第28話 お見舞い
今日、家を掃除しているとギルドマスターと名乗る方がこんなことを言い残して行きました。
「あー、そちらのご主人?は依頼先で大怪我したから今ギルドで預かってる。だから、帰りは遅くなると思うぞ。以上だ。急に来てすまなかったな」
私はそれを聞いて、またですかソウマ様、とため息をついてしまいました。
あ、私はエリナと申します。
突然始まって混乱した方、申し訳ございません。
私はクレアと同期の侍女見習いであり、獣人という特殊な立ち位置です。
この国ではあまり見かけませんが、海を超えた少し遠くの大陸には大勢いますよ。
そんなことよりも、ソウマ様です。
またソウマ様が怪我してギルドのお世話になっていると思うと……ムカムカします。
あの女性に囲まれたソウマ様の、鼻の下を伸ばす表情を思い出すだけで再び例のブツで殴り倒したくなってしまいます。
ですが、今回は大怪我をしていると言っていました。
これは本格的に心配になってきましたね。
「クレア、クレアー?」
今からギルドへ出掛けようとクレアに言うつもりでしたが、いませんね。
仕方ありません。
クレアが戻ってきた時に私がいないと変に混乱しないよう、書置きを残してギルドへ向かうことにしましょうか。
私は白紙の紙にソウマ様が怪我をしたこと、ギルドへソウマ様の様子を見に行くことを書き机に置いた。
そして、家の扉に手をかけた時、ノックをする音が……。
「どのたですか?」
扉を開けて問いかける。
「失礼、こちらにクレアという名の少女がいると聞いた者なのだが」
ノックした方は額にキズのある、ガタイの良い男性でした。
背中には青い槍のようなものを背負っていて、目付きはかなり鋭いですね。
「クレアは今出掛けているようで、いませんね。何か御用でしたか?」
「そうですか。いえ、急用ではありますが居ないのなら仕方がない。では、こちらを渡していただけませんか」
そう言って男性は見たことない紋章が記された布を渡してきました。
「もし、それに見覚えがあるようでしたらこうお伝えください。”お迎えに上がりました”と」
男性はそこまで言うと一礼し、去って行きました。
私は布を書置きの横へ置き、先程の男性に言われた言葉を書置きへ書き足し家を出ました。
「戸締り良し、さて……ソウマ様はどうしているのでしょうか」
戸締りを確認してからギルドへと向かいます。
ソウマ様の現在の無事と、未来の無事を祈りながら。
◆
ギルドに着くと、直ぐに受付の方がソウマ様のいる部屋へ案内してくれました。
私はその方にお礼を言い、部屋へと入ってソウマ様の容体を確かめます。
「よぉ、エリナじゃないか。もしかして俺の事が心配だったとか? そんな嬉しい事言ってくれる??」
会って早々かなり癪に障るような言い方で、ウザいセリフを吐いてきやがりました。
落ち着くのです私。
きっとソウマ様は怪我をして傷心しきった自分を誤魔化しているだけですよ。
そうです、そうでなければ殴り殺し……倒してしまいます。
「心配ではありましたが、大丈夫そうですね」
「いや、いやいやどう見ても大丈夫じゃないでしょ!? 左目とか、ほら!」
そう言ってソウマ様は両手で大げさに左目をアピールしてきました。
私はイライラポイントを溜めながらもソウマ様の左目を見ました。
「何があるです……って、どうしたんですか!?」
「遅いよ……」
そ、ソウマ様の左目がキレ、切れ、斬れてます!?
しかも眼球まで、あ、あぁ、完全にやられちゃってますよこれ!
「どどど、どういうことですか!?」
「いやぁ、かなり手ごわい敵にやられちゃったよ」
「し、視力は……?」
「うん、ないね」
「えぇ!!?」
まさかそんなことってありますか!
隣町の復興とやらの依頼に向かったソウマ様が、左目を斬られて視力奪われて帰ってくるなんて!
大怪我とは聞かされていましたが、片目の視力を奪われているなんて思いもよりませんでしたよ。
よく見れば体中の至る所に切り傷があり、ソウマ様は全身包帯グルグル巻き状態でした。
最初のウザい態度が癪に障り過ぎて気が付きませんでした。
「そんな……」
「おいおい、泣くなよ」
泣くに決まってるじゃないですか。
好きな男性が……自分が一番元気に笑って過ごしていてほしいと思っている人が傷だらけで、それも目まで見えなくして帰ってきたら……泣くに、決まってます。
けれどこんな姿、ソウマ様には見せられません。
「泣いてませんよ!」
ごめんさい、ソウマ様。
私にはどうすることも、掛けてあげるべき言葉も思い付きません。
私は無力です。
◆
帰ってきた初日にエリナがお見舞いに来るなんて思いもよらなかった。
ガフが「お前んとこの侍女2人組には俺から伝えておく」とは言われていたが、もしかして速攻来てくれたのか?
まぁ、それは嬉しいだが……左目の事を言ったら泣き出してしまった。
止めてくれよ、泣きたいのは俺の方さ。
司祭になぶり殺しにされようになるは、それを偶然通りかかったとか言うリエルに助けられたらしいし、その上運ばれたし?
何だかその途中の記憶だって吹き飛んでる始末。
もう冒険者とかやっていけませんよ!
でも、こんなに心がグチャグチャなのに、エリナが泣いているとどうしても笑わせたくなる。
エリナが泣いているこの状況が、とても許せないものに感じてしまう。
やっぱりペットが苦しんでたりすると、こんな気持ちなんだろうなぁ。
「エリナ、おいで」
「……はい」
俺の言葉にエリナは素直に従った。
しかし、顔は見せてくれない。伏せたままだ。
そんなエリナの頭を撫でながら静かに話しかけた。
「泣かないでよ。俺は苦しくも、辛くもないからさ」
「泣いて、ませんよ……」
「じゃあ、悲しまないで。エリナが悲しいと俺も悲しい。生きて帰って来たのに、こんな暗い気持ちじゃ浮かばれないぜ?」
「……分かりました」
エリナがバッと顔を上げ俺を見つめる。
その目には残っていた涙の跡が泣いていたと物語っていた。
エリナは俺の顔を見つめ、ニコリと笑って見せた。
俺はその笑顔を見て、あぁ帰って来たんだな、と思った。
体中痛くて、心も苦しくて、どうしようもなく辛かったけど、それでもこの笑顔が見れて良かったと。
あの時死を選択しなくて良かったんだと、そう思えた。
「ありがとう、エリナ」
自然とこの言葉を口をついた。
この気持ちがペットに向けられたものじゃないと、そう気が付くのはもう少し先の話。




