小話 露店での出会い
小話!
読まなくても物語の流れに影響は出にくいです。
でも、読んでくれると嬉しいです。
オナシャス<(_ _)>
侍女2人と話ができて、俺は完全に決心がついた。
そのため今はギルドへと向かっている最中だ。
要件は、ガフに依頼を断る旨を伝える。
それだけなのだが、さっきからゼキエーレがうるさい。
『大丈夫なのか?』
「何が」
『色々と』
「アバウトだな……」
こんな感じで、ひたすら俺を心配してくる。
それも、過保護すぎるくらいにだ。
嫁入り前の娘のお父さんかお前は!
『心配事は尽きないさ。お前はまだこの世界に馴染めていないからな』
「へいへい、そうですね」
『おま、ひとの話をだなぁ」
お前は人とじゃないだろ、なんてツッコミはしない。
そんな風にして他愛ない話をしながら歩いていると、露店の多い通りに来た。
すると、突然ゼキエーレがストップをかける。
俺は引っ張られるようにして止まり、何事かと聞いた。
『お前、剣はどうした』
「剣? 剣ならここに……」
そう言って右手に出す。
腹からポッキリと折れた可哀想な剣が出た。
俺はそれを見てやっと、ホブゴブリンとの戦いで剣を折ったことを思い出した。
「剣が、折れてます」
『そのようだな。で、どうする?』
「買いましょう!」
『なら、そこの露店が手頃だろう』
ゼキエーレが示した露店は、人気の少ないところにあった。
店番は1人のようで、見た目からして男。
やせ細っていて、場所もなんだか薄暗い。
ホラー的な雰囲気を感じながらも、俺はゼキエーレの言う通りその露店に近付いた。
「あの、すいません」
「……」
「すいませーん」
「……」
おかしい。
これだけ近くで話しているのに、相手からの反応が一切ない。
露店の男は俯いたまま動かない。
その痩せた体も相まって、この男は死んでいるのではと錯覚させる。
しかし、よく見ればただ単に寝ているだけだった。
俺の観察眼が優秀で助かったぜ。
危うく1人でパニクるところだった。
「取り敢えず、剣でも見てるか」
男はしばらく起きないと悟った俺は、露店に置かれていた剣を見た。
どれも良く斬れそうな剣ばかり。
変な装飾もなく、鉛色の剣先だけが輝いている。
その中でも、一際目立たない剣が一振りあった。
「これは……?」
手に取ってみると、他の剣とは明らかに持った感覚が違うのに気付く。
それに加え、剣先の輝いまでもが異常。
この剣は普通じゃないと直感した。
けれど、何が違うかは分からなかった。
他の剣より少し綺麗で雰囲気が違う程度で、具体的なことは何1つ分からない。
でも、買うならこの剣がいい。
そう思える程には、惚れ込んでしまった。
『その剣にするのか?』
「あぁ、これにする。この剣がいい。そう思うんだ」
男が目の前にいるのにも関わらず、俺はゼキエーレの言葉に反応してしまった。
まぁ、寝てるから大丈夫か。
なんて思った矢先、目の前から声がした。
「お兄さん、その剣が気に入ったのか?」
それは露店の店番だった。
思いっきり聞かれていたようだ。
恥ずかしい。
「そ、そうだが……いくらだ」
「1億テルだ」
「高い!!」
やっぱり良い剣はそれなりの値段がするな。
圧倒的にカネが足りない。
他の剣の値段を聞くと、数万〜数十万程度だった。
つまり、この剣はそれだけ素晴らしい剣、と言うことになる。
いや、でも1億ってどんだけだよ。
どれだけ依頼を受ければ溜まる額なんだ?
俺が1億テルと言う値段に頭を抱えていると、店番をしていた男はニヤリと笑った。
「値段を聞いても諦めないか?」
「当たり前だろ? こんな良い剣をみすみす逃したくないさ」
でも金がなぁー!
そう俺が呟くと、男は手を俺の前は突き出しこう言った。
「オレッチの剣をそんなに気に入ってくれたのはアンタが初めてだ。買いたいのに買えないなんて悩んでくれたのも、アンタが初めてだ」
男の顔は笑っていた。
ニヤニヤとした気分が害されるものではなく、爽やかで清々しいまでの笑みだ。
「そんなアンタに、1つ交渉したいことがある」
「取引か。なんだ?」
「アンタにこの剣を割引で売ろう。その代わり、これから戦うであろう魔物の素材をオレッチの店だけで売ってくれないか?」
「それは、ギルドには売らずにってことか?」
「いや、流石にそれは難しいだろう。だから、オレッチの分を残しておいてくれればいい。頼むよ!」
出していた手を引っ込め、両手を合わせて頼みこまれた。
真面目に考えても、あまり悪い取引じゃない。
ギブ・アンド・テイクの取れた良い取引だ。
「ちなみに、売値はどうなる」
「ギルドよりは安くする。しかし、オレッチの武器もその分安くして売ろう。どうだ?」
武器が安くて買えて、倒した魔物の素材を持ってくるだけ。
この条件は俺への待遇がやばい。
俺の懐は痛まないどころか、逆に溜まっていくのだ。
ここは乗っておくのが吉だろう。
「いいだろう。その取引に応じよう。で、剣はいくらで売ってくれる?」
「30万でどうですか?」
「そんなに安くなるのか! いいぜ、買った!!」
俺は懐から出すようにして金を右手に取り出し、そのまま男にポンと手渡した。
あっさりと金を払った俺に男は驚きの表情を浮かべた。
だが、すぐに剣の鞘を手渡してくる。
「その剣の名前ですが――」
「名前? 名前なんてあるのか」
「えぇ、オレッチは剣に名前を付けることにしてるんです」
「それほど愛着があるんだな」
「もちろん、オレッチにとっては家族みたいなもんですからね」
男は鞘を俺に渡すと立ち上がり、右手を胸に当ててハキハキと名前を言った。
「その剣の名はアスカロン! そして、オレッチの名前はウェラルドです」
アスカロン……聞いたことある名前だ。
だが、悪くない。決して悪くはないぞ。
俺は剣を鞘に納め、腰に下げる。
そして、ウェラルドに握手を求めつつ俺も自己紹介をした。
「俺はソウマ。これからドラゴンを討つ者だ。待ってろよウェラルド。お前にドラゴンの素材を届けてやる」
「えぇ、待ってますよ! ソウマさん」
こうして、しがない露店の武具屋と、どこにでもいる一般冒険者の奇妙な取引が交わされた。
この数日後、ウェラルドの露店は立派な店舗としてこの町で永劫語り継がれる名店となるのは、また別のお話。
私の中では小話=ボツネタ的な回になります。
流れの問題で省かれた話を、やっぱり採用したいって感じです。




