ってその子たち何っ!?」
「……アンタ、また変なの拾ってきたの?」
丁度外から帰ってきたライン兄さんとユリシア姉さんにバッタリと会った。いやまぁ、魔力感知で一応分かっていたが、それでもバッタリ会ったという表現が正しいと思う。
アテナ母さんがどこにいるか見つけた後は、あんまり気をやってなかったし。
「……さぁ? 一応あの仮称トリートエウの子だと思うんだけどね。ああ、けど、この子がアル。こっちがリュネ。これがケンだよ」
「リュネっ!」
「ケン!」
「え、何、え、どういうこと? 植物がえ?」
「うん、分かるよライン兄さん」
二人の恰好からもう着替えは済ませたらしい。なので、俺たちは一緒にダイニングへと向かう。
ライン兄さんが、興奮したように目を輝かせながらも、混乱したように首をひねっていた。分かる。普通、植物がこんなにはしゃいだりしないよな。動かないよな。魔物じゃないんだし。
俺は、ライン兄さんの首に潜んでいたミズチとリュネが一瞬触れてはビクッと飛びのく仕草を何度もしている様をみて、頷いた。
アルは人見知りなのか、剣呑な瞳を向けているユリシア姉さんにおびえた様子で、俺のボサボサの深緑の髪の中に潜ってしまい、ケンはのっそのっそと俺の腕を這いずってレモンに飛び移り、ユキと戯れている。
俺とライン兄さんとレモンの体の上で、亀と蛇と根っこ生物が戯れていた。
そうしてなんとも言えない状態で俺たちはダイニングへと入った。
「……あらまあ。ここまで早く……いえ、なんというかおかしな状況ね」
「あ。母さん、座ってて。皿運びは私がやるから」
そこには、お腹を大きくしているのに軽やかに皿運びをしているアテナ母さんの姿があった。俺たちを見て、呆れたように苦笑している。
けれどレモンもそんなアテナ母さんの様子にため息を吐き、ユリシア姉さんは慌ててアテナ母さんに駆け寄る。
「ユリシア、大丈夫よ。少しくらい運動しなきゃ駄目なの。それにセオが作ってくれたベルト? パンツ? のおかげで姿勢が楽だし、万が一の場合にレモンの影もあるし」
「影?」
ユリシア姉さんが首をかしげる。俺とライン兄さんも首を傾げる。影って、暗殺部隊とか諜報部隊とか、そういう意味か? いや、ここにはそんな気配感じないし、うん? どういうことだ。
「ユリシア様。アナタのお母さまはとても頑固ですので、止めても聞きません。ですから、手伝う形で譲歩を引き出したほうがよいです」
「うん? ええ、分かったわ!」
けど、それを訊ねようとした時にはレモンが尻尾に乗っていたユキとケンを俺の頭の上に器用に乗せ、するりとユリシア姉さんの背中を押した。
「アテナ様」
「……ごめんなさい、レモン。……じゃあユリシア。手伝ってくれるかしら」
「ええ!」
そしてアテナ母さんが持っていたお皿の半分をユリシア姉さんに渡し、二人で配膳していた。
……枚数的にロイス父さんとエドガー兄さん、バトラ爺は昼食を家で食べないのか。とすると、夕方まで帰ってこない感じかな。
そんなことを考えながらも、俺はチラリとレモンに視線を向ける。レモンはニッコリと首を傾げながらも、有無を言わぬ雰囲気を放っていた。
うん、さっきの影については聞かない方がいいらしい。シュルシュルリュネリュネという合唱を首から響かせるライン兄さんもそう思ったらしい。
「セオ様。その子たちは一旦後にしましょう」
「ん、分かった。じゃあ、俺も配膳手伝ってくる」
「僕も」
そうして、俺たちは昼食の準備をして、昼食を終えた。アル、リュネ、ケン、ユキ、ミズチはその間に仲良くなったようだ。はしゃいで遊んでいる。
Φ
「それでその子たちね」
「うん」
昼食が終わり、俺たちはリビングへと移動していた。午後は久しぶりにアテナ母さんの授業があるが、今は食休み中だ。
後ろでユリシア姉さんとライン兄さん、レモンの三人が、ミズチとユキ、リュネとケンと戯れている気配を感じながら、俺は隣に座っているアテナ母さんに頷く。
それと同時に未だに俺の頭の中に籠っているアルが、アル~と少しだけ気の抜けた声を出した。体は隠れているのだが、葉っぱだけが頭から出ている。
アテナ母さんは、そんなヘンテコな様子を興味深げにエメラルドの瞳を細めて顎に手を当てた。
「セオ。アナタはこの子たちがどういう種族名だと思うかしら?」
「え。……ええっと……アリュネケン?」
変な質問に俺は戸惑いながら答えると、アテナ母さんはフフッと微笑ましそうに笑った。
「それって、アル、リュネ、ケンの鳴き声から取ったのかしら?」
「うん」
「そう。……それにしてもセオにしてはまんまの名付けだったわね」
「混乱してたし、分かりやすい方がいいかなって」
「うんうん」
要領の得ない問と答えに俺は首を傾げながらも、アテナ母さんが嬉しそうに頬を緩めるものだから、追及できない。
っというか。
「ちょっと、ユリシア姉さん。うろちょろしないで」
「いいじゃない。会話の邪魔してないわよ。それより、そのアルって子、いつまでアンタの頭に籠っているのかしら」
ユリシア姉さんが後ろで、俺の頭を覗き込んでいるのだ。確かに会話の邪魔していないのだが、凄い気になる。俺の髪の毛の中に籠っているアルが気になるのだろうが、とうのアルがブルブルと体を震わせているのを感じる。
「……そんな怖い表情だから――痛い、痛いからっ! ちょ、力、つよっ!」
「誰が鬼ですって!」
「そんな事言ってない。言ってないからっ!」
こめかみをグリグリとされて痛い。めっちゃ痛い、というわけでなく、けれど確実に痛い微妙な強さ。一応、力加減を調節するくらいには怒っていない。
まぁいつものじゃれあいだ。
だから。
「ユリシア。やめなさい」
「……はい」
恐ろしい殺気が籠った声でアテナ母さんが止めるまでがセットである。
「ユリシア。アルちゃんを怖がらせちゃ駄目でしょ」
「……はい」
「セオと、アルちゃんに謝りなさい」
アルちゃんと言われたのに反応して、アルが恐る恐る顔を出した。直ぐにユリシア姉さんを見て引っ込もうとするが、ユリシア姉さんが一瞬だけそっぽを向いて、目を伏せたのをみてアル? と首を傾げた。
「怖がらせてごめんなさい。あと、セオ。ごめん」
「アル? アル?」
「いいよ、ユリシア姉さん。それと、アル。謝ってるし許してあげたら?」
ポツリと呟かれたその言葉にアルは、コテンコテンと何度も首を傾げた。なので、俺はゆっくりとアルの緑の葉っぱを撫でてそういうと。
「アル! アルアルアル!」
「許したって、ユリシア姉さん。けど、やっぱり怖いからこっちにいるって」
「……そう。分かったわ」
ユリシア姉さんはコクリと頷いて、レモンたちの方へと移動した。それを微笑ましく見ながら、アテナ母さんが俺に訊ねる。
「アルちゃんが言っていること分かるのかしら?」
「うん。なんか、なんとなくだけど……」
「そうなの」
アテナ母さんはじっと俺を見つめる。なんか、体のどこかに穴が空きそうなほど見つめられて、少しこそばゆい。
だから、俺も訊ねる。
「ねぇ、アテナ母さん。アルたちは何なの? どういう種族なの?」
「……そうね。セオも驚いたようだし、もういいかしら」
「……驚くって、まぁ驚いたけどさ」
コロコロと笑うアテナ母さんをジト目で見る。
アテナ母さんはもちろん、ロイス父さんもなんか驚かせるのが好きなんだよな。サプライズ! とか言ってびっくりさせるのが好きというか。色々と黙っていることが多い。
悪い癖だ。
「それでまず、何が聞きたいかしら?」
「じゃあ、種族名を教えて。アリュネケンは、適当に言ったから間違っているだろうし?」
そういう言うと、アテナ母さんは可笑しかったのはカラカラと笑う。
俺はそれに少しだけムスッとしながらも、少しだけ睨んで急かすと、アテナ母さんは、ごめんなさい、と言って俺を見た。
「セオ。その子たちの種族名は、アリュネケンで合っているわよ。ただし、アナタにとってだけれども」
「……どういうこと?」
言葉遊びが多すぎるのも、アテナ母さんの悪い癖かな? こう会話を面白可笑しく楽しもうとするというか……
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