第1話 決意の転生
取り敢えずは、目指せ10万文字を掲げています。
転生上等!
そう、意気込んだのは昨日だったか、一昨日だったか。あまり詳しくは覚えていないが、きっとごく最近のことなんだろう。
何故そう思うかは、俺が今現在見知らぬ森で見知らぬ獣と対峙しているからである。
獣は俺に容赦なく飛び掛かってきて、ご自慢の牙と爪で俺の貧弱な体に傷を作っていく。
痛い、血も出てるし、何よりも怖い。左腕は動かせないくらいに痛いし、着ていた服はボロボロ。相手は一匹だと言うのに、これが日本で平和ボケしてた男の末路か。
どうして急にこんなことになってしまったんだ。俺は異世界に行ってもいいとは思ったが、言って早々死んでいいなんて思ってないぞ。
『私だってそんなことを思っていない』
あれ、何で声が? いやそれ以前に、どうして俺の中から聞こえるんだよ。
それに、獣が襲ってこない……っていうか、時間が止まってる!?
『頭が悪いな、私の息子は。話しただろう。私の代わりに人生を謳歌しろと。それに、時間が止まっているのは私とお前の会話を邪魔されたくなかったからだ』
確かに聞いた。だが、それと今の現状と何の関係が?
『私の魂とお前の魂を融合してから転生させたってことだ。現在のお前の年齢は……17?』
疑問形! しかも、若返ってる。
ここがどんな世界かは良く分からないが、獣に襲われているから危険が多いのは体で理解している。
『そう簡単に死なれたら、私の目的が果たせないだろう。だから、お前にはしっかりと力を与えた。使ってみろ』
そんな気軽に言わないでほしい。これでも今、俺は死にかけているんだから。
獣にやられた傷がとても痛む。腹にもパックリと割れた傷が……見てるだけでも痛みが増す。
しかし、ゼキエーレは俺のことなど眼中にないかのように話を続ける。
『いいか、私の息子よ。お前の記憶を一日かけて覗かせてもらった。お前はどうやらこの世界と似た世界の情報を多く持っていたな。らいとのべる? とか言う名前の書物に記載されていた世界のことだ』
あぁ、ラノベならよく読んでたし、異世界ダンタジー物なら好き好んで買っていた。
けど、それの知識がここで役立つとは思えないけどなぁ。
『お前に与えた能力は3つだ。今必要なのはその内の1つ、異空間倉庫だな』
うわっ、異空間倉庫。いかにもなヤツが出てきたな。名前からして予想がつく。異空間に繋がる穴みたいな所に手を突っ込んだりして、物の出し入れができるとか言う便利スキルだろ。
『分かってるね。でも、別に穴を開ける訳じゃない。試せば分かるから、ちょっとやってみ』
「……異空間倉庫!」
言われた通りやってみたが、何も起こらない。
これじゃあ、俺がただ単に技名を叫んだだけの恥ずかしい感じなのでは!?
『違う違う。イメージが足りないんだ。それに、異空間倉庫と言ったけど要はアイテムボックスだから。そんなねじ曲がった思考はいらない。ちなみに、入ってるのは剣と盾だ』
なんだ、アイテムボックスか。それなら分かりやすい。剣がこう、右手にポンッと出てくる感じをイメージすれば、ほらね。できたできた。
俺の右手にはどこからか現れた剣が握られていた。どこにでもある、鉄製の重たい剣。左手にはさっきと同じ要領で取り出した盾がある。これも、何の変哲もない盾だ。
けれど、俺の左腕は既に使い物にならず、盾がぶら下がる状態になってしまって痛いので盾は仕舞った。
『はい、よくできました。じゃあ、戦ってみようか』
「えぇ!? い、いきなり戦闘か!」
つい声に出してしまった。今まで心の中だけで会話できていたが、流石に口から出るほどに驚いた。
これにはゼキエーレも驚いたようで、びっくりしたぁ、と呟いている。
『この世界じゃ、こんなの日常茶飯事だ。今の内に慣れてもらわないと。さ、時間停止を解くぞ』
「ちょ、ちょ待てよ!」
俺の渾身の待てよも聞かずに、ゼキエーレは容赦なく時間停止を解いた。それと同時に獣が俺に飛び掛かってくる。また同じように俺の体を傷つけ、痛めつけ、死んだところを食べるために。
やられっぱなしも頭にくると思った俺は、獣が飛び掛かってくるフォームを何度も見た経験を生かして思いっきり剣を振るった。しかし、その剣を空中でクルリと回転して獣は避ける。
「おい、こいつ強いぞ。どうなってる」
『いや、今のはお前の剣の振りが遅かったからだ。もっと全力を出せ。死んじゃうぞ?』
「死にたくはないけど、うわっ」
再び獣の攻撃。今度は飛び掛かるのではなく、剣での反撃を受けないために地面を駆けて足に噛みついて来た。
痛みと戦いつつも剣を付き下ろすが、あと一歩の所で逃げられ剣を地面に突き刺しただけとなった。
どうして、どうして攻撃が当たらないんだと頭で考えながら足の傷を見る。噛まれたのは左足で、足首から血が止めどなく溢れている。かなり深く牙が刺さったようだ。
痛みで立っているのも辛く、耐えられずに膝を付いてしまった。
ここで、ゼキエーレが俺の様子を見かねてアドバイスを授けてくれた。
『私の息子よ。お前自身は気が付いていないかもしれないが、あの獣に剣が当たる直前、剣の勢いが死ぬんだ。言い方を変えれば、お前は獣を殺さないよう態々剣の威力を殺しているんだよ』
ゼキエーレがそう言うと、あからさまにため息をついて見せた。俺の魂と融合しているせいか、その呆れはダイレクトに俺の心に来る。
まさか自分で剣の勢いを殺していたなんて、実際知ってみれば簡単な話だ。けど、簡単だからこそ変え難い。自分の心の奥底にある何かを変えねば、俺が獣に勝つことは絶対に無理なんだろう。そう、ゼキエーレが心に訴えかけてくるのが分かる。
『殺すのは、嫌か』
この言葉に胸を締め付けられるような痛みを受けた。殺す、命を奪う、日本では自ら他の動物の命を奪う経験はやろうと思えばいつでもできる。けど、それとは違った苦しみがある。命の奪い合いという、自然の摂理に片足突っ込んだ感覚が気持ち悪い。
そして何よりも嫌なのは、命を自分が奪おうとしているんだと理解しているのに、それを受け付けようとしない己の弱さだ。
『例え、己が死ぬとしても。それでも、殺しは嫌か』
「……」
『言い方を変えよう。己を、私を護ってくれ。私との約束を守るために剣を振るえ!』
「まもる……ため」
殺すためではなく、まもるため。
こんなのは逃げであり、恐らく命の奪い合いにおいて相手を冒涜するような行為なのまもしれない。
それでも、この時の俺は救われた気がした。ただの殺し合いじゃなくて、意味のある戦いになったのだから。
「護る、守るぞ。お前を、まもる!!」
自分に言い聞かせるように叫びながら立ち上がった。俺の声に警戒を強める獣が、俺を中心として円を描きながら歩く。
俺の頭の中は「護る」という単語で埋め尽くされており、痛みやら恐怖はどこかへと吹き飛ばされていた。ある種、ハイになった状態に近い。一つの物事しか考えられなくなり、思考が停止する。
唸り声を上げて獣はボロッボロの男に対して容赦のない攻撃を仕掛ける。獲物を確実に仕留めるため、全力の一撃をかましてくる。
しかし、世の中にはこういう言葉がある。追い詰められた獣ほど、怖い物はない。
口を大きく開ける獣に対し、剣を突き立てた。
「うわおぉぉぉ!!」
剣が獣の口に吸い込まれるようにして刺さり、内臓を抉り肉を切り裂いていく。剣先は獣の尻の方から突き出た。心臓なんかも傷付けていたかもしれない。
唸り声を上げる間もなく、口から大量の血を吐き出し、剣から滑り落ちるように地面に伏せた。辺りには血生臭いにおいが漂い、倒れ伏す獣の目からは光りが奪われていた。
完全なる絶命――初めて命の奪い合いにて、相手の命を絶った。
10万文字で何かを察した人は……小説家になろうをよくご利用しているのかな?




