ラウラに新しい装備を渡すとこうなる
今回は武器の説明の話になってしまいました………。
巨木が乱立する森の中は、草原と違って様々な植物の香りがする。この異世界に転生してから初めて目にした特異な植物ばかりの森の中の香りは、今まで嗅いだことのないような奇妙な香りに包まれている筈だった。
だが、今はその奇妙な香りを、炙られた肉と脂の臭いが台無しにしている。
まるで美術品が陳列する美術館の中に、オイルまみれの鉄の塊を放置するようなものだろうか。こんな例え方をすると森に対しての冒涜のように思ってしまうが、これと同じことをした冒険者は数多いのではないだろうか。
「ふにゅう………私、ゴーレムのお肉って食べたことないよ?」
「何言ってるのよ。ここからラトーニウスに入国するまで管理局の施設とか宿屋はないのよ?」
ネイリンゲンがまだ街だった頃は、あまり一般人は口にすることのない魔物の肉を炙って口にする羽目にはならなかったことだろう。だが、今はネイリンゲンがダンジョンと化し、クガルプール要塞までの間に街や管理局の施設は用意されていないため、結果的にこの地帯で野宿を何度か繰り返す事になるだろう。野宿をすることになれば、当然ながら食事は手持ちの非常食や調達した食材になる。
野宿を終えてから食料を補充できる保証があれば、わざわざ非常食を節約するために魔物の肉を調理して口にする必要はないのだ。だが、これから俺たちが向かうのはオルトバルカ王国と関係が悪化しつつあるラトーニウス王国。もしかしたら、ショップや管理局の施設で非常食を販売してもらえない可能性もある。
そのため、俺たちは可能な限り非常食を節約する事にしていた。
「安心せい。ゴーレムの肉は不味いわけではないぞ」
焚火の上で炙られるゴーレムの肉を見ながらガルちゃんはそう言ったけど、彼女が過去に食ったゴーレムの肉があまり美味かったわけでもなかったのか、彼女が浮かべているのは笑顔というよりは苦笑だった。
先ほど木で作った即席の串に貫かれ、焚火の上で炙られる肉たちは、先ほどナタリアが草原で仕留めたゴーレムの肉である。頭は木端微塵にされていたため、それ以外の部位から外殻と肉を取り、内臓もいくつかメスで摘出している。もちろん、そのままポーチに入れておくわけにはいかないので、ラウラの氷で凍らせてから布にくるんで入れてある。
基本的にゴーレムの肉は、スラムでも販売されることはない。ゴーレム自体を撃破するのも危険だからという理由もあるが、そもそもゴーレムの肉はそれほど美味しくはないのだ。だからゴーレムの肉需要は無いに等しく、口にするのは俺たちのような状況の冒険者くらいだろう。
見た目は普通の肉みたいだが――――――硬くてなかなか噛み千切れないし、仮に噛み千切って咀嚼したとしても段々と肉がざらざらし始めるという。親父は若い頃に口にしたことがあるらしいが、あまり食べたい肉ではないと言っていた。
出来るならハーピーの肉を食いたいところだけど、この森にはハーピーが生息していないのか、先ほどから空を飛んでいるのは美しい鳴き声を響かせる小鳥たちだけである。親父たちから受けた訓練でサバイバルも経験したことがあるが、不味いとはいえ肉があるのならばわざわざ調達しに行く必要はないだろう。
徐々に生々しい赤色から灰色に変色しつつある肉をちらりと見て、もうそろそろ食べごろだろうと察した俺は、顔をしかめながらメニュー画面を開いた。
せめてゴーレムの肉を口にする前に好きな銃でも眺めて誤魔化そうとした俺は、アンチマテリアルライフルの項目を目にした瞬間にラウラとの約束を思い出した。
先ほど彼女に新しいアンチマテリアルライフルが欲しいと言われていたのだ。
彼女が今使っているのは、ハンガリー製アンチマテリアルライフルのゲパードM1。12.7mm弾を使用するボルトアクション式のライフルで、マガジンが存在しないため弾丸を発射したら再装填しなければならない。その代わり破壊力と命中精度は極めて優れている逸品なんだが、どうやらラウラは連発できるタイプの銃が欲しいらしい。
でも、連発できる銃が欲しいとはいえ、彼女はおそらくセミオートマチック式の銃は好まないだろう。
セミオートマチック式は、ボルトアクション式のライフルのように1発放った後にボルトハンドルを引く必要はない。そのため、連射速度で勝るのはセミオートマチック式となる。だが、連射速度が速い代わりに命中精度ではボルトアクション式に劣るため、遠距離からの狙撃を好むラウラはボルトアクション式のライフルを愛用している。
連射速度の速いセミオートマチック式のライフルが主流なのは、中距離射撃を行うマークスマンライフルだろう。カノンが持っているSL-9も、元々は7.62mm弾を使用するマークスマンライフルである。
だからラウラのためのライフルを作るという時点で、候補はボルトアクション式のみだ。
アンチマテリアルライフルの項目をタッチし、まだポイントが9000ポイント残っていることを確認した俺は、ついでにサイドアームも新しい銃を作ってあげようと思いながらライフルを選び始める。
何を作ろうかな。ラウラは遠距離狙撃をするから、命中精度が良くて射程距離も長いライフルがベストだと思うんだが………。
「―――――――お」
アンチマテリアルライフルの名称の羅列を見つめていた俺は、あるライフルの名前を見つけた瞬間、タッチしていた指を止めてからそのライフルをタッチする。
――――――良い得物を見つけたぞ。
画面に表示されたライフルの画像を見てにやりと笑った俺は、首を傾げながら焼けた肉を凝視している姉を見て、もう一度にやりと笑った。
すぐにそのライフルをタッチして生産し、素早くカスタマイズも済ませる。そしてメニューの下にあるボタンをタッチして武器の種類がずらりと並ぶメニューまで戻り、今度はラウラのサイドアームの生産を開始する。
彼女はアサルトライフルを使わず、小型のSMGを使う事が多い。SMGはハンドガンと同じ弾薬を使うため、アサルトライフルよりも威力が低く、一部を除いて命中精度も劣る。
ラウラの場合は、SMGは敵に接近された際の迎撃用なので、威力はあまり重視しなくてもいいだろう。むしろ連射速度と弾数を重視するべきだ。弾数を重視するならば、まるでタンクのような大型のヘリカルマガジンと呼ばれるマガジンを持つPP-19Bizonを作ろうと思ったんだが、彼女は接近戦を行う事もあるため小型の方が良いだろう。
小型で弾数の多いSMGかぁ………。あれが適任かもしれない。
SMGの項目をタッチし、ずらりと並ぶSMGの名称をチェックしていく。
「あった………!」
しかも、生産するための特殊な条件もない。もしトレーニングモードでの強敵からドロップする武器だったら妥協しようと思っていた俺は、自分の姉の得物になる筈のそれを歓喜しながら2丁も生産し、ニヤニヤと笑いながらカスタマイズを開始した。
「はい」
「ん?」
姉のための得物を生産してニヤニヤ笑っていると、誰かにつんつんと背中を突かれた。メニュー画面を開いたまま後ろを振り返ると、片手を腰に当ててもう片方の手に串に刺さったゴーレムの肉を手にしたナタリアが立っている。
彼女が手にしている串の肉はもうこんがりと焼けていて、ほんの少し焦げ目がついている。見た目は普通の焼いた肉と変わらないが………顔をしかめながらあまり美味しくなかったと言っていた親父の事を思い出した俺は、まだ一口も食っていないというのに顔をしかめつつあった。
だが、非常食の節約のためだ。それに親父と味覚が違って美味いと感じるかもしれないじゃないか。
これは肉を焼いただけ。料理が下手なラウラが調理したわけではないんだ。食っても吐き出したり死にかける事はないだろう。それに、俺とラウラはキメラだから顎の力は人間以上の筈だ。
あ、でも親父も噛み千切るのが面倒くさかったって言ってたから、キメラにとっても硬いのかもしれない。
「あ、ありがと………」
「ちゃんと残さず食べなさいよね。私が仕留めたゴーレムの肉なんだから」
「はーい………」
残したら、俺まであの恐ろしいコンパウンドボウの餌食になりそうである。
まるで野菜を残そうとする子供を咎める母親のようにそう言ったナタリアは、仲間たちにゴーレムの肉を手渡すと、自分の分の肉を口へと運び――――――辛うじて肉を噛み千切り、顔をしかめながら咀嚼を始めた。
何度ももぐもぐと口を動かしている筈なのに、全く飲み込む気配がない。顔をしかめながら延々と咀嚼を続けるだけである。
「………美味しいの?」
「………」
顔をしかめたまま首を横に振るナタリア。やっぱり美味しくなかったのか。
試しに串を近づけ、肉の臭いを嗅いでみる。臭いは豚肉を焼いた臭いに近いから美味そうに思えるが、焚火の向こうで未だに一口目の咀嚼を続けるナタリアの顔を見た瞬間、食ってみようという意欲が一気に吹っ飛ばされてしまう。
すると、今度はじっと肉を見つめていたステラがゴーレムの肉を少しだけ齧った。だがなかなか肉を噛み千切れないらしく、彼女の頭くらいの大きさの肉に噛みついたまま、まるで嫌いな食べ物を食べる羽目になった小さな子供のような顔で俺を見上げている。
珍しいな。ステラがあからさまにゴーレムの肉を嫌ってる………。
「なあ、やっぱりこの肉止めないか?」
「え、ええ。わたくしもそう思いますわ」
「うむ………やはりゴーレムの肉は不味いわい」
おい、ガルちゃん。さっき「不味いわけではない」って言ってただろうが。
そう思いながら彼女をじろりと睨んでいると、ガルちゃんは苦笑しながらゴーレムの肉に齧り付いた。肉に噛みついたまま小さな手で串を押さえ、必死に肉を噛み千切ろうとしている。
ラウラとカノンはまだ肉を口にしていない。今のうちに得物を渡しておいた方が良いだろうか。
「お姉ちゃん」
「ふにゅ?」
「お姉ちゃんにプレゼントがあります」
開いたままになっていたメニュー画面をタッチし、先ほど生産したばかりのサイドアームを装備する。この能力はあくまでも俺の能力であるため、装備した武器などは俺に装備される。仲間に渡すためには、俺が装備した武器を仲間に渡さなければならない。
何だか不便だな。アップデートはないんだろうか。もしアップデートがあったなら、仲間に武器を装備させる機能も追加して欲しいものだ。仲間に渡した分の武器は全て俺が装備していることになっているから、仲間たちがいつもの武器を全て装備した場合、メニュー画面での俺が装備している武器の数はすさまじい事になる。
アンチマテリアルライフルを2丁持ち、背中には30mmガトリング機関砲を装備して、アサルトライフルやマークスマンライフルを腰に下げているんだからな。キメラの身体能力でもそんな重装備は出来ねえよ。
首を傾げながら「ふにゅ? プレゼント?」と言った彼女に、まず生産したばかりのサイドアームを2丁渡す。
彼女に渡した銃は、まるで大型のハンドガンの上にヘリカルマガジンを取り付けたような、奇妙な形状のSMGだった。ちなみに普通のSMGならばグリップの前にマガジンをリ付けるか、ハンドガンのようにグリップの下から装着するタイプが主流である。
ラウラのために生産したのは――――――アメリカ製SMGの、キャリコM950だ。
同じくヘリカルマガジンを装着できるロシアのPP-19Bizonと比べると小型で、銃身の上に搭載されているヘリカルマガジンの中には、9mm弾が50発も入っている。弾数が非常に多い上に小型であるため、接近戦を行う場合もあるラウラにはうってつけだろう。
ちなみにグリップとハンドガードは、俺の趣味で木製に変更してある。
「ふにゅう………変わった銃だね」
「それ、50発も9mm弾が入ってるんだぜ」
「ご、50発も!?」
しかもSMGの中では小型だ。接近戦でも戦いやすいだろう。それに50発も弾丸を連射できれば、彼女の狙撃を回避して接近してきた敵でも返り討ちにできる筈だ。そもそも彼女の狙撃を躱して接近できる敵はかなり少ない筈だけどな。
メニュー画面を開いて彼女のPP-2000を装備から解除すると、ラウラはキャリコM950を眺めてからそれをホルスターの中へと納めた。
試し撃ちは後でやってもらおう。それに、これからラウラ用のメインアームも渡さなければならない。
メニュー画面を開き、またしても生産したばかりの武器をタッチする。新しい武器を渡されたばかりのラウラは、俺がまた新しい武器を手にしていることに気付くと、今度はこのアンチマテリアルライフルを凝視した。
「それもお姉ちゃんにくれるの?」
「おう。さっき新しいのが欲しいって言ってたろ?」
そう言いながら、俺はラウラに新しいアンチマテリアルライフルを渡した。
先ほど渡したキャリコM950よりも遥かに巨大で、長い銃身の先端部にはスナイパーライフルよりも巨大なマズルブレーキが装着されている。普通のライフルよりも太い銃身の下部には大口径の弾丸が入っているマガジンが装着されており、その後方にはグリップと、折り畳まれたモノポッドが装備されている。
俺がラウラ用のメインアームとして用意したのは、フランス製アンチマテリアルライフルのヘカートⅡだ。
12.7mm弾を使用するボルトアクション式のアンチマテリアルライフルで、射程距離は約1.8km。前まで使っていたゲパードM1と比べると若干距離が短くなっているが、その代わり連発できるようになっているため、以前よりも素早い狙撃が出来るようになっている。命中精度も高いため、非常に優秀なアンチマテリアルライフルの1つである。
カスタマイズしたのは、まずスコープの代わりに大型のアイアンサイトを取り付けたことだろう。サラマンダーと同等の視力を持つラウラの場合は、スコープを使うと逆に照準を合わせ辛くなるらしい。
そして大型のマズルブレーキの下には、金具のサイズを調整し、折り畳めるようにした三十年式銃剣を装備している。この銃剣は接近戦のために一応装着しておいたものである。
それと、使用する弾薬を俺のOSV-96と同じ12.7mm弾に変更したことだろう。元々ヘカートⅡも12.7mm弾を使用するんだが、ロシアなどで使われる12.7mm弾とアメリカやヨーロッパで使われる12.7mm弾は違うのだ。
OSV-96が使うのは、12.7×108mm弾。ヘカートⅡが使用する弾薬はブローニングM2などにも使用される12.7×99mmNATO弾である。
だから、弾薬を共用できるようにヘカートⅡの弾薬を12.7×108mm弾へと変更したのだ。
凄まじい破壊力を持つライフルを受け取ったラウラは、早速ヘカートⅡのグリップを握り、木製の銃床を肩に当ててアイアンサイトを覗き込んだ。照準を巨木に合わせているが、トリガーに指は当てていないため発砲するつもりはないのだろう。
肩から銃床を外し、折り畳まれている銃剣の刀身を確認したラウラは、ヘカートⅡを背負ってからにっこりと笑った。このプレゼントを気に入ったらしい。
「どう?」
「最高のライフルだよ………! ありがとう、タクヤっ!」
幸せそうに笑いながら、俺の頭を撫で始めるラウラ。思わず顔を赤くしてしまった俺は、その顔をカノンに見られていたことに気付き、更に顔を赤くしてしまった。
ネイリンゲンの南方にある森林地帯を抜けると、再び草原が広がっている。緑と蒼だけの単純で開放的な世界だが、その奥に無骨な防壁が鎮座しているせいで、開放的な雰囲気が半減しているような気がする。
その防壁の本来の目的は、親父たちが若かった頃までは2つあった。魔物から街を守る事と、国境の向こうから攻め込んでくるオルトバルカ王国騎士団を迎え撃つためである。
魔物が街を襲撃するケースが激減した現在では、後者の理由しか残されていない。攻め込んでくるかもしれない敵を迎え撃つためだけの防壁は伝統的な防壁のままになっているが、門は鋼鉄の門に変更されているらしく、防壁の中央に鎮座して草原を睨みつけている。
あれが、かつて親父たちが突破してきたというクガルプール要塞である。世界最強の大国が攻め込んできた際に迎え撃つためのラトーニウス王国の拠点で、あそこを通り抜ければラトーニウス王国へと入国する事が出来る。
「あれが……クガルプール要塞か」
「パパたち、あんなところを突破してきたの………?」
要塞の防壁の上には無数の大型バリスタと弓矢を手にした騎士が整列し、要塞の上空を飛竜に乗った騎士たちが舞っている。隣国との関係が悪化しているため、なおさら警備を強化しているのだろう。
かつて親父と母さんは、母さんの許婚であるジョシュアという男から逃げるため、たった2人であの要塞から飛竜を強奪して逃げて来たという。これから俺たちは、親父たちとは逆にラトーニウス王国へと向かわなければならない。
正面から入る事が出来ればいいのだが、ラトーニウスとの関係が悪化しているため難しいだろう。門前払いされるかもしれない。
「やっぱり、勝手に入国するしかないな………」
こっそり入国するためには、あの飛竜に乗った騎士たちに気付かれないように要塞を迂回しなければならい。だが、要塞の周囲は草むらだけだ。身を隠せる遮蔽物は存在しない。
このまま進めば発見されてしまうだろう。ラウラの能力を使っても、あれは魔力を使っているため、発見されないように魔力を調節したとしてもラウラが魔力を使い果たしてしまう可能性が高い。
草むらか………。
普通ならば隠れる場所はないが、あの装備ならば騎士たちに見つからずに進めるかもしれないな。
隣国へと入国する作戦を思いついた俺は、足元の草むらを見下ろしながらにやりと笑った。




