期待の新人さん
早速放課後に俺と深山でその元日本代表の怪物のやらを勧誘しに行くことにした。が、そいつの情報が何もないと怖いので深山にいろいろ聞いてみた。
「その怪物は一体何モンなんだ?」
「彼は清水海武[シミズウミタケ]って名前なんですよ、それで名前を音読みしたらカイブツみたいだからってことでみんなカイブツって呼んでるんです」
「そんなこと聞いてるんじゃねーわ!」
「だったらなんです?」
「そのカイブツくんとやらはどんな選手なんだと聞きたかった」
「あーなるほど、正直言ってよくわかりません」
「おい、それじゃ困るぜ」
「そう言われても彼が代表だったのはU12の世界大会の時ですから、その時はピッチャーでしたが、今はどうなってるか…」
「じゃあ今そいつは何をやっているんだ?」
「バスケです」
「ふぇ?」
驚きすぎて変な声を出してしまった。
「あいつは代表の試合から帰ってきたら野球なんて辞めるって言ってそのまま中学からはバスケをやってます」
「でもいくら小学生の時に凄かったからって今使えるかは分からないだろ。そんなんだったらまだチームを離れた佐竹たちを説得したほうがいい」
「いえ、この前バッティングセンターのストラックアウトであいつが投げてたのを見たんです。球速表示が145キロ超えてました。しかも的に全部当てて」
すごい才能だ。ずっと野球から離れていたはずなのにそれだけ速いスピードボールを投げ込めるのは貴重だろう。でも今まで野球から離れてバスケをしていたのはただならぬ理由があるからじゃないのか?これは勧誘も大変そうだな…
すると廊下の向こうからいかにもバスケやってますという格好をした男が来た。
「うみたけくん久しぶりだね」
「みや、話ってのはなんだ?」
「また一緒に野球やらない?野球部の人数が足りなくってさ」
そんなに軽く誘っても乗ってこないんじゃ…
「ああ、いいよ」
「オッケー、じゃあ練習に行こう」
なんでこんなに軽いんだ!おかしいだろ!
「俺はキャプテンの横山だ。君がカイブツ君かい?」
「そうですけど、カイブツって言われるの嫌なんでやめてもらえますか?」
けっこうな剣幕で怒られてしまった。
「ああ、悪い。この後の予定が空いていたらちょっと球を見せて欲しいんだけど」
「いいですよ」
「早速だけど投げてみてくれないか?」
グラウンドについた俺たちは海武のボールを受けることにした。
「じゃあ軽くキャッチボールからで」
10球程度投げたところで俺は腰を下ろした。
「よし、こい!」
海武は腕を振りかぶり、投げた。
「あれ?」
気がついたらボールは自分の後ろに転がっていた。
しっかりボールを見て取ったはずなのに…
「やっぱりダメじゃないか」
明らかに落胆した声で海武は深山に言った。
「まだ1球目だろ!分かんないじゃん!」
「いや、この人じゃ無理だよ」
そう言って海武は帰ろうとする。
「待ってくれ!もう一度投げてくれないか」
「僕は無駄な時間を過ごしたくないんです。勉強もしなきゃいけないんで、じゃあ」
そう言って帰ってしまった。