第10話 侍女はいりませんか?
侍女、ほしい(切実)
目が覚めたら、血まみれの自分とそんな自分を心配そうに覗く女の子の顔が二つあった。
片方は頭の上に獣の耳?がついていて、もう片方は普通の人間だ。
どちらも美少女と言っても過言ではないくらい可愛い。
これはヤバイ、お人形さんかな?
「……えっと?」
「あ、起きました」
「はぅ、良かったです……死んじゃったかと思ったです」
冷静な方がケモ耳の美少女で、「はぅ」と言った方が普通の美少女。
声まで可愛らしいぜ。抱きしめたい。抱きしめて眠りたい。
だが、ここでそれをやってしまったら色々と壊れてしまう気がする。
具体的に言えば、世間体という壊してはイケナイものを。
理性で脳を締め付け、なんとか欲求に打ち勝ち立ち上がる。
赤く染め切った体を確認し、心の中で思いっ切りため息をつく。
考えて攻撃をすればいいものを、調子に乗ったばっかりにこんな有様になってしまった。
次は気を付けよう。
「そう言えば、明るいな。これは?」
「私が照らしてるです。狐火、です」
巣穴は暗かったはず。なのに俺は体の赤さを確認できた。
この明るさの正体を聞くと、普通の美少女の方が手を上げた。
控えめに、顔を赤らめ、恥ずかしそうに。
ごちそうさまです。
普通の美少女いわく、空中に浮いている青白く光り揺らめいている火の玉を作りだし、それで暗いこの場所を照らしてくれているのだとか。
名前が狐火か。もしかしてこの娘は、妖怪か何かですかね。
というか、普通の美少女という呼び方に違和感しか感じない。
名前を聞こう、そうしよう。
呼びずらいからであって、名を聞くのに他意はない。決して、ない。
名前を思い切って、邪な考えはないのだが、聞いてみるとケモ耳の美少女が我先にと名乗った。
その次に、やられたという顔をしながら慌てて自己紹介をもう片方がした。
なんだ、君たちの故郷には先に名乗った者勝ち的な風習があるのか?
「私はエリナです。気軽にエリナとお呼び下さい。敬称は不必要ですので」
「わ、わたしは、クレr……クレアです。クレアと呼んでくださいです。その、わたし、あんまりこの国の言葉得意じゃなくて。失礼あるかもですが、よろしくです」
ケモ耳がエレナで、普通の娘がクレアか。
クレアの方は偽名っぽいが、触れないでおこう。
俺は紳士だからな!
変態紳士とか思った奴……正解だ。
「エレナにクレアか。俺はソウマだ。よろしく。それで、他の人たちは?」
「他の方々は帰られました。近くの村から捕まったようなので、自分たちだけで大丈夫だと」
「それと、お礼を言っておいて下さい、と言われたです」
お礼を人に頼むのか。直接言わないのは、感謝をあまりされていないからか?
『家族やそれに近しい人へ、自分の無事を早く知らせたかったんだろう。そうやって悲観的に考えるな』
そっか。そうだよね。
助けたのが無意味ではなかったはずだ。
それに、感謝されるために助けたわけじゃない。
気分が晴れたところで、次は何をすべきか。
身の安全の確認ができ……あれ!?
「な、なんでホブゴブリンが壁に刺さって死んでるんだ!?」
俺はあんなことした覚えはない。
まさか、あの突然吹き始めた風な原因か?
「私たちにも分かりません。先ほどまで気絶していましたので……」
エリナが申し訳なさそうに答えた。
ケモ耳を伏せるその姿は、まさに犬が落ち込む姿だった。
ケモナーじゃない俺でも可愛いと思ってしまう。
あぁ、いつまでも見ていたい。この顔。
『フォローをしろ。何をボーっと顔を眺めている』
おっと、そうだった。
「いや、気にするな。俺だって気絶してたんだ。だからそう落ち込むなって。可愛い顔が台無し……ってこともないけど、落ち込む必要はないぞ」
ゼキエーレに言われ、俺は咄嗟にフォローをするためにアレコレと言った。いや、フォローしたつもりだった。
実際のところは変なことしか言っていない。
可愛い顔が台無しとか、どこのキザ野郎だ寒気がする。
俺はそんなキャラじゃないはずだったのだが、焦りが出てしまったか。
戒め。
俺が1人で反省している中、エリナの様子が少しおかしい。
伏せていた耳がピンッと立ち上がっているのだが、今度は顔を伏せてしまっている。
しかも、その状態でピクピクと震えているようだ。
一瞬、泣いてしまったのかと思ったが地面は濡れていないので違う。
何事かと思いクレアの方を見ると、こっちはこっちでおかしかった。
頬を膨らませ、非難するような目で俺を見てきている。
俺と目が合うと、すぐに視線を逸らし明後日の方向を向いてしまった。
どうやら怒っているようだ。
俺が何をしたっていうんだ。
可愛いとか気安く言ったのが悪かったのだろうか。
やはりその辺、女の子だから敏感なのかもしれない。
おっと、女の子に敏感とか言っちゃいけないんだっけ。
あぁ、もう分からない。
俺の何が悪かったの言うんだぁ!
「……可愛い?」
「え?」
エリナがぽつりとそう口から溢すように呟いた。
本当に小さい声だったが、俺は聞き逃さない。
「いえ、何でもありましぇ……ありません」
「そ、そうか。うん、大丈夫だなら問題はないんだ」
すまない、エリナ。
君の耳が真っ赤になっていることに気付いていながら、知らないフリをしている俺を許してくれ。
そして、さっき噛んだ時に冷静な口調とのギャップを感じ、可愛いと心の奥底から思ってしまった俺を許してくれ。
それよりも、クレアの様子がより気になる。
何故かって、明後日の方向を向いていたクレアがさらに頬を膨らまして恨めしそうに俺を見てるのだ。
最初がハリセンボンだとしたら、今はもう破裂寸前の風船だ。
俺にはどうすることもできないので、取り敢えず話を続けた。
「他の人達は帰ったって聞いたけど、じゃあ君たちはどうしてここに残っているのだ?」
「それは……私たちが、この近くに住んでいないからです」
「と言うと?」
「私たちは、盗賊に捕まって、そこからゴブリンに捕まったのです。だから、帰るにしても、距離があるです」
え、じゃあこの娘たちには今の所帰る術がない。
それはつまり帰る場所がない。
お持ち帰りができる。
Q.E.D
なんて、冗談言っている場合じゃない。
この娘たちには帰る場所がないんだ。正確には帰りたくても帰れないわけだが。
そんな状態の娘たちに邪な考えで手を出しては、俺の紳士としての信条に反する。
というか、それ以前に人として最低な気がする。
でも、宿屋にすら泊まっていない俺にエリナとクレアを養えるほどの経済力は……
『それなら、家でも買えばいいだろう。生活費は異空間倉庫に入れてあると言っただろ』
家って……そんな簡単に買えるものなのか?
『なら借りると言う手もある。ま、何にせよ見捨てるなんて絶対しないだろうな。お前は』
もちろんさ。
ここで置いて帰ってら、気になって朝の目覚めが悪くなるからね。
結論をゼキエーレの助けを借りながら出したところで、さっそく2人に提案してみた。
言ってから気付いたのだが、初めて会った男に「俺の家来る?」とか言われたら女の子はどう思うのだろう。
そうだね、気持ち悪がられるよね。
「もし行く当てないなら俺と一緒に来……る……?」
しかし予想と大分違い、エリナは冷静を装っているが耳が元気で、クレアに至っては今さっきまでのお怒りが嘘のように目を輝かせている。
寂しかったのか、未来が明るくなったのか、2人とも明らかに元気になった。
「良いんですか? ご迷惑では……」
「あの、あの、私が居てもお邪魔じゃないですか!? 大丈夫ですか!?」
「もちろん大丈夫だけど、本当に俺みたいな男と一緒でいいの? 怪しくない、俺」
念のために確認を取った。
が、俺の心配は杞憂だったようだ。
「「行きたいです!」」
「お、おぉ。そうか」
「私たちからすれば、願ったりかなったりなんですよ」
「そうです。まさかソウマ様から言ってくれるなんて、私感激です」
初めて名前を呼ばれたけど、様ってなんだ?
「エリナさん」
「えぇ、クレア」
顔を合わせ、アイコンタクトで何か納得しあった2人は再び俺に視線を戻した。
そして、小さく「せーのっ」と言ってから2人はこう言ったのだ。
「「侍女はいりませんか?」」
満面の笑みで、ニコッという擬音が空耳で聞こえるくらいの笑顔だ。
表情に乏しく会話中ですら口が少し動くくらいだったエリナも、喜怒哀楽による表情の変化が激しかったクレアと同じように笑った。
2人の笑顔を見た瞬間、疲れが吹っ飛び一瞬だけだが音が聞こえなくなった。
エリナとクレアしか見えない。それ以外の情報が脳に入ってこないのだ。
しばらく放心状態だった俺だが、答えはもちろん決まっているよな?
目指せ10万文字(全然足りない)
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