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ウィッチアップル



 戦術区画と呼ばれる区画には、戦闘に関するあらゆる設備が集約されている。


 展開している守備隊や攻撃部隊に命令を出す中央指令室や、他の支部への連絡を行う通信室などだ。現在はムジャヒディンに所属していたドワーフたちが必死にハンマーを振るい、新たな居住区や他の区画の拡張作業を連日続けている。過労死しないように定期的に休みを取らせ、ローテーションで仕事をするようにと厳命しているんだが、ドワーフたちにとっては仕事―――――――特に何かを作るような仕事だ―――――――が生き甲斐らしく、なかなか休みを取ってくれない。おかげで拡張は恐ろしい速度で進んでおり、この調子で地下都市でも作れるんじゃないかと思えるほどの勢いで穴を掘り続けている。


 しかも無計画に穴を掘っているのではなく、ちゃんと地盤の強度なども計算して作業しているという。彼らには本当に脱帽だ。


 地下で穴を掘る音が聞こえてくる部屋の中に、巨大な円卓とモニターが鎮座している。もし周囲を取り囲んでいるのが中世の城のような装飾された壁だったのならば、アーサー王伝説に登場する円卓にも見えたことだろう。しかし円卓を取り囲む壁は無機質で頑丈な壁で、装飾は一切されていない。


 円卓を囲む状態で座っているのは、甲冑に身を包んだ騎士とアーサー王ではなく、漆黒の制服に身を包んだテンプル騎士団の主要なメンバーたち。俺やラウラをはじめとするテンプル騎士団本隊のメンバーに加え、諜報部隊であるシュタージのメンバーもいる。それに、ムジャヒディンの代表という事でブリスカヴィカ兄妹も出席している。


 今から始まるのは、実質的にこのテンプル騎士団を統括しているメンバーによる会議だ。この会議の結果によって活動の方針が変わることもあるため、かなり重要な会議なのである。この会議に出席する権限を持つメンバーは、他の仲間たちからは『円卓の騎士』と呼ばれているという。


 というわけで、俺も円卓の騎士の1人だ。なんだかカッコいいね。


 最終的には他の支部の代表も招待して本格的な会議にしたいところだ。そうすれば他の支部からの意見もすぐに反映できるし、全て俺たちが決めてしまえば他の支部からも反発されてしまうだろう。だから最も反発が少なく、なおかつ合理的な民主主義の方式を採用するのだ。


「同志諸君、集まってくれてありがとう」


 椅子に腰を下ろしながら、俺は出席してくれた仲間たちに礼を言う。


「これで会議は3回目だが……………ひとまず、現時点で最も大きな問題がある」


「ふにゅ?」


「大きな問題……………?」


 ああ、かなり大きな問題だ。今までは人手不足であったため、皮肉にも表面化することがなかった大きな問題。ムジャヒディンがそのままテンプル騎士団に加わったことで、ついにその問題が表面化し始めているのである。


 組織を維持するうえで必ず必要になるもの。俺たちには、それが不足している。


「―――――――――資金だよ」


「あっ」


 そう、資金だ。今のテンプル騎士団には、資金が足りない。


 今まではラウラやナタリアたちとの旅に必要な資金だけで済んでいた。適度にダンジョンを調査し、みんなでレポートを書いて管理局に提出し、報酬を受け取る。それに前に参加した闘技場の賞金がまだ残っていたので、多少組織が大きくなっても問題はないだろうと高を括っていた。


 ところが、一気にムジャヒディンのメンバーが47人も加わったことで、その余裕が一瞬で崩壊する羽目になる。


 当然だが、テンプル騎士団に入団した以上は命懸けの戦いをすることになる。いくら現代兵器で完全武装する事ができると言っても、中には銃が通用しない魔物もいるし、弾丸を剣で切り裂いてしまうほどの技術を持つ強豪もいるのだ。銃があるから最強なのだというわけにはいかない。


 戦場に出ない団員でも、拠点の拡張や情報の分析などを行ってもらう事になるし、料理も仲間たちに振るまってもらわなければならない。ムジャヒディンに様々な種族が参加しており、更に様々な技術を習得しているメンバーばかりだったのは僥倖だが、いくらなんでも戦闘員も含めてタダで働かせるのは最悪な行為である。


 現時点では辛うじて俺が持っていた賞金とダンジョン調査の報酬で賄う事ができていたが、そろそろ底を突きそうだ。だから何とかして資金を手に入れなければならない。


 俺の左隣に座るナタリアが、あらゆる費用が記載された書類を片手に持ち、何故かメガネをかけながら席から立ち上がる。


 ナタリア、そのメガネは何? 


「とりあえず、各部署には資金不足の事を知らせてあるし、こちらで何とかするまでは可能な限り節約するようにと指示してあるわ」


「節約という事は、ご飯の量も減るという事ですか?」


「まあ、食料を自給自足できるように栽培も始めてるけど、足りない分は商人から購入して補っているのが現状なの。家畜を飼育するにしてもやっぱり商人から買わないといけないし……………。はぁ、牛や豚って思ったよりも高いのね……………」


「ちなみに旅をしていた頃の出費の6割はステラの食費だからな」


「えぇっ!?」


 本当だよ。アイテム代とか宿泊費にも結構使ったけど、一番辛かったのは食事の時だ。冒険者が好むようなレストランや酒場に入れば全てのメニューを平らげるのは当たり前だし、高級なレストランに行ってもそれは変わらない。


 しかもステラは魔力を主食とするサキュバスで、いくら食べ物を食べても魔力を他人から吸収しない限りは空腹感は消えず、更に〝普通の食べ物を食べても意味はない”という体質の種族なので、はっきり言って彼女の食費は無駄な経費でしかないのである。


 まあ、正直に言ったら傷つくから言わずに泣き寝入りを繰り返していたが……………さすがに組織が大きくなった以上、これは拙い。


「ご、ごめんなさい……………」


「あ、ああ、大丈夫だって。とりあえず今は一旦我慢してくれれば、またいっぱい食べていいからさ」


「本当ですかっ!?」


「お、おう」


 こいつ、本当に大食いなんだな…………。体質のせいなんだろうけど。


「とりあえず、資金のためにもテンプル騎士団のメンバーで戦闘に参加できるメンバーは極力冒険者の資格を取ること。そうすればダンジョンの調査で報酬がもらえるからな」


「そうだな。訓練にもなるし、未だ解き明かされていない世界を知るにはいい機会だ」


 腕を組みながら目を瞑り、楽しそうに微笑みながら頷いたのはムジャヒディンのリーダーのウラルだ。身長が高い上に筋肉で身体もがっちりとしており、まるで鍛錬を続けた格闘家のようにも見える。スオミ支部のアールネと同じくらいがっちりしているが、力比べしたらどっちが勝つんだろうか。


 ウラルが身に着けているのもテンプル騎士団の制服だ。基本的にテンプル騎士団の制服は黒で、肩か胸元にはテンプル騎士団のエンブレムと部隊章がついている。トレンチコートを思わせる上着の胸元は開いているように見えるが、その開いている部分から覗くのは真っ白なワイシャツと真紅のネクタイだ。


 デザインは制服を支給されるメンバーの要望に合わせて自由に変える事ができるので、同じように見えてもよく見るとデザインが違うのだ。


 ちなみに、前までは俺の能力で制服を支給していたんだが、今ではムジャヒディンのメンバーで裁縫が得意なハイエルフの職人に依頼して制服を作ってもらっている。フランセンに占領される前までは洋服店を営んでいたらしく、制服を作るのは素材さえあれば朝飯前だという。


 こういった服装は転生者の能力に頼るよりも、そのような職人に依頼した方が賢いと言える。もし俺が死んだりしたら、俺の能力で生産されたものは全て消滅してしまうのだから、武器だけでなく服まで消えてしまう。つまり俺の能力で作った制服を着ているメンバーは一瞬で下着姿になってしまうというわけだ。


 ナタリアやカノンの下着姿か……………。み、見てみたい。ナタリアにはパンチされそうだけど、彼女の右ストレートを顔面に喰らう価値はあると思うんだ。


 ラウラやクランと比べると胸はやや小さめだけど、彼女の場合はしっかりとバランスが取れているし、肌も白い。それに遺跡で彼女の身体から触手を引っ張った時に気付いたんだけど、お尻もちゃんとバランスが取れてるんだよね。


 オールラウンダーと言ったところか。


 いかん、会議中に角を伸ばすわけにはいかない。


 咳払いをして煩悩と別れながら、テンプル騎士団が直面している大問題を見据える。


 ひとまず、ムジャヒディンのメンバーたちにも冒険者の資格を取ってもらい、ダンジョンの調査をしてもらえば資金は稼げる。ダンジョンの危険度にも報酬の金額は左右されるが、魔物の減少のおかげで本格的なダンジョン調査に力を入れる事ができるようになった今の時代では冒険者こそが資金を稼ぎやすい職業だと思う。もちろん企業の社長には遠く及ばないし、危険度も段違いだから見習い時代の経験とか初心者は最初に遭遇した魔物に感じる恐怖でふるいにかけられるのだが、元々武闘派の多いムジャヒディンの戦士たちにとって、魔物や人間の兵士と命懸けの戦いをするのは日常茶飯事。彼らの勇猛さは、どんな騎士団の団員たちよりも遥かに上なのだ。


 それゆえに無理はしてほしくないのだが、その勇猛さは非常に頼りになる。


 更に、ダンジョンを調査するついでにこの周囲に生息する魔物の種類や地形の情報を持って帰ってもらえれば、それだけでも彼らはちょっとした偵察部隊として機能する。


 まあ、まずは最寄りの冒険者管理局を見つけるところから始める必要があるが、それはとりあえず大きな街を探せば見つけられるだろう。カルガニスタンがフランセンの植民地にされてからしばらく経っているし、管理局もこちらまで進出している筈だ。それにカルガニスタンの地図にも空白の場所が残っており、そこが調査されていないダンジョンだということを告げている。


「ダンジョンかぁ……………! 兄さん、ダンジョンの大きな魔物を爆破したら気持ちいいかな!?」


「……………ダンジョンを崩落させんようにな、イリナ」


 イリナの火力は最高クラスなんだけどな……………。下手すれば味方を巻き込む可能性もあるし、爆発が大好きという性格のせいで毎日タンプル塔は戦車砲の一斉砲撃並みの爆音に包まれっぱなしだ。もちろん原因はこの爆弾魔イリナなんだけどね。


 おかげで夜間の警備を終えて眠ろうとする団員たちから、「イリナの爆音がうるさくて眠れない」という苦情が相次いでいる。何とか対策を考えているんだが、地下でやればせっかくドワーフの皆さんが拡張してくれている地下の区画が全て崩落しかねないし、かといってトレーニングモードでやろうとすれば俺まで眠ってしまい、何もできなくなるのでこちらも現実的とは言えない。


 だからと言って訓練をさせなければ彼女が文句を言い出すし、放っておくと涙目になって「もう兄さんに言いつけてやるっ!」って言いながら駄々をこね始めるので、極力部屋の壁や扉を防音のものに改造してもらって対応している。それで改造にも費用が掛かるわけだから、テンプル騎士団の財政がとんでもない事になるのは言うまでもない。


 というか、現時点で男性陣では数少ないまともな男の1人であるウラルだけど、もしかしてこの人も変人なんじゃないだろうか? 


 いや、そんなわけないよね。冷静沈着で頼りになる兄貴って感じの仲間だし、こんなしっかり者が変人だったらテンプル騎士団の男性陣は終わる。うん、俺も変人だから。


「とりあえず、申し訳ないがしばらくは食料は節約だな…………」


「ああ。幸い水は困らないが……………」


 ラウラの能力のおかげで水には困らない。彼女ならば大気中の水分を使って自由自在に氷を操る事ができるので、それを溶かせば水はいくらでも手に入る。それにタンプル塔を取り囲む岩山の中には、ヴリシア帝国のあるウィルバー海峡へと続く巨大な川が流れているらしく、水質も問題ないらしいので、それも飲み水や生活用の水に利用できる。だから水は節約の必要はない。


 本当に、水がいくらでも手に入るのは救いだ。


 現時点では水を汲んでこっちまで運んでこなければならないので、屈強な戦士たちの仕事になっているが、最終的には王都で普及しているようなポンプを使って組み上げたいところだ。モリガン・カンパニーに注文すれば購入できるだろうし、上手く行けばこの前壊滅させた駐屯地からも部品くらいなら手に入るだろう。


「とりあえず、今日はこれまで。また何かあったら招集をかける。以上」


 最大の課題は、やはり資金だ。


 タンプル塔にいるのはムジャヒディンの戦士たちだが、できるならば近隣で苦しんでいる奴隷や行き場を無くした難民も受け入れていきたいところだ。


 ここが、傷ついた人々の居場所になる。


 そのためにも、資金を集めなければならなかった。


















 第一居住区の隅には『食料区画』と呼ばれる区画があり、そこにはちょっとした畑がある。少しでも食料を生産できるようにと、かつては倉庫に使われていたと思われる古い部屋の中に植物を育てられそうな土を運び込んで敷き詰め、商人から購入した種を撒いて野菜や果物を栽培しているのだ。


 日光がなければ栽培はできないが、その問題点は天井に特別な鉱物を埋め込むことで解消している。


 この畑は地下にある食料区画の中にあるんだが、天井は地下だというのにやけに明るいのである。まるで天井に蒼空でも広がっているかのような光が、地下に作られた畑の畝を照らしていた。


 実際に、天井には蒼空が広がっていた。微かに蒼空を飾る白い雲と、その中心に鎮座する巨大な太陽。まるで地上にいるかのような光景だが――――――――実はあの空は、天井に埋め込まれたある鉱石が映し出す映像なのだ。


 海底神殿で俺たちが目にした『メモリークォーツ』である。魔力を注入しながら何かをイメージすると、そのイメージしたものがその功績に投影されるという鉱石だ。大昔では色んな鉱山で手に入れる事ができたらしく、当時の騎士たちは斥候にこれを持たせて敵の軍勢の映像を投影させて作戦を練っていたという。あらゆる用途に転用できる性質のためあっという間に採掘され尽して枯渇してしまったため、現在では人間が開拓していないような危険なダンジョンの中でしかお目にかかれない、極めて希少な鉱石なのである。


 どうやらタンプル塔の周囲の岩山の中には鉱脈があったらしく、拡張作業をしていたドワーフたちが偶然見つけてくれたのだ。しかもこの擬似的な蒼空は太陽の光までほぼそのまま再現しているらしいから、蒼空を想像するだけで植物の栽培に最適な空間が出来上がるというわけである。


 なので、ここの管理も仲間の1人に任せている。その1人が、畑に植えられている苗に水をあげているアルラウネの少女だ。


「ふう……………」


「あっ、団長さん。お疲れですか?」


「やあ、シルヴィア。いつもごくろうさま」


 ここを管理しているのはアルラウネのシルヴィア。人間と植物を融合させたような『アルラウネ』という種族の少女で、ムジャヒディンのメンバーの1人である。とはいえアルラウネは〝発芽”した場所から一歩も動く事ができない種族のため、魔物に食べられたり、人間に見つかって強引に引っこ抜かれ、奴隷として売られることも珍しくないという。


 腕から生えたツタのような触手を元の長さに戻した彼女は、微笑みながら俺に手を振ってくれた。彼女の隣まで歩き、息を吐いてから椅子に腰を下ろす。


「収穫にはまだまだかかりそうです」


「ああ、分かった。それまではこっちで何とかするさ。……………何か必要な物はあるか?」


「うーん……………もしできるなら、もう少し肥料が欲しいところですね」


「肥料かぁ……………分かった。今度商人から購入しておくよ」


「助かりますっ♪ ……………あ、そうだ。団長さん、これをどうぞ」


「ん?」


 彼女からの要望を聞いたのでそろそろ部屋に戻って書類にサインでもしようと思っていた俺を、シルヴィアが呼び止めた。彼女は足元にある籠の中に手を突っ込むと、その中からリンゴに似た赤い木の実を取り出して俺に差し出す。


 傍から見ると本当にリンゴのように見えるが、表面にはややしわがあるし、売られているリンゴよりもやや赤いような気がする。サイズもちょっとだけ大きい。


 これは何だ? 図鑑で見たことがない木の実だな。


「これは?」


「ええと、カルガニスタンで取れる希少なリンゴなんです。『ウィッチアップル』って言うんですよ」


「ウィッチアップル?」


「はい。魔力の濃度が高い土地でしか実らないリンゴで、大昔は魔女たちが好んで食べていたそうなんです。……………多分、サキュバスたちの事だと思いますけど」


 サキュバスか……………。これをステラの所に持って行ってあげたら、彼女は懐かしがるだろうか?


「もう1つありますから、それは団長が召し上がってください。ステラさんにはこっちを渡しておきますので」


「ああ、悪いね。いただくよ」


 彼女に礼を言い、受け取ったウィッチアップルの表面に触れてから、そのまま思い切りかぶりつく。ちょっとだけ皺になっている皮はあっさりと破れ、予想していたよりも濃厚な果汁と果肉を口の中で咀嚼し、攪拌してから飲み込む。


 甘いな、このリンゴ。皺がついているからなのかドライフルーツみたいな感じの味を予想してたんだけど、全然違う。まるで慣熟した果物の甘みを更に凝縮したかのような味がする。


 これを使ってアップルパイを焼いたら美味しいだろうなと思ったけれど、これは希少なリンゴらしい。魔力の濃度が濃い場所にしか生えないから栽培もできないようだが、今度手に入れたらその時はアップルパイやアップルティーを作ってみたいものだ。


 残ったリンゴを咀嚼しながら畑を後にし、廊下を歩く。


 すれ違った団員たちに挨拶しながら自室へと向かっていると、一度だけ自分の鼓動がはっきり聞こえたような気がした。まるで自分の胸に耳を当て、自分の鼓動を聞いているかのように聞こえたのである。


 でも、聞こえたのは1回だけ。びっくりして目を見開きながら胸に手を当てたけれど、もう鼓動は聞こえなかったし、何も違和感は感じない。


 おかしいな。今のは何だ……………?


 気のせいか? まあ、最近は忙しくなっているし、早く休んだ方が良さそうだ。


 納得できないせいなのか、少しだけ不安になりながら、俺はお姉ちゃんの待つ自室へと向かった。
















 私はいつも、眠る時はタクヤを思い切り抱き締めて眠るようにしている。


 抱き締めると良い匂いがするし、蒼い髪は本当に女の子みたいにさらさらしているから触り心地がいい。それにこの子を抱き締めていると、辛い事を全部忘れる事ができる。


 小さい時から、私はずっとそうしている。


 あの時、私の事を助けてくれたこの小さなヒーローに惚れてしまってからは、ずっとこうして抱き締めて眠っている。稀に悪い夢を見るのか、タクヤはうなされている時があるけど、そういう時は優しく抱きしめながら頭を撫でてあげると、この子はぐっすり眠ってくれるの。


 私はこの子みたいに器用じゃないから役に立てることは少ないけど、少しでもこの子に恩返しがしたいの。だから悪夢からタクヤを守れるなら、私は全力で盾になる。


「ん……………っ」


 えへへっ。頬にこっそりキスしちゃったけど、起きてないから大丈夫だよね。


 それにしても、何だかいつもよりタクヤの頬が小さかったような気がする。私はよく彼の頬にキスをするんだけど、キスをした感触がいつものタクヤの頬の感触じゃないの。いつもよりも小さいし、何だか柔らかい。


 あれ? おかしいな?


 違和感を感じながらも彼をぎゅっと抱きしめる。くっついていれば違和感は消えるだろうと思ったんだけど、彼にしがみつくかのように抱き締めた瞬間、むしろその違和感は一気に膨れ上がった。


 ―――――――――なんだか、タクヤの身体が小さいような気がする。


「ん?」


 おかしいよ。


 匂いはタクヤだし、寝息の特徴もタクヤだ。小さい頃からずっと一緒だったし、一晩中観察していた事は何度もあるから間違えるわけがない。


 なのに、身体が小さい。どういうこと?


 膨れ上がる違和感を抑えきれなくなった私は、ゆっくりと上半身を起こすと、タクヤと一緒にかぶっていた毛布に手をかけ―――――――――勢いよく毛布を取り払う。


「――――――――!」


 その毛布の下で寝息を立てていたそれを目にした瞬間、私は度肝を抜かれた。


 そこに横になり、いつものように可愛らしい寝顔で寝息を立てていたのは、確かに私の可愛い弟のタクヤだった。本当に女の子なのではないかと思える顔つきと寝顔は、いつも観察してきた彼の顔。だけど―――――――いつものタクヤじゃない。


 すらりとした手足は縮んでいるし、髪もなんだか短くなっているような気がする。胸の小さい女の子にも見えてしまう身体は縮んでしまったのか、パジャマの中に埋まってしまっている。


 ん? なんだか、このタクヤ小さいよ? いや、小さいというか幼いよ……………?


 まるで、3歳の頃のタクヤに戻ったみたい。


「え?」


「ん……………あれ? おねえちゃん……………?」


「ふにゃ……………!」


 声も幼い!


 えっ、どうしたの!? 小さくなっちゃった!?


 ど、どうしよう……………! タクヤが幼くなっちゃったよ!?


 でも……か、可愛い……! どうしよう? 思い切り抱きしめちゃおうかな? えへへっ。ごめんね、タクヤ。もう我慢できないよ……ッ!


 よし、抱きしめちゃおう! そして思い切り匂いを嗅いで、頬ずりして、満足するまで色んな事するのっ!


「ふにゃあああああああああああっ! 可愛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」


「ふにゃあああああああああああっ!」


 我慢できなくなった私は、瞼を擦っていた幼いタクヤにのしかかっていた。




 


 



タクヤが幼くなってショタクヤに…………(笑)

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