第2話 凶締班とクリーン・キラー
前書きって何書けばいいんでしょ?
よろしくお願いいたします
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雨が強い。
人目の少ない路地裏に女性が1人、倒れている。
すぐ側に誰かが立っている。
その誰かは、静かに咽び泣いていた。
隣の壁には、大きく“CK”という文字が刻まれている。
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熊本県警特殊捜査一課凶悪犯罪取締班という名前ではあるが、この部署があるのは一野樹警察署である。
ガチャリ
「おはよう」
「おはざすッ!ボス!」
私の挨拶に明るく返してくれたのは、淀川敦斗刑事。1番若い凶締班のメンバーだ。
ここに来る前は、警視庁警備局外事情報部外事課外事特殊事案対策官という役職に属していた。俗に言うスパイだ。
ずっと海外で仕事をしており、半年前凶締班に入る為に帰国したのだ。
前髪の一部を残し、残りをオールバックにしている。考え事をする時は、この残った前髪を指先でいじるのが彼の癖だ。
「あ、おはようございまーす……イテテ」
「おぉ、おはよう」
給湯室から腰を擦りながら出てきた彼女は、歌島律子刑事。凶締班の紅一点で、そのスタイルとルックスから署内でもファンが多いらしい。
先月結婚したばかりの新婚さんと言うやつだ。男勝りで、気が強く物怖じしない性格からか女性職員のファンも多いと聞く。
所謂、カッコいい女性という奴だ。
「腰、どうかしたのか?」
私が尋ねると、律子は「いやぁ〜」と頭を掻き、はぐらかした。
「昨晩、はりきり過ぎたんですって」
代わりに敦斗が答えた。思ってもみない答えだ。
「……そうか」
「へへへっ」
なぜか自慢げにしている律子は少年のように笑った。
「なんで敦斗が知ってるんだ?」
私はふと疑問に思い、尋ねた。
「律子さん、朝からめっちゃ自慢してくるんすもん!雅広さんのテクが凄いんですって!」
「……」
私は言葉が出なかった。最近の若者は皆、性に対してオープンなのだろうか……娘たちが心配だ。
「いいなぁ!俺も彼女欲しいなぁー!」
敦斗の叫び声と共に、ガチャリと扉が開いた。
「おいおい、外まで聞こえてんぞ。朝から何の話してんだ」
「あ、テルさん!おはざすっ!」
「おはようございます、テルさん。すいません」
「おはよう、テル」
彼は、大隈照児警部補、テルだ。昔、コンビで事件を解決していた事もあり、凶締班結成の際、私がスカウトしたのだ。敦斗も律子も彼の紹介である。
若い頃から職を転々としており、広い人脈からなる独自の情報ルートを持っている。これが捜査にとても役立つのだ。
あと一人凶締班のメンバーが居るが、彼はここには来ない事がほとんどだ。
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「敦斗、先日の在里町の立てこもり事件の報告書できてるか?」
「バッチグーっすよ、ボス!どうぞ!」
私は報告書を受け取り、パラパラと確認した。
「ありがとう」
「うっす!」
“バンッ!”
「逆巻ィィ!!テメェ、この野郎ーッ!」
勢いよく扉が開き、強面の男が入ってきた。
「よくも立てこもり事件に協力しやがってェ!感謝すんぞ、ゴルァ!」
「いやいや、一課の人員と辻極警部の采配が無ければ逃げられてましたよ。お礼を言うのはこちらの方ですよ」
彼は、一野樹警察署刑事部捜査第一課長、辻極百万警部だ。
口は悪いが、人情味あふれる熱い男である。
人数が少ない凶締班に捜査一課の人員と力を貸してくれている。
「すまねぇがまた力を貸してくれやクソ野郎!」
辻極警部が顔写真を1枚突き出した。
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辻極警部はホワイトボードに顔写真を貼ると、その下に名前を書いた。
「彼女の名前は小笹聖子、21歳、大学生。昨日、沼内駅前通りの路地裏で遺体になって発見された。死因は撲殺だ、畜生が」
「撲殺……?俺らが出る幕あります?辻極さんが居れば余裕じゃないすか?」
敦斗が尋ねる。
「それがコイツを見てくれ、クソ野郎ども」
辻極警部はもう1枚写真を貼った。その写真には、大きく“CK”という文字が刻まれた壁が写っていた。
「CK……クリーン・キラーか」
「そうだ、逆巻。奴が犯行を再開したんだ、畜生め」
“CK”、2年程前に現れた連続殺人鬼の通称だ。
1年で19人もの人間を殺害しており、未だに逮捕できていない。
“CK”というサイン以外の一切の証拠を残さない所から何時しか綺麗好きな殺人鬼と呼ばれるようになった。
当初は私たち凶締班も捜査に協力していたが、ここ1年犯行は起きておらず、証拠もサイン以外一切残っていない為、今は捜査一課の数人が聞き込みや遺留品の洗い直しをする以外できる事が無かった。
それでも新たな発見は無いらしい。
「ボス、クリーン・キラーってなんすか?」
敦斗が尋ねてきた。そういえば敦斗が凶締班に来たのは半年前だったな。
「2年程前に19人もの人間を殺した殺人鬼が居たんだ。殺害方法は撲殺と抉殺が共に4件、絞殺が3件、刺殺と焼殺、圧殺が2件、溺殺と斬殺が1件と多岐にわたる」
「なんだよ、それ……」
「19人の被害者の共通点は無く、全員の関係も洗ったが全員が繋がるような物は出てこなかった」
敦斗は言葉を失っているようだ。無理もない。
「その殺害方法の多さから、集団による殺人だと思っていたのだが、残されたサインの筆跡からクリーン・キラーは1人では無いかと私たちは推測している」
「そういう事だ、淀川バカ野郎」
「ひでぇ事件だ……」
「そして、今回の小笹聖子さんで20人目という訳だ」
「お前ら凶締班の力が借りたい!力を貸してくれクソ野郎!」
辻極警部は深く頭を下げた。
口の悪さはさておき彼の事件に対する真摯で愚直な姿勢には脱帽するばかりである。
「もちろんだ、辻極警部。凶締班の総力を辻極警部と捜査一課に使ってくれ。……多少無理な事にもな」
「ありがとう!感謝するぞ畜生め!詳しい事件内容はまた送る」
辻極警部は足早に出ていった。
「クリーン・キラー……ふざけた野郎だ!」
敦斗はテーブルを殴った。
やはりこいつは、冷静に世界を相手にしていたスパイとは思えない熱血漢だ。
これだけ熱いから役になりきる事ができるのだと、外事課長が言っていたな。
「おい敦斗、行くぞ」
「CKの捜査っすね!」
敦斗が意気込む……が、
「いや、先月殺害された多賀谷雅人さんの葬式に参列する。敦斗が解決したヤマだろ、御家族の方が“ぜひ焼香を”との事だ」
「……うす!着替えます!」
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薄暗い部屋。天井のシーリングライトは常夜灯に設定されており、厚いカーテンに締め切られた室内を淡い橙色に照らしている。
生活感のあった部屋の壁やテーブルには、色々と書き込まれた一野樹市の住宅地図や無数の写真、メモが張り巡らされていた。
壁に貼られた大きな住宅地図には25人の異なる人間の写真が貼ってあり、19人の顔に赤いバツ印が付いている。
住宅地図の前に立つ何者かは、赤いペンを取り出した。
何者かは、カフェで楽しそうに笑う小笹聖子の顔にバツ印を付けた。
ありがとうございました
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