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転生者が無人島で食料を調達するとこうなる


 林の中で収穫したキノコや木の実を抱えて岩場の方に戻ってみると、暖かい風の中で3人の少女が並び、近くにある木の枝にワイヤーやロープを巻き付けただけの即席の釣竿を海面に向けて伸ばしている姿が見えてきた。


 細い枝だと魚に引っ張られて折れてしまう可能性があるので、比較的太めの枝をナイフで削ったものなんだろう。作り方を教えたのはラウラに違いない。小さい頃のサバイバル訓練でこういう釣りも経験しているからな。


 でも、その簡単な釣竿を持つラウラの隣には、奇妙なものが鎮座していた。


 木製のグリップと銃床が取り付けられていて、銃床の下部からはモノポッドが伸びている。そのまま先端部の方へと太い銃身が伸びており、銃身の上にはスコープではなく、ラウラのために取り付けておいたピープサイトが居座っていた。その銃身にはワイヤーが巻き付けられている。


 ら、ラウラ………ヘカートⅡを釣竿代わりに使うなよ……。確かにモノポッドとバイポットを使えば置いたままでも大丈夫だし、アンチマテリアルライフルの重量なら魚に引っ張られて海に落ちることもないだろう。でも、かなり物騒な釣竿だ。


 岩場の上に座り、ミニスカートの中から伸ばした尻尾を左右に振りながら海を眺めるラウラ。彼女の傍らには鮮血のように紅い氷で氷漬けにされた魚が3匹ほど転がっている。俺たちが林の中で食料を調達している間に釣り上げた魚なんだろう。


 他の2人は釣ったのかな?


 カノンの近くには氷漬けにされた魚が4匹並んでいる。しかも、ラウラが釣り上げた魚よりも若干大きい。もしかして、カノンって釣りが得意なのかな? 彼女を連れて釣りに行ったことはないから分からないんだが、もし釣りが得意ならあとでコツを教えてもらおう。釣りを楽しむ時にも役立つだろうし、食料を調達する時の技術としても役立つからな。


 どっさりと持ってきた木の実やキノコを岩場の上に置きながら、一番左側に座るステラの方を見てみる。彼女も3匹釣り上げているみたいだ。そのうち2匹はイワシみたいに小さい魚なんだが、残った1匹はやけに大きい。身体の表面は黒ずんでいて、頭からは何故か羊みたいな角が生えている。………図鑑にあんな魚載ってたっけ? 新種かな?


 あんな魚が食えるんだろうかと思いつつ、ステラの釣果の確認を終えようとした瞬間だった。よく見てみるとその氷漬けにされたでっかい魚の陰に、ほんの少しだけ肉が残った魚の骨が転がっていたんだ。


 しかも、ステラの小さな口は何かを咀嚼しているようだ。


 まさか………釣った魚をもう食べちゃったの………?


「………ふにゅ? あっ、お帰りなさいっ! どう? いっぱい採れた?」


「おう。今夜は木の実とキノコが食べ放題だぞ」


 ナタリアと2人で収穫してきた食料を岩場の上にまとめておいた俺は、両肩を回して息を吐きながらラウラの隣に腰を下ろした。するとラウラは早くも俺の近くに寄ってきて、頬を俺の肩に押し当てる。


 相変わらずラウラは甘えん坊だなぁ。


 左手で彼女の柔らかい尻尾を鷲掴みにすると、ラウラは「ひゃっ……!?」と小さな声を出しながら震えた。いきなり尻尾を鷲掴みにされてびっくりしたんだろう。


 でも、ラウラは顔を赤くしながら俺の方を見ると、すぐににこにこ笑いながら頬ずりを始めた。俺の左手に掴まれている尻尾も、逃がさないと言わんばかりに左腕に絡み付き始める。


 俺もお姉ちゃんに甘えたいんだから、逃げるわけがないじゃないか。


 幸せそうに頬ずりする彼女の頭を撫でてあげようとしたその時だった。彼女が傍らに置いていたヘカートⅡの銃身に巻き付けられているワイヤーが、ぐいっと海面に引っ張られ始めたのである。


「お、おい、ラウラ!」


「ふにゅ? あっ、魚だね」


 自分の持っていた木の釣竿を俺に渡し、ラウラは尻尾を俺に巻き付けたままヘカートⅡへと手を伸ばす。


 強力な12.7mm弾を使用することを想定しているだけあり、当然ながら銃身などは非常に頑丈だ。その分スナイパーライフルよりも重くなってしまっているアンチマテリアルライフルだが、その重量のおかげで餌に喰らい付いた魚に引っ張られても微動だにしない。


 モノポッドとバイボットを展開したまま鎮座し、荒ぶる魚を釘付けにし続けているライフルを手にしたラウラは、左手でグリップを掴みつつ右手でキャリングハンドルを握ると――――――ワイヤーの巻きつけられた銃身を、力任せに振り上げた。


「――――――えいっ!」


 元々キメラは、人間よりも遥かに強力な筋力を持つ。おそらく身体能力が高いのはサラマンダーの血のおかげなんだろう。だからキメラの少女として生まれたラウラの腕力も、17歳の少女とは思えないほど極めて強靭だ。


 ワイヤーを引っ張っている魚はあっさりと彼女に引っ張られ、ちょっとした水柱を噴き上げながら海の上へと引きずり出された。


 思ったよりも簡単そうに釣り上げたから小さな魚だったんだろうと思っていたんだが、ヘカートⅡを釣竿代わりにしたラウラが釣り上げたその魚は、俺の予想以上に大きな魚だった。アンコウのようにずんぐりとしていて、目玉は何故か4つもついている。まるでアンコウの目玉を増やし、そのまま太らせたような姿の魚だ。全長は2mくらいだろうか。


「わお………大物じゃねえか」


「えへへっ♪ じゃあ、お料理はお願いね」


「任せろ」


 料理は得意分野だからな。


 俺の母親であるエミリア・ハヤカワも料理が得意で、基本的にハヤカワ家で毎日料理を作るのは母さんの役割になっている。騎士団で1人暮らしをしていた頃から料理をしていたらしく、母さんの料理は非常に美味い。


 冒険者になったら自分で料理しなければならないので、俺は訓練を受け始めた辺りから母さんに料理を教えてもらっていたのだ。母さんが仕事で忙しい時は俺が代わりに夕食を作ることもあったんだが、俺が料理する度に家族のみんなは大喜びしてくれた。


 ちなみに、このパーティーの中では俺が料理を担当することになっている。


「さて、それじゃあ俺は調理器具でも用意するか」


 トントン、と足元の岩を軽く叩いた俺は、もう一度ラウラのぷにぷにした尻尾を撫でてから彼女の尻尾を離してもらった。


 メニュー画面を開いてサバイバルナイフを1本だけ生産し、仲間たちから距離を取る。


「何するの?」


 足元の岩場を見下ろしていると、ラウラが釣り上げたばかりの魚を氷漬けにしているのを見ていたナタリアが尋ねてきた。まあ、何をするのか説明しなければ俺が何を始めるのか分からないだろうな。いきなりサバイバルナイフを装備して、最中ではなく岩場を観察し始めたのだから。


「ちょっと調理器具を作ろうかなと」


「調理器具?」


「そう。だって俺ら、鍋とか持ってないだろ?」


「そういえばそうね。今まで非常食とか、宿屋の厨房を借りてたし………」


 前までは干し肉などが非常食の主流だったんだが、フィオナちゃんによって缶詰が発明され、それ以降は非常食の主流は缶詰になっている。ダンジョンや野宿をする際の食事は缶詰にし、宿屋の食堂などで普通の料理を食べるようにしている冒険者は多いのだ。そうすればいちいち調理するためにフライパンや鍋などの調理器具を持って行かなくてもいいからな。


 俺たちもそうしてたため、調理器具は持ち合わせていない。食料を調達したとしても塩で少し味付けし、焼いてから食べる程度だ。でも今回はこんなに食料を調達できたし、非常食として持ち歩くには多過ぎるので、ここで調理して食事をするためにも調理器具を用意しなければならない。


 だから、自分の能力をフル活用して色々と用意するのだ。


「何を作るの? まな板?」


「まあ、まな板も必要だな。包丁は俺の能力で生産できるし。………まず、鍋を用意するよ」


「鍋? ………ちょっと待って、何で鍋を作るつもりなの?」


「ん?」


 俺はニヤニヤ笑いながら、右足でトントンと足元の岩場を軽く踏みつけた。


「い、岩………?」


「おう。安心しろって、俺は器用だから」


「え? 岩で作るって………削れるの?」


「ああ、そういう能力があるから。………じゃあちょっと離れてろ。危ないぞ」


 サバイバルナイフを逆手持ちにし、俺は久しぶりに巨躯解体ブッチャー・タイムを発動させる。


 巨躯解体ブッチャー・タイムは、高周波によってその能力を使用したものが手にしている刃物に振動を発生させ、切れ味を飛躍的に向上させるという能力だ。鈍器や銃を手にしている場合は何の意味もないが、刃物であれば振動は発生するため、投げナイフと併用すれば切れ味の上がったナイフを敵に投げつける事ができるというわけだ。


 近距離ではナイフを多用する俺には、うってつけの能力である。


 ナタリアが俺から離れたのを確認してから、外殻を生成して全身を硬化させる。そして逆手持ちにしたサバイバルナイフを、巨躯解体ブッチャー・タイムを発動させた状態で少しずつ岩場へと近づけていく。


 切っ先が岩に触れた瞬間、一瞬だけ火花が散ったかと思うと、すぐに岩の粉塵と小さな破片が飛び散り始めた。カツンと何度も外殻の表面に小さな破片が激突するが、弾丸を容易く弾いてしまうほどの硬さの外殻に激突しても全く傷はつかない。


 そのまま刀身を岩の中へと押し込み、ゆっくりと岩を正方形に削り始める。いきなり鍋の形に削るわけにはいかないので、まずは正方形に削り取ってから取り出し、そこから徐々に鍋の形に削っていくつもりだ。


 左手で目を守りつつナイフで岩を切り裂き、正方形になった岩を岩場の中から引っ張り出す。削り取られた岩場には、あまりにも不自然過ぎる長方形の穴が開いていた。


「す、凄い切れ味ね………」


「ふにゃあ………!」


「はっはっはっはっ」


 本当に便利な能力だなぁ。


 削り取った岩の塊を地面の上に置いた俺は、全身を外殻で覆ったまま腰を下ろし、その岩の塊を切れ味が強化されたサバイバルナイフで削り始めるのだった。








 岩を削り終えてから他の調理器具も準備し、夕食を調理する準備は整った。持ってきた食材や用意した調理器具は、俺が岩を削り出した正方形の穴にまとめて保管してあるので、夕食を作る時は岩場に戻ればいい。


 12時間経過すれば潜水艇の蓄電池の充電が完了するのだが、今夜はせっかくだからこの無人島に一泊して休んでいくことになった。


 しかもまだ日が暮れるまでまだまだ時間があるし、この無人島の北側には砂浜もあるので、海水浴を楽しんでいく余裕はあるだろう。


 だが、当然ながら水着は常に持ち歩いているわけではない。持ち歩いているのは最低限の着換えや冒険に必要なアイテム等だ。新しい服が必要になったら街の服屋で買いそろえるか、緊急時は俺の能力を使うしかない。


 ここは無人島なので、当たり前だが服屋はない。そのため、レベルを上げて貯めたポイントを使って全員分の水着を用意することになった。


 メニュー画面を目の前に展開したまま、目を瞑った上に必死に真横を見て目を逸らし続ける俺。その俺の傍らでは、仲間たちが楽しそうに雑談しながらメニュー画面をタッチし、自分たちの水着を選んでいる。


「ねえ、ラウラはこういうのが似合うんじゃない?」


「ふにゅー………悪くないかも。……あっ、ナタリアちゃんはこれがいいんじゃない?」


「えぇっ!? こ、これは………」


「ふむ………ステラは水着を着たことがないので、全く分かりません」


「では、ステラさんの水着はわたくしが選んで差し上げますわ」


 は、早く選び終えてくれないかなぁ………。


 顔を真っ赤にして角を伸ばしながら、俺はそう願っていた。


 成長して冒険者として旅に出た俺とラウラだが、俺は母さんに似過ぎたせいで旅に出てから色々と困っている事がある。まず、トイレに入る時だ。当たり前だがトイレは男性用と女性用に分かれているんだが、俺の性別は母さんに似ているとはいえ息子を搭載した男なのだから、トイレでは男性用トイレに入らざるを得ない。しかし、トイレに入ると他の利用者が凄まじい目つきで俺の事を凝視してくるのである。


 まあ、女子みたいな容姿の男子ですからね。男性の皆さんはいきなり男性用トイレに女子が入ってきたと勘違いしてるんですね。


 同じく容姿の問題で、温泉に入る時も大変だ。旅立ってからではなく10歳の時なんだが、家族で温泉に行った時、俺は親父と2人で男湯の方に入っていった。あの時も男湯に入ってたおっさん共が顔を真っ赤にしながら俺の方を凝視してきたんだよなぁ………。どうせ蒼い髪の幼女が男湯に入ってきたと勘違いして興奮してたんだろうな。だが、残念ながら当時の俺は幼女じゃなくて用事ですよ。はははははははっ………。


「ほら、お兄様も早く選んでくださいな」


 昔の事を思い出してため息をついていると、水着を選んでいたカノンに声をかけられた。


「いや、俺は普通の海パンにするから………」


「あらあら、ちゃんとした水着の方が………そういえば、お兄様は殿方でしたわね」


「かっ、カノン!? さっきお前俺の事を〝お兄様”って呼んでたよね!?」


「申し訳ありませんわ。お兄様が可愛らしかったので………ふふっ」


 仲間にまで間違われてるぅ………。


 前世は普通の男子だったのに、転生してからはこの容姿のせいでずっと勘違いされてるんだけど………。母さんに似たくなかったってわけじゃないんだけど、出来ればもう少し親父に似たかったなぁ………。今の親父ってがっちりしてて男らしいし。


「と、とりあえず俺は普通の海パンにするからさ………」


「あらあら、そうですの? ………でも、お兄様にこういう水着は似合いそうですわよね?」


「ん?」


 そう言いながら、カノンはメニュー画面をタッチして画面に水着の画像を表示させる。そこに表示されていたのは俺が生産しようとしていたごく普通の海パンではなく―――――――明らかに女性用の、蒼い水着だった。しかも白いフリルまでついている。


「あぁ!?」


「きっと似合いますわ。ねえ、お姉様?」


「ふにゅ? うんっ、とても可愛いと思うよ♪」


「お姉ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!?」


 おいおい、俺にこんな水着を着せる気かよ!? 俺は男だぞ!?


「タクヤ」


「ん? ステラ、どうした?」


「きっとタクヤには似合うと思います」


「えっ?」


「むしろ、ステラはタクヤの普段の服装の方に違和感を感じます。おそらく、タクヤは男装よりも女装の方が似合うかと」


「はぁッ!?」


 普段の服装の方に違和感を感じるだと!?


「う………嘘だろ………?」


 ショックだよ………男なのに、男らしい服装をすると違和感を感じるって事は、常に女装してた方が似合うって事だろ?


 苦笑しながら、俺は画面に表示されている女性用の水着を凝視していた。


 白いフリルの付いた可愛らしいこの水着は、俺ではなくナタリアやカノンが着た方が似合うだろう。その水着を自分が身に着けている姿を想像してしまった俺は、更にショックを受けてため息をつく羽目になった。



 

水着だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ(笑)

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