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第3話 要請

よろしくお願いいたします。

 “なぜあなたは警察官を目指したのですか?”

 

 警官に成り立ての頃、新人警官にスポットを当てた記事を書くからとインタビューを受けた時に、その記者が私にした質問の1つである。

 私はその時、何と答えたのかよく覚えていない。

 きっと、“人の役に立ちたいから”だとか“悪い奴を捕まえるため”だとかそういう当たり障りの無い事を言ったんだと思う。


 父も祖父も警察官をしていた。漠然と私も警察官になるんだと思っていたし、その通りになった。

 キャリア組として23歳で警部に昇進、交番実務の時に市民との距離感が気に入り、数年は交番勤務をしていた。

 その時、妻と出会い、結婚。咲誇(さきこ)が産まれる時に生活安全部少年課に異動し、散桜(ちお)が5歳の七五三をする少し前に刑事部捜査一課に異動。

 そして、半年前にこの凶て─


「で、ボスはどう思います?」


 敦斗が急に問い掛けた。

 今は、葬儀に参列した帰りである。


「……だから、お前は話を省略する癖を辞めねぇか。私が話を聞いてないみたいじゃないか」


「さーせん!」

 

 全く……彼の変な癖だ。私のこの語り癖も随分変な癖だが……


「それでですよボス、甘辛って結局甘いんですか?辛いんですか?」


 敦斗は前髪をクルクルと弄り、考えていた。


「さぁ……おかずにならないといけないから辛いよりじゃないのか?」


「なるほどッスねぇ……じゃあ、甘辛いと塩辛いと甘塩っぱいはどう違うんすかね?」


「……分からんが、私もちょっと気になるな。帰ったらテルに聞いてみるか」


「ウッス!」


────────


── 一野樹警察署 凶締班本部


「戻りましたー!」


 勢いよく扉を開け、敦斗が部屋に入る。

 私もそれに続くように部屋に入った。


「サカマキさん、アツトくんお疲れー」

「ドクー!お疲れ様でっす!」

「やぁ、ドク。早かったな」


 ほんの少しだけ片言な日本語で私たちを迎えてくれたのは、凶締班の最後のメンバー、自称科学者の色無(いろなし)・ロック・八郎(はちろう)だ。私たちはドクと呼んでいる。

 ヒョロっとした体型に白衣を来ており、金髪のアフロにはペンが数本刺さっている。

 警察関係者では無いのだが、多様な科学技術力で事件解決に力を貸してくれる人物だ。本人曰く狂科学的支援サイエンティフィック・アシストらしい。

 私が捜査一課の時から何度も協力してくれており、凶締班を作る際にコンサルタントとして正式に協力要請をしたのだ。


「ドク、東京良かったッスか?」


「ほとんど部屋の中だったよ。プログラムの強化がメインだったし。……あ、これお土産ね。スカイツリークランチチョコに雷おこしに銀座ラスクにエトセトラエトセトラ」


「沢山あるっすね!本当に籠りっぱなしだったんすか?」


「こもりっぱなしだったよ。あとは……生八ツ橋」


「それは京都っす」


「え…………生()


「京都っす」


「……」


「……」


「ボス、アツトくんおかえ……何を2人で見つめ合ってんだ?気持ち悪い」


 部屋に入ってきたテルがわざとらしく顔を歪ませた。


「あぁ、テルさんおつかれです」


「おかえり、ドク。東京楽しんできた?」


「ほとんどこもりっぱなしでしたよ。皆に東京土産がありますよ」


「わざわざすまないね」


「スカイツリークランチチョコに雷おこしに銀座ラスクにエトセトラエトセトラ」


「じゃあ、雷おこしにしようかな……」


「あと、生八ツ橋」

 

「それは京都だよ」


「えっ……生八つ」


「京都だよ」


「……」


「……」


「男同志で見つめ合って何やってるんですか?需要無いですよ」


 部屋に入ってきた律子が呆れたように言った。


「お、リッちゃん、お土産あるよ 」


「ありがとうございます、ドク。じゃあ生八ツ橋貰いますね」


「律子さん、なんで生八ツ橋あるって知ってんすか!?」


「うふ」


 …………はぁ。


「ほら、ふざけてないで仕事だよ」


「あ、僕はお土産持ってきただけだから、帰るね。また何かあったら連絡よろよろー」


 私達に挨拶をすると、ドクは部屋を後にした。


────────


「じゃあ、始めようか。テルから何かあるかい?」


「え〜と、捜査四課から不法滞在してる中国人グループの一斉検挙に力を貸してほしいとの要請があったね。大麻の大量取引が行われるみたいだよ」


 テルはメモ帳を開きながら皆に説明した。


「おっ!良いっすねぇ。ボスぅ、これ受けましょうよ!」


「……そうだな、他に応援要請も無いし、受けようか」


 凶締班は本来、能力(コミック)による殺人や強盗などの凶悪事件を解決する為に作られたチームである。

 しかし、頻繁に事件が起きる訳でもなく、また、大概の事件は刑事部が担当する為、私達が直々に捜査する事は殆ど無い。

 特殊捜査一課と謳ってはいるが刑事部に属している訳ではなく、あらゆる部署からの応援要請を受けるのだ。

 凶締班は云わば警察組織の何でも屋と言った感じだ。


「テル、捜査四課って事は担当は不審明(いぶかし)君か?」


「あぁ。一緒に仕事するのは北島会摘発の時以来だな」


「そうか、あの時が最後か……じゃあ、四課には私から連絡しておこう。律子からは何かあるか?」


「はい、交通課から市内の幼稚園、保育園を対象とした

交通安全教室の応援要請、生活安全課から夜間の防犯パトロールの協力要請が来ています。交通安全教室は掲示板に貼ってあるそれですね。防犯パトロールに関しては今夜お願いしたいそうです」


 律子は壁に掛かったコルクボードのポスターを指差しながら説明した。

 

「今夜か……皆予定はあるかい?」


 3人の顔を見回すと、律子が申し訳なさそうな顔をしながら手を挙げた。

 

「すいませぇん、今日3ヶ月記念日で雅広さんがレストラン予約してくれてるんですよぉ」


「……じゃあ私が敦斗と行くから、テルは生活安全課の誰かと組むって事でいいかな?」


「僕は構わないよ」


「俺もOKッス」


「ほんっとにごめんなさい!」


「構わないさ。次から頼むよ」


 私達はその後、事務作業を進めた。

 17時半に律子を帰し、3人は22時からの防犯パトロールに向けて、21時半まで仮眠を取った。

ありがとうございました。


次回もよろしくお願いいたします。

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