酒場にて
2話目です。よろしくお願いします。
この世界に来てから早1週間が過ぎた。この1週間でだいぶ現状を整理できたと思う。まず、この世界は間違いなく『ユートピア』の世界だが俺のほかにプレイヤーらしき人はいないこと。次にこの世界の住人は単なるNPCではなく、一人一人が生きているということ。そして俺自身についてはスキルや能力はyuichiというプレイヤーネームで名をはせたあのデータのままである。ただ、ゲーム時にあったメニューボタンのようなものやアイコンは表示されない。この世界の通貨であるmelは元々ゲーム内の銀行に預けてあったので問題なかった。アイテムや装備に関してもメニュー画面から取り出す代わりに、道具袋なるものに収納されているらしく問題はなかった。それにしてもこんな小さな袋の中にあれだけの質量がどうやって入っているのだろうか。はなはだ不思議である。
「っと。こんなところかな。」
この世界に来てから俺はどんな些細な変化も見過ごさないように日記をつけるようにしているのだ。
「さて、飯でも食べに行くかな!」
ざわざわと話し声が賑やかな店内の雰囲気はまさに酒場って感じで何度来てもテンションが上がる。
酔っぱらって歌い踊る男もいれば、ナンパに精を出すやつもいる。ただ日本の居酒屋と大きく異なるのは多くの人が甲冑などの防具や武器を身に着けている点だ。どうやらこの酒場は冒険者に愛されている酒場らしい。
「おまちどおさまニャンっ!」
この世界には人間以外にも亜人と呼ばれる動物人間や、魔人と呼ばれる存在がいるらしい。魔人は基本的に森の奥深くに住んでおり人間との関わりは少ないらしいが、亜人と人間は共存している。
元気な声の猫耳娘が持ってきたのは『チキソ』と呼ばれる、鳥の肉を焼いた大衆料理だ。うん。チキンだ。
だが、ただのチキンと思ったら大間違い。この世界の鳥は元の世界のサイズとは比べものにならない。そんな豪快なサイズのチキソは魔法によって、外はカリッと中はジューシーに焼き上げられているのだ。
‐ガブリ‐
「うめええええ!」
絶妙な焼き加減でカリッと音を立てながら口の中では熱々の肉汁が広がる。たまらないぜ。
「た、助けてくれえ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
一人の男が満身創痍で店内に走りこんできた。騒がしかった店内が静まり返る。
「や、ヤマグドの洞くつでお、オーガが、オーガが出たんだ!!!!」
「な、なんだって!!!」
再び店内が騒がしくなる。だが今までのような陽気な騒がしさではない。悲壮感と恐れに満ちたそんなざわめきだ。
これは当然の反応である。ヤマグドの洞くつは本来レベル5相当のダンジョン。いわば、初心者向けのダンジョンである。それに対してオーガは最低でもレベル50相当。本来こんなダンジョンに出るはずはない。少なくとも俺の知る『ユートピア』の世界ではありえない事態だ。
「ふ、なら俺が行こう。オーガごとき俺たちのパーティーなら瞬殺だ。」
声を上げたのは、この店内で最もランクの高い装備でそろえた御一行のリーダー格の男。見たところレベルは60といったところだ。
「が、ガイが行ってくれるなら安心だ。」
店内にどことなく安堵が広がる。どうやらこの青ずくめのガイという男はこの辺じゃ相当の実力者らしく、みんなの信頼を買っていた。
「では行くぞ!」
そう言い残してガイ一行はヤマグドの洞くつへと向かっていった。
ざわめく店内で先ほど駆けてきた男が周りのみんなに詳細を語っている。
「お、俺たちは水晶石をとるためにヤマグドの洞くつに行ったんだ。。。そしたらいつもは目につかないところに抜け穴があって、進んでいったらたくさんの水晶石があったんだ。俺たちは夢中で集めたよ。そしたらいつの間にか道がわからなくなって、その時、、、ううっ。。。黒い色のオーガが俺たちに襲い掛かってきたんだ。。。」
「な、なんだって!」
俺は思わず声を張り上げた。
「あんた、そのオーガが黒かったってのは本当か!?」
「ま、間違いねえよ!俺はこの目で見たんだ!」
オーガは色によって強さが変わる。一般的な赤いオーガは50レベル相当。青になると70レベル。そして黒は。。。
「90レベル相当かよ、、、くそっ。間に合ってくれ!」
テーブルの上に10000melを置き残して全速力でヤマグドの洞くつへ向かう。
「お、おい!どこいくんだよ兄ちゃん!」
騒然とした店内を出て、俺は魔法を使う。
『転移!ヤマグドの洞くつ!」
青い光がどことなく俺に群がり、勢いよく発光したその瞬間。俺はヤマグドの洞くつに着いた。
「な、なあ。今のって。。。」
「転移魔法!?!?」
雄一が消え去った後の酒場では上級魔法の一つである転移魔法を間近に見た冒険者たちが腰を抜かしていた。
読んでくださりありがとうございます。次話もよろしくお願いします。