転生者がパパと一緒に狩りに行くとこうなる
親父が帰ってきたのは、いつもよりも遅かった。
いつもは6時くらいには帰ってくるんだが、今の時刻は午後7時だ。仕事が長引いたんだろうか?
廊下の方からラウラに手を引っ張られながらリビングへとやって来た親父は、オリーブグリーンとモスグリーンの迷彩模様の上着を椅子に掛けてから腰を下ろす。先ほどまで銃をぶっ放していたのか、俺の近くに腰を下ろした親父の身体からは火薬の臭いがする。
親父から火薬の臭いがするのはいつもの事だ。依頼を引き受ければライフルを肩に担ぎ、魔物や人間に向かってぶっ放すのが親父の仕事。現代兵器を主に使う以上は必ず付き合わなければならない臭いだ。最初のうちは物騒な臭いだと思ってたんだが、最近は全く気にならなくなっている。
俺の隣の椅子に腰を下ろしたラウラが、手を合わせて元気に「いただきますっ!」と言ってから、目の前の皿に置かれているパンに向かって手を伸ばす。俺も同じように言ってからスプーンを拾い上げると、まだ湯気を出しているシチューの皿の中へとスプーンを潜り込ませた。
いつも料理を作ってくれるのは母さんだ。エリスさんは母さんが料理を作っている間は俺たちの遊び相手をするか、洗濯物を畳んでいる。何で料理を作らないんだろうか? もしかして、料理が下手なのか?
母さんの料理は、前世の俺の料理よりも美味い。あの前のクズ野郎の分も作ってやってたんだが、あいつはいつも文句ばかり言ってたからな・・・・・・。
「ねえ、パパ! あしたのおしごとはおやすみ?」
「ん? ああ。どうしたんだ?」
「あしたは狩りにいくの?」
「狩り? ああ、行くよ?」
なんだ? ラウラも狩りに行きたがってたのか?
もし出来るならば、俺も狩りに連れて行ってもらいたいものだ。もしかしたら銃をぶっ放せてもらえるかもしれないし、最強の傭兵ギルドに所属している傭兵が銃をぶっ放すのを見る事ができるかもしれない。
今の親父は前世で彼女がいなかった俺からすれば美女を2人も押し倒した許しがたい変態親父だが、彼が銃を使っているところを是非見てみたい。
「ねえ、ラウラも狩りにいきたい!」
「ラウラも? 危ないぞ?」
まだ3歳児だからなぁ・・・・・・。
この家が建っているのは、ネイリンゲンという街の外れにある小さな森の中なんだが、この森には他の森と違って魔物が生息していないんだ。数年前に騎士団がここに生息していた魔物を掃討してしまったらしく、ここに生息しているのは草食動物や肉食動物だけらしい。
肉食動物も生息しているから危ないよなぁ・・・・・・。やっぱり、連れて行ってもらえないのかな。
どうしよう。諦めようかな? でも、やっぱり行ってみたいなぁ・・・・・・。俺もお願いしてみようかな。
「だいじょうぶだもん!」
「おとうさん、ぼくも狩りに行きたいな・・・・・・」
「タクヤもか? うーん・・・・・・」
お願いです、お父さん。連れて行ってくださいよぉ。
腕を組みながら悩む親父。もしかしたら頷いてくれるんじゃないかと思っていると、俺の向かいの席でシチューを口へと運んでいたエリスさんが、目を細めながら首を横に振る。
「ダメよ、ラウラ」
「えぇ!? ママ、なんで!?」
「森には狼さんや熊さんがいるのよ? 食べられちゃったらどうするの?」
「たべられないもん! ラウラがやっつけちゃうんだから!」
そう言って胸を張るラウラ。でも、剣術も習っていない上に魔術も使った事がない3歳児では肉食動物に太刀打ちできるわけがない。あっさり食い殺されるだけだ。もし剣術と魔術を学んでいたとしてもあまり結果は変わらないだろう。
「ねえ、おとうさん。おねがい」
もう一度頼んでみる。これで断られたら諦めるしかないな。もう少し成長するまで待つしかない。
俺とラウラは悩む親父の顔をじっと見つめていた。さすがに母親に反論してまでお願いしてくる2人の子供に見つめられると、大黒柱でもかなり悩んでしまうようだ。
すると、親父はちらりと母さんの方を見た。逃げたのかと思ったが、どうやらまだ俺たちが狩りに行く事について止めようとしていない母さんに判断してもらおうと思っているらしい。エリスさんも親父のその視線に気づいたらしく、エプロンを外してからパンをガルちゃんの皿の上に置く母さんの方を見つめる。
見つめられていることに気付いた母さんは、にやりと笑いながら自分の分のパンを手に取った。
「・・・・・・私たちの子供だ。大丈夫だろう」
「エミリア・・・・・・」
おお、いいのか!?
お母さんは賛成してくれるって事だよな! さすがお母さん!! 俺、絶対成長したら主にお母さんに親孝行するよ!! お母さん、本当にありがとうッ!!
「やった!」
「ありがとう、おかあさん!」
ラウラと一緒に大喜びする俺を見て、パンを齧っているガルちゃんがニヤニヤと笑っている。その隣に座るエリスさんは、苦笑いしながら肩をすくめていた。どうやらこれ以上は反論しないらしい。
母さんが狩りに行っていいと認めてしまったから、自分も認めるつもりなんだろう。
「ただし、お前たちは銃を撃っちゃダメだ。パパの狩りを見学するだけだからな?」
「はーいっ!」
「うん、おかあさん!」
優しいお母さんだなぁ・・・・・・。
ありがとう、お母さん。
「パパ、はやくはやく!」
「あはははっ。ラウラ、はぐれるなよ?」
巨大な木の根の上に乗って手を振るラウラ。元気がいいお姉ちゃんだが、はぐれてしまわないか心配だ。俺は親父に手を繋いでもらいながら歩いている。
変態親父と手を繋ぐ羽目になったが、はぐれる心配はないし、パパが肩にかけている得物を間近で見る事ができる。
親父が肩にかけているのは、イギリス製ボルトアクション式ライフルのリー・エンフィールド。第一次世界大戦と第二次世界大戦で使用されたライフルで、世界大戦の後にインドで改良されたタイプや、弾薬を別のものに変更してスナイパーライフルに改良したL42A1もある。親父が肩にかけているのは、第一次世界大戦中に使用されたリー・エンフィールドMkⅢだ。
ボルトアクション式というのは、1発ぶっ放したら銃身の横に装着されているボルトハンドルというハンドルを引く必要のあるライフルの事だ。第二次世界大戦の頃のライフルは殆どこのボルトアクション式か、アメリカのM1ガーランドのようにボルトハンドルを引く必要のないセミオートマチック式のどちらかだった。
このライフルの特徴は、他のボルトアクションライフルよりも弾数が多い上に連射がし易いという点だろう。ロシア製のモシン・ナガンや日本製の三八式歩兵銃の弾数は5発なんだが、なんとこのリー・エンフィールドは10発も弾丸をマガジンの中に入れておく事ができる。弾数が他のボルトアクションライフルよりも多いため、何度も再装填する必要がない。しかもボルトハンドルを素早く引く事ができるため、連射速度でも他のボルトアクションライフルを上回っていたんだ。
使用する弾薬は、旧式だが大口径で攻撃力の高い.303ブリティッシュ弾だ。
親父はそのイギリス製のボルトアクションライフルに、狙撃用のスコープを装着していた。
凄いな。銃が存在しない筈の異世界で、本物のリー・エンフィールドが見られるなんて・・・・・・。
「ねえ、おとうさん」
「ん?」
「いつか、ぼくにも銃のうちかたを教えてくれる?」
「おう、もう少し大きくなったらな。その時はお姉ちゃんも一緒だぞ?」
「うんっ!」
やった!
何歳くらいになったら教えてくれるんだろうか? 5歳か6歳くらいか? 10歳だったらあと7年も待たないといけないから、出来るならば5歳か6歳くらいの時に教えてほしいなぁ・・・・・・。
「あ、パパ!」
「ん?」
「しかさんがいるよ!」
「鹿?」
なんだ? もうラウラは獲物を見つけたのか?
おいおい、お父さん。しっかりしてくれ。3歳の娘に先を越されてるじゃねえか。
ラウラが指を指す方向には、確かに鹿が見えた。俺たちに背を向けた状態で倒木の周囲に生えている草を食べているようだ。がっしりした体つきの鹿で、頭からは立派な角が生えている。
はしゃいでいるラウラの声は聞こえていた筈だが、鹿はまだ草を喰い続けている。天敵になる魔物がいないせいで、警戒心が半減しているのか?
親父も鹿を発見したらしく、肩にかけていたリー・エンフィールドの銃床を肩に当てながらトリガーに指をかけ、スコープを覗き込む。ちらりと銃を構えている親父を見上げていると、スコープを覗く親父の真っ赤な目が一瞬だけ見えた。
その目つきは、いつもの優しい親父の目つきではない。戦場で敵に銃を向け、何人も敵を葬ってきた傭兵の鋭い目つきだ。もし親父がスコープを覗き込まず、こんな目つきで俺の事を睨みつけてきたら、俺は一瞬で戦意を恐怖で台無しにされてしまうに違いない。親父の目を見ただけでビビってしまってるんだからな。
やっぱり、この変態親父は本当に最強の傭兵なのかもしれない。
「2人とも、耳を塞いで」
「うんっ!」
親父ではなく、今から親父に仕留められる鹿を見つめていたラウラが元気に返事をしてから耳を塞ぐ。俺もしゃがみながら耳を塞ぐが、親父の滅茶苦茶怖い目を目の当たりにしてしまったせいなのか、ラウラみたいに笑えない。
目つきがマジで全然違うんだよ。別人じゃないかと思っちまったほどだ。
その直後、俺のすぐ近くで轟音が響き渡った。親父がついにトリガーを引いたんだ。リー・エンフィールドの銃声で恐怖をすべて吹き飛ばされた俺は、一瞬だけ親父が構えているライフルを見上げてから鹿を凝視する。
親父がぶっ放した.303ブリティッシュ弾は轟音を引き連れながら巨木の群れの真っ只中を疾駆すると、途中で木の幹に激突することなく倒木の近くへと達し、銃声を聞いて大慌てで逃げようとしていた鹿の後頭部を直撃した。
.303ブリティッシュ弾の運動エネルギーに突き飛ばされた鹿は大きな角をぐらりと揺らすと、そのまま目の前にある自分が食べていた草むらに顔面を押し付けるように崩れ落ちてしまう。
後頭部を弾丸で撃ち抜かれたんだ。いくら異世界の鹿でも即死だろう。
銃身の右側に装着されているボルトハンドルをがっちりとした右手で引き、空になった薬莢を排出する親父。獲物を仕留めたことを確認した親父は静かにライフルを下ろすと、まだ銃声の残響が飛び回る森の中で俺の顔を見下ろした。
距離は100mくらいだったが、更に遠距離の敵にも何度も命中させたことがあるんだろう。目を輝かせながら親父の顔を見上げていると、同じく目を輝かせながら鹿を凝視しているラウラの「すごい・・・・・・! しかさんをやっつけた!」というはしゃぐ声が聞こえてきた。
俺は実物のリー・エンフィールドを目の当たりにして目を輝かせているのに・・・・・・。
「よし、今夜はママたちに鹿肉でご飯を作ってもらおうな」
「わーいっ! おにくだぁっ!」
お姉ちゃん、はしゃぎ過ぎだよ・・・・・・。
それにしても、随分とでかい鹿だな。前に俺がいた世界の鹿よりもでかいんじゃないか?
親父は周囲に肉食動物がいないか確認すると、ライフルを肩に掛けてから仕留めたばかりの鹿の死体に向かって走り出した。運び始めるつもりなんだろうか?
確かに、あの鹿はでかい。1頭だけでも今日の夕飯の食材はそろっているようなものだし、肉だけでなく毛皮や角も街に行けば売る事ができるだろう。前に母さんが街まで買い物に連れて行ってくれたことがあったんだが、この世界にはスーパーマーケットが存在しないため、殆ど露店や小さな店で食材や日用品が販売されている。中には魔物の素材や奇妙な壷を販売している露店もあった。
「ラウラ、いこう」
「うんっ!」
俺ははしゃぎ続けるラウラの手を引くと、親父を見失う前に親父の方へと向かって走り出した。すると親父はちらりとこっちの方を見てから、何故か慌てて巨大な雄の鹿をおんぶし始めた。どうやら鹿の頭に開いている風穴を見せないようにしているらしい。
俺たちは3歳児だからな。俺は大丈夫かもしれないが、ラウラが見たらトラウマになるかもしれない。
「ねえ、パパ。もう狩りは終わり?」
「うーん・・・・・・こんなに大きな獲物を仕留めたからなぁ・・・・・・。これ以上仕留めても、持って帰るのは大変だよ」
そうだよな。運ぶのが大変そうだし。
「えー!? もうおわり!?」
「あはは・・・・・・ごめんな、ラウラ」
「うー・・・・・・やだやだ! まだおわっちゃだめなのっ!」
いきなり駄々をこね始めるラウラ。十分な獲物を仕留めたし、これ以上仕留めても持って帰るのは難しいだろう。
駄々をこねる愛娘を見下ろしながら、親父は苦笑いしている。娘のために狩りを継続しても仕留めた獲物を持って帰ることは出来ないし、このまま狩りを終わらせても娘が満足しない。最強の傭兵も、自分の娘には弱いらしい。
仕方ないな。ラウラを説得するための言葉を思いつくまで少し時間稼ぎをしてやるか。
「ねえ、おとうさん。そのライフル持ってみてもいい?」
「ん? こいつをか?」
「うんっ」
親父の手を引っ張りながらそう言うと、親父は肩に掛けている得物をちらりと見てから、左肩にでかい鹿の頭を乗せたままライフルを手に取り、中に入っている.303ブリティッシュ弾を全て取り出した。
ライフルを撃たせるのはまだ早いが、持つのならば許してくれる筈だ。親父は「重いぞ?」と言うと、マガジンの中から全ての弾丸を抜き取り、俺にライフルを手渡してくれた。シングルアクションアーミーを装備した時と同じく、3歳児の身体だからかリー・エンフィールドがかなり重く感じる。まるでスナイパーライフルではなく、アンチマテリアルライフルでも手にしているような気分だ。
俺は何とか左手を伸ばして長い銃身の下を持つと、装着されているスコープを覗き込んだ。試しに目の前にある巨木の枝にスコープのカーソルを合わせてみる。
スコープから目を離そうとしていると、いきなり親父のがっしりした手で頭を撫でられた。親父の顔を見上げてみると、俺は俺の頭を撫でながらラウラの頭にも手を伸ばしているようだった。どうやらラウラを説得するために何と言えばいいか思いついたらしい。
「ラウラ、また連れてきてあげるからさ」
「ほんとう?」
「ああ、約束だ」
「うん! パパ、約束だからね!」
「ああ、いい子だ」
「えへへっ!」
親父に頭を撫でられて大喜びするラウラ。どうやらこれで駄々をこねるのは止めてくれるらしい。
それにしても、この親父は子供に優しいんだな・・・・・・。
当たり前なのかもしれないが、俺の親父はクズ野郎だったからなぁ。他の友達の父親が羨ましかったよ。小さい頃はもっと優しいお父さんが欲しいと何度も思っていた。小学校の頃の参観日にも来たことはないし、俺の誕生日が来ても何もしてくれない。いつもみたいにリビングで横になりながら酒を飲み、俺に八つ当たりするだけだ。
あんなクソ野郎に比べれば、この親父は本当に良い親父だ。これが本当の父親なのかな・・・・・・。
そんなことを考えていると、いきなり親父が鹿を背負ったまま立ち止まった。
「・・・・・・パパ、どうしたの?」
「ラウラ、こっちに来なさい」
何があったんだ? 親父の目つきが、またスコープを覗いてた時みたいに鋭くなっていく。
ラウラは手招きする親父の足元に駆け寄ると、親父が下ろしたでかい鹿の死体の陰に隠れた。俺も親父を見上げてから、同じように鹿の死体の陰に隠れる。
すると、目の前にあった城壁のように巨大な巨木の幹の陰から、漆黒の体毛に覆われた巨人のような肉食動物が、唸り声を上げながら姿を現したんだ。
「く、くまさんだ!」
「2人とも、隠れてろよ」
指を鳴らしてから、まるでウォーミングアップをする格闘家のように両肩を軽く回す親父。まさか、あの熊に素手で挑むつもりなのか!?
何か武器を使った方が良いんじゃないかと思った俺は、さっき親父から受け取ったライフルを返そうとしてはっとした。このリー・エンフィールドは親父の得物だ。俺が持ってみたいって言っちまったから、親父はわざわざ装填されていた弾丸を全部抜き取って俺に持たせてくれたんだ!
俺がライフルを持ってみたいって言わなければ、もう既に頭を撃ち抜いて熊を瞬殺していただろう。俺のせいで、親父は丸腰で夢魔に戦いを挑まざるを得なくなっちまったというわけだ。
熊の剛腕を目の当たりにしても、親父は全くビビっていない。むしろ逆ににやりと笑う。
その直後、いきなり親父の足元にあった地面の土が舞い上がったかと思うと、そこに立っていた筈の親父が、唸り声を発する熊に向かって突っ込んでいった。
一瞬で熊に急接近する親父。その瞬発力に驚いていると、いきなり振り上げた親父の右手の拳が、人間の皮膚ではなく赤黒いドラゴンの外殻のようなものに覆われ始める。しかも、俺の尻尾を覆っている外殻よりも分厚い。
あれが親父の能力なのかと仮説を立てながら見ていると、親父はその右手の拳を熊の顔面へと叩き込んだ。呻き声を発しながらよだれと鼻血をまき散らす熊。外殻を生成して硬化した拳でぶん殴られ、鼻の骨を木端微塵にされた熊は、体勢を崩すよりも先に親父の追撃を喰らう羽目になる。
何とか親父に反撃するために前足を振り上げる熊。だがその前足が振り下ろされる前に親父の左手の拳を前足の関節へと叩き込まれた。拳がめり込んだ剛腕の中から、まるで毛糸を引き千切るかのような筋肉繊維の千切れる音と、骨が木端微塵にされる音が聞こえてきた。骨を折られた剛腕が、まるで突風に吹き飛ばされた旗のように揺れる。
「УРааааааа(ウラァァァァァァァ)!!」
まるでソ連の兵士のような雄叫びを上げた親父が、ジャンプしてから空中で熊の顔面へと右足で回し蹴りを叩き込む。更に熊が体勢を崩している間に今度は反時計回りに回転を始めると、左足をぴんと伸ばし、なんと左足の脹脛の辺りから漆黒のブレードを出現させた。
あのブレードは何だ? ラウラの頭の角みたいに根元が真っ黒になっていて、切っ先に行くにつれて真っ赤になってるぞ?
足にブレードを装備してたのか? それとも、あの外殻で硬化する能力を利用したのか?
俺が仮説を完成させる前に展開したブレードで、親父は熊の顔面に斬りつけた。
ブレードを一瞬で収納した親父は、ブレードで顔面を斬りつけられた熊に背を向けたまま着地する。ため息をついた親父が後ろを振り向くと、熊が顔面から血飛沫を噴き上げ、断末魔を上げながら崩れ落ち始めた。
「―――――粛清完了だ」
熊が粛清された・・・・・・。
「パパ、すごい・・・・・・!」
「く、熊を倒しちゃった・・・・・・!」
思わず3歳児のふりではなく、転生する前の口調でそう言っちまった。
俺たちの方を見ながらにやりと笑い、親指を立ててくる親父。この親父に逆らったら俺たちもあの熊みたいに粛清されちまうかもしれない。反抗期になったら気を付けないと。
「す、すごいよパパ! こんなに大きいくまさんをやっつけちゃった!」
「お前たちも修行すれば大きい熊さんをやっつけられるようになるさ。――――よし、これで獲物が増えたぞ。早く帰ってママに料理してもらおうぜ」
「うんっ!」
「やったぁっ!」
俺たちも修行すれば熊を瞬殺できるようになるのかよ・・・・・・。
この親父には喧嘩を売らないようにしよう。