図書館の攻防戦
これで300話目になりました!
皆さんいつもありがとうございます!
図書館へと向かって進撃する軍勢の中を走行していた3両の無人型のルスキー・レノが速度を上げ、戦車部隊を追い抜いて行った。正確に言うならばこちらの戦車部隊が減速し、彼らを先行させたのだ。
メニュー画面を開いてその画面を何度かタッチすると、ルスキー・レノに搭載されているカメラからの映像がいくつか映し出された。今しがた先行していった部隊の映像と、他のルートを進行させている無人戦車の部隊からの映像である。
この無人型ルスキー・レノの任務は歩兵の支援だけではない。無人であるため撃破されても戦死者が出ることはないため、それを利用して殿に使ったり、強行偵察にも投入することができるのだ。それに車体の内部に強力な爆薬を搭載しているため、こちらから命令を下すか武装の弾薬がなくなれば、あの無人戦車部隊は最も脅威的であると見なした敵に最大速度で突っ込み、自爆するのである。その気になれば敵に突っ込ませて自爆させることも可能だけど、そうすればこいつらの生産につぎ込んだポイントが無駄になってしまうので、あくまでも自爆させるのは最後の手段でしかない。
頭上をテンプル騎士団のエンブレムが描かれた3機のスーパーハインドが通過していく。強襲揚陸艦から出撃したヘリ部隊だ。敵の戦闘機が壊滅したことによって制空権が確保されたため、あのように堂々と投入することができるようになったのである。
すでに歩兵部隊を降下させた彼らの役割は、図書館のちょっとした偵察だ。
どうやらシンヤ叔父さんは第二防衛ラインへ可能な限り兵力を投入しなければならないらしく、こっちに偵察部隊を派遣する余裕はないという。というわけで、テンプル騎士団のヘリ部隊をちょっとした偵察部隊として投入することにしたのだ。
とはいえ、敵が対空ミサイルを装備していた場合はミサイルの餌食になりかねないので、フレアをばら撒きながらすぐに退避してもらうことになるだろう。最低でも敵の規模と大まかな位置を確認してもらえれば、こっちも作戦を立てられる。
それに地上にはルスキー・レノ隊もいるので、無茶するのは彼らに任せるとしよう。
カメラの映像を見ているうちに、崩れかけの建物に『王立サン・クヴァント図書館』と書かれた看板を見つけた。空爆の影響で欠けた看板をズームしてから、俺はさらに無人戦車部隊に前進を命じる。
無人兵器の魅力は撃破されても死傷者が出ない事だ。だからいくらでも無茶をさせられるし、兵士を危険に晒しかねない任務を彼らに任せることもできる。欠点は人間のように臨機応変に対応できないため、動きや対応力が有人型の戦車と比べるとかなり遅いという事だ。何とか改善したいところだが、おそらく完全に消えるわけではないだろう。
乗り捨てられていた馬車をキャタピラで木っ端微塵に踏みつぶし、車体で店のショウウィンドウを蹂躙しながら前進する戦車部隊が、ついに攻撃を受けぬまま瓦礫の山と化した路地や大通りを通過し――――――砲塔を旋回させ、そこに辛うじて残っていた巨大な建物をズームする。
ヴリシアの伝統的な建築様式の面影を残しつつも、まるで産業革命で発展したオルトバルカに対抗するかのように華やかな彫刻や花壇で飾り立てられたその建物は、”図書館”というよりは貴族の別荘のようにも見える。空爆の爆風や近隣の建物の破片のせいで花壇は滅茶苦茶になり、正面玄関の前にある広場で剣を掲げながら直立する騎士の銅像は、首から上が吹っ飛ばされ、自慢の剣もへし折られていた。けれども建物そのものはそれほど被害を受けておらず、業者に依頼して修理すれば数日で営業を再開できそうな様子である。
そこが、俺たちの橋頭保となる予定の”王立サン・クヴァント図書館”だ。ここを確保して補給基地にし、それから中枢部へと侵攻する。そのためにこの図書館を確保しなければならない。
『こちらデルタ2-3。図書館上空に到達』
「どうだ?」
先ほど俺たちの頭上を通過していったヘリ部隊のコールサインだ。上空からは敵の位置を確認しやすいが、あまり夢中になっているとスティンガーのような対空ミサイルの餌食になりかねない。早いうちに目標を確認してから離脱してもらいたいものだ。
敵がミサイルでヘリを狙わないことを祈りながら、報告を聞き続ける。
戦闘ヘリは圧倒的な火力を持つ上に、それなりに装甲も分厚い。しかし自由自在に空を飛び回る戦闘機と比べればはるかに鈍重で、集中砲火を受けやすいのだ。
『団長、やっぱり敵は第二防衛ラインの防衛に夢中みたいですぜ。もぬけの殻ってわけじゃないですが、守備隊はかなり小規模だ』
「戦力差は予測できるか?」
『伏兵がいる可能性を除外すりゃ、ざっとこっちの3分の1程度でしょう』
3分の1か…………。
すぐに突撃を命じたくなったが、スーパーハインドのパイロットの報告に含まれていた”伏兵がいる可能性”という言葉が、口から飛び出そうとしていた号令をせき止める。
敵の罠である可能性もある。こうやって守備隊が小規模であるように見せかけ、こっちが油断して攻撃を仕掛けてきたら伏兵を出撃させて包囲し、そのまま殲滅するという作戦でお出迎えしてくれる可能性もあるという事だ。とはいえ、敵が本当にそんな作戦を用意しているかは分からないし、敵の規模が小規模だとは断言できない。
もう少し詳しく確認できるか、と彼に問いかけようとしたその時、無線機の向こうからパイロットの舌打ちと、何度も耳にした嫌な電子音が聞こえてきた。戦闘機よりも鈍重なヘリにとっての天敵である対空ミサイルにロックオンされたことを告げる電子音。かつてPAK-FAのコクピットの中でも散々耳にしたけれど、本当に心臓に悪い音だ。ミサイルに狙われているから回避しろという機体の催促。そしてその回避に失敗すれば、パイロットは戦闘機もろとも木っ端微塵。歩兵のように”敵兵に狙われているかもしれない”という恐怖ではなく、明確に”敵に狙われている”と分かる瞬間だ。きっと俺もヘリの操縦中にこの音を聴いたら、舌打ちをするに違いない。
『すいません、同志。ガールフレンドが遊びに来たみたいです』
ミサイルに狙われているというのにそんな冗談を言ったパイロットは、一緒に乗っているガンナーに『発射地点の確認も頼むぜ!』と言ってから通信を終えた。
目の前のメニュー画面から目を離し、図書館の上空を見上げる。そこではミサイルに狙われた2機のスーパーハインドがフレアをばら撒きながら飛び回り、地上から放たれた数発のスティンガーミサイルを回避しているところだった。辛うじてロックオンされなかった1機は旋回すると、機首のターレットに搭載された機関砲を地上に向けて撃ちつつ、回避を終えた味方の離脱を掩護している。
「あいつ、ガールフレンドを追い返しやがった」
受け入れたら木っ端微塵になるけどね。
『同志、こちらデルタ2-2。敵は図書館内に立てこもっている模様。中庭に戦車もいます』
「了解。あとは任せてくれ」
『ええ。では、補給に戻ります』
またガールフレンドが遊びに行ったら大変なことになりそうだからな。2発もガールフレンドがやってきたら修羅場になりかねない。
離脱していくスーパーハインドたちを見送りつつ、メニュー画面に映し出されているルスキー・レノからの映像をもう一度確認する。彼らは敵の守備隊がスーパーハインドに気を取られている隙に敷地内に入り込んだらしく、周囲の建物の残骸に隠れながら、こそこそと図書館内のスキャンを始めた。
狡猾な戦車だなぁ。
敵兵を発見したルスキー・レノがカメラの映像をズームし、画面の中に入り込んだ敵兵を調べ始める。映像に映っている敵が持っているのはどうやらG36らしいが、どんなカスタムをしているのかまでは見えない。
他のルスキー・レノたちも、立て続けに敵兵を発見し始めている。中には第二防衛ラインと送られていく敵兵を乗せたトラックを発見した奴もいるが、さすがに中庭にいるという戦車まで発見した奴はいないようだ。
「どう?」
映像を睨みつけていると、キューポラの中から身を乗り出したナタリアがいつの間にか一緒に映像を覗き込んでいた。
「本当に伏兵はいないみたいだ」
「第二防衛ラインにかなり引き抜かれてるみたいね」
確かに、真正面から進撃してくる大群を食い止めるため、ここから兵士を引き抜いて行かなければならないのだから、伏兵を用意しておく余裕があるとも思えない。それにルスキー・レノたちも伏兵らしき存在を感知できていないのだから、本当に敵の戦力はこっちの3分の1だと言えるだろう。
「アールネ、イッルとニパはどれくらいで到着する?」
『さっき母艦を飛び立ったらしい。到着まであと5分』
5分か…………。さすがに5分で陥落させるのは無理だろう。おそらく、あの2人の操るコマンチにも加勢してもらわなければならないかもしれない。
テンプル騎士団所属のヘリ部隊も、殆ど第二防衛ライン攻略の支援のために引き抜かれている。先ほど補給のために戻っていったスーパーハインドたちも、第二防衛ラインに歩兵を下ろし、航空支援を実行した帰りの途中だったのだ。
「…………よし、攻撃を開始する」
「ええ」
まず、偵察しているルスキー・レノたちに砲撃を命令する。第二防衛ラインに守られている敵兵たちは、予想外の砲撃でまず混乱する筈だ。そこを俺たちが攻撃する。占拠した後は図書館を補給基地にするのだから、少しは手加減しないとな。
目の前の画面の右下にあるメニューをタッチし、戦車部隊に砲撃命令を出す。すると画面に映し出されていた映像が次々に消えていき、いつものメニュー画面に戻っていく。
ルスキー・レノたちが、攻撃命令を受諾したのだ。
基本的に彼らは自立行動をするようになっているが、このように大まかな命令を出す事もできるのである。俺から発信された命令を聞き入れた利口な無人戦車たちは”敵を見る”任務を取りやめ、小さな砲塔に搭載された37mm砲をぶっ放す準備に入った。
自分自身の車体に塗装された迷彩の模様に極力合致する地点を検索し、そこに小さな車体を押し込んでいく。まるで小さな子供が自分のベッドに入っていくかのように車体を壁の大きな穴や廃墟の中に押し込んだルスキー・レノたちが、短い砲身の角度を調整し始め―――――――榴弾をぶっ放した。
もう既に攻撃命令は下っていたから、命令違反ではない。システムに何かしらのエラーでもない限り、彼らは決して命令違反を起こさない。人間のように感情が無いから殺す際に躊躇いを感じることはないし、人を殺したショックでPTSDに苛まれることもない。そういう点でも非常に便利な兵器である。
ドン、と轟音を響かせながら、立て続けに榴弾が着弾する。あくまで敵を攪乱させるための砲撃だからそれなりに手加減しているのだろう。補給基地に使う橋頭保が、本隊が到着した頃には何の変哲もない瓦礫の山になっていたら、きっと俺は親父にぶん殴られるに違いない。
「全車、前進!」
ナタリアの号令で戦車部隊が再び前進を始める。俺もルスキー・レノたちの戦いを見守るのをやめ、LMGの点検を始めた。銃身の上にフリスビーを彷彿とさせるパンマガジンを乗せたDP28は旧式のLMGだが、非常に頑丈な銃だ。しかも使用する弾薬はモシン・ナガンやウィンチェスターM1895と同じく7.62×54R弾であるため、破壊力とストッピングパワーならば現代の銃にも後れを取ることはない。
点検しているうちに、大通りを抜けた。
もう既に先行していたルスキー・レノが、図書館の窓の向こうから反撃してくる敵兵たちに機銃を掃射している。敵はまだ図書館の前に現れたチャレンジャー2に気付いていないらしく、発砲を続けている。おかげでマズルフラッシュがはっきりと見えた。
「耳塞げ!」
『撃て!』
『発射!!』
戦闘を進んでいたチャレンジャー2の砲身が火を噴き、図書館の2階にあるベランダへとキャニスター弾を放つ。砲撃する寸前に、ベランダの縁にバイボットを展開してMG3をぶっ放していた敵兵は戦車に気付いたみたいだけど、その頃には驚愕した彼らの顔面へと、砲弾の外殻を脱ぎ捨てたキャニスター弾の群れが襲い掛かっていた。
吸血鬼用に銀の小さな球体をこれでもかというほど詰め込んだキャニスター弾は、あっけなく人体をズタズタに引き裂いていった。雪の降り積もった地面に石を放り投げたかのように、命中した個所があっさりと消し飛ぶ。瞬く間にズタズタにされた敵兵たちがベランダの向こうに倒れていき、図書館の壁が血と脳漿で真っ赤に染まる。
後続のエイブラムスから、ぞろぞろとタンクデサントしていた歩兵たちが降り始める。隣に乗っていたイリナの肩を軽く2回くらい叩くと、彼女は頷いてから砲塔の上から飛び降りた。
俺も彼女に続いて砲塔の上から飛び降りる。ラウラは砲塔の上で敵兵を狙撃してから飛び降りると、ボルトハンドルを引き、改造されたアンチマテリアルライフルから20mm弾のでっかい薬莢を排出した。下手したら装甲車を破壊できるほど口径の大きいライフルで狙撃された敵兵は、間違いなくバラバラになることだろう。原形を留めていられるわけがない。
「ラウラ」
「ありがと」
念のため、彼女には対戦車用に20mm徹甲弾が入ったマガジンを1つ渡しておく。対戦車用と言っても、ライフルで戦車の装甲を貫通できたのは第二次世界大戦の中盤までだ。現代の戦車を撃破できるのはあくまでも戦車砲か、歩兵の持つロケットランチャーのみである。
けれど、もし装甲車が潜んでいた場合は通用するだろう。装甲車とはいえ、砲弾の直撃には耐えることはできないのだから。
ちなみに、俺のOSV-96にも14.5mm徹甲弾が入ったマガジンが用意されている。とはいえ、俺の能力でこういった特殊な弾丸を用意できる回数は再装填1回分のみ。スキルを装備すれば増やせるみたいだけど、俺はまだそのスキルをアンロックしていないのだ。
ライフル本体の左側に用意されたホルダーに、そのマガジンを取り付けてある。そっちを使う場合は通常のマガジンを取り外して、そのマガジンを装着すればいい。ちなみに徹甲弾と通常弾を識別できるように、徹甲弾のマガジンには赤い星のマークが描かれている。
「敵兵、3階のベランダにもいる!」
「3階のベランダに集中攻撃! MG3の連射力に注意!」
警告した瞬間、3回の射手がこっちにMG3を連射し始めやがった。第二次世界大戦でアメリカ軍やソ連軍の歩兵部隊に猛威を振るったMG42から驚異的な連射速度を受け継いだLMGは、容赦なく7.62mm弾を吐き出し、瓦礫の上に着弾していく。
俺たちは咄嗟に戦車の陰に隠れた。いくら人体を容易く食い破る銃弾の連射とはいえ、最新型の戦車の複合装甲は食い破れない。銃弾が弾かれていく音を聞きながらそっと身を乗り出して反撃しようとした瞬間、こっちにMG3を向けていた射手の頭に風穴が開いた。
「お?」
誰かが狙撃したのだ。驚きながら隣のエイブラムスの砲塔を見てみると、まるで母親に背負われるコアラの子供のように、がっちりした装甲に守られた砲塔の後ろからSV-98を構えた少女が、照準を3階に合わせているのが見えた。
確かあの子は、ラウラが狙撃を教えていた志願兵の中にいた狙撃手の1人である。素早くボルトハンドルを引いた彼女は再びスコープを覗き込むと、主のいなくなったMG3へと駆け寄る敵兵の頭を正確に撃ち抜き、こっちを見てからニヤリと笑う。
なるほどね、ラウラの教え子か。
狙撃手は彼女だけではない。他の戦車から飛び降りた数名の狙撃手がバイボットを展開してから地面に伏せ、窓の隙間や物陰から銃撃してくる敵兵を次々に狙撃していく。おかげで彼らの銃声が響き渡る度に、図書館から飛来する弾幕が驚くほど薄くなっていく。
「優秀なスナイパーだねぇ」
「当たり前だろ?」
DP28を連射しながら答えていると、ロケットランチャーを使おうとしていた数名の敵兵の上半身がまとめて千切れ飛んだ。
人体を千切り取るほどの破壊力を持つ銃弾で狙撃できる銃を持っているのは――――――ラウラしかいない。
「先生も優秀だからな。…………よし、突っ込むぞ! 続け!」
「「「「「「「「УРааааааа!!」」」」」」」」
チャレンジャー2の影から飛び出すと同時に、フルオート射撃で7.62×54R弾をばら撒く。ベランダにいた数名の兵士を薙ぎ倒すことができたみたいだけど、全員始末できたわけではない。辛うじて今の掃射を生き延びた兵士たちが死んだ仲間の骸を目の当たりにし、復讐心を肥大化させながら5.56mm弾の3点バースト射撃やセミオート射撃で反撃してくる。
G36には通常のアイアンサイトだけでなく、近距離用のドットサイトや中距離用のスコープが装備されている。だからカスタムをしていない状態でも、中距離までならば対応できるのだ。しかも銃そのものの命中精度も優秀である。
念のため胸や腹を外殻で覆った直後、1発の5.56mm弾が俺の胸に喰らい付きやがった。でも、キメラの外殻は5.56mm弾どころか20mm弾でも貫通は不可能。この外殻をぶち破って仕留めたいのならば、最低でも105mm以上の戦車砲でAPFSDSをぶち込まなければならない。
胸に被弾しても平然と突っ走りながらLMGを乱射する俺を見た敵兵は、きっとびっくりした事だろう。
入口から反撃していた敵兵を蜂の巣にしてやった直後、パンマガジンの中が空になった。俺は急いで空になったフリスビーのようなパンマガジンを取り外すと、新しいパンマガジンを装着する。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
「!」
すると、カウンターの影からいきなり敵兵が姿を現し、スコップを手にしたまま突っ込んできやがった。
俺は咄嗟に左手に持っている空のパンマガジンを握り締めると、一瞬だけ腕の力を抜き―――――――瞬発力をフル活用して、まるでフリスビーを放り投げるかのようにパンマガジンを敵兵の顔面へと思い切り放り投げる!
「ほぉぉぉぉぉぉぉら、ポチぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!」
「わんっ!?」
顔面にパンマガジンを叩き込まれた敵兵の腹に7.62mm弾のフルオート射撃を叩き込んで止めを刺し、息を吐く。
「タクヤ、大丈夫!?」
「ああ、何とか。パンマガジンのおかげで助かった」
「え?」
「ほら」
さっき倒した敵兵を指差すと、イリナは苦笑いしながらこっちを振り向いた。
顔面にパンマガジンを投げつけられた敵兵の顔面に、その投げつけたパンマガジンが突き刺さっていたのである。咄嗟に全力で放り投げたからなのだろうか。
俺も苦笑いしながら、イリナを連れて図書館の奥へと走っていった。