第29話 生意気なガキ
この中に1人、生意気なガキがいる!
「完全ふっかーつ!」
「うるさいですよ、ソウマさん」
ギルド内だという事は重々承知していたが、やはり大声を上げては怒られてしまうな。
アメリのお叱りなんて久しぶりな気がする。
ラッセントによってズタボロにされた体は完治し、エリナのお見舞いで気分も落ち込まずに退院の今日を迎えられた。
まぁ、それまでにかかった時間は相当なものだったけど。
「それに、お前も居てくれたしな。だよな、ゼキエーレ」
「ん? あはは、そう言ってもらえると嬉しいぞ」
「えっと、私は? ソウマさん、私は??」
俺が怪我から復活したのと同じように、ゼキーエレは気とかいうのを溜め終わり復活した。
ただ、今まで心の中にだけにいたゼキエーレだったのだが……何故か復活後は肉体を得たらしく、俺と顔を合わせて会話できるようになった。
その姿は子供、THE幼子、完全に幼稚園児です本当にありがとうございました。
いや、初めてゼキエーレの姿を見た時は驚いたよ。
だって今まで神様ッぽいことをしていた奴が子供の姿で話しかけてくるんだから、それは誰だって驚くでしょ?
「やっぱりお前の姿は慣れないな」
「まぁ、この姿を見せたのは割と最近だからね。その内に私の姿にも慣れるだろうさ」
「あの、私は? ……ソウマさーん」
「え? アメリってなんかしてくれたっけ?」
俺の記憶だと定期的に部屋に来ては、ニコニコしなが食事になると「あーん」を強要してきたことくらしか覚えていない。
「ひ、酷いですよぉ。私だってお世話してあげたじゃないですかぁ」
「そうだぞソウマ。彼女だって、かなり、相当、目も当てられない程だったが頑張っていた」
「ゼキエーレさんもヒドイ!」
アメリがとうとう俺達のイジリに耐えられなくなり、涙目になってしまった。
だが、何故だが美人の泣き顔というのは案外悪くない。
そう、思ってしまった。
美人を泣かせるのも程々にして、本来の目的を果たすとしよう。
「ゼキエーレ、話してくれるよな」
「……離さなきゃダメ?」
「可愛い声を出してもダメだ」
「はは、可愛いって思ってくれていることが何だか嬉しいよ」
「馬鹿言ってないで早く話せ。何があった」
俺は療養中、ゼキエーレと再会したあの日に約束していたことがあった。
それは、ラッセントとの戦いの途中、リエルが助けてくれたと言うその時までの記憶がない。
その部分の話をゼキエーレにしてもらう、という約束だ。
ゼキエーレなら知っているはずと思い聞いたのだが、俺の怪我が治ってからと言われ今日に至る。
「今日まで待ったんだ。さぁ、何でもいいから教えてくれ。俺はあの時、なにをした!」
「そんなに知りたいのか?」
「当り前だ。だって……ラッセントが俺にべったりな理由が皆目見当つかないんだよ!!」
俺はギルド内のソファに座りこちらを覗うラッセントを指差しそう叫ぶ。
あの戦いの日以降、常に後を付けるがごとく引っ付いて来るラッセント。
どうしてと聞いても、「創造主の器たる貴方様に忠誠を誓うのは当然」とか訳の分からないことをばかり言ってくる。
何があったのか、それを知ればアイツが俺のいう事を何でも行く理由にたどり着くと思ったのだ。
と言うか、それ以外の理由はない。
失った記憶ならば、それを思い出したいと思える気持ちすらもないのだから。
「何もなかったよ。ただ、私が神らしい振る舞いをしただけさ」
「……本当か? 俺、信じちゃうぞ??」
「あぁ、本当だ」
……信じてくれ、とは言わないんだな。
俺は心の中でそう呟いたが、口にも表情にも出さなかった。
「分かった。信じるよ」
「ありがとう……ソウマ」
これまでは声だけだったが、顔を見れるようになった今だから分かった。
ゼキエーレがありがとうと言う時は、何故か悲しそうな表情になる。
これにどんな意味があるのかは分からないが、その内ゼキエーレから何か言ってくるだろう。
俺は信じて待つだけだ。
「さーて、最近怪我ばっかで金の心配もある。それに、体がなまってそうで怖い。何か手ごろな依頼でも受けようか」
俺はこの変に暗い空気を一転させるべく、依頼掲示板へと足を運びながらワザと大きな声で呟いた。
掲示板には討伐から採取まで、多種多様な依頼が掲示されておりより取り見取り状態だ。
その中で、俺は「オークの目撃情報」という見出しの紙が目に留まった。
内容はこうだ。
<オークの目撃情報>
ごく最近、町の近くでオークを見かけることが多くなった。
その上、近くの森にオークが村を作っているという目撃情報が多数寄せられたらしい。
これは早急に叩かねば、オークの数が増えるばかりか被害者も出てくるだろう。
冒険者の諸君、緊急クエストだ。
オークの村を破壊し、町を護れ!
「それにするんですか?」
「うぉ、アメリか。復活したんだな、驚いたぞ」
「乙女は強いんですよ! それで、この依頼を受注なさいますか?」
「あ、あぁ……(乙女?)……受注するy」
「ちょっと待ったーーーーーー!!」
「「誰?」」
アメリに依頼の受注をお願いしようと思った矢先、突然ギルド内に響き渡る子供の声。
もちろんゼキエーレではなく、見知らぬ男の子が俺の隣に立っていた。
その男の子は右手を俺に突き出しこう言った。
「その依頼、僕に譲ってはくれないかな?」
「……君は誰?」
「おっと失礼、僕の名はルーク。これでも一応、冒険者さ。そう言う君は?」
「俺はソウマだけど、君が冒険者?」
どう見ても子供で、しかも武器なんか持ってなさそうに見えるんですがそれは。
「む? 君は人を見かけで判断する愚か者なのか? いいだろう、僕の力を見せて――」
ルークと名乗る少年の目付きが変わった。
これはいかにも殺る時に目だ。
「何やってるのおとう、じゃなかったルーク!!」
「げっ、ロペ……」
そう思ったのだが、今度は女の子の声が響き渡りルークの顔色が一転した。
声の主である女の子はずけずけとこちらに歩いて来るや否や、ルークの耳を掴みお説教をし始める。
「どうして1人で行っちゃうの! 危ないでしょ!?」
「ご、ごめんてロペ――」
「ロペですって!?」
「ろ、ロペお姉ちゃん。ごめんなさい」
素直にルークが謝ると、ロペと呼ばれていた女の子はルークの耳を離した。
離された耳は真っ赤になっておりとても痛そうだ。実際、ルークは痛がっていた。
「ルークがすいませんでした。きっと不快な思いをさせてしまったでしょう?」
クルリとこちらに体を向けると、ロペは頭を下げて謝ってきた。
俺はあまりの光景に唖然としていて、返す言葉が出てこなかった。
「ルークも、謝って!」
「ふんっ、こんな弱そうな奴になんで僕が」
「ルーク? 分かっているわよね?」
「ヒィ……ご、ごめんなさい!」
「はぁ、まったくもう」
ルークもロペに言われやっと俺に謝ってきた。
まぁ、ルークからしてみればさぞご不快だろうな。
何もしてないのに頭を下げさせられたのだから。
「それで、ルークは何を言いましたか?」
「え? あー、俺が受けようとした依頼を、その子も受けたかったらしくてですね。止められました」
「依頼の横取り!? なんてことしてるのよ、ルーク!!」
「まだしてない。横取りしてないって!」
また始まった姉弟ゲンカ。
いや、これは完全に母親が子供叱るような光景だ。
見ていて微笑ましい。
なんて思っていると、アメリの俺の未来を変えた一言が投下された。
「なら、共同で依頼を受注されてはいかがですか?」
この発言がなければ、きっとあんな事にはなってなかったのだろう。
今思い返すだけでも、そう思う。




