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転生者が白兵戦をするとこうなる


「おいおい………何だあれ」


 あの蒼い髪のリュッシャが戦いの火蓋を切って落としたのは、ここからも良く見えた。槍みたいに長い奇妙な武器を手にしたリュッシャたちだったが、どうせ側面からの奇襲で敵をびっくりさせられる程度だろう。冒険者は魔物との戦いを経験するものだし、場合によっては他の冒険者と〝戦果”の奪い合いになることも珍しくないと聞く。


 リュッシャ共だけでなく、スオミ族の子供たちも憧れる職業だ。誰もが憧れる大人気の仕事だが、その冒険者の欲が最もはっきりと表れる職業は他にないだろう。それゆえに魔物だけでなく、他の冒険者との争いも絶えない。


 だから戦いには慣れていてもおかしくないが、所詮2人だけだ。たった2人で30人もの盗賊共を蹴散らせるわけがない。俺以外の同胞たちもそう思っていた筈だ。


 ――――――その過小評価が原因で、俺たちは目を丸くした挙句、我が目を疑うする羽目になっている。


「な、なあ、アールネの兄貴………あれ何………?」


「し、知るか」


 弓矢を手にした年下の男子が、その光景をすっかり丸くした目で見つめながら俺に質問してくるが、俺もあんな武器は見たことがないから答えられるわけがない。


 本当に奇妙な武器だった。金属でできた槍みたいに見えるんだが、どういうわけか金属の平たい箱のようなパーツや、望遠鏡みたいなやつがくっついている。それに、槍にしては先端部に刃がついておらず、その代わりに空洞になった金槌にも似た奇妙な部品が取り付けられている。


 金髪のリュッシャが持っていた短い槍は、先端部に刀身と思われるものが折り畳まれていたから辛うじて槍だということは分かるんだが………あそこで盗賊を攪乱するどころか蹂躙しているあの2人の得物は、本当に接近戦用の得物ではなく飛び道具らしい。


 ドン、と凄まじい轟音を奏でたかと思うと、槍のような得物の先端部が爆発したかのように一瞬だけ火柱を噴き上げる。その火柱で攻撃するのかと思いきや、先端から姿を現した火柱は盗賊共に喰らい付けるほど伸びる前に姿を消し、雪の中に僅かな陽炎を刻みつけるだけだ。


 なんだ、でかい音を出すだけの武器なのか?


 数秒前までそう思っていたからこそ――――――俺は、我が目を疑う羽目になった。


 あれはでかい音を出すだけの槍のような武器ではないという事を、スオミの戦士たちと共に理解することになったのだ。


 何が起きたのか、全く見えなかったんだが――――――あのリュッシャが武器を向けていた遥か先にいた盗賊の身体が、なんの前触れもなく木端微塵に弾け飛んだのである。


 スオミの里のハイエルフたちは、皆幼少の頃から狩猟に親しみながら育つ。雪山の中に数人で弓矢を手にしながら入って行き、魔物や動物を仕留めて村へと戻る毎日を送るのだ。それゆえに大人になる頃には男だろうと女だろうと立派な戦士に育つし、実戦経験も豊富になる。


 もちろん俺やイッルも厳しかった親父と共に狩りを経験し、弓矢の訓練を続けてきた。だから飛び道具ならばその弾道を見ることは容易いだろうと思っていたんだが――――――それは高を括っていたと言わざるを得ない。


 あのリュッシャが持っていた槍のような飛び道具が火を噴いたのは確かに見えた。しかし、そこから炎以外に何が放たれたのか、全く見えなかったのだ。


 動体視力が鍛え上げられた俺たちでも視認する事ができないほどの弾速で、何かが飛んでいったとしか思えない。しかも、1発で人間の身体を木端微塵にしてしまうほどの破壊力を秘めた何かが、視認できないほどの弾速で遠距離から飛来するなんて………。


 それほどの破壊力があるならば、それなりに隙はある筈だ。優秀な魔術師だって魔力切れは絶対に解決できない問題と言われているし、優秀な剣士だっていつまでも剣を振るえるわけではない。必ずスタミナが底を突く。だからリュッシャの武器にも欠点はある筈だ。


 そう思った直後にあいつらの武器が再び火を噴いたのを目にした時は、またしても我が目を疑ったよ。


「何だよあれ………ボウガンか?」


「いや、ボウガンはあんな音出ないだろ………? それに、矢が見えないぞ………!」


「しかも連発してるぞ………! リュッシャの奴ら、あんな武器を作ったのか!!」


 いや、確かにリュッシャ共は産業革命によって工業を飛躍的に発達させ、新しい技術を活用して国を一気に発展させた。剣はより頑丈になり、防具はコンパクトになった。防御を盾に依存し、集団で魔物と戦う戦術が発達したことで戦い方も段々と変わりつつあるし、最近では新兵器が騎士団に配備されたという噂も商人から何度か聞いた。


 しかし、あの武器は何だかリュッシャ共の武器とは違うような気がする………。雰囲気が違うというか、一気にあらゆる過程を飛ばしてずっと先にある物を持ってきたような感じがするのだ。例え方がかなり変かもしれないが、俺はそう思う。


 立て続けに轟音が平原から響き渡り、雪の中で血飛沫と肉片が舞い上がる。緋色の光が煌めく度に、雪の向こうから奇妙な臭いが漂ってくる。


 まだあの2人のリュッシャが戦いの火蓋を切って落としてから2分足らずだというのに、もう既に盗賊たちの隊列はすっかり乱れてしまっていた。


 次々に粉々にされていく仲間たち。仲間の返り血で真っ赤になり、足元に転がる仲間の肉片で躓き、絶叫しながら逃げ惑う盗賊たち。あれはもう戦いというより、敗北して撤退していく敗残兵を追い立てて嬲り殺しにしているようにしか見えない。


 戦いというよりは――――――蹂躙。


 そう、あまりにも一方的過ぎるのだ。


「おい、アールネの兄貴。こりゃ俺たちの出番はなさそうだぜ………?」


「む………」


 腕を組みながら、仲間たちと共にリュッシャの武器の破壊力に驚愕していたその時だった。


 雪が降り注ぐ空の一角が、一瞬だけ光ったように思えたのだ。太陽はすっかり真っ白な雲に呑み込まれ、辛うじて薄い日光が雪原を照らし出している状態だというのに、空にそんな光が見えるわけがない。天空に広がる雪原のように白い雲の中には、切れ目も見当たらなかった。


 不自然に思った俺は、轟音と絶叫が聞こえてくる雪原から数秒だけ目を背けることにした。空が光った理由には思い当たる節がある。


 純白の空を見上げてみると、やはり光った位置の近くには2体の飛竜が舞っていた。おそらくイッルとニパが操る飛竜だろう。あの2人が村の戦士の中で特に飛竜の扱い方が上手いため、戦いになればあのように空を舞って偵察したり、場合によっては飛竜のブレスで支援することになっている。


 すると、その空を舞っていた飛竜の背中で銀色の光が煌めいた。飛竜の艶のある外殻が日光を反射したわけではない。ほんのわずかだが、光属性の魔力の気配がするという事は、あれは光属性の魔力を体外に放出することによって生じさせた光という事だ。天空を舞う飛竜に乗る戦士とは、このように発行信号でやり取りをするのである。


「………なに?」


 イッルとニパが送ってきた発行信号を脳内で解読し、俺たちの慣れ親しんだ言語に変換して並べた瞬間――――――俺は目を見開き、再びリュッシャたちのいる方向を振り向いた。


《敵、増援見ユ。2時方向、数40》――――――。


 それが、イッルとニパが送ってきた最悪のニュースだった。


 あの盗賊共の増援が、更に平原の向こうからやって来ているというのである。どうやらあの30人の盗賊共は先遣隊か斥候だったらしい。本隊が来たところで、もう既に先遣隊は壊滅しているも同然なのだから問題ないだろうと再び高を括りそうになった自分を、危機に気付いた俺が殴りつけて黙らせる。


 問題になるのは、その増援がやってくる方角だ。


 現在、リュッシャたちが盗賊共を蹂躙している地点が、ちょうど俺たちから見て2時の方向。―――――つまり彼女たちは、40人もの敵の本隊の進軍ルートにいるにもかかわらず、盗賊共の本隊の存在に気付いていないという事だ。


 慌てて俺は「リュッシャにも知らせてやれ」と発行信号を送ろうとしたが、そこで俺はスオミ族とリュッシャの母語が違うという事に気付いた。


 現在では世界中で公用語として使われているオルトバルカ語であるが、俺たちのこういったやり取りは基本的に俺たちの母語である古代スオミ語だ。オルトバルカ語の発行信号のパターンも考えれば用意できるが、あの2人のリュッシャは俺たちからすれば赤の他人。俺たちの連絡に使われる暗号を知っているわけがない。


 当然ながら、今更あいつらにそれを教える時間があるわけでもなかった。


「やべえ………ッ!」


 拙い。あのままでは………あの2人が盗賊共の餌食になっちまう!











 

 新しい敵意が増えたのは、もう既に察していた。


 3歳の頃からラウラと共に親父の狩りに同行して森での行動に慣れ、6歳からはライフルを手にして本格的な狩りを始めた。戦闘訓練まで受けるようになった頃には銃の使用が許され、防壁の外で魔物を倒しては素材を売って小遣いを稼ぐ幼少期を過ごしてきたのだ。暗殺者や熟練の戦士のように気配を隠すことなく、殺気や敵意を向けながらやってくる奴らは、防壁の外に出ればすぐに遭遇するようなゴブリン共と変わらない。


 マガジンの中に残っていた最後の1発をぶっ放し、仲間の肉片で真っ赤になっていた痩せ気味の男を粉微塵にすると、俺はマガジンを取り外して新しいマガジンに交換しつつ、ため息をついた。


 おそらく敵の増援だろう。数は少なくとも30人以上。殺気の濃さから判断すると、規模は今しがた片付けた奴らよりも少し多い程度だろう。35人から40人程度の規模に違いない。


「増援だ」


「あら、増えましたわね」


 隣でSKSカービンをぶっ放し、まだ生きている盗賊たちに止めを刺していくカノン。彼らは殆ど俺の狙撃で木端微塵になったか、対人榴弾で吹き飛ばされて肉片になった筈だが、まだ生きている奴がいるのだろうか。


 そう思いながらちらりとスコープを覗いてみると、カノンが誰を狙っているのかが理解できた。数秒前に骨盤辺りに14.5mm弾をお見舞いされ、千切れた内臓と肉片をぶちまけながら上半身だけになっちまった哀れな男を狙っていたらしい。


 そいつの眉間に風穴が開くと同時に、じたばたと動き回っていた血まみれの両手が動かなくなる。下半身が消失した恐怖と、激痛から解放されて安堵したかのようだ。


 顔をしかめながらスコープから目を離すと、隣ではマガジン内部の7.62mm弾を撃ち尽くしたカノンが、顔をしかめながらクリップを使って弾丸の再装填リロードをしているところだった。10発の弾丸をマガジンの中へと押し込んで上部のハッチを閉鎖した彼女の目つきは、いつの間にか鋭くなっている。


 両親から戦い方を教わっているとはいえ、カノンはまだ14歳の少女だ。――――――普通ならこんなグロテスクな戦場を目にすることなく、快適な屋敷の中で勉強に勤しんでいる筈である。カレンさんに「旅に出ろ」と言われて俺たちに旅に同行することになったカノンだが、さすがにこの惨状を見せるには早かったかもしれない。


 モリガンの傭兵の娘として生まれた以上、いずれはこんな戦場を目の当たりにし、その真っ只中で戦う羽目になるのだろうが………まだ早いか………?


「カノン、辛いなら―――――」


「いえ、お兄様………これが戦場だというのなら、克服するまでですわ」


 戦場を、克服する――――。


 首を横に振りながら断言した彼女は、OSV-96を肩に担いでいる俺の顔を見つめながら不敵に笑うと、再び狙撃を再開した。


 今の笑みは――――――作り笑いだろう。いつもの彼女が秘めているような自信が感じられない、どこか希薄で欠けたような感じのする悲しげな笑顔だった。高過ぎる壁を乗り越える自信はないけれど、俺を心配させないために虚勢に頼りつつ、壁を乗り越えるために足掻き続けようとしているのだろう。


 やはり早かったのだ。せめてもう少し魔物相手に実戦経験を積ませ、実戦に慣れてから俺たちの度に同行させるべきだったと思う。平民生まれの俺たちと比べれば、貴族として生まれたために常に多忙だったことは想像に難くない。ならば旅に出すのは来年や再来年でもよかったのではないか。カレンさんやギュンターさんは、彼女に試練を早めに与え過ぎたのではないか―――――。


 バラバラになった人体の転がる雪原を見据え、逃げていく盗賊を追撃しようとするカノンの背中を見つめていたその時、金属が何かに擦れるような甲高い音が、銃声の残響の中からひっそりと顔を出した。


 まるで、剣を鞘から引き抜いた時のような音だ。


 はっとした俺は、大慌てでアンチマテリアルライフルを折り畳んで背中に背負い、腰のホルダーの中からヴィラヌオストクの鍛冶屋で購入した漆黒のスコップを引き抜いた。息を呑みながら後ろを振り向き、スコップの持ち手をぎゅっと握る。


 敵の増援との距離は、思っていたよりも近かったらしい。スコップを握りながら後ろを振り向いてみると、雪が降り注ぐ平原の向こうに剣や斧を手にしながら突撃してくる人影の群れが、うっすらともう見えていた。


 接近されたと思ってアンチマテリアルライフルはもう折り畳んだ。再び取り出して銃身を展開しようとすれば、スコープを覗き込む頃にはもう盗賊共の間合いに入ってしまうのは火を見るよりも明らかである。


 現時点で咄嗟に反撃できる銃はリボルバーのMP412REXのみ。それ以外の武器は、スコップと2本の大型ワスプナイフのみである。その気になればメスを投擲して中距離から攻撃できるが、白兵戦の真っ只中にホルダーまで手を運び、メスを引き抜いて放り投げる余裕があるとは思えない。


「カノン、白兵戦だ!! 援護しろ!!」


「はい、お兄様!」


 カノンにはヴィルヘルムの亡霊からドロップした『ヴィルヘルムの直刀』があるが、あの直刀は土属性の得物という事になっている。真下が普通の地面ならばまさに独壇場となるが、残念ながらここは雪原の真っ只中。ここで使ったとしても雪に魔力の伝達を阻害され、本来の破壊力を発揮できないのが関の山である。


 だから彼女には、援護をお願いする。もう既に先遣隊は壊滅し、残っている奴らは武器を放り捨てて逃げてしまった。烏合の衆とすら呼ぶこともできない状況なのだから、もう無視してしまっていいだろう。それよりもこっちの増援を全力で叩くべきである。


 ああ、文字通りスコップで叩いてやるぜ………!


 左手をリボルバーのホルスターに近づけ、銃を引き抜こうとしたその瞬間だった。


 後方から雪を引き裂いて疾駆してきた何かが、すとん、と盗賊の1人の頭に突き刺さったのである。見事に眉間を1本の矢に串刺しにされた盗賊の男は、白目になりながら血涙を流し、頭を大きく後ろに振りながら雪の中へと崩れ落ちていく。


 先陣を切ろうとしていた1人が射抜かれたことによって、罵声を上げながら突っ込んできた盗賊たちが怯える。中には棒立ちになりながら犠牲になった仲間を見据える者もいた。


「―――――お前らに手柄を独占されてたまるか」


「アールネ!」


 背後から聞こえてきた、野太くて力強い男性の声。スコップを手にしたまま後ろを振り返ってみると、やはり俺とカノンの背後には純白の防寒着に身を包んだハイエルフの巨漢が、他の戦士たちと共に弓矢を手にして立っていた。


 今しがた矢を放ったのは、どうやらアールネらしい。


 豪華のように赤い瞳で里へと襲来した盗賊たちを睨みつけつつ、手にしていた弓をそっと背負うアールネ。そして腰にぶら下げていたホルダーの中からトマホークを引き抜くと、彼はそのトマホークを振り上げながら叫ぶ。


「―――――白兵戦だぁッ! スオミ族の力を見せてやれッ!!」


「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」」」


 アールネの力強く、豪快な声に鼓舞され、他の戦士たちも腰のホルダーや鞘の中から次々に剣を引き抜いていく。リーダー格のアールネを含めても人数は20人程度だが、戦士たちに睨みつけられている盗賊たちは、もう既に彼らの気迫に慄いているようだった。


 倍の兵力で襲撃してきたというのに、少数の敵の気迫を恐れている。


 情けない事に、最後尾の方の盗賊は弱々しい声を上げながら遁走を始めているというのに――――――スオミ族の戦士たちは、もしかしたらモリガンの傭兵内に容赦のない戦士たちなのかもしれない。


 戦士の1人が素早く剣から弓矢に持ち替えて狙いを定め、戦場から逃げ出そうとしていた男の背中を正確に射貫く。肩甲骨の近くを矢で射抜かれ、揺らめきながらこちらを振り返ろうとする盗賊の男だったが、無慈悲な矢の群れが立て続けに彼の背中に突き刺さり、まるでヤマアラシのような姿となってその盗賊は雪の上へと崩れ落ちる。


 先頭に1人の死体。そして、最後尾にも仲間の死体。


 死体に挟まれているのは、瞬く間に2人の仲間を殺された挙句先遣隊まで壊滅させられ、このままでは皆殺しにされると感付き始めている哀れな盗賊たち。


 戦意を失いつつあった彼らに――――――ついに、戦士たちが襲いかかる。


「突撃ぃッ!!」


「УРааааа!!」


 アールネの号令に言い慣れた雄叫びを返し、俺もスコップとリボルバーを手にし、余所者が先陣を切ってもいいのだろうかと考えながら、怯える盗賊の群れの中へと踊り込んでいく。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「に、逃げろ! こいつらヤバいぞ!!」


 中にはそんな情けない事を言いながら逃げ出す奴もいたが、やはり武器を振るって応戦してくる男たちも残っていた。もう逃げられないと察してやけくそになったのか、それともこんな少数の敵に怯えている場合ではないという意地で踏みとどまったのかは分からない。


 しかし、立ちはだかるのならば屠るまで。その敵がクソ野郎ならば――――――蹂躙するまでだ。


 手始めに左手のMP412REXをぶっ放し、左側で斧を手にしていた男の顔面を.357マグナム弾で撃ち抜く。獰猛なストッピングパワーのマグナム弾に顔面を食い破られた男が崩れ落ちるよりも先に、目にしたこともない銃の威力に驚愕する盗賊へと肉薄した俺は、無精髭だらけの真っ黒な顔を睨みつけながらにやりと笑うと、まるで今からアッパーカットをお見舞いするボクサーのように腰を低くしてから、思い切り右手のスコップを振り上げる。


 ざく、と土にスコップを突き立てた音に似た音が、「ぎぃっ……!」という呻き声と共に頭上から聞こえてきた。ちらりと見上げてスコップが男の喉笛を貫いていた事を確認した俺は、彼の腹を思い切り蹴飛ばしてスコップを喉から引き抜きつつ、後続の盗賊と衝突させて時間を稼ぐ。


 その間にくるりと時計回りに回転し、勢いを付けつつ思い切りスコップを左から右へと薙ぎ払う。がつん、と今度はスキンヘッドの中年くらいの男性の顔面に血まみれのスコップが叩き付けられ、彼の鼻の骨を粉砕してしまう。


 崩れ落ちかけていたその男性に止めを刺したのは、無慈悲としか言いようのないトマホークの一撃だった。


「リュッシャのくせに、なかなかやるじゃねえか!」


 雄叫びを上げながら斬りかかってきた小柄な盗賊の首を掴み、そいつがもがいている間に顔面にトマホークを叩き付けて粉砕しながら、アールネがそう言った。彼も戦いには慣れているようだけど、どちらかというとどこかの剣士に習ったというよりは我流でここまで戦い抜いてきたかのような、荒々しい戦い方だった。


 盗賊が突き出してきた槍の一撃をひらりと回避し、すれ違いざまに至近距離からリボルバーでこめかみを撃ち抜く。盗賊たちの中にはやけに速い剣戟の奴も紛れ込んでいるようだが、大半は素人だ。剣を振る速度は遅く、軌道も容易く見切れる。


 崩れ落ちていく死体が手放した槍の柄を蹴飛ばし、向こうから斧を振り上げつつ突進してきた男のみぞおちを串刺しにする。槍を引き抜こうと痙攣しながら足掻く男の頭にスコップを突き立てて止めを刺し、次はどいつを仕留めようかと顔を上げた俺だったが、いつの間にか盗賊共は武器を投げ捨て、一目散に平原の向こうへと逃げ出し始めていた。


 とはいえ、逃げ出しているのは3分の1くらいだろうか。逃げ遅れた奴らがまだスオミ族の男たちと戦っているけど、明らかに剣術の技術に差があり過ぎる。力強い剣戟を矢継ぎ早に叩き込んでいくスオミ族の戦士と、ガードするのがやっとの盗賊。


 まるで熟練の剣士と素人の試合を目にしているほどの、一方的な戦いだった。


 やがてその盗賊も、隙を見て振り下ろされた太いマチェットの餌食となり、鮮血を吹き上げて目を見開きながら崩れ落ちていく。


「………終わりだ」


 その戦いを見守っていたアールネが、返り血を拭いながら呟く。


 スオミの里の雪原は、盗賊たちの血で真っ赤に染まっていた。

 


 

 

索敵ならラウラですけど、直感とかはタクヤの方が凄まじいですね(笑)

そのうちこいつも狙撃を直感で避けられるようになったりして。

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