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異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる  作者: 往復ミサイル
第十七章 ブラスベルグ攻勢
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吸血鬼たちの覚悟


 その猛攻は、暴風雨としか言いようがなかった。


 星空を埋め尽くしてしまうほどの白煙を夜空に刻み付けて飛来した無数のミサイルが、砲弾や弾幕で撃墜されたミサイルの爆風を突き破り、必死に抵抗するイージス艦たちに牙を剥く。アメリカが生み出した世界最強のイージス艦の船体や艦橋の側面をミサイルたちが突き破り、灰色に塗装された船体を容赦なくへし折っていった。


 火達磨になったイージス艦の破片が海へと降り注ぎ、へし折られた船体が漆黒の海へと沈んでいく。


 仲間たちが次々にミサイルの集中砲火を叩き込まれて轟沈しているにも関わらず、数隻のアーレイ・バーク級たちは無数のミサイルを次々に迎撃し、奮戦していた。


 ミサイルを少しでも回避するために動き回りながら、CIWSや速射砲で必死に弾幕を張り、夜空の真っ只中から飛来するモスキートの群れを撃墜していく。白煙で埋め尽くされた夜空の一部で緋色の爆炎が産声を上げたが、すぐに後続のミサイルが生み出す白煙がそれを覆ってしまう。


 やがて、抵抗を続けていたアーレイ・バーク級の艦橋を、CIWSの弾幕を躱した3発のモスキートが蹂躙した。爆炎が艦橋を抉り、艦内の隔壁を容赦なく吹き飛ばして乗組員たちを火達磨にしていく。火柱が吹き上がったかと思うと、アーレイ・バーク級の船体が真っ二つに折れ、そのまま沈み始めた。


 ミサイルを使い果たしていたとはいえ、航空機や対艦ミサイルを容易く撃ち落としてしまうことが可能なイージス艦たちを圧倒的な数のミサイルで撃滅してしまったのは――――――――テンプル騎士団艦隊へと総攻撃をしている最中だった吸血鬼たちの艦隊の後方から現れた、大艦隊であった。


 ハープーンによる奇襲でビスマルクのレールガンに損傷を与え、使用不能にする戦果をあげた倭国支部艦隊の後方に現れた大艦隊の大半は、艦橋の両脇にミサイルが装填された巨大なキャニスターを搭載した、ソヴレメンヌイ級駆逐艦やウダロイ級駆逐艦であった。数隻の駆逐艦の隊列の中心には、同じくミサイルのキャニスターをこれでもかというほど搭載されたスラヴァ級巡洋艦が鎮座している。


 その駆逐艦と巡洋艦で構成された隊列に護衛されているのは、これでもかというほど強力なミサイルを搭載したキーロフ級巡洋艦である。本来ならば転生者の能力では原子炉や核燃料を生産することはできないため、原子力が必要となる兵器を運用する場合は通常の動力に変更しなければならないのだが、原子炉や核燃料の製造ができる技術を持つ殲虎公司ジェンフーコンスーのおかげで、キーロフ級に搭載されているのは”本来の動力機関”となっていた。


 圧倒的な数のミサイルを搭載している艦隊の中央に鎮座しているのは、巨大な2種類の空母の群れである。


 片方はテンプル騎士団や殲虎公司でも運用されている、ロシアのアドミラル・クズネツォフ級空母であった。甲板の上では対戦車ミサイルや地上を攻撃するための武装を搭載した艦載機たちが出撃の準備をしているのが分かる。合計で20隻のアドミラル・クズネツォフ級空母から一斉に艦載機が飛び立てば、瞬く間に地上部隊を壊滅させてしまうほどの容赦のない空爆が始まるのは想像に難くない。


 その艦載機の中に、”対艦ミサイル”を搭載している機体は1機もいなかった。


 モリガン・カンパニーと殲虎公司ジェンフーコンスーの連合艦隊によるミサイルの飽和攻撃により風前の灯火としか言いようがないほど弱体化した吸血鬼たちの艦隊は、もはや眼中に無いのだ。


 300隻以上のソヴレメンヌイ級駆逐艦やウダロイ級駆逐艦に護衛された50隻のスラヴァ級とキーロフ級を引き連れた大艦隊は、イージス艦たちを瞬く間に殲滅してしまったミサイルの飽和攻撃を何度も繰り返せるほどの数のミサイルを、まだ温存しているのだから。


 そしてその大艦隊の中心に鎮座しているのは―――――――アドミラル・クズネツォフ級空母よりも更に巨大な、『ウリヤノフスク級原子力空母』であった。


 実戦どころか航海すら経験したことのない、ロシア製の巨大な原子力空母である。無数の駆逐艦や巡洋艦に護衛された5隻のウリヤノフスク級の甲板の上でも、対戦車ミサイルやロケットポッドを搭載した艦載機たちが出撃の準備をしていた。


 艦隊の後方には、合計で160隻のミストラル級強襲揚陸艦が航行しており、艦内では上陸して吸血鬼たちを殲滅する海兵隊の兵士たちが出撃の準備をしている。


 もし仮に、この大艦隊の規模が3分の1であったとしても、吸血鬼たちを殲滅するには十分な規模であったことだろう。


 だが―――――――吸血鬼たちは、彼ら(覇者)の逆鱗に触れてしまったのだ。


 いくら輸送艦と誤認してしまったとはいえ、彼らの家族や友人たちが乗っていたグランバルカ号を撃沈し、何の罪もない人々を海の藻屑に変えてしまったのだから。


 吸血鬼たちがグランバルカ号を撃沈しなければ、この大艦隊がウィルバー海峡へと派遣されることはなかったのである。


「アーレイ・バーク級、全滅を確認」


 連合艦隊旗艦『ウリヤノフスク』のCICの中で、乗組員が報告する。


 CICの中にある巨大なモニターを見つめていたシンヤは、頷いてから眼鏡をかけ直した。


 本来ならば、この巨大な原子力空母のCICには、圧倒的な兵力を誇るモリガン・カンパニーの総大将(魔王)が居座って指揮を執る筈である。しかし彼の兄は後方から指揮を執るよりも、総大将であるにもかかわらず銃を装備し、最前線で兵士たちと共に戦うことを好む男である。


 それゆえに、その男(リキヤ)はもう既に後方の強襲揚陸艦へと妻たちと共に移動し、上陸する準備をしているところであった。


「よし、”前衛突撃艦隊”を前進させて、敵のビスマルク級とアドミラル・ヒッパー級にもう一度ミサイル攻撃をさせてくれ」


「はっ」


 全ての艦でもう一度飽和攻撃を実施するのではなく、大艦隊の先頭を航行する10隻の駆逐艦と2隻のスラヴァ級巡洋艦で構成された前衛突撃艦隊にミサイル攻撃を命じたのは、対艦ミサイルを温存するためである。


 切り札であるレールガンを失った挙句、2隻の空母と虎の子の7隻のアーレイ・バーク級を失った吸血鬼たちの艦隊は急激に弱体化していた。残っているのはテンプル騎士団艦隊と交戦中の2隻のビスマルク級と、レールガンが使用不能になったビスマルクと、そのビスマルクを護衛するアドミラル・ヒッパー級重巡洋艦の2隻のみである。


 前者は既に手負いであるため、複数の超弩級戦艦を運用しているテンプル騎士団艦隊に蹂躙されるのは時間の問題だろう。


 たった3隻の艦隊を撃沈するのに、100発以上の対艦ミサイルの攻撃など不要であった。イージス艦なのであれば大規模な飽和攻撃を敢行し、これでもかというほどミサイルをお見舞いして轟沈するのだが、損傷したビスマルク級もろとも2隻の重巡洋艦を海の藻屑にするのであれば、12隻の艦によるミサイル攻撃で十分である。


 しかもその前衛突撃艦隊の旗艦を務めるのは、第二次転生者戦争から生還したソヴレメンヌイ級駆逐艦の156番艦『メルクーリイ』であった。


 モリガン・カンパニーがソヴレメンヌイ級駆逐艦の運用を始めた頃から活躍している古参の駆逐艦である。味方の戦果を頻繁に横取りしていくため、味方の艦からは『戦果泥棒』と呼ばれているらしい。


 本来は第122哨戒艦隊に所属していたのだが、吸血鬼の撃滅のために前衛突撃艦隊の旗艦を担当することになったのである。


 前衛突撃艦隊が動き始めたのを確認したシンヤは、近くに置いてあったティーカップを拾い上げた。











 前進を始めた前衛突撃艦隊の駆逐艦や巡洋艦に搭載されたキャニスターから、またしてもモスキートの群れが躍り出る。


 キャニスターから解き放たれた24発のモスキートたちは、先ほどの飽和攻撃と比べると規模はかなり小さかったものの、イージスシステムを搭載していないアドミラル・ヒッパー級重巡洋艦とビスマルクを仕留めるには十分な数であった。


 下手をすれば、数発命中するだけで超弩級戦艦ですら轟沈する代物である。


 飛翔するモスキートの群れを迎撃するために、アドミラル・ヒッパー級とビスマルク級からシースパローの群れが解き放たれる。


 シースパローの群れはモスキートの群れと真正面から突進していった。


 夜空の真っ只中でミサイル同士がぶつかり合い、緋色の爆炎がいくつも産声を上げる。その爆炎に巻き込まれたミサイルたちが更に誘爆し、爆炎がどんどん肥大化していく。


 爆炎を突破したモスキートたちへと放たれたのは、高角砲の代わりに搭載された速射砲やCIWSたちの弾幕であった。イージス艦と比べると命中精度は劣るものの、搭載している数はアーレイ・バーク級よりもはるかに多い。そのため弾幕の規模はこちらの方が上である。


 CIWSの砲弾に先端部を撃ち抜かれた対艦ミサイルが爆発し、後続のミサイルを巻き込む。必死に迎撃する3隻の弾幕は飛来するモスキートたちに猛威を振るったが――――――――全てのミサイルを撃墜することはできなかった。


 唐突に爆炎に風穴が開いたかと思うと、その爆炎に風穴を穿った1発のモスキートが、迎撃を続けていた重巡洋艦『アドミラル・ヒッパー』の後部甲板に鎮座する主砲を食い破った。装填されていた砲弾が誘爆して、後部甲板に火柱が生まれる。アドミラル・ヒッパーの船体がぐらりと揺れ、速度が急激に落ちていく。


 そこに2発目のミサイルが直撃し、もう1つの火柱が生まれた。


 アドミラル・ヒッパーの艦橋を直撃したミサイルによって艦橋が木っ端微塵に吹き飛んでしまったのである。


 その火柱の傍らを通過したミサイルの群れが牙を剥いたのは、レールガンを使用不能にされたビスマルクであった。搭載された速射砲たちが必死に弾幕を張るが、いくら複数の速射砲を搭載して防御力を底上げしたとはいえ、イージスシステムを搭載していないため、迎撃できる確率はイージス艦と比べると低いと言わざるを得ない。


 辛うじて2発のモスキートを撃墜することに成功したものの、その弾幕を躱した1発のモスキートが、ビスマルクの後部甲板に容赦なく襲い掛かった。


 第三砲塔のすぐ脇を貫いた爆炎が、艦内を蹂躙する。超弩級戦艦ですら数発で轟沈させてしまうほどの破壊力を持つ対艦ミサイルの爆風が隔壁を突き破り、乗組員たちを次々に焼き殺していく。幸いアドミラル・ヒッパーのように装填されていた砲弾が誘爆することはなかったものの、砲塔の付け根に大穴を開けられたせいで第三砲塔が使い物にならなくなってしまった。


 速度が落ちたビスマルクに3発のミサイルが襲い掛かるが、そのうちの2発は必死に迎撃を続けるプリンツ・オイゲンが撃墜した。


 しかし、残りの1発を迎撃することはできなかったため、ビスマルクは強烈な対艦ミサイルをまたしても叩き込まれる羽目になってしまう。


 プリンツ・オイゲンが迎撃に失敗したモスキートは、よりにもよって艦橋の左側に搭載されているトマホークのキャニスターを直撃した。搭載されていたトマホークが誘爆し、周囲に搭載されていたCIWSや速射砲の砲塔もろともビスマルクの装甲を抉り取る。


 左舷に開いた大穴から黒煙と火柱を吹き上げながら、ドイツが生み出した超弩級戦艦は、少しずつ左舷へと傾斜していくのだった。












「第三砲塔、使用不能!」


「左舷、火災と浸水はどうなってる!?」


「くそ、右舷に注水しろ! このままじゃ転覆するぞ!!」


 乗組員たちの報告を聞きながら、アリアは唇を噛み締めていた。


 もう、この戦いに勝利することはできないだろう。後方から、世界最強の勢力が派遣した大艦隊が襲い掛かってきたのだから。


 切り札であるレールガン(リントヴルム)も使用不能となり、圧倒的な数のミサイルによって7隻のイージス艦たちも海の藻屑となってしまった。もし仮にイージス艦たちがミサイルを温存していたとしても、あの凄まじい飽和攻撃を全て迎撃することはできなかったかもしれない。


「アリア様、アドミラル・ヒッパーが沈みます」


「…………乗組員の救助はプリンツ・オイゲンに任せなさい」


「ビスマルクは救助しないのですか?」


「…………」


 乗組員に尋ねられたアリアは、息を吐きながら目の前のモニターを睨みつけた。


 テンプル騎士団艦隊の正面に立ち塞がり、テンプル騎士団艦隊旗艦『ジャック・ド・モレー』に丁字戦法で集中砲火を叩き込んでいた3隻のビスマルク級戦艦も、すでに戦艦『ティルピッツ』のみになっていた。どうやらあの飽和攻撃の最中に4番艦『ファルケンハイン』も撃沈されてしまったらしく、奮戦している戦艦の反応は2番艦ティルピッツしか見当たらない。


 いくら優秀な戦艦とはいえ、たった1隻でテンプル騎士団艦隊を食い止めることは不可能だろう。奮戦しているティルピッツも、轟沈したルーデンドルフとファルケンハインと同じ運命を辿ることになるのは想像に難くない。


 しかし―――――――3隻の戦艦の集中砲火を浴びた挙句、対艦ミサイルを叩き込まれたジャック・ド・モレーも傾斜している状態である。


 テンプル騎士団艦隊の旗艦だけでも道連れにできるかもしれない。


「…………リントヴルムは発射できるかしら?」


「アリア様、正気ですか!?」


「出力は50%以下でも構わないわ」


「アリア様…………」


「―――――――幸い、観測気球は無事です。射程距離は大幅に低下しますが…………40%ならば、1発だけ発射できます」


 報告してくれた乗組員に向かって微笑んだアリアは、目を瞑った。


 すでにビスマルクは2発―――――――レールガンを使用不能にした一撃を含めれば3発だ―――――――も対艦ミサイルを叩き込まれており、航行可能な速度は急激に低下している。しかし、乗組員たちが応急処置をしてくれていたらしく、敵の対艦ミサイルで使用不能になったリントヴルムは、40%ならばあと一発だけ発射可能であった。


 電力が減っているため、射程距離はジャック・ド・モレーの主砲と同等の距離になってしまうが――――――――手負いの超弩級戦艦に止めを刺すには、十分な威力である。


 敵艦の主砲の射程距離内まで接近するということは、敵艦の主砲で撃沈される恐れがあるという事だ。つまり、ビスマルクはほぼ確実にこのウィルバー海峡で沈むことになるだろう。


 確実に沈む戦艦が、味方を救助するわけにはいかない。


「プリンツ・オイゲンはアドミラル・ヒッパーの乗組員を救助し、ディレントリア方面まで撤退させなさい。…………ビスマルクの乗組員も、希望するならばプリンツ・オイゲンまで泳いで」


「アリア様、まさか…………!」


 プリンツ・オイゲンはまだ被弾していない。近代化改修によって向上した速度ならば、ディレントリアまで逃げ切ることは可能だろう。


 それに、後方からモリガン・カンパニーの艦隊が襲い掛かってきたとはいえ、まだ完全に包囲されているわけではない。すぐにディレントリア方面に進路を変更して最大戦速で逃げれば、撃沈される前にディレントリアに辿り着くことができるに違いない。


「―――――――諸君、一緒に戦ってくれてありがとう」


 そう言いながら、アリアはCICの中にいる同胞たちに頭を下げるのだった。


 


 


 

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