第17話 標的
間が空きすぎて全部忘れてしまいました。
よろしくお願いします。
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永尾明良は焦燥の中にいた。浜山真士が死んだことを聞いた時、次は自分の番だと確信したためだ。逆巻の予想通り、永尾は「C.K.による犯行は巴会による警告」──“見せしめ”だと勘違いしていた。どこからか“離れ”の事を聞きつけ、C.K.のターゲットに自分が含まれていることを知った永尾は、自衛の為に風鷲組と巴会に虚実を混ぜて吹聴して回っていたのだ。永尾は思慮が浅く視野も狭い人間であったため、C.K.の被害者の共通点を考えようとはせず、C.K.の正体を探ろうともしなかった。
考えようとしたところで、自分が大学時代に首を突っ込んでいたあらゆるコミュニティの中の1つが匿名性の高いSNSグループのディアンシーズであり、そのメンバーが殺害されていることに行き着くはずもなかった。
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永尾が引き起こした風鷲組と巴会の抗争は激しさを増し、双方の構成員による襲撃が相次いでいた。不審明や井崎を始めとする捜査四課は、各所で起こる抗争の鎮圧と関係者の検挙に追われていた。
「おら!暴れんな!」
暴れる巴会の構成員を抑えながら、手錠をかける不審明に1本の電話が入る。
不審明は、いくら永尾が煽ったと言ってもここまで抗争が激化するとは考えておらず、風鷲組と巴会の上層部が組織的に襲撃を指示している可能性を疑っていた。その捜査の中で、風鷲組に潜入させていた部下から、幹部の鵺波原洋光が巴会への襲撃を指示したことを示す証拠が手に入ったという連絡だった。「よぉし!」と意気込んだ不審明は井崎に裏づけ捜査を指示し、鵺波原の逮捕と風鷲組の解体に向けて動き出した。
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凶締班の皆は一課と共に、恐らくC.K.の最後の標的になるであろう永尾明良と今柴隆哉の警護に当たっていた。辻極警部の提案により、警察の情報がC.K.に漏洩している危険を考慮し、今柴の警護場所を内密に変更したのだ。
ドク、律子のほか、捜査一課の辻極警部と福岡君が新たな警護場所で今柴を警護している。情報漏洩を防ぐため、必要最小限の人数で警護に当たらせることにしたのだ。戦闘向きではないものの、状況把握に長けたドクと律子を向かわせたのも、辻極警部と福岡君の能力は万能であらゆる場面にも対応できると考えたからだ。
永尾の方は一課の人間とテルと敦斗を交代で張り込ませている。警護というより監視の比重が大きいからだ。浜山同様、警護を拒否してきたのだ。「警察は信用ならない。自分の身は自分で守る」とのことだ。そこに敦斗が居なくて良かったと思った。
数分前にテルから「一課の人と交代したから署に戻る」と連絡があった。20分程で戻ってくるだろう。
静かすぎて空調の音が気になりだした部屋で、デスクの資料に目を落とし、C.K.の次の手を考えていると携帯電話がその静寂を破った。
「私だ。──ああ、──ああ、分かった。多少は融通利かせてやれ。──ああ、引き続き頼む。こっちはテルたちが戻ってきたら鮫島を探しにいく。──ああ、頼んだぞ」
律子からの定期報告だった。今柴がC.K.に狙われてる不安から情緒が不安定になりだしているとのことだった。殺されるかもしれないんだ、無理もない。小さくため息をつく。
ため息と同時にコーヒーをだいぶ前に飲み干していたことに気付き、給湯室に向かう私の足を止めたのは1本の電話だった。今度は部屋に置かれた固定電話だ。
「はい、凶締班逆巻です」
通信室からだった。
「──え?──はい、──はい、分かりました。至急現場向かいます」
固定電話を切った瞬間、今度は携帯電話が鳴る。相手は分かる。
「敦斗、私だ。通信から聞いた。永尾が消えたって?」
「すんませんボス!スマホ忘れて取りに戻ったら、交代した2人が気絶してて!永尾の部屋に行ったら永尾が居なくなってたっス!」
「気絶……?テルはいるか!?」
「こっち戻ってきてるっス」
「テルと合流したら、ドクを1人呼べ!私も直ぐに向かう」
場所を移して警護してる今柴より自分の家に住んでる永尾が狙いやすいに決まってるじゃないか。私は私自身の浅はかさを悔やみながら車に乗り込んだ。
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永尾の住むアパート前。
監視のための車両の後ろに車を付ける。目の前の車の周りにはテルと敦斗が立っていた。その前にはドクの愛車のカブが止まっている。
「待たせた」
「いや、大丈夫だよミキちゃん」
テルは車から降りて駆け寄る私に手を挙げて返事をした。
「サカマキさん、私も今来たよ。一応2時間経ったらあっちに戻る予定だよ」
テルの後ろから、ドクがこっちに手を振る。ドクは現在、今柴の警護をしながらディアンシーズについて調べている。ここにいるのは、ドクの能力、“単純で完璧な答え”によって作られた2人目のドクだ。
「敦斗は少し周辺を探してくるって。ドクは今から始める」
「任せてよ」
ドクは胸を張って相槌を打ったのも束の間、監視用に使っていた車両に乗り込むと、付けられた車載カメラの端子にケーブルを差し込み、その反対側を持参したノートパソコンに差し込んだ。車載カメラの映像はサーバー経由で署の通信室に送られるが、通信室から現場に映像を送ってもらうには時間がかかりすぎる。ドクを呼んだのは車載カメラの映像を直ぐに見るためだ。
「2人の容態は?」
後部座席に移された一課の2人を見ながらテルに尋ねる。目覚めているようだが意識の混濁が見られる。
「眠らされただけのようだよ」
「眠、気絶じゃなかったのか……警察官2人が同時に……能力か」
「おそらく」
C.K.の能力は人形を生み出す或いは操る能力だ。眠らせる能力はないはず……。
「C.K.には見られない能力だね。協力者……はこれまでの手口からは考えづらいし、新しいステージ……も考えづらいしな。あとは……」
「そもそも永尾が居なくなった原因がC.K.じゃない」
「そうだね」
相槌を打つテルが頭を搔く。
「さかまきサン、映像の準備できたよ。スグに見る?」
ドクが運転席からノートパソコンを突き出して尋ねる。私がもちろんと返事をすると、キーボードを叩き、映像を2つ映し出した。車両の前方、永尾のアパートの様子を映すものと、車両の内部、監視を行うテルと敦斗の2人を映すものの2つだ。
「音はないからね。映像だけ」
ドクがそう言って録画を再生しようとした時、敦斗が戻ってきた。近くには居なかったらしい。
「テル達が交代したところから流せるか?」
ドクが「任せてよ」と再びキーボードを叩く。ノイズの混じった早送りの映像が少し流れ、一課の人間に変わったところで再生する。
テルたちが一課の2人に交代して数分後、アパートの前に車が1台停まった。運転席から降りてきたのは、一人の男。その男は迷う素振りもなく、こちらへと向かってくる。2人が同時に運転席側の窓……運転席側に近付いたその男を気にした瞬間、車両の中に水色の靄のようなものが充満し、2人は完全に眠ってしまっていた。それとほぼ同時に車から降りていた別の誰かが、永尾の部屋を訪ねていた。さらにその数分後、眠らされた2人の身体を揺さぶる手が映り、ダッシュボードに手を伸ばしてスマホを取る敦斗が映った。
「自分の意思で出て行ってるっスね、これ」
「うん、そして2人だ。部屋を訪ねた方は永尾の顔見知りだったのか、永尾はすんなり部屋を出ていってる。こんな時に出ていくのはそっちの方が安全だと踏んだからだ。永尾がこの状況でも出ていくのは……」
「風鷲組です……」
後部座席に座る一課の1人が小さく呟いた。私も含め、みんなの頭の中に浮かんだであろう名前だった。
「もう平気なのか?」
私の問いかけにゆっくり頷くと更に続ける
「はい、不覚を取りました。すみません。車両に近付いた男は風鷲組の構成員でした。以前引っ張ったことがあります。奴の能力で思い出しました。恐らく永尾が呼んだんでしょう」
やはり風鷲組。次の問題はどこに行ったのか、だが……その答えは意外と早くでることとなった。
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飛羽倉庫街。
一課の2人には報告と休養を兼ねて署に戻ってもらった。車から一斉に降りた私、テル、敦斗、ドクを錆びた鉄の匂いが迎える。
統一感を出すためかオレンジに塗られた倉庫群が途切れなく並び、西日の影響でより鮮やかなオレンジ色が輝いていた。かつては広大な物流の拠点だったことを思わせる広さだ。現在も使われていることには使われているが人の出入りはほとんど無く、その広さが人の気配の希薄さをより挽き立てている。
(私の能力で永尾のスマホを追跡できます)
目覚めたもう1人が申し訳なさそうに欠伸をしながらスマホを取りだした。“センス”をGPSのようなモノに変える能力らしい。最終的に停まったのがこの倉庫街だったのだ。どこの倉庫なのかまでは特定出来ていないが、持ち主がハッキリしていない若しくは所有者が風鷲組を後ろ盾にしている団体や個人となればかなり絞られる。
──と思っていたが、そう難しくもなかった。大きなシャッターの前に車やバイクが何台も止まっている倉庫が1つだけあったのだ。
「どう考えてもあそこッスね」
敦斗がグルグルと肩を回しながら前に進む。
「サカマキさん、私現場久々でワクワクするよ」
「ワクワクしてるとこ悪いんだが、危ないからドクは倉庫に入らないでくれ」
「そうだよドク。気をつけて」
私とテルの声に、ドクは「もちろん」と両腕で大きな丸を作った。
──刹那、倉庫内から轟音が響き渡る。
シャッター横の通用口から中に飛び込むと10人ほどの明らかに素行の悪そうな若者と永尾が団子になっている。彼らの視線の先には、これまで幾度となく出会った C.K.の人形が4体ほどふわふわと空中に浮かんでいた。
C.K.に永尾の場所がバレている。
「お前らどうにかしろ!」
永尾が近くにいる風鷲組の構成員に怒鳴り散らしている。数人の構成員がそれぞれの能力を1体の人形に一斉にぶつけ動きを止めるが、他の人形が構成員に襲いかかった。吹き飛ばされる構成員に気を取られていた永尾たちに別の人形が突っ込む。
個々の能力や“センス”が飛び交う中、1つの人形が私たちに気付いた。
「ボス!」
指示を仰ぐ敦斗の身体と周囲の地面からは“センス”が立ち昇り、既に臨戦態勢に入っている。
「テル!敦斗!脅威の制圧!私は永尾の警護を行う!」
テルと敦斗は「了解!」と威勢よく返事をし、力強く地面を蹴った。テルの体の周りには“不乱の霧”の薄灰色の霧が漂っている。私も壁際を周りながら永尾に近付き始める。それとほぼ同時に永尾に向かって1体の人形が突っ込んできた。
「クソがっ!!“負のおもちゃ箱”!」
永尾はキレながら、恐らく彼の能力名であろう言葉を叫んだ。そんな響きだったような気がする。たしか、自身と周囲の人間が受けた痛みを自身のパワーやスピードといった力に変える変形型の能力だ。
風鷲組の構成員が人形から受けた痛みを力に変えたのだろう。突っ込んできた人形を受け止め、勢いのまま投げ飛ばした。地面を転がる人形はすぐさま立ち上がり、再び永尾に突っ込む。しかしそれを躱す永尾。無敵の能力では無いため多少のダメージを受けているようだがそれも力に変えて人形に抗っている。
「危ない!」
人形の鋭い攻撃が永尾の腹部にまともに入った。永尾が怯んだ隙に、人形は天井付近まで飛び上がり、彼の頭目掛けて落下してきたのだ。
私は永尾を引っ張り、人形の攻撃を躱した。人形はその勢いで地面に足が食い込んでいる。永尾は目を見開き荒く呼吸をしている。
「警察!?なぜここが分かった」
我々の介入に気付いた永尾が驚いているがそれどころじゃない。人形が自由になる前に次の手が必要だ。
──違和感。巡る思考の中で生まれたのは1つの違和感だった。永尾がC.K.のターゲットだ。執拗に狙われ続けるのは分かるが他の人形がテルたちや風鷲組の連中に繰り出す攻撃と、この人形が永尾を襲う攻撃に明らかな差があった。
……ここには2種類いるのか?
「敦斗!人形を閉じ込められるか!?」
「うす!」
次を考えるより早く敦斗に指示を出した。
敦斗は他の人形の攻撃を躱しながら、私が指を差す人形に狙いを定める。これまでの人形戦で精度と速度が格段に上がった敦斗の“破王の罠”は地面に刺さって動けない人形を容易く閉じ込めた。
人形が中で暴れ半球体の中から轟音が鳴り響く。
「永尾さん、恐らく人形たちは2種類います。この倉庫に入った者を見境なく攻撃するものと、貴方を殺害するものの2種類です。今、貴方を狙ってくる方を閉じ込めました。今のうちに避難を」
「……あ、ああ。分かった……分かった」
身体へのダメージで反応が鈍くなっていたが、私の話を理解したようでよろけながら通用口に向かっていった。
ありがとうございました




