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カラシニコフの鉄槌

 砂漠は、すっかり夜になっていた。うんざりするほどの熱を地上へとばら撒いていた太陽はそそくさと沈んでしまい、今は星と三日月の独壇場。本当に同じ砂漠なのかと思うほど、今のカルガニスタンの砂漠は涼しい。


 チーフテンの砲塔のハッチから身を乗り出し、車体や砲塔の上に乗るムジャヒディンの戦士たちにアイスティーを支給する。自分の分のアイスティーを車内から引っ張り出し、水筒にジャムを入れてからアイスティーを注ぐ。砂糖が多めに入った甘いストロベリージャムのおかげで甘くなったアイスティーを堪能しつつ、もう一度作戦を確認する。


 今回の襲撃に参加するのは47名のムジャヒディンや他のゲリラのメンバーと、シュタージを除いたテンプル騎士団本隊。シュタージのメンバーにはタンプル塔で待機していてもらい、いざという時のために支援砲撃をしてもらう予定だ。ノエルはまだシュタージに配属されたわけではないので、俺たちと一緒に最前線で戦ってもらう事になっている。


 47名の歩兵と共に進撃するのは、チーフテンとチャレンジャー2。どちらも拠点攻撃を考慮し、BM-13カチューシャを搭載した台車を牽引しながら進撃している。21年前にタイムスリップした時も親父たちが使用していた兵器で、無数のロケット弾を矢継ぎ早にぶっ放し、広範囲の敵を木端微塵に吹っ飛ばしてくれる頼もしい兵器だ。2両の戦車で2基しか牽引していないものの、それ以降は戦車砲とプロテクターRWSに搭載されたMK19オートマチック・グレネードランチャーの砲撃でカバーするしかない。


 作戦は、まず一番最初に台車に搭載しているカチューシャを敵の駐屯地に向かって斉射。これで可能な限り敵の数を減らしつつ、俺たちの報復が始まるという事を敵に宣言する。そして、今度は奴らの恐怖を再び抉るように、10基のパンジャンドラムを突撃させて敵を攪乱。それと並行しつつノエルが側面に回り込み、VSSによる狙撃で敵にこちらが背後や側面にもいると思わせる。


 そしたら後は、ウラルが率いる歩兵部隊が真正面から突っ込む。戦車の役割は、進撃していく歩兵部隊の支援だ。そのため、もう既に55口径120mm滑腔砲には『HEAT-MP』と呼ばれる砲弾が装填されている。


 HEAT-MPとは、対戦車用の砲弾として使用される形成炸薬(HEAT)弾の内部に超小型の鉄球などを入れた砲弾だ。炸裂すると爆風に押し出された鉄球が周囲へと飛んでいくため、攻撃範囲が広くなり、戦車だけでなく歩兵の集団にも大きなダメージを与える事ができるようになるのである。


 無数の鉄球を発射するキャニスター弾も考えてみたんだが、それだと下手をするとムジャヒディンまで巻き込む可能性があったので、HEAT-MPを選択した。もちろん臨機応変に砲弾の種類は変更して対応する。


 水筒の中のアイスティーを飲み干し、車長の座席の脇にあるモニターで周囲の状況を確認する。現時点で魔物が襲ってくる様子はないし、敵がこちらを発見した様子もない。このまま進撃すれば、確実に奇襲する事ができるだろう。


 顔を上げると、ハッチのすぐ近くでは擲弾兵を担当するイリナが、訓練でも使用したRG-6の砲身を撫でているところだった。爆発が大好きな彼女に訓練でグレネードランチャーを使わせてみたんだが、もうすっかりグレネード弾やロケット弾の爆発の虜になってしまったらしく、出発してからはずっと得物を眺めたり、表面を撫で続けている。


 他の仲間たちがAK-74を装備し、サイドアームにトカレフTT-33を装備しているというのに、イリナだけは装備が違う上に重装備である。


 まず、メインアームはRG-6とロケットランチャーのRPG-7V2。ロケットランチャーには早くも対人榴弾が装着されている。それと、さすがに爆発する武器だけでは自爆する危険性もあるので、SMGサブマシンガンも持たせている。


 彼女が持つSMGサブマシンガンは、第二次世界大戦でソ連軍が使用した『PPSh-41』だ。旧式のボルトアクションライフルの銃身を短くし、その銃身に機関銃のようなバレルジャケットを装着して、銃身の下にドラムマガジンを装着したような形状をしている旧式のSMGサブマシンガンである。


 使用する弾薬はトカレフTT-33と同じく7.62×25mmトカレフ弾を使用するんだが、弾薬を9×19mmパラベラム弾へと変更している。あとは照準を合わせやすいように、銃身の上にはドットサイトを装着している。カスタマイズした点はこれくらいだろうか。


 最大の特徴は、連射速度の速さと弾数の多さだろう。一般的にはSMGサブマシンガンのマガジンに入る平均的な弾丸の数は30発前後なのだが、このPPSh-41はドラムマガジンを装備しているため、なんと71発も立て続けに連射することが可能なのである。命中精度が悪いという欠点があるものの、AK-47と同じく頑丈だし、長所を生かせばすぐに弾幕を張ることもできるため、近距離での射撃戦においては極めて有効な武器になるに違いない。ただし現代のSMGサブマシンガンと比べるとサイズが大きいため、やや扱い辛い。


 そして、サイドアームには炸裂弾を発射するカンプピストルを装備している。PPSh-41以外は全て爆発する武器ばかりとなっており、攻撃力だけならばテンプル騎士団本隊のメンバーと比べてもトップクラスだろう。


 彼女が装備する近距離武器はスコップとなっているが、実はイリナが持つスコップはただのスコップではない。


 なんと――――――――迫撃砲を内蔵した、かなり特殊なスコップなのである。


 迫撃砲とは、斜め上に向けた砲身の砲口から砲弾を装填して斜め上に発射し、敵を砲撃する兵器の事だ。戦車や装甲車への硬化は低いものの、爆発する範囲が広いため歩兵を殲滅する際に真価を発揮する。さらに軽量であるため、大きな榴弾砲や戦車砲よりも運用しやすいという利点がある。


 彼女が持つスコップは、それを内蔵しているのだ。


 ソ連軍が開発したスコップで、柄から先端部と持ち手を取り外し、柄の下部に持ち手を取り付けてバイボットにし、先端部を後端に取り付けることによって迫撃砲に変形するという極めて珍しい兵器なのだ。照準器は搭載されていないため命中精度は低くなってしまうが、それを携行する兵士だけで連発する事ができるため、命中精度の低さを除けば使いやすい兵器である。


 面白半分でイリナにこれを紹介してみたんだが、まさかこれを使いたいと言い出すとは思ってなかったよ。でも、迫撃砲も立派な爆発する武器だし、彼女が興味を持つ可能性はあるよね。


 ちなみに本来なら使用するのは37mm弾なんだけど、彼女が携行するグレネード弾の口径や俺たちが持つグレネード弾のサイズを考慮し、40mm弾へと変更している。


「イリナ、大丈夫か?」


「うん、大丈夫。こいつで奴らを吹っ飛ばして、ジナイーダの仇を取ってやるんだから!」


 そう言いながらRG-6の砲身を撫で続けるイリナ。隣にいる兄のウラルは、心配そうに妹の後姿を見つめている。


 イリナ、仲間を巻き込むなよ…………?


『こちらドレットノート。目的地を確認』


「了解。…………ラウラ、停車」


「了解!」


 ナタリアとカノンとステラの3人で運用しているドレットノートに対し、チーフテン(ウォースパイト)は俺とラウラの2人だけで運用している。ラウラが操縦士を担当し、俺が砲手と車長を兼任しているのだ。自動装填装置を搭載しているため、装填手は乗っていない。


「全軍、止まれ」


 戦車の周囲を進む歩兵部隊に無線で指示を出す。キューポラから顔を出し、歩兵部隊と味方の戦車が停車していることを確認してから、砲塔の上でタンクデサントしていたウラルたちに「突撃準備だ」と指示を出し、戦車の外へと躍り出た。


 停車した戦車の前に立ち、双眼鏡で前方に見える駐屯地をズームアップする。やはり、十数名の騎士が周囲を警備しており、映像を確認した時と比べるとほんの少しだけ警備が厚くなっているようだが、あまり変わっていない。このまま攻撃しても問題はないだろう。


 合計で20000ポイントを消費し、あらかじめ生産しておいたパンジャンドラムを10基ほど目の前に展開する。何もなかった空間に、フランセン共和国騎士団を蹂躙したものと同じタイプのパンジャンドラムが何の前触れもなく出現し、無言で隊列を形成する。


 まずはカチューシャによる一斉砲撃だ。その後、台車を切り離して進撃を開始する。


 だが、攻撃開始の前にちょっとだけやっておきたい事がある。懐からチョークを取り出した俺は、戦車の後方へと回り込んだ。チーフテンが牽引する台車にはもう既にロケット弾が装填されており、いつでも車長の席の発射ボタンで発射できるようになっている。


 だが、撃つ前にやることがある。これはジナイーダの弔い合戦なのだ。


 幼少期に習ったカルガニスタン語を思い出しつつ、ロケット弾に白い文字を書き込んでいく。黒板やノートのようなものに書いているわけではないため、文字はちょっと歪んでしまったけれど、これで良い筈だ。


「何してるんだ?」


 チョークで文字を書いていると、トカレフの点検をしていたウラルが尋ねてきた。


「見てみろ」


 そう言いながら、俺はウラルや興味を持ってこちらを注目するムジャヒディンの戦士たちに、ロケット弾に書き込んだ文字を公開する。


 これは弔い合戦だからな。これでロケット弾の威力が上がるわけではないが、こういう事は必要だろう。


「『ジナイーダのために』…………?」


「ああ。これで合ってるよな?」


「合ってるぞ。…………ありがとな、タクヤ」


「気にすんなって。……………絶対勝つぞ、ウラル」


「おうっ!」


 カルガニスタン語で『ジナイーダのために』と書き込んだ俺は、ウラルと握手をしてから再び戦車の車体をよじ登り、砲塔の上のハッチから車内へと滑り込んだ。座り慣れた車長の席に腰を下ろし、片手をロケット弾の発射スイッチに近づけつつ、無線機を手に取る。


 歩兵部隊は台車から離れているため、ロケット弾の発射に巻き込まれることはないだろう。


 さあ、弔い合戦を始めよう……………!


「――――――――発射アゴーニッ!!」


『カチューシャ、発射アゴーニッ!!』


 無線機に向かって号令を発した直後、ナタリアの復唱とボタンを押し込む音が聞こえてきた。


 2両の戦車が牽引する台車の発射台から、『ジナイーダのために』と書き込まれた無数のロケット弾がついに解き放たれる。噴射された白煙と炎で砂を舞い上げ、涼しくなった静かな夜の砂漠に数多の轟音を生み出しながら飛翔を始めたロケットの群れは、まるで天空から地上へと落下していく隕石のように炎を煌めかせながら、段々と高度を落として落下を始める。


 その先にあるのは、フランセン共和国騎士団の駐屯地。第二次世界大戦で数多のドイツ兵を蹂躙したカチューシャ(スターリンのオルガン)が、フランセンの騎士たちに襲い掛かる。


 一番最初の煌めきが地面に激突した直後、その閃光が急激に膨れ上がった。砂と木材の破片を吹き飛ばしながら誕生した紅蓮の閃光は一瞬で黒煙に呑み込まれてしまったが、その周囲では立て続けに同じような爆発が駐屯地の建造物を蹂躙し、警備していた騎士たちを木端微塵にしているところだった。


 ロケット弾を目にしたことのない彼らからすれば、いきなり降り注いだ流れ星に蹂躙されているようなものだろう。魔力を使わないから察知することもできないし、高速で降り注ぐロケットを魔術で迎撃するのは不可能だ。バリスタでも撃墜することは不可能だろう。


 奇襲である以上、これが発射された時点で彼らに防ぐ術はない。ジナイーダや他の捕虜たちを嬲り殺しにしたように、今から俺たちがお前たちを嬲り殺しにする。これは先制攻撃であると同時に、宣戦布告でもある。


 ロケットが着弾した瞬間、ムジャヒディンの戦士たちが雄叫びを上げた。今までは自分たちを虐げてきた奴らが、逆に蹂躙される光景を目の当たりにして昂っているのだろう。


 さて、次はパンジャンドラムの出番だ。


「パンジャンドラム隊、出撃する。歩兵部隊はパンジャンドラムに続け!」


『『『了解ダー!!』』』


 手元のコンソールのボタンを押し、パンジャンドラムの起動準備を開始する。カチューシャの攻撃で混乱している敵に、今度は10基の車輪と歩兵部隊が襲いかかるのだ。しかも歩兵部隊は一部を除いてAK-74を装備しているし、1人1人がフランセンの騎士たちに対して猛烈な復讐心を持っている。容赦をする筈がない。


「―――――――Go ahead(行け)!!」


 スイッチを押した次の瞬間、今度は車輪に取り付けられているジェットエンジンが一斉に火を噴いたかと思うと、人間を容易く踏み潰してしまうほどのサイズの車輪が緩やかに進み始めた。ゆっくりと砂に轍を刻みつけ、豪快な火柱と白煙を噴き上げながら徐々に加速していく巨大な車輪。その表面には、確実に敵を殺傷できるようにスパイクがびっしりと装着されている。


 やがて解き放たれたパンジャンドラムたちが徐々にスピードを上げていき――――――――駐屯地へと突っ込んでいく。


 きっと、あのパンジャンドラムの襲撃を生き延びた騎士たちは度肝を抜いている事だろう。最も怖い悪夢を再び見ているような気分になっているに違いない。


 まあ、これは悪夢じゃなくて現実なんだけどな。


 










 その光景を目にした時、駐屯地を警備していた騎士たちの中に、それが攻撃だと見抜いたものは1人もいなかった。夜の砂漠で光を放ちながら飛翔するそれは、まさに流れ星のように見えたことだろう。


 しかし、それはただの流れ星などではないということを、彼らはすぐに理解することになる。


 緩やかに高度を落とし始めた流れ星が、段々と駐屯地へと落下するような軌道に変わったのである。それが落下してくると気付いた騎士が他の騎士たちに警告をしようとした頃には、一番最初に降り注いだ流れ星(ロケット弾)がテントの群れの中へと飛び込み、偶然そこで物資の確認をしていた騎士を押し潰すと、地表にほんの少しだけ突き刺さった状態で起爆し、一番最初に犠牲となった騎士の肉体を木端微塵に焼き尽くした。


 続けて2本目のロケット弾と3本目のロケット弾が着弾し、駐屯地の敷地内で派手な火柱を噴き上げる。兵舎のハンモックで寝息を立てていた騎士たちや、執務室で書類にサインを繰り返していた士官たちはその爆音で攻撃を受けているという事を察知し、大慌てで駐屯地の様子を確認し始めたが、その頃にはもう既に駐屯地の敷地内は地獄絵図と化していた。


 いたる所で吹き上がる火柱。身体中に破片が突き刺さり、爆風に皮膚を焼かれた騎士たちが呻き声を上げながら逃げ惑う。中には火達磨になり、奇声を発しながら地面を転げまわる哀れな騎士もいた。


「なっ……………!?」


 アドルフ准将は、司令塔の手すりからその惨状を見下ろして絶句するしかなかった。敵の襲撃を想定していなかったわけではない。むしろ、撤退していった騎士たちをムジャヒディンの戦士たちが追撃してくる可能性を想定していたからこそ、警備体制を強化するように部下たちに通達しておいたのだ。だから襲撃される事自体は想定外の事態ではない。


 想定外だったのは、敵の攻撃方法である。


 アドルフ准将が想定していたのは、今までのムジャヒディンと同じく馬に乗っての突撃だった。いくらモリガンの傭兵たちが使っていた飛び道具と似た武器を使う少女たちが味方についているとはいえ、せいぜい馬に乗りながらその飛び道具を乱射する程度だろうと考えていたのである。


 なのに、敵の先制攻撃は、魔力を全く感じない流れ星にも似た超遠距離攻撃だったのだ。そんな攻撃ができるのは現時点では魔術だけで、しかもそのような攻撃に限って大量の魔力を消費するため、素人でもすぐに魔術で攻撃されると察する事ができるほどだ。しかし魔力を全く感じない状態では、そんな攻撃を想定できるわけがない。


「馬鹿な……………」


「しゃ、車輪だッ!」


「あの車輪がくるぞッ!!」


 今度は、剣を手にして飛び出した騎士たちが怯えだした。どうやらムジャヒディンを尾行させた偵察部隊の生き残りらしく、その車輪には見覚えがあるらしい。


 数多の流星が生み出した火柱の向こうから、騎士たちに猛烈な恐怖を与えた鋼鉄の車輪が姿を現す。一見すると鉄道の車輪をそのまま大きくしたように見えるが、側面には火を噴く奇妙な筒のようなものがいくつも取り付けられており、車輪の加速を補助しているようだった。


 まるで機関車が全速力で突っ込んでくるような速度で、その車輪が10基も姿を現したのである。中には先ほどの流れ星による爆撃を生き残ったバリスタに飛びつき、巨大な矢を装填して迎撃をする果敢な騎士もいたが、魔術の集中砲火を弾き返してしまうほどの防御力を誇る相手に、辛うじてゴーレムの外殻を貫ける程度のバリスタが通用するとは思えない。しかも相手は回転しているのだから、生半可な貫通力では弾かれてしまう。


 案の定、バリスタが放った矢は次々に弾かれ、くるくると回転しながら砂漠に突き刺さるだけだ。迎撃できる気配はない。


「なんだ、あの兵器は……………」


「准将、ご命令を!」


「げ、迎撃だ! すぐ迎撃しろッ!!」


「はっ!」


 早くも騎士たちが車輪に押し潰され、グロテスクな断末魔を上げていく姿を目にしたアドルフ准将は、目を見開きながらその惨状を見下ろす事しかできなかった。


 










 実際に突撃する人数は47人。その中でグレネードランチャーという爆発する飛び道具を持つのは妹のイリナのみ。


 頭のターバンを巻きなおし、AK-74に銃剣がちゃんと装着されているか確認する。あの蒼い髪の少年が渡してくれた異世界の武器を実戦で使うのは、これが初めてだ。まだ使い慣れた武器とは言えないが、訓練ではそれなりに命中するようになったし、使い方にも少しずつ慣れていたところだ。


 駐屯地で吹き上がる火柱を睨みつけながら、俺は姿勢を低くした。もう既に巨大な車輪の群れは前進を始めていて、徐々に加速しつつある。


 これが弔い合戦だ。今まで散っていったのはジナイーダだけではない。


 妹を失った奴もいるし、兄を失った奴もいる。中には両親を目の前で殺されて孤児になったメンバーもいる。失ったものは様々だが、奪っていったのはあいつらだ。フランセン共和国の騎士共だ。


 今まで奪われたのだから、俺たちが奪っても問題はないだろう。奪われたものが戻ってこないのならば、あいつらと同じようにこっちも奪ってやるまで。


「いよいよだね、兄さん」


「ああ。イリナ、無茶するなよ?」


「うん。僕は大丈夫」


 銃は便利な武器だ。これがあれば魔力を使わずに、強力な攻撃で敵を遠距離から攻撃する事ができる。これがあれば、弾切れにならない限り無数の軍勢が相手でも怖くない。


 しかもこちらには、復讐心を持つ47人の戦士たちもいる。人間の奴もいるし、ハーフエルフの奴もいる。種族はバラバラだが、俺たちは常に一心同体だ。今までそうやって戦ってきたのだ。


 さて、そろそろ突っ込むか。


「――――――――突っ込むぞ! 奴らにカラシニコフの鉄槌をッ!!」


「「「Урааааааа!!」」」


 仲間たちと共に、俺たちはあの車輪の群れが残した轍の上を駆け出した。




 

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