転生者が包囲網を突破するとこうなる
幼少の頃から、俺とラウラの得意分野は見事に分かれていた。俺は動体視力の高さと反応速度の速さを生かした接近戦が得意で、ラウラも同じように視力をはじめとする敏感な五感を応用した超遠距離狙撃を得意としていた。俺も狙撃を学んだけれど、やはり元から才能によって狙撃に〝最適化”されていたラウラには勝てなかったというわけだ。
だから、元々それに最適化された相手に努力で追いつこうとしても限界がある。結局俺の狙撃の技術はラウラには及ばなかったというわけだ。とはいえ、全くできないわけじゃないんだけどね。2km先の標的の狙撃にも成功してるし。
けれども、俺の得意分野はあくまでも狙撃ではなく――――――――白兵戦だ。
右手に愛用のテルミット・ナイフを持ち、左手にはソードオフ型に改造した、レバーアクションライフルのウィンチェスターM1895を装備する。このレバーアクションライフルは装填できる弾数が5発のみで、一般的なハンドガンやリボルバーと比べるとかなり少ない。そのかわり、使用する弾丸はモシン・ナガンやドラグノフなどのライフルで使用するような大型のライフル弾なのだから、殺傷力ならばはるかにこっちが上。撃ち過ぎに注意しながら運用すれば何の問題もない。
棍棒を振り上げ、奇声を発しながら突っ込んできたゴブリンの一撃を呆気なく躱し、すれ違いざまにマチェットの刀身をそのまま短くしたような分厚いテルミット・ナイフの刀身で喉を思い切り引き裂く。まるで同じことをされた人間のように傷口を押さえ、苦しそうな声を上げながら崩れ落ちるゴブリンを一瞥してから、今度は左手のレバーアクションライフルを持ち上げ、包囲していた転生者たちからこちらへと狙いを定めたゴーレムの頭へと照準を合わせた。
トリガーを引いた瞬間、まるでフリントロック式のピストルを彷彿とさせるフォルムのライフルが轟音を発し、猛烈な反動が俺の華奢な左手に牙を剥いた。ソードオフに改造すると小回りが利くようになり、狭い場所での戦いにも投入できるようになる。更にこのようにホルスターに収めておけるようになるなどの利点がある半面、軽量化してしまうことによる反動の増大や、銃身の切り詰めによる命中精度の低下を招くことになる。ソードオフ型に改造すると、性能が大きく変わってしまうのである。
余談だけど、軽量化すればするほど反動は増大してしまうので、一部の銃ではあえて反動を軽減させるために銃そのものを重くしているものもある。
このウィンチェスターM1895も銃身を大幅に切り詰めてしまったため、命中精度は下がっている事だろう。けれども、発砲した距離は100m足らず。いくら命中精度が低下していると言っても、そのデメリットが牙を剥くにはあまりにも短すぎる距離と言えた。
案の定、雄叫びを上げながら剛腕を振り上げていたゴーレムの左の眼球が木っ端微塵に吹っ飛んだのが見えた。俺たちを叩き潰そうとしていたゴーレムはその剛腕で目を覆い、情けない声を上げながらのたうち回る。
もう1発お見舞いしたいところだが、レバーアクション式の得物はトリガーの周囲に装着されているループ・レバーを引かなければ次の弾丸が発射できない。セミオートマチック式やフルオートマチック式の銃のように撃ちまくれるわけではないのである。
そこでループ・レバーを引きたいところだが―――――――俺の右手はテルミット・ナイフを持っているせいで、片手でレバーを引かなければならない。
だから俺は、左手でループ・レバーを持ったまま―――――――ソードオフ型のウィンチェスターM1895をぐるんと縦に回転させた。
これは『スピン・コック』と呼ばれる装填方法である。他の方式の銃では考えられないし、近代的なライフルでもこんなことができる方式のライフルはない―――――――というか、現代の銃ではレバーアクションは採用されていない―――――――ため、傍から見ればいきなり銃を縦に回し始めたように見えるだろう。
エジェクション・ポートからライフル弾の太い薬莢が飛び出し、弾倉の中で控えていた2発目の7.62×54R弾が薬室の中へと躍り出る。この異世界に転生したばかりの親父によって、一部の魔物は5.56mm弾や5.45mm弾などの小口径の弾丸を外殻で弾いてしまうという事が明らかになっており、少なくとも魔物との戦いでは対人用の小口径の弾丸よりも、狩猟に使用されるような散弾や大口径のライフル弾が好ましいということが判明している。
実際に、ゴーレムの外殻も貫通できるだけの威力があるのだ。もう1発お見舞いすればこのゴーレムは始末できる。
そう思いながら銃口をゴーレムへと向けたその時――――――――真っ黒な制服に身を包み、バルブや圧力計が未だにくっついたままになっているロングソードくらいの長さの鉄パイプを2本も手にしたエルフが、姿勢を低くしたまま前傾姿勢で突っ走り、そのゴーレムへと襲い掛かっていった。
ゴーレムが苦し紛れに左腕を振り回すけれど、そのエルフはあっさりとゴーレムの剛腕をジャンプして躱すと、空中でくるくると回転しながら左手の鉄パイプを逆手持ちにし―――――――それを、ゴーレムの脳天に思い切り突き立てやがった。
『ゴォォォォォォォォォッ!?』
う、嘘だろ!? ゴーレムの外殻ってちょっとした岩盤みたいに硬いんだぞ!?
それを呆気なく貫通した鉄パイプを、それを突き刺した張本人はまるでレバーを引くように思い切り手前に引いた。ごりっ、と鉄パイプと外殻が擦れ合う嫌な音が聞こえたかと思うと、今度はその突き刺した鉄パイプを強引に引き抜き、両手の鉄パイプでその傷口を中心にゴーレムの頭をひたすらぶん殴り始めた。
段々と頭の亀裂が広がっていき――――――――やがて、ゴーレムの頭の外殻が木っ端微塵になる。もちろん外殻の破片と一緒に噴出したのは、人間と同じく真っ赤な鮮血。
その返り血を浴びながら、問題の鉄パイプ野郎は無言で次の獲物に襲い掛かる。目の前にいるゴブリンを薙ぎ倒し、空から急降下してきたハーピーの変異種を撲殺し、地中からいきなり奇襲してきたワームを叩き潰す。
冒険者向けに販売されているハンマーでも使ってるのだろうかと思えるほどの戦果を次々に挙げていく鉄パイプ野郎。突出し過ぎだとは誰も咎めない。なぜならば、背後から襲い掛かろうとする魔物もたった2本の鉄パイプで叩き潰しているため、咎める必要がないのである。
気が付くとあいつが先頭に立ち、魔物たちを蹂躙しているではないか。何の変哲もない鉄パイプを振り回し、傍らの魔物の頭蓋骨を次々に粉砕していく鉄パイプ野郎。一応AK-12を持っているようだけど、使う気はないらしい。
「タクヤ、ここは俺たちが何とかする! お前は包囲されてる間抜け共を拾ってこい!」
「頼んだ! イリナ、援護を!」
「了解!」
確かに、今のうちに俺が突っ込んで救出してきた方がいいだろう。ここで敵を殲滅しようとして時間を使うよりも、救出するべき転生者や非戦闘員たちを保護し、それから装甲車の支援を受けつつ殲滅した方が遥かに合理的だ。
飛びかかってきたゴブリンの頭を正確に7.62×54R弾で撃ち抜き、もう一度スピンコック。地中から飛び出して牙だらけの口を開けて襲い掛かってきたワームの下顎にテルミット・ナイフを突き立て、刀身をひねってからワームの身体を投げ飛ばす。
さらに目の前からゴブリンが5体ほど接近してきたが――――――――次の瞬間、そいつらの足元に着弾した40mmグレネード弾の爆風によって、ゴブリンたちは瞬く間に黒焦げの肉片と化す羽目になった。
両足を硬化させ、俺はその爆風の中へと走り出す。ゴブリンたちの肉が焦げる臭いを突き破って魔物の群れの中へと突入した俺は、地面から飛び出そうとしていたワームを外殻で覆われた足で踏みつぶしながら突っ走った。
「УРааааааааа!!」
砂嵐の中からいきなり姿を現したハーピーにライフル弾をお見舞いして撃墜し、右手に持ったテルミット・ナイフのフィンガーガードでゴブリンの顔面を殴りつける。顔面の骨をあっさりと砕かれて吹っ飛んでいったゴブリンの死体を更に蹴り飛ばし、後続のゴブリンの群れと激突させてまとめて転倒させ、そこに手榴弾を放り込む。
7体ほどのゴブリンが一瞬で肉片になるが、他にも魔物はまだ残っている。今まで偵察部隊が何度か魔物と交戦しているが、こんなに魔物が大量発生したことはないらしい。どうしてこんなに魔物が現れたのかは不明だが、これからは偵察部隊にももう少し強力な武器を渡した方がいいかもしれない。さすがにこんな群れに出くわしたら、アサルトライフルとマークスマンライフルだけでは荷が重いからな。
ゴブリンの胸板を切り付け、ひるんだゴブリンを踏み台にしてジャンプしつつ、空中でゴーレムの眉間に照準を合わせてトリガーを引く。外殻を撃ち抜いた一撃は後頭部の外殻まで貫通すると、ひしゃげて血まみれになった状態で砂嵐の中へと消えていった。
崩れ落ちたゴーレムを踏みつけ、更に突進する。スピンコックして最後の1発を装填し、すぐにハーピーに向けて発砲。狙いは若干ずれてしまったようだが、そのライフル弾はどうやらハーピーの翼を撃ち抜いたらしく、奇声を上げながら空中で回転する羽目になったハーピーは他のハーピーと激突を繰り返し、空中のハーピーたちを混乱させる羽目になった。
レバーアクションライフルに再装填しておきたいところだが、そんな暇はなさそうだ。ループ・レバーを引き、上部のハッチから『クリップ』という5発の弾丸を束ねたものを使って弾丸を装填し、ループ・レバーを元の位置に戻さなければならないが、さすがにこれは両手を使わなければ不可能だ。ナイフをしまい、走りながらそんなことをするのは可能かもしれないけれど、魔物と交戦中ならば話は別だ。いくらキメラでもそんな真似はできない。
レバーアクションライフルをホルスターに戻し、空いた左手でつかみかかってきたゴブリンの頭を鷲掴みにした俺は、そのまま握り潰してやろうと思ったが――――――――頭を潰す代わりに、感電させてやることにした。
キメラの体内には、もう既に特定の属性に変換済みの魔力がある。そのため体内にある魔力を別の属性に変換する際に必要となる詠唱というプロセスは、よほど強烈な魔術をぶっ放そうとしない限り不要なのだ。その反面、弱点とする魔力が含まれる攻撃を受けた際に、体内の魔力が〝暴発”して自滅する恐れがあるので、攻撃を喰らう際は注意が必要になる。
とはいえ、こういう場面では便利だ。〝使いたい”と思ったタイミングで、強烈な魔術がどんどん使えるのだから。それに体内に含まれている属性付きの魔力を使うことによって、その属性を変幻自在に操ることも可能なのである。
俺の場合は父親譲りの炎と――――――――母親譲りの雷の、2つの属性。
「くたばれぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
左腕を蒼い外殻で覆い、一気に体内の雷属性を高電圧に変換して流し込む。魔力から純粋な電圧に変換されたそれは、瞬く間に高電圧と化し、ゴブリンの周囲にいた他のゴブリンまで巻き込んでしまう。青白いスパークを纏う左手をそっと離すと、感電する羽目になった数体のゴブリンは白目の状態で口や鼻から真っ黒な煙を吐き出し、ゆっくりと崩れ落ちていった。
本当に便利だな、この身体。発電機の代わりに使えるんじゃないだろうか。
本気で放電したことはないけど、フィオナちゃんの推測だと俺が本気を出せばちょっとした落雷にも匹敵する被害が出るという。……………ちなみにこれは母さん譲りの魔力である。つまり母さんも〝人間の姿をした落雷”と言えるわけだ。
とりあえず、左手にもう1本のテルミット・ナイフを持ち、感電死した魔物の死体を飛び越えて先を急ぐ。目の前のゴーレムに後方のイリナが発射したRPG-7V2の対戦車榴弾が直撃し、派手な火柱を噴き上げながら崩れ落ちていく。
その死体を飛び越えつつ、空中で2羽のハーピーを一刀両断。落ちていく死体を足場にしてさらにジャンプし、素早くナイフを振るいながら、落下しつつハーピーたちをみじん切りにしていく。
すると、落下地点の近くにマズルフラッシュが見えた。現時点で一番突出しているのは俺だから、ここまで仲間が来ているわけがない。ということは、あれが救出目標という事か。
どうやら転生者たちは、戦車1両を中心にした部隊を形成しているようだった。その戦車は――――――どうやら旧日本軍で使用されていた戦車のようである。
テンプル騎士団ではチーフテンやエイブラムスと言った戦車を採用しているが、がっちりした巨躯を持つそれらと比べると、砂漠の真っ只中で擱座しているその旧日本軍の戦車は、装甲車の上に戦車のような砲塔を乗せただけなのではないかと思えるほど小さな戦車であった。
あれは……………どうやら『九七式中戦車』のようだ。
昔の戦車には、歩兵を支援する目的の『軽戦車』、それなりに厚い装甲と大型の主砲を搭載した『中戦車』、より重厚な装甲と大型の主砲を搭載する『重戦車』の3つが存在した。あそこで擱座した状態で奮戦を続けるチハは、その中戦車に分類される。
装甲車と見間違えるほど小さな車体に小ぢんまりとした砲塔を乗せたチハは、ソ連軍と旧日本軍の戦闘となったノモンハン事件や、太平洋戦争に投入された戦車である。火炎瓶などの攻撃を喰らうとすぐに爆発する危険性のあったガソリンエンジンではなく、チハはディーゼルエンジンを搭載していた。しかしエンジンの出力は貧弱で、肝心な主砲の破壊力もそれほど高いわけではなく、装甲まで薄い。そのため太平洋戦争ではアメリカ軍の戦車に次々に破壊されてしまっている。
少しでも貫通力を上げるために新型の砲塔を搭載したチハも開発されたけど、それでもアメリカの戦車を食い止めることはできなかったという。
さすがに魔物を相手にするならば有効だけど、なぜチハを選んだ? 旧日本軍が好きなミリオタならばまだ分かるけれど、せめてエンジンや装甲は少しでも強化するべきだ。下手したらゴーレムのパンチを喰らうだけで乗組員もろとも木っ端微塵だぞ?
チハの陰に隠れながら応戦する兵士は、どうやら旧日本軍の軍服を着ているようだった。なるほど、こいつらは旧日本軍が好きなミリオタというわけだ。しかも使っている銃まで日本製のボルトアクションライフルである。
おそらくあれは『三八式歩兵銃』だろう。当時の他国が採用していた大口径のライフル弾に比べ、6.5mm弾を使用することによって反動の軽減に成功したうえ、優秀な命中精度を誇ったボルトアクションライフルだ。今の日本製の武器にも言えることかもしれないが、どうやら日本製の武器は攻撃力を控えめにし、命中精度に特化させる特徴があるらしい。
奮戦するチハの傍らに着地すると、いきなり近くに降り立った黒服の俺にびっくりした少年が三八式歩兵銃を向けてきた。けれども『黒服には攻撃するな』という命令がちゃんと行き届いていたらしく、すぐに銃を下ろして安心したように微笑む。
「救援か!?」
「ああ、助けに来た! 状況は!? 戦車は動かせるか!?」
弾切れになったウィンチェスターM1895のループ・レバーを引き、上のハッチからクリップに束ねられている7.62×54R弾を装填しながら訪ねた。
「無理だ、さっきゴーレムの投石でキャタピラをやられた!」
「なら戦車を捨てて逃げるぞ!」
「なに!? チハを捨てるのか!?」
「これを墓標にしたいなら残って構わんぞ!?」
「くっ……………仕方ない。総員退避! 戦車を捨てるぞ!」
戦車が大破しても、ポイントを消費すればまた生産することはできる。ポイントがある限り転生者の所有する兵器はいくらでも替えが利くのだ。だからそれにこだわって命を落とすというのはあまりにもばかげている。
隊長と思われる少年の号令で、魔物を相手にしていた他の転生者や歩兵たちが発砲しながらこちらへと集まってきた。どうやら転生者以外の兵士にはハーフエルフや獣人などの人間以外の種族も含まれているらしく、逆に人間の兵士は3人しかいないから、すぐに転生者なのか見分けがついた。
転生者は少年が2人と少女が1人。他は人間以外の種族で構成されており、彼らが保護したという奴隷たちも同じのようだ。
「こちらヘンゼル。救出目標を確保した、どうぞ」
『こちらマイホーム。こっちの位置は分かる?』
「ああ、分かる」
『了解。なら、こっちは支援を開始するわ。必ず全員連れて戻ってきなさい!』
「了解!」
合計で救出するべき人員は18人。そのうち非戦闘員は10名。
これは俺が殿になるべきだろうか。最後尾で奮戦し、彼らが撤退するまで時間を稼いだ方がいいかもしれない。
目の前にメニュー画面を出現させ、海底神殿の戦いでも使用したドイツ製LMGのMG42を装備する。自分たちとは違う方式で銃を装備した俺に転生者たちは驚いているようだけど、今は説明している時間がない。今すぐにこの包囲網を突破しなければ!
「俺が殿になる。この包囲網の向こうに仲間がいるから、お前らは奴隷たちを守りながら全力で突っ走れ。いいな?」
「ああ。でも、君は1人で大丈夫か? 女の子を1人だけ戦場に置いていくなんて――――――――」
「任せろ。こういう戦い方は慣れてる」
とりあえず、女に間違われるのは慣れたからもう訂正はしない。後で正体は明かすけど。
旧日本軍の格好をした転生者の肩を叩きながら、俺は微笑んだ。
「頼んだぞ!」
「おう! ―――――――よし、奴隷たちを中心に密集体系! そのまま向こうまで戦線の突破を図る!」
「「「「「「「了解!」」」」」」」
よし、これでいい。後は俺がこいつらを守り切ることができれば、作戦は成功だ。
砂嵐が徐々に薄まりつつあることを知って、僕と兄さんは同時に舌打ちしていた。
吸血鬼にとって、日光はまさに天敵。中には浴びるだけで身体が崩壊してしまう人もいるけれど、僕と兄さんの場合は具合が悪くなる程度で済む。でも同時に再生能力も落ちるし、そんな状態で魔物と戦えるわけがない。だから太陽の下で敵と戦うのは、僕たちにとっては死を意味していた。
冷や汗を拭い去りつつ、RG-6のグレネード弾を敵にお見舞いする。砂の中に潜っていたワームが肉片と化した状態で飛び出し、近くにいたゴブリンの片腕が千切れ飛ぶ。もう1発グレネード弾をお見舞いしてからサイガ12Kに装備を切り替え、今度は炸裂弾を連射。タクヤが戻ってくるまでに、少しでも魔物を減らすために奮戦する。
炸裂弾を喰らったゴブリンがあっという間に粉々になり、最初の1発に耐えたゴーレムが2発目の炸裂弾で大きくよろめく。そこにあの鉄パイプを持ったエルフや釘バットを盛った仲間たちが殺到し、巨体を持つゴーレムを撲殺してしまう。
左手を伸ばして腰のスコップをつかんだ僕は、ショットガンでの射撃をやめて白兵戦に入ることにした。確かに爆発を見るのは大好きだし、あの爆炎を見ていると身体がゾクゾクしてしまうけど、自分まで吹っ飛ばされるのは嫌だな。それに下手をしたら装備が破損しちゃうし。
というわけで、僕も白兵戦を始めた。スコップでゴブリンの頭をぶん殴り、ジャンプしてからハーピーの頭を叩き割る。返り血と一緒に着地した僕は、すぐに砂まみれの大地に横たわる魔物の死体を踏みつけながら駆け出し、仲間たちの集中砲火を浴びていたゴーレムの頭までジャンプすると、そのまま首筋に思い切りスコップを突き立てた。
『ゴォォォォォォォォォッ!!』
「うるさいよ」
「まったくだ」
いつの間にか、兄さんもゴーレムの足元へと接近していた。腰の鞘から引き抜いたマチェットを振り上げつつ、兄さんもゴーレムの頭までジャンプする。
だから僕もスコップを引き抜き、兄さんのように振り上げてから―――――――――兄妹で同時に、ゴーレムの頭に得物を振り下ろした!
がつん、と岩盤を殴るような音がしたけれど、もう既にゴーレムの頭には亀裂が入っていた。兄さんと2人で外殻の割れ目から噴き出した返り血を浴びながらジャンプして飛び降り、別の獲物の始末を始める。
すると、僕が狙おうとしていたゴブリンが、側面からの狙撃で倒れた。こめかみにライフル弾をぶち込まれたらしく、風穴から頭蓋骨の破片と脳味噌の一部を吹き出しながら崩れ落ちていく。
タクヤかと思ったけど、どうやら違うみたい。テンプル騎士団とは違うデザインの制服に身を包み、先端部に銃剣を取り付けた長いライフルを持った兵士たちが、奴隷と思われる人たちを引き連れて僕たちのところに来たんだ。
もしかして、この人たちがタクヤが救出した人たちかな?
すると、今度は彼らの後ろの方から豪快な銃声が聞こえてきた。猛烈なマズルフラッシュが何度も煌き、徐々に僕たちの方へと近づいてくる。
やがてドラムマガジンを装着した機関銃を手にしたタクヤが、こっちに手を振りながら戻ってきた。
「これで全員!?」
「ああ! よし、撤退するぞ! 装甲車まで走れ!!」
「了解!!」
スコップを腰に下げ、カンプピストルに信号弾を装填。砂嵐の中だから見辛いかもしれないけれど、念のため撤退を意味する信号弾を真上に射出する。
すると、崩れ落ちたゴーレムの死体の陰に隠れつつAK-12を連射していた仲間たちが射撃をやめ、こっちへと戻ってきた。
そして遠くから装甲車のエンジンの音が聞こえてきて―――――――――僕は安心した。
1人も犠牲者は出ていないし、負傷者も出ていない。
かけがえのない仲間が犠牲にならなかったことに安心しつつ、僕たちは機関砲で支援してくれている装甲車へと向けて突っ走った。