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墓穴

作者: RC

木陰で目を覚ます。

左手の時計を見ると時間は朝10時を示していた。


「そろそろ道も明るいかねー」


ひとまず時計の針を信用することとしてそそくさと準備を始める。

準備といってもリュックに昨日の夜使用した簡単なキャンプセットを詰め込むだけのため、10分で終わった。



そして今日の寝床から少し歩いた後、愛車の助手席にリュックを放り投げ、キーを回した。


路肩から道路へ入り、適当な速度に乗せたところでガソリンメーターに目を移した。

ガソリンは半分ほど、必要な程度は持つだろうと判断し速度を上げる。



道路の先を目指して愛車と共に加速する。

速度を大台に乗せる、、、

注意するものは誰もいない中で広い道路をただ走った。








「また会おうな!」

「ああ、元気でやれよー。」


今晩何度目かの別れの挨拶。


学生時代を過ごした街を出て新天地へ行く前の最終日、俺は友人と最後の晩餐を過ごしていた。

晩餐のコースメニューは弁当二つに缶ビールがそれぞれ数本。


あとは適当につまみとしてのスナック菓子が置いてあった。



調理器具はすべて発送したか売り飛ばしたかした後で、洗い物用のスポンジすらない中のためこの程度のささやかな飲み会。

ただ過去のどれよりもわびしく、どれよりも感動的な光景だった。


「---は東京で就職だよな。大都会でうらやましいね。」


「お前はこの辺だよな。むしろ気楽でいいだろ。」


そういって笑いあう。

面白いわけじゃない。特にネタを挟んだわけでもない。

それでも笑いあえる空間がそこにあった。



その日の朝、俺たちは二日酔いの中目を覚まし、あいつはくらくらしながらいつも通り帰っていった。


そして俺は酔いを覚ました後に最後のゴミを収集所にぶち込み、愛車に乗り込んだ。









山道を駆け抜けた先、休憩に立ち寄った。

おそらくは撮影スポットと思われる駐車場のみのスペース、車を止めて山の上から景色を眺めた。


青い空、美しい連山、吹き抜ける風。

綺麗なものを見ているのだろうが、似たようなところに何度も止まりながら来たためあまり感慨はなかった。


ひとしきりのんびりした後また運転に戻る。山は下りに入り、今までは踏む側だったアクセルにほとんど触らなくなる。


見通しも悪い中、のんびりと山を下った。

目的地はまだ遠かった。










検問と覆面にびくびくしながらアクセルを吹かす。

今検知器を通したら出る可能性があったため、いつも以上の安全運転。


向かう先は新天地。大好きだった街を抜け、郊外へ出る。

名目上の境界も抜け、本当の意味で外へと出た。


「素晴らしい日々だった。。。」


ポロっと口からこぼれる。

仲のいい友人達と飲み明かした日々、つまらない講義、腹の立った喧嘩、一人でゲームして時間をつぶした夏休み。


どれもが大切で、楽しい日々だった。


大半は忘れてしまった日常でも、楽しかったことだけは覚えていた。




ふと山道の山頂付近で休憩用の駐車場を見つけ、そこに車を止めた。

車を降りて見た、山高くからの景色。絶景と呼んで差し支えないほどに雄大で、美しかった。

悦に浸って数分後、別の車が駐車場に入ってきたためにいそいそと車に再度乗り込んだ。


他人はいつも邪魔くさかった。

友人は街に置いてきた。





思い出と現実は交差した。

あの名前も知らない絶景を交差点として。









その後、大好きなアーティストの生まれ故郷を通り


初めて動かす船で海を渡り


崩壊した温泉街の一室で夜を明かし






その後さびれたキャンプ場を横目に


渋滞した道を通り


田舎の安いラブホテルで一人過ごし





僕は最後にあの街にたどり着いた。

僕は目的地の東京にたどり着いた。








僕が大学時代に過ごし、旅だったあの町にたどり着く。


その後東京に就職し離れてしまった第二の故郷。

僕にとっての人生一番の思い出の土地だった。






できるだけあの頃と同じルートを通るようにしたが、実際にできたかはわからない。

記憶も朧気の中、ただ通った道を駆け抜けてきた。




別にそこに意味はなかったけど、そこに意味があると信じたかった。



僕はだれもいない街を歩く。

田舎らしく誰も歩いていないし、現代らしからず車も一台も走っていない。


コンビニの電気は停止し、人の気配も皆無な街。

田舎とはいえ、大学がある程度の街。


僕の思い出の街の、変わり果てた景色を見ながら僕はあの街の駅で車を止めた。




世界は一か月前に崩壊した。

別にそれ自体は本筋じゃない。


生物に詳しくない僕にはわからないが、どうやらよくわからないウィルスが蔓延したらしい。

そのニュースが出た半月後にはテレビが止まり、ラジオも止まり情報はすべてなくなった。


それから二週間と少し経った今、情報は皆無、生存者も通り道にはいなかった。





別に崩壊の原因を探したいわけじゃない。

僕が少し苦しくなったから、生きる方法を探したいわけでもない。

人類の救世主になりたいわけでもない。


僕は死に場所を求めてここに来た。




死を意識して、僕の死に場所はここじゃないと思った。

死ぬならあの街で、友人達とともに生きた街で死にたいと思った。




僕は駅の前で車を降りた。

ここから先は一人で歩きたかった。僕を東京に連れて行き、またここまで導いてくれた最後の友人と別れを告げる。





あの頃のように街をあるく。


行きつけの焼肉屋、居酒屋の脇を抜け、歓楽街を出たところのコンビニの前で一服する。

ここで吸ったたばこの本数はもう忘れた。


交差点を右に曲がり、また見えてくるコンビニ。

そこでも一服。ついでにお茶を飲み、のどを潤す。



持ってきたお茶は飲み終えた。

僕はコンビニのゴミ箱に、人類最後のペットボトルを突っ込んだ。



ダイエットのために4年で3回くらい走った小さな公園の横を抜ける。

公園を抜けた先の坂を下り、少し行った先で、僕はあいつのアパートにたどり着いた。




いつも僕の家で酒を飲んでいたから

僕があいつの家を訪ねることはあまりなかった。


今日は珍しく逆だ。

呼び鈴を鳴らす。




高い音が世界に響いた。




出てこない。

当然だった。



アパートの前に座り込み、生ぬるいビールを取り出す。

これを僕が飲み終えることはないと、心の底で知っていた。


もう限界だった。

体は悲鳴を上げていた。


駅から1km程度の距離に二回も休憩を挟まなきゃいけないほどに。



ボロボロの腕を上げる。

人生最後の感謝のために。


最高の友人のために。




「僕らの生きた世界に。」


僕は大きく一口飲んでそのまま眠りに落ちる。

その時世界は本当の崩壊を迎えた。
















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