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第16話 大地の竜⑤

今回は視点変更があります。

分かりにくいことはないと思います。

 明るい日中のはずなのだが、男が座っている場所は薄暗くなっていた。

 木陰でもなく、まして、頭上には日光を遮るものなどないというに。


 それはまるで、光自体が男から逃げているかのように見えた。


「初戦にしては、少し、ほんの少しだけ手ごわかったかな?」


 男は口角を吊り上げながら呟く。


「隊長、指示通り転移を使いましたが……」


 座り込みニヤニヤしている男の隣へ何の前触れもなく現れた女は、その男のことを隊長と呼んだ。


 男は女に対してもニヤケ面を止めずに応える。


「うん、見ていた。華麗なる君の御業を。流石は、私が見込んだだけはある」


「お褒めの言葉、ありがとうございます。しかし、隊長」


「ん~?」


「彼には、あまりに荷が重すぎるのではありませんか? あのドラゴンはイゾアの名を持っており、私ですら手こずる相手。なのに、先手すら取らせないとなると……もう、勝ち目がないのでは?」


 女はたった今、ドラゴンの体当たりをされ吹き飛んだ青年を見てそう言った。

 口調は心配そうなのだが、表情は一切動いていない。


 男は女の言葉で、さらに笑顔を作った。


「それは、どうかな?」



 ◆



 体、イッテェ。


 竜種最強の名<イゾア>を持つドラゴン、モンタイト=イゾア。

 こんな序盤で戦えるなんて、なんだか嬉しいな。


 過呼吸になりながらもそう思った。戦えてうれしいと。


 だから、倒れてなんていられない。

 せっかくの強敵と戦える瞬間を、無駄にしては勿体なさ過ぎる。


 痛む体に鞭打って立ち上がり、剣を構えなおした。

 アメリ曰く、これは竜殺しの剣(ドラゴンスレイヤー)という悪名高い剣らしい。


 しかも、ゼキエーレに詳しく聞いたところ、この剣はシリーズものらしく、竜殺しシリーズとか言うのが出回っているとかナントカ。値段は安くても数千万テルだとも言っていた。


 つまり、それを俺はたったの30万で買ったと。

 そりゃ、アメリのあの反応も頷ける。


 そんな剣を手に入れたので、準備は万全(大嘘)


『大丈夫か?』


「ゴホッ……ダイジョブだ」


『無理はするなよ。何だったら、私がやろうか?』


 冗談っぽくゼキエーレがそう言う。

 でも、ダメだぞ。


 俺はニッと笑って答えた。


「俺がやる」


 それが合図となり、モンタイトが咆哮を上げ突っ込んでくる。

 巨体が怒り狂いながら猛突進してくる様、なんとも圧巻だ。


「けど、体がデカい分動きは遅い」


 俺は横にステップしモンタイトの突進を軽々と避けるが、モンタイトが横を通った際に起こった風に体を持っていかれ着地を失敗した。

 足首を挫きそうになったけど、ギリギリ耐えた。


 モンタイトは俺に避けられたことによって怒りが最高点に達したのか、頭を上下左右に振りながらUターンしてきた。


 ダンッ ダンッ ダンッ


 と、地団駄を踏むようにして再び突進してくる。


 しかし、あまりに単調な動きなためその突進も難なく回避。その次の突進も、次の次の突進も同様に回避する。

 モンタイトの攻撃は食らわない。だが、同時にこちらも攻撃ができていない。

 このままだと膠着状態になってしまいそうだ。


 そう思ったのは俺だけではなく、モンタイトも同じだった。

 モンタイトは急に突進を止め、俺の方を向き大きく口を開けた。


『逃げろソウマ!!』


 ゼキエーレが叫ぶ。

 ソウマと呼ばれたのはこれが初めてじゃないか、なんて思いながらドラゴンの口を見た。


 キュィィィィン


 耳が痛くなるような高い音がする。

 その音が強まってくにつれ、モンタイトの口へと光が集まって行くのが見えた。


 その光景を見て思ったのは、ヤバイ。

 ゼキエーレからの言葉もあるし、これは絶対に真正面から受けてはダメだ。


 咄嗟に横へステップしようとした。

 その瞬間、地面が震え鼓膜が破けるかと思うくらいの爆音がする。

 と同時に、目を開けていられる程の閃光がこっちに向かってきた。


 無意味だと分かっていても、俺は盾を構えてその光から身を護ろうとした。


「うわぁぁ!?」


 盾に閃光が当たると、ジュワァと音を立てて盾がめちゃくちゃ熱くなった。一瞬でだ。


 幸い、俺は横へと回避行動をとっていたので直撃はしなかったものの、光りが収まった後に確認してみると、盾は見るも無残な姿になっていた。


 盾は超高温の物体が通った跡のように一直線に抉れており、これは溶けたと言うよりも蒸発したに近いかもしれない。


 持っているだけ熱く溶けた鉄が肌にこびり付いた。

 冷えて固まってしまうと取る時に皮膚ごと剥がれると思った俺は、盾をその場に放り捨てた。


「あぶねぇな。あんな凄技を持ってるなんて、やっぱり強いな」


 こんな状況なのに、何故だか笑ってしまう。


『気を付けろ。あれは竜砲。モンタイトの必殺技だ。威力が高い上に連発が可能。かなり厄介な技だ』


 連発可能とか強すぎだろ。

 これじゃあ近付く前に俺の体が蒸発しちゃうよ。


 けれど、俺の持つ武器は魔法とこの剣のみ。

 剣が当たる範囲までは近寄らないと攻撃できない。


 魔法も使って見るが……。


「ファイアーボール!」


 5つの火の玉がドラゴンの顔面に当たり爆発四散。

 見事、狙い通りのところへ撃てた。


「けど、効いてないよね」


 爆煙が晴れると、無傷のモンタイトが咆哮を上げ竜砲の発射体制に入った。

 口を大きく開け、エネルギーを貯めている。


 現段階での魔法は威力不足。

 まったく使えない子になってしまっているのだ。


 だからこそ、剣で勝負するしかない。

 そう分かっているからこそ、今の状況に悩んでいるわけで。


「腹くくるしかないよな」


『ソウマ……?』


 俺の呟きにゼキエーレが反応した。


 ソウマ呼びは定着ですかね?


 なんて思いつつ、ゼキエーレに何の説明もしないで行動に移る。


「ファイアーボール!!」


 まず、火魔法による牽制。

 大きく開いた口に火の玉を大量に流し込む。


 ボンボボンボボンッ


 火の玉は真っ直ぐモンタイトの口へと向かい爆発四散。

 モンタイトは堪らず口を閉じた。

 痛みで閉じたというよりも、溜めたエネルギーが散布するのを防いだように見えた。


 効果は、イマイチのようだ。

 再びモンタイトが口を開けるが、火傷は見えない。


 だが、予想通り。

 俺の行動に変更はない。


「ドーピングドーピングドーピングドーピングドーピングドーピング……」


 ドーピングを10回使うごとに1回ファイアーボールで牽制をする。

 これを3セット続けた。


 結果、目の前が真っ赤っかになった。

 フワフワとした気分になり、今なら何でもできそうだ。


 そんな気分のままモンタイトに向かって一歩踏み出す。

 すると、思っていたよりも遠くへ、言い方を変えれば一気にモンタイトへと近付いた。

 たった一歩で半分近くの距離を移動した。


 その代りの代償もあったがな。


「足いってぇぇぇ!」


 ドーピングの効果って痛みを和らげるとかじゃないのかよ!?

 メチャクソ足が、両足が千切れるくらい痛い。


 でもダメだ。

 モンタイトから目を離したら、またあの竜砲が来る。


「チクショォォォォ」


 予想外の事態ではあるが、今は耐えるしかない。


 俺は再びファイアーボールでドラゴンの竜砲を止める。

 まだ空中に居る俺だが、呪文は無事にモンタイトの口に当たってくれた。


 今ので25発の火の玉を使った。

 もうMPを半分近く使ってしまったようだ。

 だが、まだこれからだ。


 地面に足がつくと同時に強烈な痛みが襲い掛かる。

 やっと半分、されど半分。


 俺はもう一度前へと進みだそうとした。


 キュィィィィィィン


 しかし、モンタイトもただ指をくわえて見ているつもりはないらしい。


「は?」


 目の前には爆煙の中であんぐりと口をこちらに向けるモンタイト。

 さっきまでファイアーボールを口を閉じて避けていた奴は、俺を仕留めるためにエネルギーを溜め続けていたんだ。


 そして今、溜め終わった。


 ピカッとモンタイトの口が光ったかと思えば、目を潰すような閃光が飛んでくる。

 視界が真っ白になり、ソレが来る。


 死を感じたのはこれで何度目だ?

 やっぱり、怖いな……。


絶対の壁アブソリュート・ウォール


 ゼキエーレの掛け声と共に壁が現れた。

 色は虹色、なのに透明。眩い光はその壁に遮られ、吸収され、こちらへと来ようとしているが阻まれている。


『力を使ってしまった……残り少ない力を』


 俺が壁を見つめ呆然としていると、ゼキエーレが弱々しくそう言った。


『すまないソウマ……お前と共に戦う、ことはできな……い』


「おい、ゼキエーレ? どうしたんだよ」


『聞け……もう、力も残ってない。お前の中に留まる力だ』


 ゼキエーレの声はどんどん弱く、遠のいてく。

 俺にはそれが、ゼキエーレの死をイメージさせた。


『私は消えるが、お前は生きろ……ヤツに勝て。壁は直ぐに消える。お前なら、勝てる』


「待ってくれよ。まだ、まだ俺はこの世界を楽しめてないんだぞ!」


『お前の内に秘める力は強大だ……必ず勝てるさ。だから、頑張れよ』


 ――またな


 最後にそう付け加え、ゼキエーレの声は聞こえなくなった。


「おい、ゼキエーレ? 聞こえてるか? 嘘だろ、冗談だよな?!」


 何度呼びかけてもゼキエーレの声は聞こえない。

 胸に手を当て意識を向けても、そこには誰もない。誰も。


 ゼキエーレは、消えた。俺を助けて消えた。


 目から何かが垂れる。

 触れてみると、それは真っ赤な液体、血だった。

 俺は左目から血の涙を流していた。


「なんだ、視界が赤くなると思ったらこういう事かよ」


 ドーピングを使えば体に負荷がかかる。

 実際のドーピングでもやり過ぎは体に毒だって聞いたし、それはスキルでも同じことだった。


 なんて、謎が解けて嬉しいなんて気持ちはさらさらなくて。

 こんな時に限って何で、という怒りしか沸いてこない。


 自分への怒り、なんて言ったら漫画の世界だけだ。

 確かに自分にも怒りは沸いて来るし、原因を作ったのは俺だという事も分かっている。


 けれど、結果としてこういう風にゼキエーレが消えてしまったのはアイツが居たからだ。

 この世にあの、モンタイト=イゾアとか言うドラゴンが存在したのがそもそもの原因なんだ。


 ならば、その原因を消し去ろう。

 ゼキエーレを死に追いやった害悪を滅ぼし去ってしまおう。


「ブチ殺してやるよ、トカゲ野郎」


 視界が、黒く染まる。



 ◆



「おや……おやおや?」


「どうかしましたか、隊長」


「見たまえ、アレを」


「……な、なんですかあの壁は!? いや、それよりもあ、あれは、邪気!」


 隊長と呼ばれる男、それに付き従う女。

 男は歓喜の表情を、女は驚愕の表情をそれぞれ浮かべていた。


 青年が身に纏う黒いオーラを見つめながら。


「邪気を使えるなんて、まさか魔族……?」


「いんや違うね。魔族ではない。むしろ、正反対の存在のはずさ」


 男は相も変わらずニヤケ面のまま話している。

 そんな男に女は問いかけた。


「魔族でもない者が邪気を扱えるわけありませんよ」


「君は根まで学者だねぇ」


「学者ではありません、魔女です。じゃなくて、青年の正体は一体なんですか?」


「彼は我々人間と近しい存在であり、魔族とは正反対の……いや、ここまでにしておこう」


 真実は、この戦いを見届けてからでも遅くはない。


 だろ? ソウマ君。

暗躍する影ってのは、どこにでもいるものですよね。

ちなみに今回は「三人称」→「一人称」→「三人称」でしたが、おわかりいただけただろうか。

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