それでも人一人が通れるくらいの道です:Aruneken
「ええ。……そういえば、セオ。トリートエウの枝を持ってたわよね」
「え、うん、まぁ。けど、あんまり自由に使えるのは少ないよ。魔導列車の動力部に使うから」
「……まだ諦めてなかったのね」
「当たり前じゃん」
ここ最近になって、トリートエウの枝は動力部、というかエネルギー源そのものとして利用できることが分かってきた。
ただ、トリートエウの何がエネルギー源として反応しているのかが、分かっていないため、一つ一つ成分やら性質やらを抽出する必要がある。トリートエウを単純に伐採しまくる、なんていう発想にはいってしまわないためにも。
そのために、俺はトリートエウの枝の研究にも勤しんでいるのだが、アテナ母さんたちが諦める、というか後回しにすれば、と提案されている。
まぁ、確かにトリートエウの枝の研究って結構面倒なことをしているし、これが外に漏れれば戦争が始まるかもしれないほどヤバい。それくらいのエネルギーを秘めているのだ。
それがなくとも、タイプライターとか活字とか、絵本とか、作るだけならまだしも、俺は売り出そうとしている。無償提供は今後の未来を考えるとできず、けれど、作ったままで腐らせておくのはいやだ。
俺が俺の第二の人生を楽しむうえでも、俺の想像以上の世界を知りたい。だからこそ、俺が知っている世界を取り込んでみたい。それがどんな反応になるかはおいておいて。
まぁそれでも一応、そこまで働かずにのんびりしたいとおもっているが。
……結構傲慢だよな。支離滅裂な感じもあるが、これはこれ、あれはあれっていう感じでごまかしているだけだ。
兎にも角にも、トリートエウの枝の研究までされると死之行進などで忙しいアテナ母さんたちの手に余るのだ。
なので後回しを要求されている。
「大丈夫だって。データは地下工房の最奥に閉まってあるし、実験日もきちんと設定してあるから」
「それは心配してないのよ。そこらへんは私たちも注意しているから。それより、セオが無自覚に変な影響を出すのが怖いのよ。特に今の時期は」
「それも分かってる。だから、事前に実験内容は提出しているでしょ」
そんなアテナ母さんたちの要求も分かるのだ。神樹ともいわれるトリートエウの枝の研究を、死之行進時にやる。結構なリスクだ。どんな影響があるか分からない。
けど、いくら分身が使えるとはいえ、俺の時間は限られているのも確かだ。やれるときにやりたい気持ちもある。
だから、一応実験内容などは事前に提出しているのだ。
「……まぁいいわ。もし何かあっても私たちがフォローすればいいわけだし」
「ありがとう、アテナ母さん。それで、トリートエウの枝があればその太陽の光を作り出せるの?」
「ええ。……そうね。朝食が終わったら私の仕事部屋に来なさい。トリートエウの枝に、聖水と魔晶石、霊石、あとは小麦粉と泥炭を“宝物袋”に入れて持ってきなさい。決して直接持ってきてはだめよ」
「分かった」
それだけの量を幼児である俺が手で持つことなど不可能だから、必然的に“宝物袋”に入れることにはなるのだが、アテナ母さんが念押しするくらいだからうなずいておく。
それにしても、聖水に魔晶石、霊石とかここら辺は分かる。結構レアな素材だし、魔力的な力も高い。
だが、小麦粉? 泥炭? この二つは意味が分からん。
しかしアテナ母さんがいうのだから、必要なモノなのだろう。というか、魔法というより、魔法薬作りに近いのかもしれないな。魔法薬作りも、一応魔法に入るのだが、あれはあれで特殊な魔法だし。
「分かったなら、さっさと素振りに行ってらっしゃい。ロイスが手招きしているわよ」
「……は~い」
アテナ母さんと話していたからもう少し引き延ばせるかと思ったのだが、しかしながら無理だったらしい。
俺は軽量化を施されている紙みたいに軽い木剣を手に取り、にこやかな笑顔で俺を手招きしているロイス父さんの方へ足を進めた。
あ、昨日のエウのこと、話してなかったわ。後でいっか。
Φ
「入るよ」
「いいわよ」
アテナ母さんは椅子に座って書類作業をしていた。後ろには気を張っているレモンが控えている。
アテナ母さんは大体の仕事を移行させたのにも関わらず、書類作業くらいなら座ってできるからといって、身重なのに働きに働いているのだ。
いや、働いていること自体はおかしくない……かもしれない。前世でも身重でも働いている女性はいたし。うちの部署にはいなかったけど。というか男しかいなかったけど。
営業部にだけ数人……いや、こんなことはいいや。関係ないし。
まぁ働いていることはいいとして、アテナ母さんって結構無茶に動き回るのだ。その身体能力が高いのも災いしているし、アテナ母さんって結構適当だからな。特に自分のことに関してはとても適当だ。
だから、レモンが四六時中アテナ母さんを見張っているのだ。
「それで、どうすればいいの?」
「ちょっとだけ待ってもらえるかしら」
「いいよ」
俺は前よりも片付いている部屋を歩き、アテナ母さんの近くにおいてあった椅子を引っ張り出して座った。
カリカリ、パラリパラリ、とアテナ母さんが書類作業する音だけが聞こえる。レモンはレモンで、ピクピクと狐耳をアテナ母さんに向けながらも、目を瞑って魔力を高めていた。
尻尾にはユキがいて、ヌーヌーと鳴きながら尻尾の揺れを楽しんでいたので、たぶんユキに神聖魔力でも注いでいるのだろう。あとは、頭の中で計算作業を熟しているか。
どっちにしろ、みんな働きすぎなんだよな。
俺はそんなことを思いながら、部屋を見渡した。
……前よりは綺麗になってるか。
アテナ母さんはロイス父さんほどではないが、それでも散らかし癖があるのだ。ただ、ロイス父さんの無造作な散らかしとは違い、アテナ母さんは整然とした散らかしといえばいいか。
いや、散らかしというよりは足場がなくなるほどに、一つの部屋に物を押し込める癖があるのだ。
特に本。今も多種多様な本が丁寧に整頓されながらも並んでいる。専用のアーティファクトを使って本棚がないのに、本棚があるように本を並べているのだ。
今はまだ床が見える程度には人が歩く最低限の通路があるのだが、アテナ母さんが妊娠する前は、床にも本が丁寧に敷き詰められていた。
アテナ母さんは、重力魔法による浮遊などを歩くが如く本能レベルで使えるため、浮いて移動すれば足場なんて必要ないじゃないか、という発想で、仕事部屋内では常に浮いて移動していたのだ。
ただ、仕事部屋以外では俺たちの目があるから教育に悪いと思っていたらしく、
普通に地に足をついて移動していた。
そして妊娠した今、アテナ母さんはおなかにいる赤ちゃんに色々と集中力を奪われているのが実情だ。何度もいうようにこの世界で子供を産むというのは結構なリスクだ。
力が強ければ強いほど。
アテナ母さんは、幻想魔法やアランの仙術等々でそういうリスクを大幅に下げているが、それでも妊娠時と妊娠後の弱体化は防げない。
それでも集中すれば重力魔法で浮いて移動することくらいはできるらしいが、その集中が万が一の時の命取りになるため、こうして仕事部屋で自らの足で移動できるくらいには、整理していた。
「さて、セオ。こっちに来なさい」
「え」
と、そんなことを思い集めていたら、書類作業を終えたアテナ母さんが自らの膝に俺を手招きした。
……確かにここ最近はアテナ母さんのお腹に耳を押し当てたり、周りをうろちょろしていたが、膝に座るのはな……
恥ずかしい。
と、そんな思いが口に出てしまった。たぶん、顔にも出ているだろう。
「何、嫌なの? なら、太陽の光も教えないけれど」
アテナ母さんが、実にワザとらしくいいながら、自らの膝をポンポンと叩く。
お腹も大きいし、幼児とはいえ膝の上に座るのはどうなのか、そんなことを思ってしまうのは、俺の経験が少ないからだろう。
ただ、アテナ母さんはもちろん、チラリと閉じていた瞼を開けたレモンもコクリと頷いたので、問題はないのは確からしい。
つまり、俺の恥じらいとの戦い。
なら。
「いえ、滅相もありません」
「なら、よろしい」
普通に頷いた。恥じらいの多くは、しなくていい恥じらいなのだから。
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