第二話 武視点 「不良の過去」
ごめんなさい
本当は今回の武の回想+現代の時系列で一話分にしたかったのですが思ったより回想が長くなったので分割することにしました。
ですので話数も全五話構成になります。
家に帰ると寝室から母の声が聞こえる。しばらくすると母は知らない男と玄関に向かいまたねと別れを告げる。
今月で何人目だろか。
家事全般は一人息子である俺の役目だ。
父は仕事から帰るなり家が汚いと怒鳴り散らす。
食事をするなりまずいと怒鳴り散らす。
風呂に入るなりぬるいと怒鳴り散らす。
母は掃除はこの子がした、食事はこの子が作った、お風呂はこの子が入れたと言うばかりで何もしなかった。
中学に上がってもそれは変わらなかった。
だんだん家にいるのが苦痛になってきた。
二年生に上がると最低限の家事だけやって夜の街に出るようになった。
飲み歩くサラリーマンの群れと共にだらだらと歩き回り、ネオン管の光を目に焼き付けて、夜の喧騒に聞き入っていた。
夏休みのある日初めて補導を受けた。父は一昨日から出張で家と開けていた。母は父が出張に出たその日からトランクを持ってどこかに行った。
警察署で補導を受けていると保護者として母が呼ばれた。終始イライラとしていて警察から解放された後初めて母に叱られた。
「こんなことであたしを呼ぶんじゃない。」
俺の中にあった希望だとか願望だとかそういう固執していた何かがこの時吹っ切れたような気がした。
母はタクシーを呼びどこかへ行った。俺は家に帰らなかった。
そのままいつも通り夜の街を歩いていると初めて不良に絡まれた。きっと恐喝しようとしていたのだと思う。
なぜ分からないかというと話しかけられた途端殴り飛ばしたからだ。相手は五人いたが大した問題ではなかった。
それから毎日街に出ては部屋の蚊を叩くように何も感じず無心で不良どもを潰して回った。
時には向こうから仕掛けてくることもあったし、暴走族に囲まれたこともあった。
もちろん全て叩き潰した。でも、少しの達成感も満足感も充足感もなかった。
当たり前だ。蚊を潰して喜ぶ奴はいない。
二月になって両親が離婚した。俺は父に付いて行くことになった。
父は今まで通り帰ってくるなり怒鳴り散らしたがそこに新たな文言が加わった。
「なんで俺がてめぇの子守しなくちゃなんねぇんだよ」
久しく感情が灯った。怒り、憎しみ、恨み、蔑み、あらゆる負の感情が堰を切ったように溢れ出してきた。
数日後俺は施設に預けられた。職員が言うには父は全治三ヶ月らしい。
施設に預けられた俺は猛勉強した。あんな家には帰りたくない。すぐにでも独り立ちしたい気持ちを抑えて私立全寮制の学園に入るため勉強した。
幸い物覚えが早かった俺は首席で入学、授業料が免除された。
高校では優等生を演じた。中二の夏休み明け同級生から距離を置かれ、一部の正義漢ぶってる奴か俺に寄ってきた。あれが心底面倒だったからだ。
順調に学園生活を送っていた矢先、夜ティッシュが切れた。この学園の寮には珍しく門限がなかった。仕方なく買出しに出かけることにした。校則で制服着用が義務付けられているから制服のまま寮を出た。
夜の街を歩いていれば案の定不良共を見かける。俺はもう騒ぎを起こさないそう思っていても相手がそうとは限らない。
不良共は俺を確認して目を見開く。きっと制服を見て驚いていたのだろう。しかし何を思ったかニヤリと表情を変えて殴り込んできた。
過剰防衛だとは思っていない。先に殴り込んできたのはあっちだ。だから叩き潰した。血を吸おうとした蚊を潰して何が悪い。
翌日理事長室に呼び出された。どうやら昨日潰した不良の中に学園の関係者の身内が居たそうだ。
一週間の自室謹慎が命じられた。
謹慎が開けるといつぞやのように同級生は俺を避けた。そして同じように俺を更正させようとする正義漢が現れた。
自分の正義を振りかざす奴が嫌いだった。だから無視し続けた。
そいつは俺に付きまとい話しかけ続ける自分に酔っていた。
ついにそいつは逆ギレした。てめぇみたいな虫ケラになんで俺が相手し続けないといけないんだよ。いい加減反応しやがれ。人様に迷惑かけんじゃねよ。と。
俺は暴力事件など起こしていない。蚊を潰してわざわざ起訴されていては日本の刑務所はすぐいっぱいになってしまうだろう。
俺はどっちが虫ケラなのか教えてやっただけだ。
翌日理事長室に呼ばれた。理事長が怒鳴り散らした。退学処分になった。どうやらあの虫ケラは理事長の息子だったらしい。
虫唾が走った。不良を潰した時は自室謹慎、息子が潰されれば即退学。
俺は荷物をまとめ寮を出る準備をした。学園最後の日俺は理事長を潰した。
また施設に行くことになった。前回とは違う施設だ。そしてその近くの高校に通うことになった。