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プロローグ1

第二部スタートです。よろしくお願いします!

 他のみんながはしゃいでいるというのに、俺は全くはしゃぐ気にはなれない。黙って自分の座席に腰を下ろし、前の席の奴と話す隣の席の奴の声を聞きながら、飛行機の小さな窓の外に移る大空と飛行機の翼を眺めるだけだ。


 俺の名前は水無月永人みなづきながと。普通の高校に通う17歳の男子だ。


 俺が黙っているのは友達がいないからというわけではない。むしろ、友達は何人もいる。部活で仲良くなった奴もいるし、中学校までは一緒だった奴らとも遊ぶこともある。


 やっと家から離れられるという安心感が、俺を寡黙にしているんだ。あの忌々しい父親クズのいる家から離れることができる。友達たちといっしょに、これから修学旅行を楽しむ事ができる。俺が寡黙になっているのは、その安心感が原因だった。


 俺の父親は、クズだ。自分勝手な性格で、俺が小さい頃からよく母さんに暴力を振るっていた。自分の気に入らないことがあればすぐに暴力を振るうし、反論すれば俺まで殴られた。母さんはあんなクズ野郎の暴力に耐えながら俺を育ててくれたけど、2年前についに病気になり、他界してしまった………。


 親父クズは母さんが死んでも葬式に来ることはなかった。相変わらず家で酒を飲み、俺に暴力を振るって来るだけだ。


 何で母さんはあんなクソ野郎と結婚したんだろうか? 何で離婚しなかったんだろうか?

 

 あんな奴の子供とは思いたくない。あんな父親の血は受け継ぎたくない。


 小さい頃からあんな父親を見ているせいで、俺は父親というのは自分勝手な奴ばかりだと思っていた。


 母さんが死んでしまったから、当然ながら今は親父と2人暮らしをする羽目になっている。でも、今日から5日間は修学旅行だ。あのクソ野郎の事は考えなくていい。仲のいい友達と修学旅行を満喫するとしよう。


 当然ながら、クズ野郎に土産を買っていくつもりはないけどな。土産話をするつもりもない。


「楽しみだよな、永人ビックセブン!」


「漢字が違うだろうが。それは戦艦長門だろ? 俺は永遠の永に人って書いて―――――」


 話しかけてきた隣の奴にそう言うが、俺の隣の座席に腰を下ろす友人のうちの1人は、ニヤニヤ笑いながら話を続けるだけだ。銃や兵器が好きなミリオタとしては嬉しいニックネームだが、俺の名前とは漢字が違う。


 隣に座っている男子の名前は葉月弘人はづきひろと。中学校の頃から同じクラスになっている親友で、俺をミリオタにした張本人だ。中学校の頃は全く銃に詳しくなかったんだが、こいつと話をしているうちにいつの間にか俺までミリオタになっていたんだ。


 ちなみに俺は東側の武器が好きなんだが、弘人は西側の武器が好きらしい。好きな武器の話が始まると、中学の頃からいつも冷戦が勃発してたってわけだ。


 俺は窓の外を眺めるのを止め、隣に座っている弘人や、後ろの席に座っている奴らと話をすることにした。もう親父の事は全く考えていない。あんなクズの事は忘れてしまおう。


 そう思いながら後ろの席を振り向く最中に、ちらりと見えた窓の外の翼から、真っ黒な煙が生じているのが見えたような気がした。錯覚かと思いながらもう一度窓の方を凝視しようと思いながら振り向こうとしたその時、いきなりぐらりと飛行機が右に大きく傾き、クラスメイト達の楽しそうな雑談が同時に悲鳴に変わった。


 隣に座っていた弘人の頭突きを左肩に喰らい、押し出されるように右側にある窓に額を叩き付けられた俺は、強引に窓の外の光景を見る羽目になった。蒼い空と灰色の翼が見えている窓の外には、確かに黒い煙が見えている。その煙が発生しているのは、どうやら翼の下に搭載されているエンジンのようだ。


 今度はそのエンジンが火を噴き始める。続けざまに奥の方に搭載されているもう一つのエンジンも火を噴き上げながら木端微塵に吹き飛び、翼の先端部を道連れにして、俺たちの乗っている飛行機から逃げようとしているかのように、翼の破片と共に炎上しながら地上へと落下していく。


 右側の翼が掛けた飛行機は、そのまま右へと傾きながら急激に高度を落とし始めた。


 おかげで機内では、俺が身体を押し付けられている右側の壁に向かって、反対側の座席の方からいろんな物や乗客が落下してくる。


 俺はこのまま、飛行機と共に墜落して死ぬんだろうか?


 別にそれでもいいかもしれない。この修学旅行が始まれば、またあのクズ野郎の所に帰る羽目になるのだ。また暴力を振るわれる理不尽な生活に戻ることになるのであれば、ここで死んでしまった方が、もう暴力を受けることもなくなるだろう。


 もう、死んでもいいや――――。


『―――――そうだね。君はもう死ぬんだよ』


 絶叫の中から、そんな声が聞こえてきた。少女の声だろうか? 全く聞き覚えのない声だった。


 絶望に楽しみを全て取り上げられてしまった俺は、そう思いながらクラスメイト達の絶叫の中で瞼を閉じた。


 

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