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タクヤとラウラとナタリアのパーティーに足りないもの

 魔術の発達した異世界では決して響き渡る事のない凄まじい轟音が、魔物たちの断末魔を押し流し、草原の静寂を木端微塵に粉砕する。蹂躙されているのは彼らの鳴き声だけではない。響き渡る銃声を突き破って飛んでいく弾丸の群れが、次々に魔物たちの身体を蜂の巣に変えていく。


 目の前の金髪の少女が銃を連射し、草原で襲い掛かってきたゴブリンたちを蜂の巣にしていく。まだ銃の訓練を始めたばかりであるため命中精度は低く、撃ち漏らしたゴブリンたちの唸り声が近づいてくるが、接近してきた奴らは俺が構えるG36Kのセミオート射撃によって頭を撃ち抜かれ、1匹も接近できずに殺され続けるという状況がずっと続いていた。


「し、しまった………!」


 残り2匹。しかも両方とも接近してきていて、距離も近いから容易く命中させられるというのに、彼女が持っていた銃のマガジンの中の弾薬が尽きてしまったため、トリガーを引いても獰猛な弾丸たちが発射されることはない。


 ぎこちない動きでマガジンを取り外そうとするナタリア。訓練を始めたばかりだから再装填リロードの動きは俺たちよりも遥かに遅い。しかもゴブリンが接近しているという状況が彼女を焦らせ、作業速度を一段と遅くさせているんだ。


 一瞬だけ頼れる赤毛のスナイパーと目を合わせた俺は、素早くG36Kを構えてセミオート射撃でゴブリンの頭を撃ち抜く。もう片方のゴブリンも仕留めてしまおうと思っていたんだが、照準を合わせようとした頃には既に別の銃声が響き渡り、ゴブリンの頭を正確に撃ち抜いていた。


 頭を撃ち抜かれて崩れ落ちるゴブリン。他に魔物がいないことを確認してから銃を下げた俺は、銃声にびっくりしながら再装填リロードを続けるナタリアの傍らへと駆け寄る。


「おいおい、大丈夫か?」


「え、ええ。ごめんね、足手まといになっちゃって………」


 やっと再装填リロードを終え、コッキングレバーを引いたナタリアは、訓練以外で扱った事のない異世界の兵器を構えたまま申し訳なさそうに言った。


「何言ってんだ。そいつ使った初陣にしては良い戦果だと思うぜ?」


 ナタリアにも、あのメニュー画面で生産した武器を渡してある。


 彼女が持つ銃は、PDWパーソナル・ディフェンス・ウェポンと呼ばれる種類の銃だ。SMGサブマシンガンのように小さい銃だがハンドガンの弾丸を連射するSMGとは異なり、このPDWは更に貫通力と攻撃力の高い弾丸を発射する。中にはアサルトライフルと同じ5.56mm弾を発射可能な代物もあるんだ。


 ナタリアに渡したPDWはまさにその5.56mm弾を使用する獰猛な代物だ。彼女が装備しているPDWは、アメリカ製PDWのマグプルPDR。FA-MASfelinのようにマガジンが後方にあるブルパップ式の銃で、空の薬莢を排出する方向を左右に切り替える事ができるという機能を持つ。更にSMG並みのサイズでありながらアサルトライフルと同じ弾薬を使うため、他のPDWと比べると攻撃力が高くなっている。


 マグプルPDRに施したカスタマイズは、ホロサイトとブースターの追加と、マガジンをG36系のマガジンへと変更した事の3つだ。ホロサイトとブースターを取り付けたのは照準を付けやすくするためと中距離でも狙撃できるようにするためだが、マガジンを変更したのは、俺のG36Kと同じ弾薬を使用するから、すぐに弾薬を分け合う事ができるようにするためだ。


 俺は場合によってはこの前生産したばかりのOSV-96で狙撃に回るだろうから、その場合はG36Kのマガジンを全部彼女に渡すことも出来る。弾薬とマガジンに互換性があった方が便利だし、現状では弾薬は再装填リロード3回分と最初から装着されている分しか用意されないから、弾切れを阻止するためにも他のメンバーと弾薬を分け合えるようにした方が便利というわけだ。


「そ、そうかな………?」


「そうだよ。なあ、ラウラ?」


「うん、今回が初陣だもん。ゴブリンをあんなにやっつけたのは凄いよ」


 そう言いながら草原の向こうを指差すラウラ。草原で横になっているゴブリンの数は15体ほどだろうか。騎士団ならば接近を許してしまうほどの数だが、俺たちは最後の2体以外は接近させずに撃破しているし、全員無傷だ。


 ナタリアに実戦を経験させるためという事であまり俺とラウラは手を出さなかったという事もあるが、ナタリアの戦果は初陣でゴブリン12体の射殺。近距離攻撃しかしてこない魔物が相手とはいえ、銃の使い方を習ったばかりで12体も射殺できたのだから良い戦果だろう。


 ちなみに彼女のサイドアームは、ラウラと弾薬を分け合えるようにMP443を渡してある。


 元々弓矢を主体にして戦っていたナタリアにとっては、剣よりも飛び道具の方が扱いやすいんだろう。弓矢と銃は全く違う武器だが、同じ飛び道具であるのだから距離などは参考にできる筈だ。


 銃を2つも渡したんだが、彼女はそれ以外にもまだコンパウンドボウを装備しているし、近距離用に大きめのククリ刀を持っている。おそらく愛着があったんだろう。冒険者としてダンジョンを調査している間ずっと彼女の身を守り続けた得物なのだから、俺たちもそれを使うなとは言っていない。


 それに、弓矢は当然ながら銃のように轟音がしないから、静かに狙撃するにはうってつけだ。魔物相手には攻撃力不足かもしれないが、対人戦ならば殺傷力は十分だろう。


 俺たちの敵は魔物ばかりではない。親父から受け継いだこのコートを身に纏い、フードに転生者ハンターのシンボルである真紅の羽根を付けている以上、他の転生者も狩らなければならないのだから。


 あとでナタリアに弓の使い方を教わっておこうかな。親父たちは使った事が無かったらしいし、モリガンのメンバーの中で唯一弓矢を使った経験のあるカレンさんも最終的にはマークスマンライフルを扱うようになってしまったらしいし。


「さて、そろそろ進むか?」


「そ、そうね」


「ふにゅ………」


 アサルトライフルを背負って歩き出そうとしていると、俺よりも一足先にスナイパーライフルを背中に背負っていたラウラがすかさず手を握ってきた。そしてナタリアがこっちを見て驚愕しているというのに、そのまま腕にしがみついて頬ずりを始める。


「ちょ、ちょっとラウラ。何でいちいちタクヤにくっつくのよ!?」


「ふにゅ? いいじゃん。タクヤの事大好きなんだもんっ」


「実の姉弟でしょ!?」


「腹違いだよー。えへへっ」


「…………」


 ナギアラントへと向けて出発してから数時間が経過しているんだが、今のところラウラとナタリアの喧嘩は一度もない。だが、ナタリアという異性を仲間にしたせいで彼女に俺を取られるかもしれないと警戒しているのか、ラウラは余計俺にくっついて来るようになってしまった。今まで歩く時は手を繋ぐ程度で満足してくれていたんだが、数時間前から彼女は歩く時も腕に抱き付いてくるため、正直に言うと非常に歩き辛い。


 彼女が重いというわけではないんだが、物理的にも歩き辛いし、たまにすれ違う他の冒険者や荷馬車の御者台に座る商人に見られるとかなり恥ずかしい。俺が男ではなく少女のような容姿をしているから彼氏と彼女ではなく仲の良い姉妹だと思われているのかもしれないけどな。


 でも、ラウラがナイフを引き抜いてナタリアと殺し合いをするよりはましだ。もしかしたら旅に出てからすぐに機嫌を悪くした彼女がナタリアに襲い掛かるのではないかと心配していたが、こんな感じにちゃんとラウラを甘えさせていれば、まるで友達同士のように楽しそうに会話をしている。


 もしかしたら、ラウラのヤンデレは治るんじゃないだろうか? そうすればハーレムが作れるようになるぜ………。


 そう思ってメニュー画面を開き、好感度をタッチ。ラウラの名前をタッチして彼女の好感度をチェックするが、好感度を意味するハートマークの色はヤンデレを意味する紫色から全く変わっていない。


 治らないのか………?


 少しだけ落胆しながら、今度はナタリアの好感度をチェックすることにする。彼女の好感度は今のところ1.5くらいだ。ハートマークが1つと半分だな。色はやや黄色っぽい。彼女はツンデレという事か。


 ツンデレか………。デレる前に俺の心が折れなければいいなぁ………。


 美少女に酷い事言われると滅茶苦茶傷つくんだよね。


「………今日は野宿かしら?」


「そうなるだろうなぁ」


 左手にしがみついて頬ずりを続けるラウラの頭を撫でながら橙色の空を見上げる。フィエーニュ村を出発した時からずっと広がっていた蒼空は、もう夕日に侵食されて変色し始めていた。あと数十分で日が沈んでしまう事だろう。


 ここは草原の真っ只中だ。周囲には宿屋などないし、管理局の施設もない。今夜は野宿するしかないな。そう思った俺は、ラウラの頭を撫でながら再び草原を歩き始める。


 ネイリンゲンの郊外に住んでいた時以外は、重々しく殺風景な防壁に囲まれた閉鎖的な王都で生活していたせいなのか、防壁のない開放的な草原で野宿をするのは何だかワクワクした。









「ねえ、あんたたち」


「ん?」


「ふにゅ?」


 焚火の炎に照らされながら、ついさっき仕留めたハーピーの肉を頬張っていると、焚火の向こうで焼けたハーピーの肉を齧っていたナタリアが話しかけてきた。昼食は道中ですれ違った商人から購入した干し肉とパンだけで済ませていたから空腹だったのか、隣にいるラウラは仕留めたばかりのハーピーの肉をもぐもぐと頬張ったまま顔を上げる。


「あの、思った事があるんだけど」


「思った事?」


「ええ。このパーティーの事なんだけど」


 パーティーの事だって? 半年だけとはいえ先に冒険者になっているのは彼女なのだから、アドバイスは聞いておいた方が良いだろう。俺たちは数日前に冒険者になったばかりの新人なのだから。


 噛み砕いた鶏肉のような味の肉を飲み込み、水筒の水を口に含んだ俺は、口の周りについていた小さな肉のかけらを手で取りながら聞き返す。


「足りないものがあると思わない?」


「足りないもの?」


「ふにゅ? アイテムならちゃんと買いそろえてあるよ?」


 足りないものをアイテムの事だと思ったのか、ラウラはポーチの中から3種類のエリクサーを取り出し始める。だがナタリアが言った足りないものはアイテムの事ではなかったらしく、彼女は焚火の向こうで首を横に振った。


「パーティーの編成についてよ」


「それは仕方ないだろ。まだ旅に出たばかりなんだし」


「そうだよ。それに、ちゃんとバランスはとれてるよ?」


 人数は確かに少ないが、ラウラの言う通りだと思う。俺とナタリアが前衛で、後方からラウラが狙撃で支援してくれるのだから、偏っているわけではない筈だ。それに俺も狙撃の訓練を受けているから、臨機応変に距離を切り替える事ができる。


 ラウラと同時に真顔でナタリアにそう言い返すと、彼女はぽかんと口を開けてからため息をついた。


 何が足りないんだ?


「だって、タクヤとナタリアちゃんが前衛で、私が狙撃すればいいじゃん。足りなくないよ?」


「あのね…………落ち着きなさい。あなたたちは攻撃の事しか考えてないのよ」


「防御か? でっかい盾でも持った槍使いを仲間に入れろって事なのか?」


「えぇ? 盾なんて銃弾で貫通できるし、足手まといだよぉ」


 それに、防御力ならば俺たちは外殻を生成できるから、場合によってはナタリアを庇うことも出来る。防御力では問題はない筈だ。


 一体何が足りないんだ?


「あのね…………あなたたち、いつまでも回復をアイテムに頼るわけ?」


「ふにゅ?」


「このパーティーに足りないのはね―――――――治療魔術師ヒーラーよ」


 すっかり治療魔術師ヒーラーの事を忘れていた。俺は思わず頭を抱えながら苦笑いする。


 治療魔術師ヒーラーは、簡単に言えば治療魔術が専門の魔術師の事だ。光属性の治療魔術であるヒールや、更に回復力の高いヒーリング・フレイムなどの魔術に精通した魔術師の総称で、冒険者のパーティーの中にはほぼ必ず1人は含まれていると言われるほど重要な存在である。


 攻撃用の魔術は苦手であるため魔物と遭遇すると危険だが、治療魔術師ヒーラーがいれば、戦闘中に素早く回復する事ができるし、アイテムも節約する事ができる。


 今まで回復しなければならないほどダメージを受けたことはないし、ほぼ無傷で戦いが終わっているから回復する必要もなかったんだが、これからは強敵も出てくるだろうし、回復アイテムだけでは足りなくなることだろう。治療魔術師ヒーラーも仲間にしておいた方が良いかもしれない。


「なるほど、治療魔術師ヒーラーか」


「ふにゅう………確か、回復してくれる魔術師さんなんだっけ?」


「そうそう。俺たちあまりダメージ受けないからなぁ………」


「あ、当たり前でしょ。こんな武器持ってるんだもん…………」


 自分が腰に下げていたマグプルPDRを見つめながら言うナタリア。彼女には転生者の事も話してあるし、この銃が異世界の武器であるという事も伝えてある。それに、俺たちが転生者を狩る転生者ハンターであるという事も、彼女には話しておいた。


「……とりあえず、ナギアラントに到着したら列車に乗る前に治療魔術師ヒーラーを探そうよ。ダンジョンに行くならその方が良いと思う」


「そうするか。………ところで、ナギアラントにもダンジョンがあるって聞いたんだが、知ってるか?」


 もしナギアラントで見つからなかったら、エイナ・ドルレアンに行ってから探せばいいだろう。あそこは南方で最大の都市だし、魔術に最も力を入れているオルトバルカ王国だから魔術師は何人もいる。簡単に見つけられる筈だ。


 そう思いながらナタリアにダンジョンについて聞こうとしたんだが、ナギアラントで魔術師を探すとラウラが言うと、ナタリアはハーピーの肉を齧りながら目を細め始めた。


「………どうした?」


「ナギアラントで探すのは……やめた方が良いと思うわ」


「え? 何で?」


 田舎だからか? でも、あそこには列車の駅があるし人口もフィエーニュ村よりも多いぞ。別にエイナ・ドルレアンに到着してからでもいいが、何でナギアラントで探すのは拙いんだろうか?


「あのね、他の冒険者から聞いたんだけど………ナギスラントで、魔女狩りが始まったらしいの」


「魔女狩り?」


 大昔のヨーロッパで起きたあの魔女狩りの事か? 前世の世界でも起きていた魔女狩りの事を連想していると、水筒の水を飲んだナタリアが話を聞かせてくれた。


「オルトバルカ教団は知ってるわよね?」


「ああ」


「ナギアラントにある教団の支部長が変わったの。どこから来たのか分からないけど、まだ17歳くらいの少年らしいわ。とてもわがままな性格で、気に入らない人々を魔女と決めつけて処刑しているらしいの」


「なんだそりゃ? 教団の本部は何をしてるんだ?」


「それが、その少年が特殊な力を持っているせいでなかなか力が出せないらしいの。………きっと、そいつも転生者だと思うわ」


 なるほど、転生者(獲物)か。


「――――――でも、この武器があれば勝てるかもしれない」


「そうだな。それに、もしそいつが転生者なら狩るだけだ」


「私たち、転生者ハンターだもんねっ」


 親父に誓ったんだ。人々を虐げているクソ野郎ならば狩ると。


 だから俺たちは転生者ハンターになった。親父からコートを受け継ぎ、転生者を狩ることにしたんだ。素通りするわけにはいかないだろう。


 それに、気に入らない奴を魔女と決めつけて処刑するようなクソ野郎だ。容赦する必要はないだろう。現代兵器を使ってナギアラント支部に殴り込みでも仕掛けてみるか。


「よし、対人戦だ。………ナタリアはもう少し訓練を続けよう。場合によっては不参加でもいい」


「……いえ、私も行くわ。見捨てられないもの」


 それに、彼女は親父のように人々を助けられるような存在になりたいと言っていたからな。不参加とは絶対に言わないだろう。


「分かった。無理はしないでくれよ」


「ええ」


「じゃあ、今夜は俺が見張る。ラウラとナタリアは寝ておけ」


 G36Kを肩に担いだ俺は、2人にそう言ってから真っ暗になった草原を見渡した。


 気に入らない奴を魔女と決めつけて処刑する転生者か。まるで独裁者じゃねえか………。人々を虐げている転生者を想像するだけでイライラするぜ。早くそいつの顔面に弾丸をありったけぶち込みたいところだ。


 俺は人を虐げるような奴が許せない。おそらくそんな正確なのは、前世で幼少の頃から親父に虐待されていたからだろう。


「ねえ、タクヤ」


「ん?」


 胡坐をかきながら草原を見渡していると、あくびをしたラウラが俺の膝の上に頭を乗せてきた。


「2人目の獲物だね」


「ああ」


 そうだな。2人目の獲物だ。一番最初に殺した奴みたいに狩らせてもらおう。


 膝の上で瞼を閉じたラウラの頭を撫でながら、俺はそう思った。



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