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2人がダンジョンに向かうとこうなる


 フィエーニュの森は、ダンジョンに指定されているという割には、幼少の頃に狩りに行った森と雰囲気はあまり変わらなかった。ダンジョンと呼ばれているのだから禍々しい雰囲気のする恐ろしい場所だと思ったんだが、まるで幼少の頃に親父に狩りに連れて行ってもらったあの森を再び訪れているような懐かしい感じがして、俺とラウラは肩の力を抜いてしまう。


 無数の木々と不規則に日光に照らされた大地。倒木と見間違ってしまうほどの太さの根を乗り越え、苔の生えた倒木の傍らを通り過ぎる。恐ろしいダンジョンだというのに、まるで引っ越す前に住んでいた我が家に戻ってきたような安心感を感じてしまうほどのどかな森だ。


 魔物の呻き声すら聞こえない。聞こえるのは小鳥たちの泣き声と揺れる草の音だけだ。


 全て幼少の頃に経験済みの感覚だった。親父と共にライフルを持って森に入り、温かな風の中で草が揺れる音を何度も聞いた。すでに何度も読んだ本を再び開くような気分で周囲を警戒しつつ、俺の後ろでPP-2000を構えているラウラのほうをちらりと見る。


 全く緊張はしていないが、緊張感と共に警戒心まですべて捨ててしまったわけではない。G36Kを構えながら警戒する俺の後ろでは、先ほどからラウラが半径1kmの範囲をエコーロケーションで探知している。


 森に入って10分も経過するというのに、魔物の死体すら見当たらず、半径1kmにも反応はない。いつまでも無数の植物と巨木に支配された単調な世界が広がるだけだ。


 彼女の最大範囲である2kmではなく1kmにしているのは、それが範囲と精度が両立できる距離だからだ。2km先まで探知できたとしても不正確では意味がないし、範囲が狭い代わりに正確でも、俺の視界で敵の接近を知る事ができるならば彼女に集中力を消耗させてまでエコーロケーションを使うようにお願いする意味がない。


「おかしいね。魔物がいないよ?」


「他にも冒険者が来てる筈だよな?」


「やられちゃったとか?」


「危険度の低いダンジョンでか? 油断してたのならあり得るけど………。それに、血痕がある筈だ」


「そうだよね。血の臭いがしないもん」


 キメラだからなのか、俺たちの嗅覚は常人よりも鋭い。


 もしこのまま魔物にも遭遇せずに最深部に到達し、そのまま反対側まで達してしまったら、管理局に提出するレポートには何て書くべきなんだろうか? 何もない平穏な森だったと報告すればいいのか?


 そんな報告をしても報酬は支払われるんだろうかと不安になったが、どうやらつまらないレポートを提出する羽目にはならないようだ。後ろでエコーロケーションを使っていたラウラの瞼がぴくりと動いたのを見た俺は、彼女が何かを探知したのだとすぐに察し、戦闘態勢に入る。


「――――――見つけた」


「魔物?」


「うん。―――――ゴブリンの群れだね。こっちに来る」


「数は?」


「7体」


 やっと魔物が出て来たか。だが、たった7体のゴブリンが生息している程度でこの森がダンジョンに指定されるわけがない。もっと恐ろしい魔物でも生息しているか、毒ガスが充満していたり、マグマで覆われている火山などの危険な環境でもない限りダンジョンに指定されることはないからだ。


 ウォーミングアップをするにしては遅いんじゃねえか?


 ゴブリンの足の速さは人間と同じくらいだ。最初はセミオート射撃で狙撃しつつ、フルオート射撃に切り替えて殲滅した方がいいかもしれない。


 セレクターレバーを3点バースト射撃から切り替えようと親指に力を入れ始めた瞬間、俺の背後からナイフを引き抜く鋭い音が聞こえてきた。


「弾薬は節約した方が良いでしょ?」


「―――――正論だな」


 この能力は自由に武器や能力を生み出せるが、銃の弾薬などは無限に生産できるというわけではない。用意してくれる弾薬の数は装填されている分と、予備の弾薬が再装填リロード3回分だけで、それを使い切ってしまったら12時間後に自動的に補充される仕組みになっている。スキルの中にはこの用意される弾薬の数を増やしてくれるスキルがあるらしいんだが、そいつを生産する条件はレベルを40まで上げる事だ。まだ35のままだから、あと5もレベルを上げなければならない。


 もしかすると強力な魔物が潜んでいるかもしれない。だから弾薬は節約した方が良いんだ。


 それに、たった7体ならお姉ちゃん1人でも瞬殺できるだろう。彼女にはエコーロケーションと視力以外にも特殊な能力があるが、それを使うまでもない。


「俺も戦おうか?」


「ダメ。お姉ちゃんが暴れるのっ」


 利き手である左手にボウイナイフを持ち、右手にはサバイバルナイフを持つラウラ。俺は接近戦では大型トレンチナイフと左手のナックルダスターの他には足技と尻尾を併用して使うんだが、ラウラの場合は両手のナイフと両足のナイフの合計4本でかなり変則的な攻撃を行う。


 接近戦が苦手な彼女だが、もしかしたら母さんが教えてくれたラトーニウス流の剣術と親父の我流の剣術が合わなかっただけなのかもしれない。


 特定の型を持たず、自由気ままに戦ってこそ真価を発揮するタイプなんだろう。もしかしたら接近戦のセンスは俺よりも彼女の方が上なのかもしれないな。


 援護する必要はないだろうとは思ったが、一応加勢する準備はしておく。


 ナイフを抜き、瞼を閉じながら深呼吸するラウラ。木の匂いのする空気を吸い込んだ彼女は、息を吐き出すと同時に両目を見開くと、いきなり目の前にあった巨木の幹に向かって猛ダッシュを始めた。


 あのまま突っ走れば巨木の幹に正面衝突する羽目になる。だが彼女は全く速度を落とさずに木の幹へと向かって突っ走ると、踏み出す筈だった右足を持ち上げ、両足の踵の辺りに装備されているナイフの鞘のようなカバーの中からサバイバルナイフの刀身を展開する。カバーの中から出現した漆黒の刃を展開したまま巨木の幹を蹴りつけたラウラは、地上を走っている時と全く変わらない速度で、両足のナイフを木の幹に突き立てながら真上に向かってダッシュを続ける。


 まるで、獲物に襲い掛かる肉食獣の全力疾走のようだ。


 そして、無数の枝が生え始めている辺りで足を止め、今度はくるりと地面の方を振り向く。ナイフを幹に突き立てて落下しないようにすると、猛禽類のような鋭い目つきで哀れなゴブリンたちが彼女の狩場と化したこの森にやってくるのを待ち始めた。


 いつも俺に甘えてくる幼い性格の姉ではない。まるで親父の獰猛な部分だけを複製したかのような、恐ろしい方のラウラだ。普段の幼い性格はこの恐ろしさを隠すためなんだろうか?


 普段はエリスさんにそっくりだが、戦闘になると親父のように獰猛になる。訓練を受けていた頃からこうだったし、魔物を初めて狩りに行った時も途中からは狙撃が正確になっていた。


「………」


 数秒ほど待っていると、俺の耳の中にもゴブリンたちの呻き声と足音が聞こえてきた。おそらく、ラウラが感知したとおり数は7体。接近してくる方向は俺から見て12時の方向。


 あのままラウラが待機していれば、彼女は俺に殺到してくるゴブリン共を背後から攻撃することになるだろう。


 すると、木の幹でゴブリンたちを待ち構えていた筈の姉の姿が、いつの間にか消えていた。


 移動したわけではないだろう。ラウラほどではないが、俺の聴覚でもナイフを幹から引き抜いた音は一切聞こえなかった。それに、幹にはまだナイフが刺さっている跡が残っている。


 あの能力まで使いやがったか――――――。


 ラウラの持つ特殊能力を応用した能力。彼女の体質による卓越した索敵能力と狙撃の技術とこれを併用すれば、ラウラは遠距離戦において間違いなく最強の存在となるだろう。魔王と呼ばれた親父も、あの能力を使われるとひやりとすると何度も言っていた。


 しばらく待っていると、森の奥の方からゴブリンたちがこっちに向かって走ってきた。オリーブグリーンの皮膚に覆われた小さな人影が、牙の生えた口からよだれを垂らしながら俺に接近してくる。


「―――――可哀そう」


 数秒後、お前らは背後から八つ裂きにされるのだから―――――。


 そう思った瞬間、ラウラが昇って行った巨木を通過したばかりの最後尾のゴブリンの首が、胴体からいきなり切り離された。


 ごろりと苔の生えた地面に転がるゴブリンの頭と胴体。他のゴブリンたちはいきなり首を刎ね飛ばされた仲間に気付いたが、一番最初に気付いたゴブリンも、最初に犠牲になった奴の二の舞となった。


 続けざまにもう1体の首も両断される。苔で覆われた地面が瞬く間に真っ赤に染まり、ゴブリンたちの死骸が転がる。


 4体目が縦に両断された直後、噴き上がった鮮血の向こうに、瞬く間に4体のゴブリンを葬った少女が姿を現した。いつも甘えてくる可愛らしい彼女は無表情のまま、冷たい目つきで崩れ落ちていくゴブリンを見下ろしている。


 真っ白な肌は所々返り血で汚れ、無表情と共に猛烈な威圧感と恐怖を放っていた。


 仲間の仇を取ろうと彼女に飛び掛かっていくゴブリン。しかしラウラはあっさりとゴブリンの爪による攻撃を横に回避すると、すれ違いざまに足から展開したナイフを胴体に叩き付け、一瞬で足を振り払う。


 攻撃を空振りし、彼女の隣を通過してしまったそのゴブリンは、ラウラが振り払った足を地面につけると同時に横に真っ二つに切断される羽目になった。


 残った2体のゴブリンのうち片方が、怯えるもう1体の代わりにラウラに襲い掛かる。だが、賢かったのは彼女に襲い掛からなかった方だ。彼女に襲い掛かった時点で自分も仲間と同じように両断されると理解していたんだろう。


 人間を簡単に引き裂くほどの腕力を持つ腕を振り下ろすゴブリン。ラウラは全く怯えることなく右手のサバイバルナイフを構えながら突き出し、その一撃を受け止める。


 その直後、ラウラのナイフに押し付けられていたゴブリンの腕が動かなくなった。腕に力を入れていたせいで震えていた腕が、ぴたりと震えなくなったんだ。ゴブリンはどうやら片腕が動かなくなっていることに気付いたらしいが、奴が自分の腕を見上げた頃には、その腕は既に血のように真っ赤な結晶によって浸食されていた。


 まるで血で作ったクリスタルのように禍々しい真紅の結晶。その結晶が発するのは、猛烈な恐怖と、雪山に放り込まれたかのような冷気だった。


 紅い結晶に一瞬で体温を吸い上げられ、ゴブリンがぶるぶると震え始める。必死にナイフから手を離そうとするが、結晶に取り込まれているせいでナイフから手が離れない。あのままでは脱出する前に凍え死んでしまうだろう。


「恐ろしい能力だなぁ………」


 今まで姉弟喧嘩は一度もやったことはない。もし喧嘩すれば、俺たちの周囲は火山や凍土と化してしまう事だろう。


 彼女が生み出したあの紅い結晶の正体は―――――――氷だ。


 俺は親父と違って蒼い炎を操る能力を持っているんだが、ラウラの場合はサラマンダーのキメラである筈なのに、体内に持つ変換済みの魔力の属性は氷属性だったんだ。おそらくこれは、母親であるエリスさんの遺伝なんだろう。


 かつてエリスさんは、ラトーニウス王国騎士団の精鋭部隊に所属していて、絶対零度の異名を持っていた最強の騎士だ。その異名の由来は氷属性の魔術を変幻自在に操り、敵対したまま物や敵国の騎士たちを次々に氷漬けにしていったことからつけられたもので、そんな戦い方を可能にしていたのは彼女の体内にある桁外れの量の魔力と、接近戦の最中でも正確に魔力の量を調整できる恐ろしい集中力だったという。


 ラウラは、エリスさんからその氷属性の魔力を受け継いでいるんだ。しかも普通の色の氷ではなく、血のような禍々しい色の氷を自由に生成できる。


 先ほど彼女が姿を消したのは、自分の身体の周囲にある空気中の水分を凍結させて小さな無数の氷の粒子を生成し、それを自分の身体の周囲に展開することで光を複雑に反射させ、まるでマジックミラーのように使って自分の姿を隠していたんだ。


 氷を使っているため、体温で探知することは不可能。彼女を見つけるには同じようにエコーロケーションを使うのが手っ取り早いだろうが、ラウラならば全く真逆の超音波をぶつけることで容易く索敵を阻害してしまう事だろう。魔力で探知しようとしても氷の粒子を生成するための魔力の量を調整して息を潜めれば見つかることはない。


 一方的に索敵し、敵には絶対に見つからない。


 ラウラの恐ろしい能力は索敵能力と、氷を応用したこのステルス性だった。


 血のような真紅の氷に全身を覆われて氷漬けにされるゴブリン。この国は北国だが、比較的暖かい南方で氷漬けにされるとは思っていなかっただろう。


 氷漬けにされたゴブリンの死体を蹴飛ばしたラウラは、最後に生き残ったゴブリンを見つめてにやりと笑う。


 生き残ったゴブリンはぶるぶると震え、逃げようとしていたが、親父と同じく容赦のないラウラはそのゴブリンを見逃さなかった。背を向けて走り始めたゴブリンへと、遠慮なく左手のボウイナイフを投擲したんだ。


 漆黒のボウイナイフは回転しながら、正確にゴブリンの後頭部に命中。逃げていたゴブリンはその一撃であっさりと崩れ落ち、顔面を木の根に叩き付けてそのまま動かなくなる。


 約26秒か。


「お疲れさん」


「えへへっ。見てた?」


 絶命したゴブリンの後頭部から無理矢理ボウイナイフを引き抜き、こびりついていた血と肉片を払い落とすラウラ。可愛らしい笑顔を浮かべているんだが、返り血と手にしている刃物のせいで全く可愛らしいとは思えない。


「ほら、氷出せ」


「え? どうして?」


「返り血洗うから。そのまま調査するつもりか?」


「はーい」


 呆れながら彼女の近くへと行った俺は、ラウラが掌に生成した氷の塊を受け取ると、右手だけを硬化させて蒼い炎を一瞬だけ生成。氷を熱で溶かして温めのお湯にしてから、返り血で真っ赤になっている彼女にかけた。


 生成する氷は血のように紅いが、溶ければ普通の水と変わらない。


 何度か繰り返してラウラの身体から返り血を洗い流すと、両手を硬化させて熱だけを生成し、まるでドライヤーのように彼女の髪と服を乾かしていく。


 俺たちの能力を使えば風呂に入れるな。石鹸とタオルと湯船代わりの何かを用意すれば、わざわざ宿屋でシャワーを浴びる必要はないだろう。でも、ラウラには一緒に入ろうって言われるだろうなぁ………。


 もう17歳になったのに、冒険に出る前も一緒に風呂に入ってたんだ。さすがに身体にタオルを巻いてたんだが、母さんやエリスさんのようにスタイルの良いラウラと一緒に入ると、毎回頭の角が伸びてシャンプーするのが大変だったんだよ。


「終わったよー」


「ふにゅー………えへへっ、気持ちよかったぁー!」


 真紅の羽根がついているベレー帽をかぶり直しながら言うラウラ。ダンジョンの中だというのに能天気な姉を見てため息をつきながら、ダンジョンの調査を続行することにした。









 他の冒険者が教えてくれた情報よりも魔物の数が少ないことに驚きながら、私は愛用のククリ刀を腰の鞘へと戻した。


 先ほどから散発的に魔物が襲い掛かって来るけど、襲ってくる魔物は単独か5体以下の小規模な群ればかり。いくら危険度が低いとはいえここはダンジョンなのだから、危険な魔物でも生息しているのかと思って最深部を目指していたんだけど、これでは草原を歩きながら魔物を倒しているのと全く変わらない。


「何でここがダンジョンに指定されたのかしら………?」


 ダンジョンとは、危険な魔物が生息しているか、環境が危険過ぎるせいで全く調査が出来ていない地域の総称。だからこの世界の世界地図はまだまだ空白の地域があるんだけど、このフィエーニュの森はダンジョンだとは思えない。


 でも、管理局はダンジョンに指定しているし、ここにやってくる冒険者もいる。


 そういえば、あの2人もこの森にやってくるつもりなのかしら? タクヤとラウラも冒険者らしいし、3日前に資格を取得したばかりだと言っていたから、もしかしたらここに肩慣らしにやってくるかもしれないわ。


 もしかしたら、ダンジョンというには安全過ぎるせいであの2人はがっかりするかもしれないわね。


「――――――ギャアアアアアアアアア!!」


「っ!?」


 がっかりしながら帰ってくるあの2人の事を想像して笑っていると、森の奥の方から男性の断末魔が聞こえてきて、一瞬で私を臨戦態勢へと引きずり込んだ。背中に背負っているコンパウンドボウを手に取り、右手で矢筒の中から矢を引き抜きながら、絶叫が聞こえてきた方向へと向かって走る。


 今のは明らかに魔物の咆哮じゃない。成人の男性の声だったわ。冒険者かしら?


 ダンジョンの中で冒険者同士が出会った場合、共闘するか敵対して戦果を独り占めするかは自由になっている。私は基本的に敵対はせず共闘するようにしているんだけど、裏切るような奴は問答無用で返り討ちにするわ。


 木々と根を躱しながら突っ走っていると、前方から大地に巨大なハンマーが叩き付けられたかのような足音が徐々に聞こえてきた。その足音と共に聞こえてくるのは、木々の群れの中に吹き込んで来る突風のような重々しい唸り声。


 木々の向こうに巨大な影が見えた瞬間、私は大慌てで走るのを止めて巨木の陰に隠れると、呼吸を整えながら静かに巨木の向こうを凝視する。


「な、何なの………!?」


 無数の巨木が乱立する向こうに見えたのは、巨大な人影だった。10m以上の高さの人影で、まるで太っているかのように腹部は膨らんでいる。頭部や腹部からはまるで触手のような太い体毛が伸びていて、胴体からは巨木の幹を容易くへし折ってしまいそうなほど太い腕が生えている。


 肌の色はモスグリーンで、まるで男性のような顔の口元には、真っ赤な液体がこびりついている。その真っ赤な液体の正体と先ほどの絶叫の原因を想像してしまった私は、吐き気を何とか堪えながら呼吸を整え、ながら冷や汗を拭い去る。


「と、トロール………!!」


 あいつがこの森がダンジョンに指定された原因なのね………!


 10m以上の巨体を持つ大型の魔物で、ドラゴンを一撃で叩き潰すほどの強力な腕力を持つ怪物。討伐に向かった8000人の騎士を返り討ちにし、何人も食い殺した魔物が、この森に住みついているなんて………!


 どうしよう……。この弓矢じゃ、あいつは倒せないわ……!


 危険度が低いダンジョンじゃなかったの!? あいつは明らかに危険度の高いダンジョンに生息しているような化け物よ!?


 もう一度トロールの位置を確認しようと木の幹の陰から顔を出した瞬間、私はぎょっとしてしまった。


 ――――――トロールが、こっちを見ていたの。しかもニヤニヤと楽しそうに笑いながら。


「ひっ………!?」


 ど、どうしよう……!? トロールに見つかっちゃった……!


 弓矢じゃ勝てないし、ククリ刀でもトロールを倒すのは不可能よ。このままじゃ私もあの拳で叩き潰されるか、さっきの冒険者みたいに食べられちゃう………!


 助けて、傭兵さん………!


 


 

 

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