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第2話 いい人

誤字脱字あったらごめんなさい<(_ _)>

 目が覚めたら、隣で血だまりに倒れる獣がいた。驚いて距離を取ろうとして、後ろにあった気に後頭部を思いっきりぶつけて蹲る。

 その痛みで全てを思い出した。この世界に来て、命懸けの戦いをして、勝ったんだった。殺したんだった。


「気持ち悪い……」


 酷い吐き気だ。頭をぶつけたからではない。何だかこの手で生き物の命を奪ったと、実感したこの気分がなんとも言えず悪い。

 子供の頃に蟻を潰したり、蚊を叩いて殺したり、そんなんじゃない。魚を釣って捌いたり、狩猟の動画を見たりして、生き死にの現場を知った時ですらこんな気持ちにはならなかった。


「これじゃダメだ。せっかく新しい世界を、新しい環境を、新しい命をもらったんだ。もっと頑張らなくちゃ。この程度で下を向いていては」


『頑張り過ぎもいいが、楽しんでくれよ。お前の悲しいとか、苦しいとかは、もう十分だからな』


「十分?」


『お前の真っ暗な心は社畜時代に十分すぎる程に見た。だから、もっと笑ってくれ。私は地面よりも、空の方が好きだ』


 下よりも上を向けってことか。かっこよく言ってくれるな。


「……俺もだよ、ゼキエーレ。って、そのセリフ。他の誰かに言ってたな? 口説きか?」


『なっ、これが魂の同期か。参ったな』


 さて、と言って俺は立ちあがる。剣をアイテムボックスにしまい、殺した獣に近付き跪いて、どうしようかと考えた。

 ゼキエーレはこの獣は「グリーンウルフ」という魔物らしい。やっぱり異世界だから魔物もいるんだな、と思いながら話を聞いた。


『ギルドに持っていけば換金してもらえるぞ』


 獣を持っていけば金になる。異世界生活の初日にして無一文。

 そんな俺にとってはこの上なくありがたい話だ。

 殺し損ではないってだけで気が晴れる。

 右手を獣に添え、アイテムボックスにしまうイメージをする。獣の体が光って消えた。どうやら無事仕舞えたようだ。


「当面の目標は町を目指すことだけど、方向とか分からない?」


『そこを真っ直ぐ。直線2㎞くらい行けば小さな町があるはずだ』


「直線2㎞。その間に魔物に合わないよう願おう」


 さっき頑張ると意気込んだ男の発現とは思えない、とゼキエーレには言われた。が、それも仕方ないだろう。

 命の奪い合いを経験したばかりで、さぁ殺そう、とは気軽に言えない。

 できるだけ戦闘は避けたい。例え、どんなに勝てる戦いでも。


 ゼキエーレの案内で森を歩いた。途中、見たこともない草とか花とかキノコとかあったが、その都度説明してもらった。食べたら幻覚見るとか話を聞いた時は、地球もココもキノコは危険なんだなと思った。

 魔物に会うこともなく無事に森を抜けてやっと1㎞進んだ辺りだった。森を抜けると草原に出たんだが、舗装された道が真っ直ぐ続いているのが見えた。その先には壁で囲まれた町。

 人に会えると思うと年甲斐もなくウキウキしていまう。今、年齢は17らしいけど。


 道をウキウキ気分で町に向かって歩いている時、ある不安が頭を過った。

 それはある意味では死活問題で、この世界でどう生きていくかに大きく関わってくる問題だ。


「言葉って、通じるの?」


『私の魂も入ってるんだ。通じるに決まっているだろ』


 メッチャ安心した。言葉が通じないと色々と困るからな。仕事とか、宿とか、飯とか。

 言葉が通じると分かればその辺りの憂いは一気に晴れる。

 お金の心配はまだあるが、取り敢えず会話が成立するなら仕事探しができる。安心だ。


「おい、そこのお前」


 知らないおっさんの声だ。太くていい声だ。

 イケボというよりも、武将声と言うか、カッコいい声だな。


「無視するな。それとも俺に喧嘩売ってのか?」


 声かけられている人は何をしてるんだ。

 さっさと返事してやれよ、可哀想に。


「おい!」


『声を掛けられているのはお前だぞ』


「え……え!? あ、俺?」


 ゼキエーレに教えられ振り向くと不機嫌そうな顔をした男が背負っている大剣に手をかけているのが見えた。

 俺は慌てて謝罪し、事なきを得た。危うくあのご立派な大剣の錆になるところだった。異世界冒険記、怖いおじさんの話を無視しして無事終了。となるところだった、本当に危ない。


「すいませんでした。考え事をしていたので」


「いや、急に話しかけた俺も悪かった」


「それで、俺に何か用ですか?」


 あれ、何だか怖い人かと思ったが口調も優しく落ち着いている。無精ひげを生やしている顔からは想像できない程優しい雰囲気を感じる。


「お前のその左腕、それに体。ボロボロじゃねぇか。魔物でも襲われたのか」


「あ、はい。えーと、グリーンウルフってやつに」


「あの狼野郎か。あれは弱いくせにすばしっこくて鬱陶しい」


 苦虫を噛んだような顔をしておっさんはそう言った。


「っと、話が逸れたな。その傷じゃ辛いだろう。ほれ、これを使え」


「これは?」


「あ? 回復ポーションだ。見たことないのか?」


 緑色の液体が入った小瓶を渡され驚いたが、これがゲームでお馴染みの回復ポーションか。あ、ラベルに何か書いてある。「回復薬」か。分かりやすいな。


「でも、いいんですか?」


「いいもなにも、そんななりじゃ歩くこともキツイんじゃないのか? それとも、それを楽しんでいる特殊な人間か……?」


 おっさんが一歩後退りしたのが分かった。慌てて否定したからおっさんも納得してくれたが、危うく変態のレッテルを貼られるところだった。


「それじゃあ、ありがたくいただきます」


 瓶のフタを開け中身を一気飲みする。味は青汁に近く、のど越しは最高。サラッと流れ行き、後味は特にない。

 体を確かめてみると、掠り傷は完全に塞がり治っている。深い傷、具体的には左の腕と足首はかさぶたが出来て痛みが引いたくらいだ。

 だが、それだけでも十分だ。痛みがないなら、歩くのも苦じゃない。

 俺はおっさんに頭を下げてお礼を言った。おっさんは気にするなって言ってくるが、そうもいかない。

 命の恩人、とまでは行かなくても恩人は恩人。

 礼を尽くすのは当たり前だ。


「何かお返しさせてください」


「そう言われもなぁ……そんなつもりで回復ポーションやった訳じゃねぇしなぁ」


 このおっさん、メチャクチャいい人じゃん。痛そうだったからで助けてくれたのか。なんだかちょっと涙腺に来た。

 感動したよ、おっさん。あんたの優しい心にな。

 ゼキエーレもこの世界にこんなお人良しが居たなんて驚いた、と言っていた。

 やはり、こういう世界だと自分のことで精一杯と言う人が多いのだろう。仕方がないことだが、少し寂しいな。

 日本も似た所があったから。


「じゃあ、せめて名前を教えてください。いつかお返しできるように」


「それくらいなら。俺はアードール。Bランク冒険者だ。よろしくな」


「はい。俺は――」


 名乗ろうと思ったが、自分の名前が今どうなっているのか俺は知らなかった。そのため、答えるのを中断してしまった。


『お前の名前、過去は三越壮馬だった。だが、今はソウマ・ゼキエーレだ。覚えておけ』


 それは、ソウマが名前? それとも、ゼキエーレが名前?


『ソウマが名で、ゼキエーレが姓だ。これで私と真に家族となった。喜べ』


 はいはい、ありがとうございます。じゃあ、俺が名乗る時はソウマ・ゼキエーレと言えばいいのか。


『待て。ゼキエーレの部分は端折っても構わん。いや、端折れ。じゃないと、面倒くさいことになる』


 ゼキエーレの静止を聞きながら、俺の口からは名前が漏れ出ている最中だった。

 ゼキエーレの部分は言わなくてもいい。

 そう話された時に既にゼキエーレの「ゼ」の字が出ていた。

 もう止められない。そのまま勢いで行ってしまった。


「俺の名はソウマ・ゼキエーレ、なんだけ、ど」


 言っててマズイ時が付いた。アードールの顔が青くなっていくのが見えてたからだ。

 目が見開かれ、口が開き、俺の見る目が変わった。

 畏怖、そんな感情が見て取れた。


「はあぁぁぁぁぁ!?」


 何故だろう。俺は面倒くさいことに足を突っ込んでしまったのでは?

 ゼキエーレからの呆れを感じる。これは本格的にやってしまったかもしれん。

感想なんか、もらえたら感激です。

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