ジャック・ド・モレーVSモンタナ
モンタナの巨体が、この海戦で初めて揺れた。
もしかしたら被弾したのではないかと思ってしまうほどの凄まじい衝撃の中で、敵艦の反応を睨みつける。敵艦との距離は436000m。まだ主砲の命中が期待できるような距離ではない。こちらがすべての主砲を使っているのに対し、向こうは前部甲板の主砲のみ。一度の砲撃で飛来する砲弾は多くても6発だ。
それに対し、敵艦へとすべての主砲を向けているこちらが一度に発射できる徹甲弾の数は12発。敵艦の放つ砲弾の倍である。主砲の口径はそれほど変わらないが、砲弾の数を考えれば、現時点ではこちらの方が上だ。もし仮に敵艦が同航戦を挑んできても、4基の主砲で敵艦を十分に粉砕できる。
敵艦の狙いは、距離を詰めて命中率を上げることだろう。そしてこちらが砲弾を叩き込むよりも先に砲弾を命中させて致命傷を与え、そのまま押し切るつもりに違いない。自分たちよりも主砲の数が多い超弩級戦艦に、砲手の技術と火力の差で勝負が決まる同航戦を挑むのは愚の骨頂だ。敵の艦長はそれを知っているからこそ、こうやって真正面から最大戦速で突っ込んできているに違いない。
とはいえ、敵艦はもうゲイボルグⅡの破壊のためにミサイルを使い果たしている。こちらはまだ温存してるが、敵艦が大量の迎撃用のミサイルや機関砲を搭載している以上、効果は薄いだろう。先ほどはハープーンで攻撃を試みたが、発射したハープーンは全て撃墜されてしまっている。だからこそこちらも砲撃戦で応戦することにしたのだが、奴らの思惑通りに接近を許すつもりもない。
接近される前に砲弾を叩き込んで潰す。仮に接近されたのならば、同航戦に持ち込んで攻め落とすまでだ。主砲の数は、こちらの方が上なのだから。
「うわっ! し、至近弾です!」
「今の距離は?」
「距離、42200m!」
「ほう…………」
まだ、砲弾の命中が期待できる距離ではないにも関わらず、艦のすぐ近くに砲弾を着弾させられる技術を持つ砲手が敵艦に乗っているという事か。
このような砲撃は、ミサイルによる遠距離攻撃と比べるとあまりにも不正確すぎる。砲弾はミサイルのように”賢くない”ため、それを放つ砲手がしっかりと狙いを定めて放たなければならないのだ。しかも今の距離は主砲のほぼ最大射程距離。もう少し近づかなければ、砲弾が命中する確率は低いままである。
立て続けに、モンタナの巨躯が揺れる。CICの天井から水飛沫が落下するような音が聞こえ、傾斜がすぐに元通りになっていく。
「敵の砲手、腕がいいですね」
「ああ。距離を詰められたら百発百中になりかねんぞ」
いくら戦艦の装甲が厚いとはいえ、立て続けに砲弾を叩き込まれれば大損害を受ける。しかも敵艦の主砲の口径は、こちらとほぼ同じ。このモンタナよりも主砲の数が1基少ないとはいえ、侮れない攻撃力を持つ敵なのだ。被弾する前に倒してしまうのが理想的だが、こちらの砲撃は先ほどから命中する様子はない。至近距離に着弾させているようだが、すぐに修正して砲撃しても、全速力で突進してくる敵艦には命中しない。
その時だった。再び、モンタナの船体が揺れたのだ。
しかも今度は1度だけではない。傾斜が元通りになっていくと思いきや、再びモンタナの船体が揺れ、今度は反対側に傾斜してしまう。どうやら被弾したわけではないようだが、その大きな揺れが至近弾を意味していることに気付いた俺は、敵の命中精度が劇的に上がっていることに驚いた。
このまま距離を詰められれば、本当に百発百中になる。こっちが砲撃を外して修正している間に、敵艦は徹甲弾でこちらに致命傷を与え続けて撃沈してしまう事だろう。
「艦長、至近弾です! ――――――うわ、まただ! 右舷に至近弾!」
「くっ…………最大戦速!」
被弾するのを覚悟して、このまま同航戦に持ち込むべきだろうか。このまま距離を維持しようとしていれば、いずれはこっちが先に徹甲弾の直撃を喰らいかねない…………!
唇を噛みしめながら敵艦の反応を睨みつけていた、その時だった。
モンタナを包み込む分厚い装甲の外側から―――――――ぎぎっ、と何かが表面を掠め、表面を削ったような音が聞こえてきたのである。微かに船体が揺れ、その不吉な音が艦内で反響を繰り返す。
その音を聞き、それが何を意味するのかを悟った瞬間、俺はぞくりとした。
「今の音は…………」
『こちら艦橋! 今しがた敵の砲弾が、右舷の後部甲板の縁を削っていきやがった!』
「なっ!?」
敵の砲弾が掠めただと!?
この距離で!?
「艦長…………!」
「――――――面白い」
敵艦との距離は41000m。普通ならばこの距離で至近距離に着弾させたり、甲板の縁を削るような砲撃が飛来するのは殆どあり得ない。しかし敵の砲手は平然とそんな砲撃を繰り返している。このままではいずれ、敵の徹甲弾がこのモンタナに大穴を開けることになるだろう。いくら超弩級戦艦とはいえ、同じ超弩級戦艦の砲撃を立て続けに食らえば爆沈する羽目になる。
これ以上距離を保とうとするのは愚策だ。敵に狙いを修正させ、命中精度を上げるチャンスを与えているようなものである。ならばこちらもあえて敵と同じように距離を詰め、至近距離で撃ち合った方がいい。どちらにしろ損害は受けることになるが、敵に損害を与えずに逃げ回り、そのまま撃沈されるという無様な最期を迎えるよりははるかにマシだ。
敵の勝負に付き合うことにした俺は、「こっちも距離を詰めるぞ。取り舵一杯」と部下に命令すると、歯を食いしばった。
「第二砲塔の砲撃が掠りました!」
「すげえ…………!」
さすがにカレンさんでも命中させるのは難しいかもしれないと思っていたのだが、最大戦速で航行中の砲撃で、何とカレンさんが放った徹甲弾は41000mも先を航行する敵のモンタナ級の右舷を掠めたのである。
やけに至近弾の数が増えてきたと思っていた俺は、カレンさんの技術が予想以上に高かったことに驚愕していた。21年前のナバウレア侵攻作戦では一撃でゲイボルグの柱を撃ち抜いて倒壊させ、転生者の指揮する戦車部隊との戦いでは1発の砲弾で2両の戦車を撃破する戦果をあげたカレンさんの砲撃は、かなり頼もしい。この調子ならば敵艦よりも先に、こっちが砲弾を命中させられるのではないだろうか。
さすがに砲弾が掠めたことに危機感を感じ始めたらしく、モニターに映る敵艦の反応が進路を変えた。こちらへと艦首を向けたかと思うと、そのまま速度を上げてこちらへと突っ込んでくる。どうやらあのまま距離を保って砲撃を続けていれば、いずれはカレンさんの砲撃の餌食になると感じたのだろう。いくら超弩級戦艦の装甲が厚いとはいえ、自分とほぼ同じ光景の主砲から放たれる徹甲弾を喰らうわけにはいかない。
主砲の数が多いというアドバンテージを、カレンさんの砲撃の技術が脅かしつつある証拠だった。
「敵艦、進路を変えました。こちらへと距離を詰めてきます」
「よし、好都合だ。このまま突進しつつ砲撃しろ。距離を詰めれば命中率も上がる」
距離を詰めても撃沈できなければ、後は同航戦で撃ち合うべきだろうか。そうなればこっちの主砲は3基しかないため不利になるが、カレンさんの砲撃で致命傷を与えられれば問題はない筈だ。
距離を詰めつつ砲撃し、ある程度接近したら同航戦に切り替える。主砲の数は敵の方が上なのだから、敵は絶対にこの自分たちに有利な勝負に乗ってくるに違いない。
『こちら第二砲塔。艦長さん、聞こえるかしら?』
「はい、カレンさん」
遠距離から敵艦の甲板に砲撃で傷をつけた最強の砲手が、無線機の向こうから聞こえてくる。敵艦の砲撃が降り注ぐ音を聞く度に乗組員たちはヒヤヒヤしているというのに、船体のすぐ近くで水柱が上がる音をものともせず、まるでアフタヌーンティーを楽しんでいるかのように落ち着いているカレンさんの声は、他の乗組員たちと比べると異質だった。
下手をすれば徹甲弾が装甲を貫き、艦内にいる自分の身体をズタズタにする可能性があるというのに、彼女の声はかなり落ち着いていた。やはり何度も実戦を経験し、死闘を生き延びればあのように余裕ができるものなのだろうか。
きっと、過去に経験した死闘と比べれば、カレンさんにとってこの程度の戦いは”死闘”ですらないのだろう。
『ちょっとレーダー観測無しで砲撃してみてもいいかしら?』
「えっ?」
何だって?
「れ、レーダーは使わないんですか?」
『ちょっと試しに使わないで撃ってみるだけよ。ダメかしら?』
「ま、待ってください。いくらなんでも、レーダーの観測結果無しで砲撃するなんて………………」
先ほどまでの砲撃は、レーダーで観測した敵との距離を砲手へと伝達し、それを参考に照準を合わせて砲撃してもらっていた。しかしカレンさんはレーダーの観測結果を頼りにせず、これから自分で敵艦との距離を測定して砲撃しようとしているのである。
一応、砲塔には『測距儀』と呼ばれる距離を測定するための装備が搭載されているが、レーダーの観測と比べると精度では劣ってしまう。いくらカレンさんでも、レーダーに頼らずに自分で観測して砲撃し、敵艦に命中させるのは難しいだろう。間違いなく命中精度は劇的に落ちる。
「カレンさん、それは流石に無茶かと…………」
俺の隣でサポートしてくれていたナタリアも、レーダーの観測結果を頼らずに砲撃しようとするカレンさんを止めようとする。確かに彼女は選抜射手や砲手を担当し、モリガンのメンバーの1人として大きな戦果をあげた最強クラスの傭兵だ。カノンにあらゆる技術を叩き込んだ”教官”でもある。
でも、いくら熟練の砲手とはいえ、レーダーの観測結果を頼らずに砲撃するのは無茶だ。なかなか命中させられない状況だからこそジャック・ド・モレーは最大戦速で敵艦へと急接近し、少しでも命中しやすい状況にしようとしているのだから、もう少し待ってもらいたい。それに敵艦の甲板の縁を掠めたのだから、もう少し辛抱してもらえれば今度こそは命中する筈である。
俺も彼女を説得しようとしていると、今度は無線機の向こうからカノンの声が聞こえてきた。
『お兄様。申し訳ありませんが、少しだけお母様を信じてくださいな』
「カノン…………」
『お母様なら、きっと敵艦に砲弾を叩き込んでくれますわ』
普通に考えるならば、レーダーの観測結果を頼らずに砲撃するのは無茶だ。レーダーに被弾して観測できなくなった場合のために測距儀を搭載しているが、あくまでもそれの出番は非常時のみ。常にそれを使って砲撃するのは想定していない。
だが―――――――レリエル・クロフォードを撃退し、最古の竜ガルゴニスを撃破して仲間にするという考えられない戦果をあげた最強の傭兵の1人ならば、もしかしたら本当に命中させるかもしれない。合理的な作戦とは言い難いけれど、状況を変えるためにまずこっちの戦い方を変えてみるのも悪くない。
ちらりと隣に立つラウラを見てみると、彼女は「カレンさんに任せよう」と言わんばかりに頷いた。ナタリアの方も見てみると、彼女は不安そうな顔をしながらこちらを見ている。
あまり賭けは好きじゃないが―――――――賭けてみるか。
モリガンの傭兵の誇る、熟練の技術に。
「――――――分かりました。カレンさん、頼みます」
『了解。カノン、装填は?』
『ばっちりですわ、お母様!』
『目標との距離…………39000m。12時の方向』
息を呑みながら、俺たちはドルレアン親子の声を聴いていた。2人があの巨大な砲塔の中で砲撃の準備を進める間に、敵艦から放たれた徹甲弾が次々とジャック・ド・モレーの周囲に着弾し、巨大な水柱を噴き上げている。海水の雨が甲板の上に並ぶキャニスターや迎撃用の機関砲の砲身に降り注ぎ、ずぶ濡れにしていく。
至近弾も増えているらしく、艦が揺れる度にヒヤリとしてしまう。しかし未だに被弾はしていない。
頼む、当ててくれ…………!
『砲撃準備よし!』
『発射ッ!』
その直後、ステラとイリナの2人が砲撃を行っている第一砲塔の後ろに鎮座する第二砲塔が―――――――火を噴いた。
3つの巨大な砲身から放たれた徹甲弾の反動と衝撃波が、ジャック・ド・モレーの巨体を揺らす。CICの中にまで入り込んでくる轟音を聴きながら息を呑み、敵艦の反応を睨みつける。
アメリカとソ連が誇る2隻の超弩級戦艦は、距離を詰めるために目の前の敵艦に向かって互いに全力疾走の真っ只中だ。どちらも前部甲板の主砲で片っ端から砲撃を繰り返しているが、未だに命中した砲弾はない。こちらも敵艦に与えた損害は、カレンさんが主砲の射程距離ギリギリから放った徹甲弾で甲板の縁を軽く削った程度である。もちろん、甲板を削った程度では致命傷にはならないし、敵艦の動きを封じることもできない。
ドン、とまたしても水柱が出現する大きな音が聞こえた。また至近弾だ。距離が近くなっているせいなのか、至近弾が増えつつある。どちらかの艦が被弾するのは時間の問題だ。
『5、4、3、2、1…………』
当たるか…………?
この砲撃で撃沈できるような相手ではない。仮に3発の徹甲弾が全て命中したとしても、アメリカの誇る超弩級戦艦はかなり堅牢だ。だからこの砲撃が当たったとしても、モニターに映る敵艦の反応が消えるわけではない。
なのに俺は、モリガンの傭兵の中で最も砲撃が得意だったカレンさんならば、きっと命中させてくれるはずだといつの間にか期待しながらモニターを見つめていた。
頼む、当たれ…………!
『弾着、今!』
カノンの報告が聞こえた直後、俺は無線機を手に取っていた。
「艦橋、どうだ!? ウラル、何か見えるか!?」
『――――――嘘だろ…………!?』
「どうした!?」
今のところ、敵艦の反応はまだ残っている。やはり撃沈することはできなかったようだが、少なくとも命中してくれれば敵の戦闘力を削ぐことができる筈だ。
期待しながらウラルの返事を待っていると―――――――まるで興奮しているかのようなウラルの野太い声が、スピーカーから聞こえてきた。
『おい、凄いぞ! 敵艦から火柱が上がってる!』
その瞬間に感じた衝撃は、先ほどまでモンタナの巨躯を揺らしていた至近弾の衝撃よりもはるかに大きかった。モンタナの突き進む海面が揺れたのではなく、この艦そのものが大きく揺れたのだと理解した俺は、乗組員が報告するよりも先に敵艦の徹甲弾がついに命中してしまったという事を悟っていた。
今の距離は39000m。こちらにも優秀な砲手が乗っているし、どちらも至近弾が増え始めていたため、そろそろどちらかの艦が徹甲弾を叩き込まれるのではないかと思っていた。今しがた放たれた砲撃が命中するようにと祈っていたのだが、先に被弾する羽目になったのはこっちだった。
「被害は!?」
「第三砲塔に2発被弾! 浸水や火災はありませんが、第三砲塔が大破しました! 砲撃不能! 砲手たちからの応答もありません!」
「弾薬庫への影響は!?」
「ありません!」
弾薬庫の中で眠る砲弾が炸裂し、それで木っ端微塵になるのは避けられたようだ。しかし――――――第三砲塔が敵の徹甲弾を2発も叩き込まれて大破し、砲撃不能になったという報告を聞いた乗組員たちの顔色が、すぐに青くなっていく。
先に被弾してしまったという危機感も感じている事だろう。しかし、深刻なのは砲撃可能な砲塔が1つ減らされてしまったため、敵艦と砲撃可能な主砲の数が同じになってしまったという事だ。敵艦が3連装40cm砲の砲塔を3基装備しているのに対し、こちらは4基。だから接近してからの同航戦では、敵よりも1基多いという利点を生かして打ちのめしてやる筈だった。
しかし、肝心な同航戦に突入するよりも先に、そのアドバンテージを削がれてしまったのである。
きっと第三砲塔は無残な姿になっている事だろう。徹甲弾に貫通され、ひしゃげた装甲板とへし折れた砲身をあらわにする第三砲塔の姿を思い浮かべたその時、艦橋に配備されていた乗組員の1人が叫んだ。
『敵艦の左舷に命中! 対艦ミサイルのキャニスターを吹っ飛ばした模様!』
先に敵艦の砲撃を喰らったせいで顔を青くする乗組員が続出していたCICの中で歓声が上がる。やっとこちらの砲撃も敵艦に命中し、損害を与えたのだ。
だが、命中したのは対艦ミサイルのキャニスター。敵は対艦ミサイルを全てゲイボルグⅡの破壊のためにつぎ込んだため、あのキャニスターの中は空っぽになっている筈だ。せめてミサイルが残っていれば誘爆させてさらに大損害を与えられたのだが、少なくともキャニスターを貫通してある程度は損害を与えてくれたはずだ。
「よし、そのまま撃ち続けろ!」
まだまだこれからだ…………!
拳を握り締めながら、俺は接近してくる敵艦の反応を睨みつけていた。
「左舷、4番キャニスターに被弾!」
「火災は!?」
「ありません!」
レーダーの観測結果ではなく、測距儀を使ったカレンさんの砲撃が命中したことに驚いていたさなかに、敵艦もついにジャック・ド・モレーに傷をつけた。敵艦から飛来した1発の徹甲弾が、ジャック・ド・モレーの左舷にずらりと並ぶ対艦ミサイル用のキャニスターのうちの1つを抉り取ったのである。
幸い、中にミサイルは残っていなかったため、対艦ミサイルの誘爆で大損害を受けることはなかった。それに再装填用のミサイルも残っていないのだから、今のキャニスターたちは無用の長物である。
「敵の砲手も優秀ね…………!」
隣にいるラウラが、敵艦の反応を睨みつけながらそう言った。いつもの幼い口調ではなく、戦闘中の大人びた口調で話しているという事は、彼女も危機感を感じているのだろう。今までのように敵を圧倒する戦いではなく、これは間違いなく接戦になる。艦の戦闘力は同等だし、乗組員の錬度もおそらく同等だ。俺たちが戦っているあのモンタナ級はかなり手強い。
さすがアメリカの戦艦だな…………!
だが、先ほどのカレンさんの砲撃で敵は第三砲塔から火柱を噴き上げていたという。少なくとも、敵の砲塔の1つは使用不能になっている筈だ。
これで同航戦になった場合の火力は互角だ。どちらも被弾しているが、その被弾で被った損害は間違いなく向こうの方が上である。
またしても至近弾が海面に命中し、衝撃でCICが揺れる。また被弾するんじゃないかと思ったが、今度は全て外れたようだ。
面白くなってきたじゃないか。
ドン、という轟音がCICの外から聞こえる。海面に命中した砲弾に吹っ飛ばされた海水が、まるで絨毯爆撃のようにジャック・ド・モレーの甲板へと降り注ぐ。
おそらく勝負がつくのは、ある程度接近してからの同航戦だ。そこで命中する砲弾や被弾する回数が劇的に増え、間違いなくどちらかが沈む。だからまだこの砲撃戦では、勝負はつかない。
生れ落ちることのなかった戦艦同士の一騎討ちは、徐々に激化し始めていた。
おまけ
イリナに砲手をさせるとこうなる
ステラ「砲撃準備完了」
イリナ「発射ッ!」
ドンッ!
イリナ「!?」
ステラ「…………どうしたのですか?」
イリナ「す、すごい…………こっ、こんな爆音、今まで感じたことないよ! ねえ、早く装填して!」
ステラ「は、はい」
乗組員「艦長、第一砲塔の連射速度が上がってます」
タクヤ「何で!?」
完