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尊敬される計画へ:this winter

「え、え、どういう事? セオがお兄ちゃんって、え?」

「……マジか」

「どういう事よ!」


 三者三葉。ライン兄さんはまだ飲み込めてなくて、エドガー兄さんは理解したがあまりの事に呆然としていて、ユリシア姉さんは理解することを放棄して怒っている。


 アテナ母さんはそんな三人を微笑んだ。


「ここに新しい赤ちゃんがいるのよ」


 そうやってまだ大きくもなっていないお腹を撫でた。


「おい、それマジかっ!」


 そしてそれを聞いて驚いたのは理解したライン兄さんたちではなく、いつの間にか現れていたアランが飛び跳ねるようにアテナ母さんとロイス父さんの前に移動する。そして二人の肩を抱いた。


「良かったじゃねぇか。ああ、嬉しい事だ。お前ら、もう子供産めないとか言ってたのに。良かったじゃねぇか!」

「ちょ、アラン。やめ、やめて」

「痛い、力が強い。てか、角が!」


 肩を抱かれた二人は筋骨隆々のアランの馬鹿力に痛がっていたが、それでも嬉しそうにしていた。


 そしてアランの言葉で分かった。


 ロイス父さんとアテナ母さんはたぶん怖かったんだ。死神(エルメス)様の残滓が無くなったとはいえ、無くなったとはいえ、二人は怖かったんだ。


 俺は特異な存在だ。


 ああ、確かに特異な存在だ。俺は前世の俺ではなく、この体の持ち主の魂魄が変な風に混じり合い、“研究室(ラボ君)”という今はまだ不確かな存在を産み、それでも死ぬことはなくこの世界に生まれ落ちた。


 俺はそれが良かったと思ってる。自分が生まれたことを否定するのは、こんな俺に愛情を注いでくれたアテナ母さんやロイス父さん、家族、ソフィアたちなどに失礼だし、俺の過去にも失礼だ。


 けれど、それは俺の視点からで、ロイス父さんたちにとってみれば、自分たちのせいでそんな子が生まれてしまい、しかも、それはたまたまの奇跡が起きたから生まれたものの、普通は死んでいたと。


 特にロイス父さんは……


 死神エルメス様の残滓が無くなったとはいえ、それでも怖かったのだ。二人は俺以上に色々な事を身に宿している。俺の知らない事も多い。


 そんな二人だからこそ、万が一があって怖かったんだ。


 子供ができた。まだ、たぶん俺の記憶が正しければ着床する前だと思うのだが、それでもできたと言っていた。その事実が二人の怖れを壊したんだ。しかも、クラリスさんの“祝福”があったらしいし。


「アラン、本当なの!」

「父さん、母さん!」

「やった、妹がいいわ!」


 そして俺が考え込んでいるうちに、ライン兄さんたちは完全に飲み込んだらしく、歓喜の表情と声を浮かべ、アテナ母さんたちに飛びついた。


 アテナ母さんとロイス父さんの周りはすでに人でぎゅうぎゅうだ。お饅頭状態である。暑苦しそうで、温かそうで、嬉しいそうだ。寒い夜で良かったと思う。


 ……あれ、もしかしたら妹かもしれないんだよな。いや、弟でもいい。


「お兄ちゃんか」


 前世では末っ子。今世も末っ子。


 けれど、あと一年も経たずにお兄ちゃん。初めてのお兄ちゃん。


 ……


「尊敬されたい」


 俺が、精神年齢では勝っている俺がライン兄さんやエドガー兄さん、あと一応ユリシア姉さんを尊敬しているように俺も尊敬されたい。


 三人はとてもいい子だ。俺なんかよりもうん。


 そんな中で俺が一番に尊敬の念を勝ち得たい。何か、とても醜い事を思ってるかもしれないが、うずうずする。というか、さっきから足が勝手に動いて行ったり来たりしている。


 尊敬されるにはどうすればいいか。


 ……ライン兄さんは俺に本を読み聞かせてくれてた筈だ。途中から俺が自分で読み始めてしまったからあれだったが……そう考えると、今アテナ母さんの中にいる子はライン兄さんにとっても初めての弟か妹になるかもしれない。


 俺は何かそうじゃなかった気がするし。


 あ、絵本がある。そうだ、絵本を読み聞かせて尊敬の念を……


 いや、それだけじゃむりだ。というか、絵本のできはライン兄さんには勝てない気がする。頑張りはするし諦めないがそれ以外の手段も持っていた方がいい。


 そうだ。魔法をいっぱい見せよう。アテナ母さんが俺に色鮮やかな数々の魔法を見せてくれたように、魔術で見せてみよう。


 それだけじゃない。


 おもちゃを作ろう。知育玩具がいいか。いや、何でもいい。お人形さんでも何でも。よし、手始めにビスクドールを作るか。


 積み木は簡単に作れるだろうし……


 あ、生まれた子がユリシア姉さんみたいに勉強嫌いだったらどうしよう。まぁ、勉学を強いられる勉強は嫌いでも良いのだが、それでも学ぶ意識は持って欲しいな。それにマキーナルト家に生まれるってことは、家の特異性とか知らなきゃいけないし、まぁ、俺も外を見ていないから特異性何て知らないんだが。


 それでも、ライン兄さんやエドガー兄さんは普通に頭良いし、それにユリシア姉さんもだが、天才だ。天性の才を持っている。そしてそれに奢らず学ぶ意力と努力を忘れてない。


 まぁ、エドガー兄さんとユリシア姉さんはつい半年、……いや、九か月くらいか、それくらい前は少しだけ違ったけど。


 こんなこと考えるのは本当にいけないことかもしれないけど、平凡な子が生まれてしまったら苦労するだろう。否応なしに、どんな愛情を注がれても苦労する。人の想いが全部伝わる事は少ないし……


 教科書を作るか。


 転生者というチート以外は平々凡々の俺なら、教科書を作れるはずだ。生まれた子が、色々な事に興味を持てるように教科書を作ろう。


 すうが――いや、算数に国語、歴史は俺も戸惑ったから絵本にした方がいいかな。あ、そうだ。この分野ならライン兄さんよりも良い絵本が作れるかもしれない。


 まぁ、良い絵本などは俺の評価じゃなくて最終的には生まれる子の評価になるが、それでも教育用の絵本か。


 小さな子供がおつかいする内容の絵本を書けば、お金の価値と四則計算は教えられるか。一冊だけじゃなくて何冊も用意しなきゃ。


 ……けど、けど、本当に万が一のあれだけど、もし目が見えなかったらどうしよう。


 ああああ、気になる。不安になる。こんな気持ちなのか。生まれると分かって嬉しくて、けど嬉しさが大きいから俺が嫌味な人間だから不安が大きくなる。喜びだけで終わらせられない。


 よし。どんな子が生まれても、楽しい経験をさせたい。幸せかどうかを決めるのは本人だけど、便利な環境ぐらいは提供したい。


 点字を作るか。九×九で良いだろう。ざっと数百通りはあるはずだし。文字はたった数字も含めて三十ちょっと。:みたいな特殊な文字もあるが、それを入れても問題なくはいる。むしろ、共通言語だけじゃなくて、古代言語や古エルフ語も同じように作れるかもしれないな。


 まぁ、まずは共通語からだ。


 あと、よくあるのは難聴。補聴器らしきものは作れるかな。まぁ、頑張る。


「ねぇ、セオ。……セオ!」


 ああ、やるべきことがいっぱいあって大変だ。順序だててやらないと。


 あと一年もないんだ。


「あっ、ライン兄さん!」

「わっ」


 あれ、目の前にライン兄さんがいた。というか、皆俺の方を見ている。


 まぁいい。


「ライン兄さん、絵本計画、というか印刷計画は後にさせてくれない! それより先に作らなきゃいけないものがいっぱいあるの! あ、そうだ、ライン兄さんはライン兄さんでいっぱい絵本を書いてよ。あ、それともしかしたら玩具を作るのに絵とか描いてもらったりするかも。あ、それと他にも手を貸してもらうかも。で、それから――」

「――ちょ、セオ。セオ、落ち着いて!」


 ラインにさんに肩を捕まれて、目の前で叫ばれる。


「セオ、嬉しいのは分かったから落ち着きなさい」

「そうだよ、セオ。それと絵本計画って何? 僕知らないんだけど」


 そしてアテナ母さんとロイス父さんが椅子から立ってライン兄さんの後で腰を屈めて俺に視線を合わせる。


 あ、やべ。


「……落ち着きました。俺は落ち着きましたのでもう大丈夫です。……それと絵本計画何ていうものは存在しません。口からでまかせです。なので忘れてください。気にしないでください」

「うん、後でゆっくり聞こうか。ついでにそれを後回しにして何を作ろうとしてるかも教えてね」


 そして喜びに屋敷が湧く中、俺は三日ほど詰問されてた。俺の話した事の中で、絵本やら何やらはちょっとソフィアたちと相談したいからと言われた。何でも魔術のための下地を作るのに関係するとか。


 まぁ、けど、個人で作る分には何にも言われなかった。しっかりと寝る事を厳命されたが。

いつも読んで下さりありがとうございます。

面白い、また読みたいなど少しでも思いましたら、ポイント評価やブックマークをよろしくお願いします。

また、意見や感想があると励みになります。


異世界でゆるゆるスローライフ!が百話を超えました。ここまで続けられたのは皆様のおかげです。これからもどうかよろしくお願いします。


新作、「転生トカゲは見届ける。~俺はライゼの足なのです~」を投稿しています。

最弱種族の少年と戦う事ができないトカゲが、何人かの仲間と旅する物語です。

下にリンクを貼ってありますのでもしよろしければ、読んでみてください。

一話二千文字で読みやすくなっており、毎日投稿をしています。よろしくお願いします。


次回の更新は金曜日です。

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新作です。ぜひよろしければ読んでいってください。
ドワーフの魔術師。           
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