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エピローグ3


 全てを奪われた。


 家族や友人だけでなく、私と一緒に戦ってくれた同志たちも”あいつら”に殺された。私に戦い方を教えてくれた父は”勇者”の策略によって火炙りにされ、私たちを育ててくれた優しい母親は、”勇者”によって惨殺されてしまった。


 父が好きだったウォッカの瓶と、母がよく飲んでいた紅茶が入った水筒を2人の墓標の前に置き、目を瞑る。この墓標の下には母親の棺があって、母親の遺体と一緒に父の遺品が埋葬されている。辛うじて母の遺体は回収できたけれど、火炙りで処刑された父の遺灰は回収できなかったのである。


 その墓標の隣には、2つの墓標があった。


 私の姉である『サクヤ・ハヤカワ』と、弟の『トモヤ・ハヤカワ』の墓標だ。サクヤ姉さんは攻撃を仕掛けてきた転生者たちによって殺されてしまった。トモヤはまだ2歳だったのに、攻撃を仕掛けてきた”勇者”たちによって無慈悲に惨殺されている。


 ズタズタになった私を踏みつけながら、泣き叫んでいるトモヤの小さな身体を何度も蹴飛ばしていた勇者の事を思い出しながら、私は右手を握り締めつつ、転生者たちによって奪われた左目を覆っている黒い眼帯に触れる。


 あの男は、全てを奪った。


 私がハヤカワ家の最後の生き残りなのだ。


「待っていろ、みんな」


 必ず、勇者の首を討ち取る。


 家族の墓標を見渡してから、私は踵を返す。


 私の後ろには、黒いテンプル騎士団の制服に身を包んだ兵士たちが整列している。兵士たちの種族はバラバラであり、小柄なドワーフの隣には、屈強な肉体を持つオークの兵士がボルトアクションライフルを背負って立っている。体格差があり過ぎるせいなのか、ちゃんと整列しているにもかかわらず統一感がない。


 中には、初代団長であるタクヤ・ハヤカワのホムンクルスの兵士も混ざっていた。


 異次元空間から復活した勇者たちの奇襲により、世界中のテンプル騎士団は壊滅している。既に本部であるタンプル搭も陥落しており、同盟関係だった殲虎公司ジェンフーコンスー白き花(ラ・ブランフルール)も全滅している。


 そう、ここにいる少数の兵士が、今のテンプル騎士団の”主力部隊”であった。本部や主力部隊を壊滅させられた私たちは、残存部隊や生存者を回収しながら、勇者たちに抵抗を続けている。


 四面楚歌としか言いようがない。


 繁栄していたテンプル騎士団が復活した勇者の攻撃によって壊滅状態となり、人々のために作り上げようとしていた揺り籠(クレイドル)が消え去ってしまったのだから、きっとご先祖様たちは絶望している事だろう。


 復讐しなければならない。


 我々から全てを奪ったクソ野郎共に。


 ハヤカワ家を勇者に売った王室に。


 キメラたちを虐げた勇者に。


 だから、我々はこれからクソ野郎共を焼き尽くす。


 復讐で取り戻すことはできないが、同じように大切なものを失う苦しみを、あいつらに味わわせてやることはできるのだから。


「同志セシリア、出撃準備完了です」


 腰に下げている日本刀の柄に手を近づけると、端に整列していた吸血鬼の巨漢が私に向かって敬礼する。


 彼はテンプル騎士団創設時からずっとテンプル騎士団に所属しているウラル・ブリスカヴィカ。かつて”スペツナズ”と呼ばれるテンプル騎士団の特殊部隊を指揮していた、吸血鬼の猛者である。彼は私に戦い方を教えてくれた教官でもあるのだ。


 彼を見つめながら首を縦に振り、兵士たちを見渡す。


「これより我々は、”ヴァルツ帝国”が保有する強制収容所を襲撃する」


 正直に言うと、不安だった。


 私は既に何度も実戦を経験しているし、ウラル教官はテンプル騎士団が創設される前から、ムジャヒディンと呼ばれるレジスタンスの指揮官としてフランセン共和国―――――今ではとっくに崩壊している―――――の騎士たちと死闘を繰り広げたベテランの兵士である。しかし、他の兵士たちは訓練を終えたばかりのホムンクルスや新兵ばかりである。


 それに、この世界の技術で製造される兵器も強力になっており、転生者の能力で生産できる兵器との性能差は等しくなりつつある。武器の性能が等しい以上は、兵士の錬度で勝負しなければならない。


 唇を噛み締めてから、日本刀を鞘から引き抜く。


 漆黒の切っ先を、鉄条網で囲まれた巨大なコンクリートの壁へと向け、私は叫んだ。


「――――――テンプル騎士団、出撃!」











「殺してくれよ、化け物」


 鉄格子の向こうにいる黒髪の少女に、そう言った。


 もう殺してほしかった。何もしていないというのに、冤罪を与えられた挙句、全てを奪われてしまったのだから。


 鉄格子の向こうで、帰り血まみれの刀を手にしている黒髪の少女の頭からは、2本のダガーのような形状の紫色の角が伸びている。根元は黒くなっているけれど、先端部に行くにつれて半透明になっており、先端部の内部では紫色の光が点滅している。


 軍服のような黒い服の後ろからは、黒い鱗で覆われたドラゴンのような尻尾が伸びていた。


 普通の人間どころか、この世界にいるエルフやオークたちに角と尻尾は無い。


 この少女は化け物だ。


 すると、鉄格子の向こうにいるセシリアは首を横に振った。


 殺さないというのか。


「――――――嘘をつくな、転生者」


 そう言うと、セシリアは血まみれの日本刀を鞘の中に戻した。


 彼女はなぜ俺が転生者だという事を知っているのだろうか。転生者とは言っても、既にあの便利な端末は没収されているから常人とは変わらないけどな。


「本当に死を望んでいるのか?」


 ああ、そうだ。


 もう全てを失ってしまった。転生者に与えられるあの不思議な端末も没収されてしまったから、帝国軍の連中に逆らうこともできない。


 そう言いながら、自分の両足と右手を見つめる。


 両足と右腕は、既に切り落とされていた。帝国軍の連中に逆らおうとした罪で、天城のクソ野郎に切り落とされたのである。コンクリート製の天井からは、錆び付いた鎖が伸びている。その鎖は俺の左手の手首に巻き付いてから再び天井へと伸びており、両足と右腕を失った俺をまるでサンドバッグのように吊るしていた。


 全てを失った挙句、こんな無様な姿にされてしまったのだ。死を望んでいるに決まっているだろう?


「本当は”復讐”したいのではないか?」


 ――――――復讐。


 大切なものを奪った連中への報復。


 復讐という言葉を聞いた途端、”彼女”が殺された瞬間の光景がフラッシュバックした。たった数十cmの壁の壁の向こうにいるにもかかわらず、助ける事ができなかった最後の家族。


 死ねば、復讐できない。


 彼女を苦しめたクソ野郎共をぶち殺す事ができない。


 心の中で、復讐心が肥大化していく。封じ込めていた鉄格子すら突き破った復讐心が、唯一の家族を奪われた絶望を呑み込んだ。


 ――――――殺したい。


 あいつらを殺したい。


 唯一の家族を殺した”勇者”を殺したい。


 死にたくない。


 せめて、復讐を果たしたい。


「――――――復讐がしたい」


 そう告げると、腕を組みながらこっちを見つめていたセシリアはニヤリと笑った。


「ならば私と来い、転生者。一緒にクソ野郎共を殺そう」


 お前について行けば、あいつらを殺せるのか?


 ならば、連れて行ってくれ。


 唯一の家族(最愛の妹)を殺した連中を、1人残らず根絶やしにしたいんだ。


 そう思いながら首を縦に振ると――――――セシリアは嬉しそうに言った。


「――――――――じゃあ、復讐に行こう」








 全てを失った魔王は―――――――悪魔を拾った。






 



 


 


 『異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる』 完


 第三部『異世界で復讐者が現代兵器を使うとこうなる』へ続く




 読者の皆様方、ここまで読んで下さり本当にありがとうございます。第一部で書きたかったことも詰め込んだのでかなり長くなってしまいましたが、タクヤたちの戦いはいかがだったでしょうか。


 前作はリキヤがラスボスと相討ちになり、ガルゴニスがリキヤのふりをして家族の元へと戻るというバッドエンドでしたが、今回はちゃんとタクヤは生還し、ヒロインたちと結婚して子供を育てる事ができました。そして成長した子供たちがタクヤたちからテンプル騎士団の軍事力や転生者の能力を受け継いでいくというハッピーエンドなのですが―――――――エピローグでとんでもないバッドエンドとなってしまいました。ハッピーエンドが好きな方は本当に申し訳ございません、今回もバッドエンドでございます。


 この『こうなるシリーズ』は三部作となっております。なので、近日中に投稿予定の第三部『異世界で復讐者が現代兵器を使うとこうなる』が、こうなるシリーズの完結編となります。復活した勇者によって家族や仲間を殺されたヒロインのセシリアと、唯一の家族である妹を殺された主人公の復讐劇です。なので、次回作は戦闘シーンやグロシーンが多くなります。もしよろしければ、完結編もよろしくお願いいたします。


 では、本当にありがとうございました!


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 半年くらいかけて読み終えました。 最後の最後で……。 セシリアは最初からハードモードですね。 執筆お疲れ様でした^_^
2024/03/28 09:05 退会済み
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