第14話 大地の竜③
モグラ編、まだ続きます。
「行きたくねぇなぁ」
帰宅後、俺は1人でうな垂れていた。
『断ればいいじゃないか。どうして悩んでいる』
「そんな簡単に言うなよ〜。俺だって色々と思うところがあるだから」
ガフからの依頼、緊急クエストであるドラゴン討伐に参加せよ。
受けたくない気持ちが強いのだが、俺は考えさせてくれた言って逃げ帰ってきた。
ゼキエーレの言う、断ればいい。
俺もそう思うよ、断れればね。
悩んでいるのは俺自身の気持ちを除いた部分にある。
『何を思い悩んでるんだ。言ってみろ』
「……ドラゴンは既に1つの町を襲っている。次はこの町かもしれない。だから、この町に近づく前に倒すべき、と思うんだ」
『そうだな。事前に撃破するのは、大切だな』
だが、とゼキエーレは続けた。
『そこにお前の意思はあるのか?お前のしたい事なのか?』
「それは……」
『私は言った。お前に人生を楽しんでほしいと。お前がやりたくない事を強要されたり、しようとしたら私は反対する。でも、やりたい事なら、やればいい。その時は、私も応援する』
「って、言われてもなぁ。そういうわけにもいかない事ってあるだろ? やりたくないからやらない、それじゃあ何も解決しないじゃないか」
『確かに、そんな都合の良い話はない。やりたくない事もやらねばならない。それなら、いっそのことやりたいと思える理由を探してみろ。私はそうやって乗り切ってきた』
じっくり考えろよ、と言ってゼキエーレは静かになった。
俺はゼキエーレの言葉通り、ドラゴンに立ち向かうための理由を探してみた。
戦わないと、この町が危ない。
戦わないと、みんなが危ない。
戦わないと、自分が危ない。
しかし、思いつくのは戦わないと、戦わないとという、使命感だけ。
もはやそれには、強迫観念に近いものがあった。
けれど、それは「やりたい」からやるのではなく「やらねばならない」からやる理由だ。
俺の探している「やりたい」には程遠く、正反対の意味を持つ言葉だな。
この状態だと、俺は何がしたいのか分からなくなりそうだ。
ドラゴンに立ち向かうには、しっかりとした理由がないと……。
理由を探すのは難しい。
使命感に囚われない、かつ、やりたくないことをやる、という条件を満たす。
その上で、自分がやりたいという気持ちを湧き立たせるような、そんな理由を見つけるのだ。
難しいに決まってる。
そんな混乱状態で思い悩んでいると、玄関の方から物音がした。
音に次いで、美少女が2人顔を覗かせた。
「あ、帰ってたんですね。お帰りなさいませ」
「うぅ、お帰り、です」
両手いっぱいに買い物袋を抱えたエリナとクレアだ。
エリナは日用品を、クレアは食材をそれぞれ持っていた。
クレアの顔を見るにとても重そうだ。
量はエリナの方が多いように見えるが、涼しい顔をしている。
俺がギルドに行っている間、買い物に出かけてくれたのだろう。
言い出したのはエリナだろうなぁ。
「ただいま、そして、お帰り。重いだろう。持とうか?」
「いえ、台所に置くだけなので問題ありません」
「持ってくれるですか?お言葉に甘え…「問題ありません!」…です」
かなり強引に言わせたな。
クレアがしょんぼりしてしまっているぞ。
でも、俺にはどうする事もできない。
だがらそんな捨てられた子犬のような顔をするな。
助けてあげられないんだから!
エリナがクレアを引っ張り台所まで行くと、袋に入っていた食材を並べ始めた。
見たことない食べ物も多く、どんな味がするのか想像もできない物もある。
ちょっと怖いが、エリナなら何でも美味しく料理してくれるだろう。
「どうかしましたか」
「……え?」
エリナが突然そんなことを言ってきた。
俺は驚き、エリナの目を見返す。
真剣な眼差し、なのに、とても暖かい微笑みが俺に向けられていた。
「何かお悩みなのでしょう?」
「い、いや?そんなことは、ないぞ」
焦って声が裏返る。
「嘘ですね。何を悩んでるんですか?」
「なにも悩んでない。なにも」
変な朝は出るし、口が回らない。
恋人な浮気がバレたわけでもないし、もっとがんばれよ俺。
「そうですか?私にはとてもそうは見えませんが」
「ソウマ様、どうかしましたですか?」
エリナと俺の会話を聞き、クレアまでもが俺の心配をしてくる。
2人とも、エリナはそうでもないが、顔が暗い。
悲しそうな顔をしているように見えてしまう。
いや、俺のほうがもっと酷い顔をしていそうだ。
見ているだけで心配になってしまうような、暗く悲しい顔を。
ふぅ、と大きく息を吐き出した。
そして、改めて2人と向き合う。
「2人とも、聞いてくれるか?」
自分で分からないなら、人に聞けばいい。
俺は2人にギルドでの話を全て話した。
洗いざらい、ギルドで聞いたこと、言われたこと、感じたこと全て。
話をしている間、2人は真剣に俺の顔を見て聞いていてくれた。
「ソウマ様は、どうしたいんですか?」
話が終わると、エリナが聞いて来た。
どうしたいのか、そんなものは決まっている。
「戦いたい。ドラゴンを倒したい、かな」
その言葉を聞いたエリナは微笑むと、優しく言った。
「だったら、やればいいんです。やりたいことを、やりたいだけ。ソウマ様はお強いですから、それでいいですよ」
続けてクレアが言う。
「難しいことは分からないです。でも、嫌なことやるより、好きなことやる。これが一番です!」
かなり天然の入った回答だと笑ってしまったが、俺には到底言えない答えだと思った。
エリナの答えも同様で、単純明快過ぎて逆に難しいことだ。
けど、いいな。
ああいう、ハッキリとものが言えるってのは羨ましいことだ。
今まで会社での発言がまったくできず、何もしゃべらなくても仕事ができていた環境だったからかもしれない。
この、他人に答えを求めてしまう性格になってしまったのは。
「そっか……そうだよな」
やりたい、だって十分な理由だ。
他に捻くれた理由なんていらない。
ただ、やりたいと思えればそれでいい。
理由は、得た。
「2人ともありがとう」
俺はそう言い残し、家を出た。
「行ってらっしゃいませ」「行ってらっしゃいです」
美少女2人に見送られながら。
◆
場所はギルド。
そこで1人のギルド職員が叫ぶ。
「え? ドラゴン討伐に行くんですか!?」
その叫び声はギルド中に響き渡り、一瞬の静寂を作り出した。
叫んだ本人は顔を赤くしながら即座に謝り、俺の胸ぐらを掴んで引き寄せる。
そのまま耳元で囁き始めた。
「ほ、本当に行かれるんですか? あれはギルドマスターの無茶振りというか、冗談のようなものですよ? 強制でもなんでもないんですから……」
「分かっている。そんな心配をするな、アメリ」
叫んだ犯人がアメリだと言うのは察せたと思うので置いておく。
あんなに驚くとは思わなかった、とだけ言っておこう。
アメリの話し方から言外に、行かないで、と言われているような気がした。
勘違いかもしれないが、雰囲気としてはそんな感じだ。
「相手はドラゴンですよ? 並みの武器じゃ攻撃は通らないですし」
「武器ならもう買ってある」
「……一体何を?」
俺は懐から取り出すように見せかけつつ、剣を抜いた。
「これだ」
「それって……竜殺しの剣!?」
「え、これってそんな恥ずかしい名前なの?」
俺が取り出した剣を見たアメリが驚きの声を上げ、恥かしい名前を叫んだ。
周りにいた他の冒険者や職員は気にも留めていない。慣れたんだな。
「どこでそんな業物を!?」
「業物なのか? これ、露店で売ってたんだけど」
「露店!!?」
「あぁ、30万テルで」
「た、たったの30万テルですってぇぇぇ!?」
ビックリするほどのオーバーリアクションを頂いた俺だったが、奥からやってきたガフに、
「うるせぇんだよ馬鹿野郎が!!」
と怒鳴られてしまった。
解せぬ。
「こほん。準備が整っているのは分かりました。ですが、ソウマさんのランクはC、緊急クエストの受注条件はBです。たとえ受けれたとしても、戦えるかどうかなんて分かりませんよ?」
「……ん? 何か勘違いしてないか?」
「勘違い、ですか?」
俺はアメリとの会話中、俺の思ってもいない方向に話が進むのを感じた。
具体的に言えば、緊急クエストの件だ。
「俺は別にガフの言う通りに動くわけじゃないぞ」
ここに来た理由が依頼を受けるため、なんて事は一切ない。
アメリも言っていたが、普通にランクが足りないからな。
ガフからの推薦があれば受けることも可能だろうし、それがガフの依頼内容と重なるのも分かっている。
それを踏まえた上で、俺は依頼は受けない。
「なら、どうしてこちらへ? それに、ドラゴン討伐に行くという話は?」
「ここへ来たのはガフに依頼を受けない旨を伝えるため。そして、ドラゴン討伐に行く話は本当だ」
俺がここまで説明したのだが、アメリは分かってなさそうだな。
美人のアホ面とは……これはこれで可愛くて良いものだな。
頭でそんなことを考えながら、俺は説明を付け加えた。
「俺は、1人でドラゴンに挑む」
この言葉で再びアメリの絶叫を聞いた。
そのせいでガフが2度目の登場をしたが、ついでに依頼を断る話が出来たので良かったかな?
最強要素がなさ過ぎて辛い。
ただ、タイトル通り何の変哲もない異世界だから問題はない(錯乱)
あと、まだ10万行ってない(絶望)




