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シュタージが偵察に行くとこうなる


 ズドン、と獰猛な銃声が、砂漠に響き渡る。


 エジェクション・ポートから排出された薬莢が、熱を孕んだまま真下の砂に半分ほど沈み、役目を終えた弾丸の墓標のようにそこに鎮座する。その傍らには、数秒前に役目を終えた弾丸の薬莢(墓標)が連なり、その近くには別の弾丸の薬莢(墓標)が連なる。日光に照らされる黄金の薬莢たちは、金色の光を放ちながらかつて自分たちが収まっていた銃を見上げるだけだ。


 足元に転がる薬莢を一瞥し、すぐに次のマガジンへと交換。コッキングレバーを引いて弾丸を装填し、再び俺はチューブ型のドットサイトを覗き込む。


 使用している銃は、ロシア製の最新型アサルトライフルであるAK-12。原型となったAK-47から発展した新型のライフルで、頑丈さを維持しつつ汎用性を高め、更にAK-47の弱点だった命中精度の悪さを改善した、東側を代表する傑作アサルトライフルである。更に、他にもLMGライトマシンガン型、SMGサブマシンガン型、マークスマンライフル型が存在する。


 俺が使っているのはスタンダードなアサルトライフル型。本来なら小口径ライフル弾の5.45mm弾を使用するんだが、強靭な防御力を持つ魔物や、ステータスの高い転生者に少しでも通用するように、あえて大口径で反動の大きい7.62mm弾を使用している。更に、防御力の高い魔物の外殻を破砕するために、ポーランド製グレネードランチャーのwz.1974パラドを銃身の下に装備している。


 転生者以外の対人戦ならば、小口径の5.45mm弾や5.56mm弾が望ましい。反動が小さく命中精度も高いし、マガジン内に装填できる弾数も多くなる傾向があるからだ。ただし、その分殺傷力では7.62mm弾に劣るため、対転生者戦では火力不足になってしまう。


 なので、この異世界では転生者や対人戦にも対応できる大口径の銃の方が都合がいいのだ。


 的に風穴が開いたのを確認してから、横にずらしていたブースターをドットサイトの後方に移動させる。的に照準を合わせ、もう一度トリガーを引く。最初の頃は7.62mm弾を撃つのは無理なんじゃないかと思うほど反動が大きかったんだが、いつの間にか慣れていた。まあ、身体が魔物並みに強靭なキメラとして生まれたんだから、人間よりも貧弱なわけがない。


「…………こんなもんかな」


 ブースターから目を離しつつ、俺はAK-12を肩に担いだ。


 俺の前にある的は穴だらけ。人間の形をした的の胴体は蜂の巣になっており、首から上は度重なる被弾に耐えられずに捥げてしまっている。


 普通の人間なら、あんなに被弾すればとっくに死んでいる。それどころか、たった1発の弾丸でも当たり所によっては絶命してしまうほど脆い生き物なのだ。だからこそ身を守ろうと鎧を纏い、怪物を打ち払うために剣を握る。


 しかし、俺たちが親父たちと共に戦う事になった吸血鬼という怪物は、その程度では死なない。弱点の銀の弾丸で撃ち抜かない限り、奴らは何度でも再生してしまう。


 一体いつ吸血鬼たちの総本山に襲撃を仕掛けるのかは定かではないが、今のうちに訓練を積み重ねつつ、兵力の増強を推し進めなければならないのは明白だった。いくら少数精鋭とはいえ、銃の扱い方を知っている少数の男女だけでは、戦争を知っている大人たちの戦列に加わることは許されない。


 そんなプレッシャーを感じていた俺を、傍らで響いた銃声が慰める。


 タンプル塔の屋外に臨時で作られた即席の射撃訓練場で、俺と共に訓練をしていた少女の銃声である。というか、正確に言えば俺の訓練ではなく、彼女の訓練に付き合うついでに俺もAK-12の調整をするつもりだったんだ。


 数週間前まではベッドの上で生活していた少女が、俺の隣でハンドガンを構えている姿は、旅立ってから最初にエイナ・ドルレアンに立ち寄った時には想像もできなかった。けれど、今の彼女はもう病弱な従妹ではない。ネイビー・シールズの厳しい訓練にも匹敵する訓練を受け、強靭になった1人の戦士なのだ。


 ノエルが構えているハンドガンは、ソ連製の『マカロフPM』と呼ばれる、軍用ハンドガンの中でも小型に分類されるハンドガンの1つである。


 第二次世界大戦中のソ連軍は、トカレフTT-33というハンドガンを採用していた。大量生産のために徹底的に単純な構造の銃として設計されたトカレフは多くの兵士に装備され、ドイツ軍との戦闘の勝利に貢献したが、〝安全装置セーフティ”が搭載されていないというハンドガンには考えられない銃であったし、アメリカをはじめとする西側の国に対抗するためにも、新型のハンドガンを開発する必要があるという事で、当時のソ連は新型ハンドガンの開発を開始する。


 それが、ノエルの持つマカロフPMだ。こちらでは安全装置がちゃんと搭載されているほか、弾薬も新型の弾薬に変更されている。全体的にがっちりしていたトカレフと比べると、ドイツのハンドガンの影響を受けているからなのかかなりコンパクトな形状に変わっており、大男ならば手の平で隠せるのではないかと思えるほどのサイズだ。


 現在では退役している銃の1つだが、コンパクトなハンドガンであるため、隠し持つのにももってこいなのだ。実際、ノエルが数あるハンドガンの中からマカロフを選んだ理由が、「隠し持てるから暗殺に向いている」というとても病弱で純粋だった従妹が口にするとは思えない物騒な理由で、それを聞いた瞬間、俺とラウラは同時に顔を青くしたものである。


 いったい、どんな訓練を受けたんだろうか。


「お兄ちゃん、見て見て!」


「おお、ちゃんと当たってる」


 しかも、ハンドガンの命中精度も高い。地下で見つけた木材を削って作った人型の的の頭には、9×18mmマカロフ弾で穿たれた風穴がびっしりと開いている。


 キメラとして覚醒したのが2週間前で、それから1週間の間訓練を受けていたらしいが、たった1週間でこんな命中精度になるのだろうか。もしかすると、ノエルにもラウラみたいな射撃のセンスがあるのだろうか?


 素早くマガジンを取り外し、新しいマガジンを装着。後ろに下がっていたスライドを元の位置に戻し、再び射撃を開始する。


 ノエルはどうやら、基礎的な訓練以外では「暗殺に特化した訓練」を受けていたらしい。射撃訓練を始める前にノエルも言っていたし、彼女の能力も暗殺で真価を発揮するタイプだという。もし部隊に配備するのならば、正面から戦うことの多い俺たちではなく、どちらかと言うと表舞台には立たないシュタージに配備した方が良いのではないだろうか。諜報活動をしつつ、場合によっては標的を暗殺する。そうする事でシュタージにも強みができるし、暗殺に特化した訓練を受けたという事は隠密行動の訓練も受けているという事だ。表舞台には立たないシュタージに配備すれば、ノエルは真価を発揮するに違いない。


「おー、結構当ててるなぁ」


「良い腕ね、その子。Gutいいわ!」


「おう、2人とも」


 俺の後ろから声をかけてきたのは、そのシュタージのツートップだった。前世ではドイツから日本に留学してきたクランと、彼女の彼氏であるケーターの2人である。2人とも早くもこの砂漠の熱さに慣れてしまったのか、ほんの少しだけ汗をかいている程度である。


 ドイツ連邦軍の迷彩服に身を包み、同じ迷彩模様のヘルメットを片手に持つ2人は、どうやら訓練の様子を見に来たのではなく、自分たちも武器の試し撃ちをしに来たらしい。2人がもう片方の手に持っているアサルトライフルとPDWがそれを物語っている。


 2人が持っている銃はアサルトライフルとPDWだが、元々はドイツ製の『XM8』という同じアサルトライフルなのだ。従来の無骨なライフルとは異なり、流線型の部品が多いアサルトライフルだが、キャリングハンドルや銃床の形状に従来のライフルの面影が辛うじて残っている。

 

 性能面では、まず非常に命中精度が高い。兵士にとって非常に構えやすい形状にデザインされているため、構えやすさから狙いやすさが生まれ、それがそのまま命中精度の向上につながるというわけだ。しかも反動も抑え込めるように設計されているので、反動はあまり感じないという。


 そしてもう一つの特徴が、下手をすれば汎用性が高いライフルの代名詞と言えるM16やM4を上回りかねない汎用性の高さだ。なんと、銃身やマガジンなどの一部の部品を別の物に変更することで、アサルトライフルからPDWに変更したり、『シャープシューター』と呼ばれるマークスマンライフルとして運用することが可能なのだ。


 更に、従来の銃のようなカスタマイズも可能であるため、更に高い汎用性を誇る。


「試し撃ちか?」


「ああ。そういうお前こそ、新しい得物の試し撃ちしてたんだろ?」


「いや、AKは前も使ってた」


「へえ。…………お前ってさ、筋金入りのロシア好きだよな」


 ああ、前世の頃から好きだったからな。親父の影響で更に悪化したけど。


 西側の武器に比べると汎用性では劣るけど、性能が低いというわけではない。AK-47は滅茶苦茶頑丈だし、サプレッサーと組み合わせると驚異的な消音性能を誇る弾丸がある。それに、兵器だったら有名なハインドがあるからな。驚異的な火力と歩兵の輸送能力を兼ね備えた優秀なヘリだ。


「悪いか?」


「いや? まあ、好みが違うのは当たり前だけどな。けどさ、西側もいいぜ? 資本主義にカモン」


「何言ってる。東側もいいぞ? 共産圏にカモン」


ドイツ(ドイッチュラント)の兵器は良いわよ? バランスの良い兵器が多いし」


 ああ、このまま論争が始まったら第二次独ソ戦が始まってしまいそうだ………。


 ケーターは「まあいいさ」と言いながらライフルを構えると、レーンの向こうに残っている的に向かって銃口を構えた。


 こいつのXM8は、グレネードランチャーとホロサイトを装備しているようだ。ライトも装備してあるようだが、それは暗所での戦闘を考慮しているからなのだろうか? 使用する弾薬は5.56mmか6.8mmのどちらかとなっているが、可能な限り大口径の弾薬を使用するようにと指示を出しているので、おそらく装填してあるのは6.8mm弾だろう。


 クランのXM8PDWは、そもそも彼女が戦車の車長や舞台裏での作戦行動を想定しているらしく、非常にコンパクトなカスタマイズがされている。まず銃床が折り畳まれており、フォアグリップとオープンタイプのドットサイトが装着されている。銃身の脇に装着されているのはレーザーサイトだろうか。


 試し撃ちをする2人の目はいつもよりも鋭かった。いつも飄々としている2人組とは思えないほどで、そんな2人に睨まれているレーンの向こうの的の首は、もう既に捥げかけていた。


 いつも冗談を言っているシュタージのメンバーだが、彼らは前世から仲の良かった仲間同士である上に、転生してからは共に激戦を生き延びてきた猛者たちでもある。彼らが俺たちと共に戦ってくれるのは、人手不足の俺たちからすれば本当にありがたい。


「あ、そうだ。おいクラン」


「なに?」


「ちょっとお願いがしたいんだけどさ」


 マガジンを交換していた彼女は、ぴたりと手を止めてからこちらを振り向いた。彼女がこっちを振り向いた瞬間、ついに彼女のレーンにあった人型の的から首がぽろりと転げ落ち、カタン、と寂しそうな音を立てる。


「お願い?」


「ああ。ちょっとシュタージのメンバーで偵察を頼みたい」


「偵察?」


「そう。まだこの辺の地形を把握したわけじゃないし、もしかしたら魔物もいるかもしれないだろ?」


 人員が増えるまでは、夜間の警備は少数の歩哨とターレットに依存する予定である。ターレットやドローンに警備を依存するのは、同じく人員不足だったモリガンの真似事だ。


 無人兵器は優秀な兵士だ。ハッキングでもされない限り、〝命令違反”など起こさないのだから。


了解ヤヴォール。ケーター、あの2人にも伝えといてね」


「はいはい、お嬢さん(フロイライン)


 彼らに諜報活動を頼むのは、もう少し先になるんじゃないだろうか。


 悪いが、もう少し我慢してもらおう。


 任務を終えて彼らが帰ってくる頃は、おそらく午後の3時ごろになるだろう。アフタヌーンティーの準備でもして待ってるとするか。












『なあ、ケーター』


「あ?」


 砂塵を纏いながら陽炎の中を疾走する、砂漠には場違いとしか言いようがないホワイトタイガー(ヴァイスティーガー)の砲塔の上で、しつこい日差しにうんざりしながら答えた。


 新たに追加された砲塔の上のプロテクターRWSなら日陰になってくれるんじゃないかと思ったんだが、装填手用のハッチの位置からでは日陰として機能するのは砲身として突き出ている4門のブローニングM2のみ。大口径の弾丸を撃ち出す太い銃身とはいえ、日陰として考えるとあまりにも細過ぎる。


『俺たちってさ、諜報部隊として機能するのはもうちょい先かな?』


「先だろ。人員が足りないんだし」


 車内に一旦引っ込み、タクヤのやつが過剰に車内に積み込んでくれたアイスティーの容器を1つ拾い上げた。理科室に置いてあるようなビーカーに似た容器に紅い液体が入っているのを見ると、アイスティーというよりは変な薬品を調合した液体に見えてしまう。しかも、その中に鮮血を思わせる紅い氷が浮かんでいるのだ。そして、追い討ちのようにセットで添えられているストロベリージャム。そう、どれも紅い。


 ちなみにこのストロベリージャムはナタリアのお手製らしく、タクヤのために試行錯誤しているうちにたくさんできてしまったらしい。おかげでアイスティーを飲む時は常にこのジャムがセットでついてくるし、スコーンやビスケットにもこのジャムがついてくる。しかも砂糖を入れ過ぎたのか、やたらと甘い。


「うーんっ! このジャム甘くておいしい♪」


「女子って甘党が多いの?」


「あら。レディーはみんな甘いものが好きなのよ」


「へえ」


 甘いものは嫌いじゃないんだが、俺は辛い方が好きなんだよね。担々麺には追加で豆板醤を入れるし、前世では味噌汁にひたすら唐辛子を入れてた覚えがある。


「ふふっ。帰ったらナタリアちゃんの事、いっぱいなでなでしてあげようかなっ♪」


「ほら、木村に渡せ」


「へーい。ほら木村」


「どうも。…………ところで、このスコーンもナタリアちゃんが作ったんですかね?」


「いや、タクヤらしいぞ」


「マジかよ」


 あいつ、料理が得意らしいけどお菓子作りも得意だったのか…………。


 男子なのになんでそこまで女子力が高いんだろうか。この前は戦車を放置しているだけでも12時間経過すれば最適の状態に勝手にメンテナンスされるというのに、停車しているチーフテンとチャレンジャー2とレオパルト2の車体を洗ってワックスまでかけてたし、昨日の朝は本部の地下に作った厨房の向こうでエプロン姿で朝飯作ってた。こいつは男だってわかってたんだけど、マジで美少女にしか見えなかったよ。雰囲気は幼馴染って感じかな。


 …………だが、男だ。残念ながら。


 というか、何で髪型がポニーテールなんだよ。女に間違えられるのが嫌なんだったら髪型変えろよ…………。ポニーテールであの顔つきだったら完璧にラノベのヒロインだよ。ツンデレの幼馴染か転校生だって。だから俺は女子高生の制服が一番似合うって言ったんだ。


「うん、このスコーンも美味しいわ! ねえ、ケーターも今度お菓子作ってよ!」


「俺も女子力上げろってか」


 それよりレベル上げたいんですけど。


 ラノベのヒロインみたいな男子が作ったスコーンを咀嚼しながら、またうんざりする羽目になると知りつつハッチから顔を出す。ごつん、と縁にぶつかったヘルメットを片手で押さえながら顔を出した俺を出迎えるのは、嫌になる熱さの元凶と、その元凶に加熱された戦車の装甲だ。


 すぐに車内に戻ってモニターでも見ようかと頭を引っ込めかけたその時、戦車の進行方向から見て11時の方向に、今にも枯れそうな植物のようなものが見えた。一瞬だけサボテンかと思ったが、タクヤの話ではこのカルガニスタンの砂漠には西側に行かない限りサボテンは生えていないという。まだここは、サボテンの生えている範囲ではない。


 まあ、タクヤのその話も幼少期に読んだ図鑑の話らしいから信憑性は低い。とりあえず、車内に置いてある双眼鏡で確認してみるか。


 座席の近くにある双眼鏡を拾い上げ、ヘルメットと額の間から流れ落ちてきた汗を拭ってから双眼鏡を覗き込む。砂と蒼空しかない殺風景な世界の真っ只中に、放置された枯れそうな植物。誰かが投げ捨てていったのだろうかと思いつつズームしようとしたその時だった。


 ぴくり、と、その植物が―――――――動いた。


「魔物…………?」


「どうしたの?」


「11時方向に奇妙なものを発見」


「魔物?」


「分からん。木村、一旦停めろ。確認する」


了解ヤヴォール


 魔物だったら、すぐに撃ち殺す。


 グレネードランチャーに40mmグレネード弾が装填されているのを確認してから、新しい相棒のXM8の安全装置セーフティを解除する。砂塵を纏っていたヴァイスティーガーがゆっくりと停車し、砂漠に刻まれていたキャタピラの跡もそこで止まる。


 砲塔がゆっくりと旋回し、その魔物と思われる奇妙な植物を睨みつける。もし調べに行った俺の身に何かがあれば、すぐに120mm滑腔砲で吹っ飛ばせるように準備してくれているのだろう。クランには申し訳ないし、仲間たちにもそんな事はさせたくないが、もし俺が襲われて命を落とすような事があれば、俺もろとも魔物を吹っ飛ばしてもらったってかまわない。


 心配そうにこっちを見ているクランに向かって頷き、俺は戦車の中から飛び出した。フライパンのように熱くなった装甲の上を滑り降り、XM8を構えながらその物体に近付いていく。


 すっかり水分はなくなっており、植物の根や高麗人参を思わせるような姿になっているそれは、もう生きているとは思えない状態になっていた。干からびる前はどのような姿だったのかは辛うじて予測できるけれど、これではただの枯草だ。あの時動いたように見えたのは気のせいか?


 でも、よく見ると人の形に見えるような――――――――。


「う……………」


「ッ!?」


 今のは…………呻き声!? こいつが発したのか!?


 ぎょっとしながら銃を構えた瞬間、俺の目の前に横たわっていた枯草のようなその物体が、確かに動いた。人間の手足のように伸びた、四肢を彷彿とさせる何かを動かし、上半身と思われる部位をゆっくりと持ち上げてこっちを見る。


 俺の姿を見つめている部位は、辛うじて頭だという事が分かる。よく見れば顔のようにも見えるが、その顔はまるで老婆のようだ。頭髪のように見える部分は、まるで枯れてしまったタンポポのように黒くなり、垂れ下がっている。


「あ…………み、みず……………」


「なんだって……………?」


「みず…………ください……………か、かれちゃう……………」


 水? もう枯れかけじゃないか。


 でも、戦車に戻れば大量のアイスティーがある。水じゃないけど、ジャム入りのアイスティーで我慢してもらえるだろうか。


 というか、こいつは何だ? たしか、転生したばかりの時もこんな種族に会った事がある。


 その時の事を思い出しながら、俺は戦車に向かって走っていた。


 


 

 

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