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プロローグ


おっとっと


私の肩に触れていた彼の手に力がこもり、私を後ろへと押し出した。

彼に突き放されるように押し出された私は、バランスを取るために数歩下がろうと片足を後ろに下げた。だが、下げた足は何にも触れなかった。

当たり前だ。私の立っていた場所は校舎の屋上端。押し出されれば、そこに待っているのは落下だ。

私の身体はスローモーションのようにゆっくりと、しかし着実に後ろへと引っ張られていく。片足がまだ屋上に残っていても、上半身から徐々に後ろ向きに倒れ込むようにして、彼との距離が開いていく。

私はその間もずっと彼を見つめていた。夕日に赤く照らされた彼の顔が視界を上昇していき、徐々に遠ざかっていく。私はこんな事に付き合ってくれる彼に向けて、精一杯の笑顔を見せてから、屋上に残っていた片足で、その場から飛び出した。

支えるものが無くなった私は、そのまま地上に向かって落下していく。私は空中で、頭が下になるように態勢を変え、自分がこれから衝突する地面を見上げた。夕日で既に赤くなった地面が徐々に近づいて来ており、これから自分の血で更に赤く染まるのだなと考えると、まるで自分が絵の具の赤色にでもなったような気分がして、可笑しくてフフッと少し笑うと同時に、鼻が地面に触れて砕ける音がした。

衝撃はそのまま顔全体に広がっていき、顎が外れ、歯がパキパキと小気味よく音を立てて折れていく。

頭蓋骨が押し潰され、中から熱いものが出てくるのがわかった。

やがて負荷に耐え切れなくなった首が、錆び付いた蛇口をひねったかのように、ごきゅりと鈍い音をして曲がる。

遅れて身体が叩き付けられると、内臓が風船のように破裂し、折れて砕けた肋骨が内側から突き刺さってくるのが全身へと伝わった。最後に地面に着いた手足は関節と逆方向に曲がってしまい、折れた骨が皮膚を貫いて露出した。

鈍い音と共に、私の身体はまるで空気が抜けたボールの様に潰れて、そのまま崩れて壊れた。

私は意識が消える寸前まで彼の事を思っていた。

まだだ。また彼に会うんだ。彼となら、一緒に私を殺した犯人を見つけ出せる。

そう信じて、私は重たくなった瞼をゆっくりと閉じていった……。











彼女を殺すのは3回目だった。おそらく彼女は今回もまた生き返るのだろう。

なぜ彼女は死なないのだろう? 僕は真っ赤な夕日を眺めながら、過去の事を思い出した。

最初に彼女を殺したのは、6月の連日続く梅雨の時期だった。普段から人気の無い空き地は雨の影響で、更に人が寄り付かなくなっていて、誰かを殺すには丁度良かった。

僕は彼女を呼び出し、レインコートを着て、透明なビニール傘を持ち、公園へと向かった。到着すると、彼女は豪雨の中、傘も差さずにずぶ濡れになりながら、ニタニタと口角を吊り上げるのが特徴的な、不気味で粘着的のある笑みを浮かべていた。

空き地の濡れたベンチに腰掛けた彼女を見つめ、僕は彼女の返り血を防ぐべく、ビニール傘を横向きに開き、傘の先端にナイフを取り付け、その状態で彼女の喉元に向かって、深く突き刺した。

僕はビニール傘越しに彼女を観察する。

彼女はあくまで自殺に見せかける為に、震える手で傘とナイフを分断し、そして自らの喉元に刺さったナイフを、残された僅かな力で目一杯に引き抜いた。

同時に血飛沫が吹き出し、ビニール傘に赤い斑点が無数に出来上がる。

血飛沫が収まったのを確認してから、僕は傘に付いた血が雨で流れ落ちるまで、その場の光景を目に焼き付けていた。

やがてその場を後にして、人目に付かぬよう、ゆっくり迂回しながら自宅へと向かうと、自宅の玄関の手前で、左手を喉元に、右手には自分の血がべったり残ったナイフを持った彼女が、ニタニタと笑って待っていた……。

それからというのも、彼女は僕に殺され続けるといった行いを繰り返している。僕が殺せなかった時には何か1つ約束を交わし、僕はそれに従わなければならないといったルールまで付け、まるでゲームで遊んでいるかのように、僕に自身の殺人を依頼してくる。

これまでに交わした約束は2つ。

1回目は「これからも殺し続けること」

2回目は「毎回違う方法で殺すこと」

これら2つを交わした。

果たして今回はどんな事を言ってくるのだろうと思った矢先、屋上のドアがガチャリと開く音がした。

やっぱり生き返ったかと振り返ると、夕日に真っ赤に照らされた彼女が、ニタニタと口角を吊り上げ、笑って立っていた。

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