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まだ四歳児なんです(肉体は):glimpse

 エウの効力って……あ、そういえば、トリートエウ、つまり神樹って大抵大魔境とかそういう環境のそばに生えているんだよな。


 ってことはつまり。


「ねぇ、トリートエウがあるからこそ、死之行進(デスマーチ)による周辺の魔物の狂暴化がないってこと? それと神聖魔力なしでも、ソフィアや昔の人たちが戦えてたのって」

「そうよ。トリートエウは神樹。そしてエウ様は神霊なのよ。だから、死之行進デスマーチ時に強力な神聖魔力の結界を張って、瘴気を無効化しているの。それどころか、時間をかければ、その時の死之行進(デスマーチ)を消滅させることも」


 つまり、そうか。エウが俺たち一家に祝福や加護を与えているけど、それはここ一帯の守護者としての……


 あと、多分、その結界で魔物が侵攻できる範囲を限定しているのかな。そこ結界で閉じ込めているうちに瘴気を祓って……


 でも、それだと時間がかかるし、被害が出るから、戦ってくれる者が欲しくて、戦ってくれる見返りとして祝福というわけか。


「因みに、死之行進(デスマーチ)の発生年数を遅らせているのは、その結界を模倣した結界なのよ」

「それが階層結界?」

「そうよ」


 ……


「ねぇ、大魔境があるから神樹があるの? 神樹があるから大魔境があるの?」


 そこが少しだけ気になる。


「大魔境があるから神樹があるのよ。そもそも、迷宮と魔物は、星の正常なシステムなのだけれども、大魔境だけは、星が誕生したての時に創り出した失敗作みたいなものなの。だから、調停者であるクロノス様たちが、大魔境が生み出す不浄魔力に対抗する神聖魔力を創り出し、それをとある種の大樹と精霊に与えたのよ」

「因みに、その神聖魔力っていうシステムが星にとって使い勝手がよかったらしくて、こうして僕たちも神聖魔力を持っているってわけだよ」


 と、書類との睨めっこが一通り終わったロイス父さんが会話に入ってきた。


 さっきからこっちをチラチラと見ては、会話に混じりたそうにしていたので、それはもういい笑顔だった。


「……ねぇ、じゃあエウはクロノス爺から直接守護者に任を賜っているっていうこと?」

「そうね。エウ様だけじゃなくて、他の神霊や神樹もだけど」


 ……他の神霊か。


 ……そういえば、邪神とあの勇者冒険譚が一緒だということは、魔王城の近くにも神樹があったっていうことだよな。そして神霊もいたはずだ。


 だが、魔王城付近にはそんな大樹の話なんて……いや、今はいい。


「じゃあ、ライン兄さんがそこの白蛇にあんなに反応したのって……」

「瘴気の発生を感じ取ったんだろうね。特に〝神樹の加護〟を授かっているからね。それに、その白蛇は、たぶん幻獣だと思うからね。同じ幻獣と強いつながりがあるラインは、余計に反応したんだと思うよ」

「たぶん?」


 ロイス父さんが、たぶんという言葉を使った事に引っかかった。


「うん、魔力量からして通常の動物では考えられないし、魔石もないから。けど、僕やアテナが知らないんだよね。外にいる風嵐鷲は知っているんだけど」

「あ、この子もあの鳥も幻獣なんだ」

「そうよ。アダド森林は大魔境だけれども、幻獣と共存するシステムを築いているのよ。……だからこそ、今回幻獣が瘴気に侵されていた事が、一番おかしいのだけれども……あ」


 と、美しい顔を顰めて、不審な様子だったアテナ母さんは、ポツリと声を漏らし、上を見た。


 俺もそっちへ釣られて感覚を集中させれば。


「あ……どうする?」

「そうね。って、考えている暇もなさそうね」


 そういった瞬間、リビングの扉が開き。


「ミズチ!」


 と、顔を真っ赤にしたライン兄さんが叫んで入ってきたのだった。



 Φ


 

 結局の所。


「ライン、目を瞑ってなさい」

「……ん」


 ミズチ、といつの間にか名付けられていた白蛇と離れたくないライン兄さんは、断固として部屋に戻って寝ようとはしなかった。


 だが、長く瘴気に侵蝕されていた幼い白蛇の容態は、ある程度安定したが、それでも瘴気の残滓を神聖魔力で取り除かなければならない。


 一気にやっても一応は大丈夫らしいが、それでも時間をかけて瘴気の残滓を除去していった方が後々に効いてくるらしく、ミズチはアテナ母さんの元を離れられない。

 

 ということで、ライン兄さんはアテナ母さんの膝の上に座って、毛布にくるまっている。


 それにライン兄さんは熱があるのだ。


 だが、病気はできる限り魔法や魔法薬などでは直さない方針が、(うち)にはあるので、氷水が入った水袋をアテナ母さんが頭に当てている状態である。


 布団に寝かせず抱きかかえていなければならないほど、ライン兄さんが強情だったのだ。そんな強情なライン兄さんは珍しく……いや、趣味になると……


 それでも、アテナ母さんやロイス父さんが怒る以上の事はしない。少なくとも、それでも聞き分けがいいのだ。


 だからこそ、熱があるのに布団に戻らなかったライン兄さんに二人は根負けし、こうやってアテナ母さんの膝におさまっているのだ。


「……あら、やっぱり強いつながりができているのね」

「……しかも、僕がしっかり視えないって事は……」

「ええ、“結”か、それに近いわね」


 と、全くしょうがないなぁって感じに、クークーとミズチを抱きかかえながら寝ているライン兄さんの頭を撫でていた二人が、驚いたように目を見開いた。


「“結”って確か、ライン兄さんがハルレと結んでいる……」

「そうよ。もしかしたら、と思って確かめたのだけれども」

「いつの間にか、繋がりを結んであったっていうこと?」

「ええ。通常、“結”みたいな強い魂の繋がりを創るには、相当の時間や労力とか色々かかるのだけれども……ハルレといい、エウ様の事といい、このミズチっていう子といい、ラインは規格外ね」


 ええ、規格外の権化がそれを言うか? と思ってしまうが、確かにライン兄さんは規格外である。


 というか、ライン兄さんだけではなく、今ももう一つのソファーでスースーと寝息を立てて寝ている双子も規格外だ。だって、邪神に立ち向かった勇者の卵を持っているのだから。


 ……そういえば、あれだな。今、アテナ母さんのお腹の中にいる子が生まれるのって、丁度夏くらいなのか。


 そして、さっきロイス父さんが睨めっこして修正していた書類をチラ見した感じ、死之行進(デスマーチ)って、丁度夏くらいだよな。


 ……大丈夫かな。


 というか、ここ最近はアテナ母さんのお腹のふくらみ始めてきた……あれ? なんでアテナ母さんアダド森林に行ってたの? 今週でだいたい、十四週とかそんな感じじゃ……


 つわりとか、それも酷くなる……


 ……ま、まぁ、俺も含めて三回も子供を産んでいるんだ。たぶん、そんなへまはしていないだろう。


 アテナ母さんがあれでも、ロイス父さんにアラン、バトラ爺にマリーさんもいるのだ。うん、大丈夫のはず。


 ……なんか心配になってきたな。


「ねぇ、今年、本当に大丈夫?」

「何がかしら?」

「幻獣だって、普通瘴気に侵されないんでしょ? ライン兄さんが反応したってことはそれだけ異常事態が発生しているってことで、それにアテナ母さんだってお腹の子が――」


 アテナ母さんは、俺は見学って言ってたけど、出た方がよさそうな。戦うの嫌いだけど、だからといってアテナ母さんが無理するのも。


 ……産まれてくる子のために、おもちゃとか絵本とか、洋服とか、色々と手を出して作りに作りまくってるけど、それよりも先にこっちを――


「――セオ様。それは大丈夫です。確かに今回は頼りありませんでしたが、それでもこの失態は必ず取り戻します。ですから、大丈夫です」


 と思ったら、ユナと談笑しながら色々と書類を書き込んでいたレモンが、いつの間にか俺の後ろにやってきて、俺の頭を撫でた。


「先ほど演算し直したので、たぶんアテナ様の出産と死之行進(デスマーチ)が重なるのは確実です。ですが、アテナ様は死之行進(デスマーチ)で戦いません。セオ様と同様、後方で見学です」


 そして、その大きな黄金の尻尾を俺に絡ませる。


「だから、大丈夫です。本当に、本当に今日は頼りなかったかもしれませんが、私がアテナ様の分まで頑張りますので、大丈夫です」

「……そっか。確かに、レモンは強いし、ロイス父さんにソフィア、アランもいるんだし、大丈夫か」

「ええ。大丈夫です」


 なんだか、一安心した。


 でも、万が一のために研究だけはしておくか。対策とか、色々。そうすれば安心だろう。


 と、なんだか気を張っていたからか、眠くなってきた。


 レモンの尻尾にくるまったのって久しぶりだし、ホントあたたかく……




 そして、俺はライン兄さんやエドガー兄さんたちと同様、寝入ってしまった。

いつも読んでくださりありがとうございます。

面白い、また少しでも続きを読みたいと思いましたら、ブックマークや広告下のポイント評価をよろしくお願いいたします。

また、感想や意見があるとと励みになります。


ということで今章は終了です。

次話はアイラの話です。


次回の更新は水曜日の予定です。


『万能の魔女・神代の魔女』の投稿を始めました。

転生者でありあらゆる魔術を使いこなす最強チート魔女と、性格クズで金好な特殊チート魔女が織りなす学園ファンタジーとなっております。恋愛もあります。

下にリンクが張ってありますのでよろしければ読んでいってください。

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新作です。ぜひよろしければ読んでいってください。
ドワーフの魔術師。           
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