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ドライ・ランプ・ライトアップ

 初めて目が覚めたとき、私はたくさんの人囲まれていた。

 外はすでに、夕暮れの赤に染まっていて。一瞬だけ、ほんの少しだけ不安に思った。

 だけど、そんな不安はすぐに私を見ている人々の優しい笑顔にかき消された。

「おかあさん……?」

 無意識にそんなことを口走る。

 口走った言葉を向けた相手を見て、自分の無意識に納得した。

 絹のような美しい金色の髪は長く、先端が少し油で汚れている。私を作っているとき汚してしまったのかな。


 彼女は、一度だけ驚いて、満足そうに微笑んだ。

 とても嬉しそうな、その顔を私は一生忘れないと思う。

 生まれて初めて感じた、「暖かい」だから。

「私はマリー。あなたはドライ、私たちの妹……。」

 私のおかあさんはマリー、そしてマリーは、一番上のお姉さん。

 なんだか複雑だなって、思った。

 だけど、暖かいもの。それがいい。


「私はアイン、あなたのお姉さんだよ。」

 姉と、一番感じられるのはこの人だった。おかあさんはなんだか、おかあさんだから。

 同じ機械の体と、同じ誰かを思う心。

「私はツヴァイ、二番目に作られた。」

 この子も、私やアイン姉さんと同じ機械の体。

 この子の自己紹介はちょっとさっぱりしすぎだ。もっと、知りたいなと思った。

「私はアヴィー、猫じゃないよ!」

 次の子は、そう言うと元気に手を挙げた。きっと一番気にしない子だし、アヴィーちゃんって呼んでも怒らないかな。

 すかさず、おかあさんがその喉を撫でる。ちょっとだけいいな……。

「また猫扱いするにゃ!!??」

 そんな風に、言ってる割ににゃって言ってる。それが可笑しくて、だけど笑っていいのか少し分からずにいた。

 そんな私の気持ちを知ってか知らずかアヴィーちゃんはまっさきに笑いだした。

 これは、なにかの定番なのだろうか。だとしたら、私もそれに加わりたいな。


「マスター、私、アーティファクト・ツヴァイは単独による探索任務を開始したいと思います」

 あぁ、ダメ。気持ちは分かるよ、役に立ちたいのはわかる。だけど、ダメだよ。みんなの大事には、あなたも含まれてるんだ。でも、その言葉はみんなには冷たくしか伝わらないよ。


「なぜ?」

 おかあさんの、鋭い目。だけど、無理してるよね、おかあさん。

 本当はきっとおかあさんは言ってやりたいはず。そんなの許さないって。


「私には、私を超える性能を持つ後継機としてのドライの存在があります。よって、私はこの機により多くの情報を収集し移住候補地を探索することが懸命だと思います。そのために、どうぞ私をお使いください」

 あとで、私も言ってやろう。みんなの大切にはあなたも入ってるって。だから、あなたの大切にあなたを入れてあげてって。だけど、どうしたらいいのかな。暖かいのに、暖かいはずなのに、それがお互いを傷つけ合って。そんなの、とっても痛い。


「使う、なんてそんな道具みたいに……」

 おかあさんは今にも泣き出しそうだった。だけど、それを堪えて、伝えたい言葉を探して。

 強いなぁ。だけどおかあさんは無理しすぎてる気がする。


「嫌だ! 私は、ツヴァイねぇのこと道具だなんて思ったことない! 家族だって、一番近い、一個上のお姉ちゃんだってそう思ってた! だから、絶対嫌にゃ!」

 アヴィーちゃんは、少し泣いていた。本当は、もっと優しく大事だよって伝えたいのに。

 怒って、牙をむき出しにしてる自分を責めてる。温かい気持ちに、冷たい言葉投げかけてる。

 それが、痛くて、苦しくて、壊れそう。


「ねえ、ツヴァイちゃん。少し、私とお話しよう。」

 アイン姉さんはそう言って、ツヴァイの手を取った。その表情は、なんだかとても暖かくて、全部任せていいんだって思わせてくれた。だから、私は後でみんなの気持ちを伝えるだけ。今はアイン姉さんに全部任せよう。

 アイン姉さん達が去った部屋には今にも泣きそうな二人と、なんとかしなきゃとだけ思ってる私が残った。


 その頃にはすっかり外は暗く、月の優しい光が部屋の中に淡く差し込んでいる。


「おかあさん……これ何かな? 暖かい、と冷たいの間でなんだかとっても不安定で、壊れそうで。」

 少し、唐突だったかな。だけど、これが私の感覚。私は、この冷たいのが嫌い。

「そういう、気持ち……かな? ごめんね、うまく言い表せないよ」

 そっか、おかあさんもこの気持ちの名前は知らないんだ。じゃあ、今だけそういう気持ちでいいかな。


「そういう気持ち……。そういう気持ちに、なっちゃったよね……」

 胸の中の、壊れそうな気持ち。私は、それを押しつぶしてしまいたかった。だから、アヴィーちゃんを抱きしめて、その暖かさと、優しい圧迫感で押しつぶそうとした。

「なに……?」

 そうだよね、私生まれたばかりだし。だけど、見てたよ、アヴィーちゃんの気持ち。優しさも、だから傷ついちゃう不器用さも全部アヴィーちゃんらしいところなんだよね。


 私、あなたが大好きだよ。あなたが大切だよ。

「そう見えただけ……。そういう気持ちになっちゃって、最初に言葉が出ちゃって。本当は、もっと伝えたかったよね……。」

 だから、そっと撫でた。

 気持ちいい、暖かくて、柔らかくて、アヴィーちゃんの心によく似た感触。

「そうにゃ! そうにゃ……! 否定したかったんじゃない……、ただ一人で頑張ろうとするツヴァイねぇが苦しかったにゃ……」

 分かるよ、優しいアヴィーちゃんだもんね。仲間を威嚇しちゃったの、とっても辛かったよね。勝手に頑張って、頼ってくれないのちょっと寂しかったよね。

 全部見てたよ。苦しいの、全部、吐き出して欲しいよ。冷たいの、私が嫌いなもの全部なくなるまでこのままでいるよ。


「ドライ……?」

 不思議だったかな。

 でもおかあさんも、無理したよね。いっぱい、無理したよね。だって一番、大好きが大きいもんね。

「なんとなくだよ、お母さん。なんとなく、悲しい気持ちもこうやって、押し出しちゃえるんじゃないかなって……」

 だから……。

「そっか……。」


 頑張り屋さんのおかあさんだから……。


「あの子の言葉は、口から出るときは暖かいのに、人に届くときはとても冷たかった。お母さんは、それもわかってるんじゃないかな? お母さんにもそういう気持ちあるんじゃないかな?」

 むしろ、そういう気持ち大きいんじゃないかな。

「うん、そうだね。」


「じゃあ、お母さんもおいで……。一緒に全部吐き出そ?」

「うん……」

 おかあさんも、たまには甘えていいと思うんだよ。

 私でよければ、ぜんぶうけとめるから。

すごい感覚派な子なので書くのが大変でした。

だけど、この子らしさを損なわないためにそのままお届けします。

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