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カノンが対空戦闘をするとこうなる


 目の前の景色が、草原から渓谷に変わっていた。


 大昔に形成された巨大な亀裂は大瀑布へと変貌し、ドラゴンたちの咆哮までかき消してしまうほどの轟音を響かせている。この大瀑布の絶叫は、まるでここから先に入り込むならば、轟音と凄まじい水飛沫の合間を飛び交うドラゴンたちの餌食になると警告しているかのようだった。


 大昔の人々ならば、飛び回るドラゴンたちの影を見て個々の調査を諦めた事だろう。だが、今ではドラゴンを撃破できるほどの破壊力を持つ魔術が考案されているし、撃破するための戦術も考えられている。臆病な冒険者以外には通用する事のない警告だった。


「ここがオルエーニュ渓谷か………」


「ふにゃあ………すごい滝だね………!」


 谷の向こうに見える大瀑布を見つめながら言うラウラ。俺ももう少しこの巨大な渓谷を眺めていたいと思ったが、俺たちがここにやって来たのはカノンの試練に手を貸すためだ。頭を掻いてからフードをかぶり、大瀑布を見つめる姉の隣で装備の確認を始める。


 俺の装備はグレネードランチャー装備のG36Kと、アンチマテリアルライフルのOSV-96だ。このアンチマテリアルライフルはロケットランチャーを装備しているため非常に重いが、12.7mm弾と対戦車榴弾の併用による凄まじい攻撃力ならば日ドラゴンの群れを薙ぎ払うことも出来るだろう。だが、ステータスが低いままいつまでもこの得物を背負っているわけにもいかないので、こいつは地下墓地に到達したら装備から解除しておこう。


 近代化改修を済ませた2丁のレ・マット・リボルバーも装備しているし、大型トレンチナイフと鍛冶屋で購入した大型ソードブレイカーも装備している。あとは手榴弾とC4爆弾も用意しておいた。内ポケットの中には、リボルバーのMP412REXもある。


 ラウラの装備はアンチマテリアルライフルのゲパードM1と、2丁のPP-2000だ。サイドアームに装備しているのは俺と同じくMP412REXで、撃鉄ハンマーやグリップなどが紅く塗装されている。それ以外の装備は両足のサバイバルナイフと、鍛冶屋で購入した2本のトマホークとなっている。それ以外にも手榴弾やC4爆弾を装備しているようだ。


 地下墓地に到着したら重い武器は装備から解除する予定だが、もし攻撃目標となるヴィルヘルムの防御力が高く、アサルトライフルやマークスマンライフルの弾丸を弾いてしまう場合は、再びアンチマテリアルライフルの出番となるだろう。


「ほら、ラウラ。行くわよ」


「はーいっ!」


 準備を終えたナタリアが、マグプルPDRを腰に下げたながらラウラを呼んだ。既に彼女たちも準備を終えているようだ。


 ナタリアの装備は、いつもと同じくマグプルPDRとモリガン・カンパニー製のコンパウンドボウ。このコンパウンドボウには思い入れがあるらしく、装備を変えるつもりはないらしい。サイドアームに装備しているのはロシア製ハンドガンのMP443で、近距離武器はククリナイフとなっている。


 それと、もしウィルヘルムの防御力が高かった場合のために、彼女には強力な武器を渡してある。


 ナタリアに渡したのは、スウェーデン製無反動砲のカールグスタフM4だ。砲身に照準器とグリップを取り付けたような形状の武器で、84mmの強力な砲弾を発射する事が可能だ。ナタリアには榴弾と対戦車榴弾の2種類を渡してある。


 発射した瞬間に後方に強烈なバックブラストを噴出するため、他のロケットランチャーと比べると反動は非常に小さい。それに強烈な破壊力を持つため、ウィルヘルムに命中させる事ができれば彼に致命傷を与えることも出来るだろう。もしかしたら一撃で撃破する事ができるかもしれない。


 照準器を搭載しているが、砲身の上には『スポットライフル』と呼ばれる照準用の機銃を搭載している。これは『曳光弾』と呼ばれる発行する弾丸を発射するための装備で、砲弾を発射する前にこれを発射することで照準を合わせる事ができる。彼女のカールグスタフM4に搭載してあるのは9mm弾を発射するタイプで、弾数は7発になっている。砲身の上にある細い銃身の上部から突き出ているのが、スポットライフルのマガジンだ。


 ちなみに、ここに到着する前にエイナ・ドルレアンの防壁の外でゴブリンを相手に少しだけ訓練を行っている。


 無反動砲の砲身を背中に背負う彼女は、渓谷へと向かえそうな道を見つけたらしく、こっちを振り向いて手を振り始めた。


 ドルレアン家の地下墓地へと向かうには、狭い足場から落ちないように移動し続けて中央部へと向かわなければならない。武器を背負ったまま彼女の近くへと向かった俺は、ナタリアが発見した道を見下ろしてため息をついてしまう。


「………ここしかないのか?」


「大丈夫よ。あんた、男にしては細身だし」


「でもさ………狭過ぎるぞ」


 ナタリアが発見した道は、いきなり狭い道だった。まるで小さな亀裂をある程度広げて強引に作ったような道で、細身の人間が横向きになってやっと通れそうな程度の幅である。小柄なステラは問題なく通れるかもしれないが、さすがに装備は一旦解除してから進まなければならないだろう。


 もうここは危険なダンジョンなのだ。レディーファーストというわけにはいかない。


 メニュー画面を開いてアサルトライフルとアンチマテリアルライフルを装備から解除し、内ポケットからMP412REXを引き抜いた俺は、リボルバーを左手に持ったまま狭い道へと向かう。


 身体を横向きにし、少しずつ進んでいく。北国の風のせいで岩肌はひんやりとしていて、表面には苔が生えていた。お気に入りのコートについた苔を息で吹き飛ばし、道の狭さに顔をしかめながら岩肌の間の道を通り抜ける。


 素早くリボルバーを周囲に向けながら魔物が周囲にいないか警戒したけど、渓谷の入口にはまだ魔物はいないようだ。


 狭い道の向こうは、まるで展望台のようになっていた。絶壁の真っ只中にある足場なんだろうけど、この広めの足場からは大瀑布がよく見える。吹き上がる水飛沫の真っ只中を舞うドラゴンの影がこっちに向かって来ないことを確認した俺は、息を吐きながら後の道を振り返った。


「敵はいない。いいぞ」


 仲間たちが装備している大型の武器を一旦全て解除してから、仲間たちに報告する。ラウラの返事が聞こえてきたのを聞いた俺は、にやりと笑ってから自分の武器をもう一度全て装備し、警戒を続けることにした。


 今までは幼少期の訓練で撃破したことのある魔物ばかりだったが、このダンジョンに生息しているのは戦った事のない魔物ばかりだ。渓谷に生息している魔物の中で最も数が多いのはドラゴンとアラクネの2種類で、どちらもアサルトライフルの5.56mm弾を弾いてしまうほど硬い外殻に覆われているため、外殻を撃ち抜くには5.56mm弾よりも口径の大きい弾丸が望ましいと親父から聞いたことがある。この6.8mm弾では撃ち抜くことは出来るだろうか。


 武器をリボルバーからアサルトライフルに持ち替えながら待っていると、岩場の道の奥からラウラの呻き声が聞こえてきた。


「ふにゃあっ………タクヤぁ……っ!」


「はいはい」


 狭い道の間から手を伸ばしてくる彼女の手を握り、岩場の間から姉を引っ張り出す。彼女はよろけながら俺の胸に飛び込んでくると、そのままくんくんと匂いを嗅ぎ始める。


 わざと胸に飛び込んで来たのかよ………。


「えへへっ、良い匂いがするっ」


「ラウラと同じ匂いだよ」


「あらあら、お姉様ったら」


 ラウラの次に岩場の間から出て来たカノンは、ダンジョンの中だというのに俺に甘えているラウラを見て顔を赤くすると、ミニスカートの中から伸びているラウラの尻尾を撫で回し始めた。


「ラウラ、ダンジョンの中なんだから」


「はーい…………」


 残念そうに俺から離れたラウラの頭を撫でていると、今度はナタリアとステラが岩場の間から出て来た。これで全員あの狭い道を通過したという事になる。


 メニュー画面を開き、再び全員の武器を装備させる。


 ステラの背中に出現したのは、ドルレアン邸の地下で彼女のために生産したロシア製ガトリング機関砲のGSh-6-30だ。接近してきた敵にも攻撃できるように、砲身の中央から突き出ている突起物はランスのようなスパイクになっているため、銃を知らないこの世界の人々がこいつを目にすれば、奇妙なタンクとベルトを装備した変わったランスだと勘違いしてしまう事だろう。


 スキルを装備したことによって、武器の弾薬は一部を除いて最初から装着されている分と再装填リロード5回分に増加している。だが、ステラが装備するこの獰猛なガトリング機関砲の弾薬は再装填リロード2回分しかないし、装着されている弾薬タンクの中には200発しか砲弾が入っていないため、十中八九すぐに弾切れしてしまうに違いない。


 そのため、彼女にはサイドアームとしてハンドガンのMP443を渡してある。


「それにしても、ステラって重そうな武器ばかり装備してるわよね………」


 身の丈よりも巨大なガトリング砲を背負ったステラを見つめながらナタリアが言う。確かに身長が140cmくらいの小柄な少女が持つにはあまりにも巨大過ぎる武器だが、ステラは約150kgのガトリング砲を背負って歩き続けても全く表情を変えていない。


 おそらくこの光景から違和感が消えることはないだろう。俺もそう思いながら彼女を見ていると、ステラは隣を歩くナタリアの顔を見上げながら首を傾げた。


「グラシャラボラスの方が重いです」


「あの鉄球の方が重いのね………」


 もしかしたら、ステラなら大型の迫撃砲や戦車まで持ち上げてしまうかもしれないな。


 幼い少女が戦車を持ち上げている姿を想像してくすくすと笑った俺は、仲間たちと共に岩場から下へと続く道へと下りて行った。








「死体が増えてきましたわね」


「ああ」


 岩場を移動し続け、絶壁の表面にあった細い足場を何とか通り抜けてきた俺たちの目の前には、腐臭を纏った死体がいくつか横たわっていた。フードの付いたコート姿の死体もあるし、金属製の防具を装備した男性の死体もある。


 岩肌に寄りかかった状態で倒れていた白骨化した死体を見下ろした俺は、その死体の胸に装着されている穴の開いた防具を凝視した。おそらくあの穴は魔物の攻撃で空けられたものだろう。


 ダンジョンの中は当然ながら危険だ。そのため、ダンジョンの中で命を落とせば基本的に死体は回収してもらえないため、このように腐敗したり白骨化するまで放置される羽目になる。


 ナタリアやカノンが顔をしかめる中で、俺とラウラは冷静に死体を調べていた。


 死体があるという事は、当然ながらここで殺されたという事だ。その死体に残っている傷痕を見れば、ここでどのような魔物に襲われたのか判別する事ができる。


 死体を調べていると、その中に黒焦げになった死体が混じっていることに気付いた。死因は炎で焼き尽くされたということはすぐ分かるんだが、その死体が身に着けている剣は他の死体が持っている剣と違って、新型のロングソードのようだ。


 モリガン・カンパニー製のロングソードだろう。従来のロングソードよりも切れ味が上がっているこれを持っているという事は、この冒険者はモリガン・カンパニーの武器が普及し始めた後にここで死亡したという事になる。しかもこのロングソードはモリガン・カンパニーの最新型だ。鍛冶屋にもポスターが張られていた事を思い出した俺は、はっとして咄嗟に折り畳んだ状態で背負っているアンチマテリアルライフルへと手を伸ばす。


 最近販売が始まったばかりの武器を持っているという事は、この冒険者が死亡したのは最近だという事だ。そしてこの渓谷で人間を黒焦げにして殺す事ができる魔物は―――――――ドラゴンしかいない。


「ラウラッ!」


「―――――――分かってる」


 背後から聞こえてくる翼の音と唸り声。仲間たちがぎょっとして空を見上げるよりも先にその魔物の襲撃を予測していた俺とラウラは、同時に背中のアンチマテリアルライフルに手を伸ばしながら左右へとジャンプしていた。


 その直後、天空から急降下してきた巨大な杭のような爪が、鈍色の岩肌にめり込んでいた。爆風のような砂埃の中で爪が引き抜かれ、落下した岩肌の破片が、まるで黒焦げになった死体を埋葬するかのように降り注ぐ。


 地面に着地しながら、砂埃の向こうで再び高度を上げた魔物を見上げる。今の一撃で獲物を全く仕留められたなかったそいつは悔しそうに咆哮を上げると、空中で旋回しながら再び高度を落としてきた!


「ドラゴンだ! 対空戦闘ッ!!」


 もしドラゴンからの奇襲を受けたのがさっき通過してきた細い道だったのならば、俺たちはたちまちブレスで焼き尽くされていた事だろう。


 アンチマテリアルライフルの銃身を展開しながら、照準をドラゴンへと合わせる。ドラゴンのスピードは戦闘機ほどではないが、飛んでいる最中のドラゴンを狙撃で撃ち落とすのは難しいだろう。かつて親父は空を飛んでいるドラゴンを1.7kmの距離から狙撃で撃ち落としたことがあるらしいが、俺にそんな狙撃は出来ない。


 だから、ラウラに撃ち落としてもらう。俺は彼女の傍らで発砲し、ドラゴンを牽制するのだ。


 ラウラも俺が牽制するためにOSV-96を構えた事に気付いたらしく、一瞬だけこっちをちらりと見てからゲパードM1のアイアンサイトを覗き込んだ。彼女のアンチマテリアルライフルが装填できる弾丸は1発のみだが、命中精度と射程距離はアンチマテリアルライフルの中ではトップクラスだ。しかもそれを手にしているのは、既に狙撃の技術では親父を超えている最強の狙撃手スナイパーである。


 命中する確率は100%だ。


「お待ちください、お姉様」


「カノンちゃん?」


 旋回を終えたドラゴンにラウラが照準を合わせていると、マークスマンライフルのスコープを調整しながらカノンが呼び止めた。


「これはわたくしの試練ですわ。ですから、あのドラゴンはわたくしが仕留めます」


「だ、大丈夫なの?」


「ええ」


 胸を張ったカノンは、スコープの調整を済ませてから銃口を空へと向けた。大瀑布の轟音が響き渡る渓谷の上空から急降下してくるのは、岩肌と同じく鈍色の外殻に覆われた1体のドラゴンだった。騎士団や貴族たちもよく移動に使っているドラゴンである。


 幼少の頃、ハヤカワ家に寝泊まりしていたガルちゃんから「ドラゴンには優しくしろ」と言われたが、ドラゴンに襲撃されている状態で優しくできるわけがない。情けをかければ食い殺されてしまう。


 ガルちゃんには悪いが、狙撃しようとしているカノンを止めるわけにはいかなかった。


『ゴォォォォォォォォッ!!』


「お姉様とお兄様を狙うなんて」


 そう言った途端、スコープを覗くカノンの目つきが鋭くなった。獲物を狙う時だけにあらわになる、傭兵だった両親から受け継いだ威圧感。カノンのその目つきも、ラウラと同じだった。


 マークスマンライフルの銃口を向けられているにもかかわらず、ドラゴンは雄叫びを上げ、口の中に炎を生成しながらこちらへと急降下してくる。まるで機銃掃射で地上を攻撃する戦闘機のように、俺たちをブレスで焼き尽くすつもりなんだろう。


 だが、そのドラゴンの業火が俺たちに解き放たれるよりも先に火を噴いたのは、14歳の少女が構えていたマークスマンライフルの方だった。


 SL-9の長い銃身からマズルフラッシュが噴き出し、その中から1発の6.8mm弾が解き放たれる。人間を食い殺してしまう獰猛なドラゴンと比べれば小さ過ぎる弾丸かもしれないが、その弾丸は5.56mm弾よりも大口径の弾丸である。5.56mm弾では外殻に弾かれてしまうが、6.8mm弾ならば外殻を貫通して肉をズタズタにすることは可能なのだ。


 ドラゴンが発する炎の光で弾丸が見えなくなったと思った直後、ドラゴンの口の中で燃え盛っていた炎が、無数の火の粉となっていきなり霧散し始めた。口の中から無数の火の粉を放出し始めたそのドラゴンは、続けてぐらりと巨体を傾け始め、そのまま岩肌へと向かって墜落していく。


 やがて、岩肌とドラゴンの頭が激突する音が聞こえてきた。激突した衝撃で外殻が割れてしまったらしく、ドラゴンが墜落した周囲には鈍色の岩肌の破片と外殻の破片がいくつも転がっていた。


「――――――命中ですわ」


「い、一撃で…………?」


「脳を狙ったのですね」


 目を見開くナタリアの傍らで、ステラが無表情のまま小さな声で言った。


「ええ。外殻を貫通できる弾丸ですもの」


 カノンはなんと、急降下してくるドラゴンの脳を撃ち抜いていたんだ。ドラゴンは5.56mm弾を弾いてしまう外殻を纏っているが、6.8mm弾を弾くことは出来なかったらしい。


 遠距離からの狙撃ならばラウラの方が上だけど、中距離での狙撃ならば優秀な選抜射手マークスマンだったというカレンさんに鍛えられたカノンの方が上だ。


「頼もしいな」


「嬉しいですわ、お兄様」


 アンチマテリアルライフルを折り畳んで背負った俺は、狙撃を終えたばかりの妹分にそう言うと、彼女の頭を撫でてから奥にある道へと歩き始めた。



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