やっつめの夜
「オオォォ!!」
途端にけたたましい叫びにも似た吠え声があたりいっぱいにこだました。
俺は目を開ける。
俺に噛みついているヨルと呼ばれたそれらが、少したじろいだ。
「な…」
何かが猛烈に向かってくる木々をなぎ倒しながら俺の目の前に現れる。
俺の目に映ったのは
俺に噛みついているよりも遥かに大きなヨルだった。
身に余る大翼。黒い鱗、長いしっぽ。口元の牙。
真っ黒ではあるがあの姿はあれではまるで…
「ドラゴン…」
そのドラゴンのようなヨルは奇声を発しながら狼みたいなヨルに突進してきた。
「ワッォォン…」
ドラゴンのようなものは爪をひと振り。
たちまち彼らは空に散る。狼達は逃げ出す者もいれば果敢に立ち向かっていくやつもいる。
勇猛なる1匹がドラゴンの顔面を狙って牙をふりみだして襲い掛かった。その立ち向かっていったヨルをものともせず、ドラゴンは口でバックリとそれを噛んだ。そのまま、力一杯噛み砕く。ボリボリと骨も肉も裂かれていったその後、丸飲みされた。
もちろん1匹だけではすまされない。攻撃してくる2匹目、3匹目も同じように口へと運ばれていく。
「…喰っている…」
俺は、恐れおののきつつも狼のようなヨル達があのドラゴンみたいなやつに気をとられている隙に
後へと下がる。
あれは食事だ。口の中に運びいれて喰っている。
つまり、ヨルって言うやつらは共食いするのか…
俺は息を潜めてその場から
気付かれぬようにゆっくりとしかし確実に逃げだした。
真っ黒の森が広がる。
緑に煌めく綺麗な木々はそこにはない。
黒にくすんで色を失い化け物のような木々が並ぶ。
闇のような真っ黒の霧がゆらゆら周囲を覆い尽くしている。
黒の雨はまだ止まぬ。