ナタリアがコンパウンドボウを使うとこうなる
防壁がないネイリンゲンの朝は、重々しい防壁に囲まれた王都の朝と違って開放的だった。昨日の夜のような出来事がもし起きなければ、心地よく目を覚ます事が出来ただろう。
仲間たちの元へと戻り、心配をかけたことを謝ってから仮眠を取らせてもらった俺は、かつて親父たちが使っていた部屋の中で目を覚ました。薄汚れた天井を見上げながら起き上がり、あくびをして眠気を引き剥がす。先ほどまでの仮眠で何の夢を見ていたのかと思い出そうとしたが、夢の内容を思い出す前にあの怪奇現象の事を思い出してしまった俺は、反射的にドアの方を振り返った。
そこにある古めかしいドアは、昨晩確かに勝手に開いた。そしてその向こうに幽霊の少女がいて、俺をあの世へと連れて行こうとしたのだ。それを助けてくれたのは――――――確かに親父だった。
光源が俺の左手の炎しかなかったからよく見えなかったけど、俺たちの知っている親父よりも若かったような気がする。まるで、俺たちを狩りに初めて連れて行ってくれた頃の親父のように若々しかった20代の頃の親父が助けに来てくれたような気がするが、あれは幻だったのだろうか。
いくら転生者でも、若返るわけではない。それに親父は確かに王都にいる筈なのだ。
「おう、起きたか」
「あ、ガルちゃん」
背伸びをしながらアイテムの確認をしていると、部屋のドアの向こうからガルちゃんが缶詰を手にしてやって来た。缶詰にはハーピーのイラストが描かれていて、イラストの隣には『ハーピーの塩漬け』と書かれている。
冒険者たちに人気の缶詰だ。旅に出るための準備をしている前に準備をしている時に、母さんとエリスさんと親父の3人にこの缶詰を奨められたのを思い出した俺は、苦笑いしながらガルちゃんが差し出した缶詰を受け取った。
右手を硬化させ、外殻で覆われた硬い爪を使って蓋を取り外す。フォークは見当たらないので、このまま素手で食うことにしよう。
効果を解除した右手で塩水に漬けられている肉を1つつまみ、口へと運ぶ。少々味が濃い鶏肉のような味の肉を噛み砕き、呑み込んでからもう1つ口へと運ぶ。
「なあ、ガルちゃん」
「何じゃ?」
「昨日の夜、俺は1階の廊下に倒れてたんだよな?」
「うむ。確かあの先はキッチンだった筈じゃ。力也とギュンターの奴がよくキッチンで酒を飲んで酔っ払っておったわい。そしてのう、エミリアとカレンがため息をつきながら2人に肩を貸して部屋まで連れて行くんじゃ。懐かしいのう」
昨日の体験が無ければ、ここがモリガンの本部だった頃の思い出話をもっと聞いてみたいと思っていたに違いない。ガルちゃんの思い出話を聞き流しながら、俺は昨日の夜の事を思い出し始める。
気を失った後、俺はどうやらキッチンの前にある廊下で倒れていたらしいのだ。目を覚まして目の前を見てみると、あの幽霊が俺を連れて行こうとした真っ暗な通路ではなく、初めて目にした時と同じように崩落した瓦礫が廊下を塞いでいるだけだった。それに、埃まみれの床の上には俺の足跡しか残っていなかったという。
では、あの時俺を助けてくれた親父はやはり幻だったのだろうか。親父の足跡が残っていないという事は、親父はここに来ていないという事になるのだから。
「………なあ、ガルちゃん」
「む?」
「やっぱり、俺を助けてくれた親父って幻だったのかな………」
するとガルちゃんは、思い出話を止めて目を細めた。
「―――――当たり前ではないか。幻じゃ。あの馬鹿がここまで来るわけがないではないか」
楽しそうに思い出話をしていたガルちゃんならば、あっさりと幻だと言って笑い飛ばしてしまいそうな感じがしたんだが、彼女は逆に悲しそうな目をしながら俺を見つめ、そう言った。
なぜ、彼女はそんなに悲しい顔をしているのだろうか。最古のエンシェントドラゴンとして人類よりも大昔から生き続けている目の前の彼女が、悲しい顔をするのは滅多にない事だろう。例えば、自分にとって大切な存在を失ったのならばこんな顔をするかもしれないが、たかが父親の幻を見たという話だけでなぜこんな顔をするのか。
どうせ「それは幻じゃ、馬鹿者」と笑い飛ばされるだろうと思っていた俺は、悲しそうな顔をする彼女に違和感を覚えた。
「それより、よく眠れたか?」
「ああ。アイテムも無事だし、武器もある。いつでも出発できるぜ」
「よろしい。ラウラたちも準備を済ませておるから、とっとと缶詰を平らげてしまえ。食い終わったら出発じゃぞ」
「はーい」
いつもの表情に戻ったガルちゃんは、部屋の中にある鏡を見ながら自分のヘッドドレスを直すと、壁に立て掛けられていた銃剣付きのMG34を担ぎ、部屋の外へと出て行く。
彼女はどうしてあんなに悲しそうにしていたのか。おそらくこの疑問の終着点へと辿り着くためには、まだ情報が足りないのだろう。習ってもいない複雑な計算をしろと言われているようなものだ。回答に辿り着くためには、もう少し情報を得てからでもいいだろう。
もう1つ塩漬けの肉をつまみながら、俺はちらりと鏡を見た。14年間も手入れされずに放置されてきた鏡面は、違和感と怪奇現象に遭遇して混乱する俺のように曇っていた。
かつてモリガンの本部だった屋敷を後にした俺たちは、更に南方へと向かって出発した。目的地はメサイアの天秤の資料が発見されたというメウンサルバ遺跡。その遺跡があるのは、オルトバルカ王国の隣にあるラトーニウス王国である。
ラトーニウス王国へと向かうためには、まずネイリンゲンの跡地を更に南方に進み、ラトーニウス王国の最北端にあるクガルプール要塞を超えなければならない。以前までは門の警備をしている兵士に話をすれば通してもらえたらしいのだが、今ではオルトバルカとラトーニウスの関係は悪化し始めており、通してもらえない可能性もあるという。
おそらくその対立の原因は、俺たちの親父が率いていた傭兵ギルドだろう。
かつてラトーニウス王国騎士団のジョシュアという男が、部下を率いてネイリンゲンに侵攻した。今から21年前だから、親父たちが俺たちと同い年の頃の話だ。
もちろんモリガンのメンバーは総出で迎撃し、騎士団からモリガンに寝返ったエリスさんにも加勢してもらって何とか撃退したという。親父が片足を失い、義足を移植してキメラになるきっかけになったのはこの戦いなのだろう。
ラトーニウス王国は指揮官であるジョシュアを失った上に騎士団の切り札だったエリスさんに裏切られるというかなりの痛手をこうむっている。しかも自国の国力をはるかに上回るオルトバルカ側からの報復を恐れ、大慌てで全ての責任をジョシュアに擦り付け、辛うじて戦争への突入を回避したという噂も聞いたことがある。
この時点で、両国の間に軋轢はあったのだろう。
ジョシュアの許婚だった母さんを奪い去り、更にオルトバルカ王国騎士団の精鋭部隊と渡り合うための切り札だったエリスさんまで奪い去って行ったモリガンとリキヤ・ハヤカワを、ラトーニウス王国の国民たちは目の敵にしているに違いない。
自国に煮え湯を飲ませたのは、10人未満の小規模な傭兵ギルドだったのだから。
オルトバルカ国民からすれば、母さんとエリスさんは英雄の1人。死に物狂いで奮戦したモリガンのメンバーだが、ラトーニウス国民からすれば、自国を崩壊寸前まで追い込んだ裏切者でしかないのだ。
そして俺とラウラは、その裏切者と怨敵の子供なのである―――――。
「それにしても、怪奇現象に遭遇したのは俺だけか………」
「はい。ステラたちには特に何もありませんでした」
あの屋敷で怪奇現象に遭遇したのは俺だけで、部屋で寝ていた仲間たちには何も起こらなかったらしい。
そういえば、あの幽霊は俺の事を「お兄さん」って言ってたな。……やったぞ。やっと男子だと思ってもらえた! 相手は幽霊だけどな。
「ところで、お主らはこれからラトーニウス王国に行くのじゃろう?」
「ああ」
「なるほどのう。リキヤとエミリアとは逆じゃのう」
「ふにゅ、そうだね」
この異世界に転生してきた親父は、ラトーニウス王国の小さな街で母さんと出会ったという。街を襲撃してきた魔物を早くも生産していた現代兵器で撃退したところを目撃された親父は、母さんから色々と話を聞かれ、彼女と共に騎士団の駐屯地があるナバウレアという街へと向かったらしい。
そこでジョシュアの許婚だった母さんを連れ去った親父は、何とかクガルプール要塞までたどり着き、そこで飛竜を奪ってオルトバルカまで逃げ込んできたのだ。
俺たちはその道を逆に進み、メウンサルバ遺跡を目指す。
親父たちが逃げて来た国に、俺たちが踏み込むのだ。
メサイアの天秤を手にいれ、誰も虐げられることのない平和な世界を作るために。
それにしても、親父は騎士団の指揮官から許婚を奪い去ったのかよ………。何やってんだ、あの馬鹿親父。そして母さんとエリスさんの姉妹と結婚し、俺とラウラが生まれたというわけか。両手に花じゃねえか。
羨ましいなぁ………。
「私もラトーニウスには用事があるのじゃが、クガルプール要塞を超えたらお別れじゃのう」
「え?」
「ふにゃっ!?」
「仕方がないじゃろう。私も調べたい場所があるのじゃ」
要塞を超えたら早くもガルちゃんとお別れか。頼りになると思ってたんだがなぁ………。
もう少し彼女と話をしていたいと思った俺は話題を探し始めたけど、話が続きそうな話題を見つけようと探っている最中に、いきなり隣に立っていたラウラが足を止めた。
炎のように赤い瞳が鋭くなり、彼女の手が背中のゲパードM1のグリップへと伸びる。
「魔物か」
「うん」
彼女の視覚と聴覚は、俺や親父をはるかに上回っている。レーダーとソナーの機能を併せ持つ高精度のセンサーのようなものだ。彼女がソナーで感知できる範囲は半径2km。スコープなしで見渡せる範囲もおそらくそのくらいだろう。
彼女が感知したという事は、魔物は半径2km以内にいるという事だ。
「どこにいる?」
「12時方向、距離1884m」
相変わらず凄まじい感知能力だ。コートの短いマントの内側にあるホルダーから折り畳み式の望遠鏡を取り出し、距離を調節しながら覗き込む。
草原を駆け抜ける風の向こうに見えたのは、ごつごつした外殻に覆われた1体の巨体だった。まるで巨大な岩石に手足をくっつけて歩かせているように見えるその巨体の正体をすぐに理解した俺は、望遠鏡を隣にいるカノンに渡し、メニュー画面を開いてOSV-96を装備する。
相変わらずこの得物はロケットランチャーを搭載しているせいで重いが、レベルが上がったおかげなのか以前より少しだけ軽く感じる。雀の涙だが、早くこの重さを感じないくらいレベルを上げてしまいたいものである。
俺のOSV-96とラウラのゲパードM1の射程距離は2km。1884m先のあのゴーレムは射程距離内だ。このまま狙撃を開始すれば、ラウラが先に命中させてしまうに違いない。
「お姉ちゃん、先に撃たせてよ。狙撃の練習がしたい」
「えへへっ。じゃあ、お姉ちゃんが教えてあげる?」
「――――――待って」
地面に伏せてバイボットとモノポッドを展開し、狙撃体勢に入った俺たちを呼び止めたのは、カノンから渡された望遠鏡を覗き込んでいたナタリアだった。
「どうした?」
「フィオナ博士が作ってくれた武器を試してみたいの」
望遠鏡をステラに渡したナタリアは、左肩のホルダーに着けていたコンパウンドボウを取り出すと、グリップを握りながらそう言った。フィオナちゃんによって改造された彼女のコンパウンドボウには細い配管がいくつも取り付けられ、圧力計とバルブのようなものも装備されている。普通の弓矢ならばあり得ないフォルムだが、この装備は矢に圧倒的な殺傷力を持たせるために必要な物だという。
それに、こいつはフィオナちゃんが今度開発する予定の武器のプロトタイプでもある。
グリップの脇に折り畳まれているグレネードランチャーのような照準器を展開したナタリアは、あのゴーレムは自分に仕留めさせてくれと言わんばかりににやりと笑う。
「――――――頼んだぜ、ナタリア」
「ええ」
ラウラに向かって頷くと、彼女も頷いてくれた。あのゴーレムをナタリアに倒させることに賛成してくれるらしい。
だが、あのゴーレムとの距離は1884m。コンパウンドボウの射程距離は150m前後である。さすがにここから狙撃するのは不可能だし、こちらから接近していったとしても時間がかかってしまう。
「おびき寄せるべきじゃのう」
「その通り」
ラウラと同時に照準器とスコープを覗き込み、ゴーレムの身体に照準を合わせる。いくら凄まじい防御力を誇るゴーレムとはいえ、12.7mm弾が直撃すれば木端微塵だ。巧くわざと外し、襲撃者はここにいるのだと教えてやる必要がある。
それに、ゴーレムの素材も売れるかもしれない。外殻は防具やハンマーの素材に使われることもあるし、内臓も摘出すればそれなりに高値で売れるという。資金を稼がせてもらうとしよう。
「カノン、あいつがこっちに来たら威嚇射撃を頼む」
「了解ですわ」
「ステラとガルちゃんも威嚇射撃を頼む。ナタリアを狙わせるな」
「はい」
「ふふっ。立派になったものじゃ」
それはどうも。背中のLMGで攻撃の準備をするガルちゃんと目を合わせながらにやりと笑った俺は、ガトリング砲を構えたステラに「いいか、当てるなよ?」と釘を刺してから再びスコープを覗き込んだ。30mm弾なら1発被弾しただけでゴーレムが粉々になっちまう。
レンジファインダーで距離を確認する。少々近付いているのか、距離は1879mになっていた。左手を伸ばしてカーソルを調整し、風が吹いていないか確認する。
今のところ風は吹いていない。撃つなら今だろう。
「みんな、耳を塞げ」
アンチマテリアルライフルの銃声は、スナイパーライフルの銃声と桁が違う。
仲間たちが耳を塞いだのを確認した直後―――――――俺とラウラは、同時にライフルのトリガーを引いていた。
2つの轟音が、草原の真っ只中で弾け飛ぶ。OSV-96から排出されたでかい薬莢が回転しながら落下していく向こうで、2発の12.7mm弾がマズルフラッシュの残滓を纏いながら、ゴーレムへと襲い掛かっていく。
すると、ゴーレムの両肩の辺りで火花が散った。まるで火打石がぶつかり合ったかのような小さな火花だったが、その火花を生み出した元凶が持っていた運動エネルギーは想像を絶するほどの凄まじさだったらしく、いきなり狙撃されたゴーレムはよろめいてからこちらを睨みつけてきた。
両肩には、何かが掠れたような跡が残っている。俺とラウラの弾丸はそこを掠めたのだろう。
「上手になったじゃん」
「お姉ちゃんのおかげだよ」
「えへへっ」
ゴーレムがこちらに気付き、あの剛腕で叩き潰すために突進してきたのを確認した俺は、落ち着いてスコープから目を離し、バイボットとモノポッドを折り畳んだ。ラウラも同じようにバイボットとモノポッドを折り畳み、ボルトハンドルを兼ねるグリップを引いて薬莢を排出する。
「ところで、タクヤ」
「ん?」
もう1発威嚇射撃をしてゴーレムに俺たちの位置を教えた後に、ラウラが耳を塞ぎながら話しかけてきた。
「お姉ちゃんね、新しいアンチマテリアルライフルが欲しいの」
「新しいやつ?」
「うん。ボルトアクション式で、連発できるやつがいいな」
ボルトアクション式で連発できるタイプか。ゲパードM1は単発だから、1発ぶっ放したら再装填しなければならないからな。
よし、後で西側のアンチマテリアルライフルでも作ってあげよう。
「任せて」
「ありがとっ」
威嚇射撃を終えた俺の身体に尻尾を絡み付かせ、微笑みながら頬にキスをしてくるラウラ。彼女をこのまま抱きしめたいところだが、すぐ傍らでコンパウンドボウを構えるナタリアは呆れているし、カノンはもう威嚇射撃を始めている。戦闘中にイチャイチャするわけにはいかないし、ナタリアにどん引きされたら傷つくのでやめておこう。
「ナタリアさん、そろそろ出番です」
「了解ッ!」
ガトリング砲で威嚇射撃を始めたステラに言われ、ナタリアは矢筒の中から矢を取り出した。その矢を番える前に取り付けられたバルブを開き、圧力計の針が動いたことを確認してから矢を番える。
細い配管の隙間から蒸気が噴き出し、やや冷たい風の中に熱気を解き放つ。あの機能を使うと目立ってしまうため、フィオナちゃんが追加した機能は隠密行動には向かないかもしれないが、その殺傷力は既存の弓矢を大きく上回る筈だ。
「外すなよ、ナタリア!」
「分かってます!」
ナタリアにそう言いつつ、ガルちゃんもMG34を構えて威嚇射撃を開始する。幼女がキャリングハンドルを掴みながらLMGを連射するのはありえないだろうが、ガルちゃんの正体は最古の竜なのだ。LMGを発ちながらぶっ放すのは朝飯前だろう。
何発かは命中しているようだが、ゴーレムが被弾しているところは急所ではないし、中には外殻だけ抉った弾丸もある。わざと致命傷を与えないようにしているのだろう。
さすがモリガンのメンバーだ。俺たちとは錬度が違う………!
「ナタリアさん、今ですわ!!」
無数の弾丸が外殻を掠めても、全く怯まずに突っ込んで来るゴーレム。だが、その弾丸はわざと外しているのだ。最初の狙撃の段階でも殺せたんだが、お前をここまで接近させたのはナタリアの武器を試すためだ。
じゃあな。
「――――――行くわよ」
ナタリアが番えている矢が、一瞬だけ莫大な量の蒸気を纏ったような気がした。また幻でも見てしまったのかと思っているうちに、蒸気が噴き出す奇妙な弓から放たれた1本の矢は、まるで蒸気を纏った彗星のように彼女の弓から飛び去ると―――――拳を振り上げていたゴーレムの額に、蒸気と共に突き刺さった。
普通の弓矢ならば、刺さっただけで終わりだ。辛うじて外殻を貫いたとしても、硬い外殻をもつ魔物には決定打にはならない。
だが、フィオナちゃんが改造したそのコンパウンドボウは――――――ゴーレムの外殻と共に、その通説をも吹き飛ばした。
外殻の隙間から蒸気が噴き出し、冷たい風が熱風に変えられていく。あの細い矢の中に込められた圧縮された魔力が、ゴーレムの額に着弾してから元の状態に戻ろうとしているのだ。
まるで蒸気機関のようにゴーレムは外殻の隙間から蒸気を吐き出し続けていたが、やがて額の部分の外殻が急に膨れ上がり――――――内側から突き破られたように、弾け飛んだ。
「え――――――」
「な、なんだよ、その武器………」
「ふにゃあ………」
鼻から上を消し飛ばされたゴーレムが、手足を痙攣させながら後へと崩れ落ちる。
蒸気で加熱された血の臭いの中で、俺たちは予想以上の破壊力で葬られたゴーレムを凝視していた。
「こんな破壊力の武器が、遠距離から飛来するのですか………。ステラは恐ろしいです」
「こ、これはフィオナが作ったのかのう………。お、恐ろしいわい」
「さすがですわ、フィオナ博士! 可愛らしい上に天才なんて!! ああっ、押し倒して抱きしめたいですわッ!!」
遠距離からワスプナイフをぶっ放してるようなものじゃないか。発射する際は目立ってしまうけど、この殺傷力はかなり頼りになるぞ。
アンチマテリアルライフルを装備から解除した俺は、まだ呆然とするラウラの隣を通過すると、崩れ落ちたゴーレムの死体をじっと見つめているナタリアの肩を軽く叩いてから、コートのホルダーからメスを取り出した。
さて、素材を取ってしまおう。商人やショップでいくらで売れるだろうか。
メスを手にした俺は、まだあのコンパウンドボウの破壊力に驚愕しながら、外殻の隙間にメスを突き立てた。




