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大統領の国

ご無沙汰しております

なんとなーく今後の方向性が定まってきたので、とりあえず投稿できました。

今後はもう少しペースを早めていければと!

 革靴が石畳を鳴らす、そんな軽やかな音色があちこちで交差している。




 正午の談笑に興じる女性。汗水流して働く男性。ごく当たり前の世界の風景。

 そう、ここは単なる『活気の溢れる街角』。あちこちで大勢の人々の生活の息吹が聞こえてくる……。


「……んん?」


 空はからっと晴れ渡り、春先を感じさせる温かい風が肌を撫でる。人は行き交い建物が立ち並ぶ。それは何の変哲も無い光景……。


 そう、そこは誰がどう見ても、『平和な市街地』だった。



 唐突に視界に広がってみせた、正常であって、酷く異常な光景を前に、俺はただ口を開けるしかなかった。

 まさか夢を見ているのか? いやいや、そんな筈はない……。既に混乱呪文二重掛け状態の脳を、精一杯回転させてみる。


 冷静に思い出してみよう。確かに俺は『あの』場所にいた筈だ。

 最初に俺はたった一人であの廃村を彷徨っていて、人なんか一人もいなかった……。そう、俺は一人だと思っていた……そんな時に現れたのが……。


 そうだ、『大統領』とかいう男の存在だ。


 記憶も無く、一人孤独に気分を沈めていた俺が、廃村で出会ったただ一人の人間……最後に俺の顔を鷲掴みにしやがった憎き男。俺をこのような目に遭わせられるのは、あのチャラついた男の他にない……。


「それはそれとして……ここはなんだ?」


 『あの廃村で何かが起きた』。大統領とやらは話の中でそれを示唆していた。俺はてっきり、あの荒れ果てた光景を目の当たりにして、破滅や絶望だとかを暗示するような出来事が『この世界』に起きたと思っていたのだが……どういう訳だ?


 世界は荒廃するどころか、こんなに生気に満ちているじゃないか。では、あの世界は何だったんだ……?


「それに、あそこには俺以外の人間もいたと、確かにアイツは言っていた……」


「よく覚えてるねぇ〜」


「物覚えはいい方だからな。やっぱりあそこで何かがあったことは確かなんだよなー……って」


 そして俺たちは同時に顔を見合わせる。


「またいるぅーっ!!!!」


 ニヒルな笑みを浮かべる金髪チャラつき男! またしてもノコノコと俺の前に登場してくるとは!!


「意味深な言葉を残して消えるのかと思いきや、割といつも貴方の側に。大統領です」


「なんだそのキャッチフレーズは! いやいやそんなことよりさ! どういうことなのか説明してくれよ! もう訳が分からん!」


「ほーぅ。そうかいそうかい。何が分からんのか、分からないから教えてくれよ」


 櫛で髪を梳かしながら興味無さげに言われる。その態度にいよいよ苛つきの頂点に達した俺は、自棄になって今までの疑問を吐き出した。


「まずここどこ!? 何で俺記憶ないの!? 何で俺拉致られたの!? さっきの場所からどうやって俺を移動させたの!? さっきの場所にいたって人らも同じようにここにいるのか!? てかお前何者だよ!」


「僕は大統領」


「分かってるよ!! 最後の質問は聞いた俺が悪かったわ!!」


「まあまあ、落ち着けって。キミの疑問の一切合切を解決する、ありがたい一言を送るからさ」


「え? ほんと?」


 ほんのり期待する俺を尻目にゆっくり櫛を内ポケットにしまうと、大統領はビシッと、俺を指差してこう言い放った!


「キミはこれから、この世界の中で生き残ればいいんです!! 以上!!」



 ……あ、この男は会話するだけ時間の無駄だ。


 お喋りで自己主張の激しい黒幕を目の前にしていながら、俺はヤツに対し、そう直感めいたものを感じていた。





◆◆◆


◆数日前

【廃村エリア】



 廃村の中心で、それは既に発生していた。

 互いの腹を探り合いながらも、ギリギリ保たれていた中立。その均衡が、この大統領という男のせいで、どこまで崩されてしまうのか。私は気が気ではなかった……のが、数分前のことだ。


 結論から言おう。

 私たちは、まんまと大統領という異分子によって翻弄されてしまっていたのだった……。


「そっちはどうだ!?」


「問題ない……!」


「よし、この調子だ! いいぞ!」


「しまった!」


「何をしている!! 全部台無しにするつもりか!!」


「す、すまない……! よし、今度は大丈夫だ! 手応え有り……! ちゃんと刺した!」


「これで残りはコイツだけだな……俺が仕留める!」


「抜かるなよ……」


「……っよし!! やったぞ!! これで全部だ!!」


「次はどうすればいいんだ!?」


「次は……フライシートを被せるんじゃないか?」


「ああ、これか。ようやくそれっぽくなってきたな」


「ペグ刺しにこんなに手間取るとはな。まさか経験者がいないとは思わなんだ」


「そりゃ、俺たち記憶ないからな!」


「そりゃそうか!」


「わははははは!!」


「みなさーんそろそろ休憩にしましょう〜!!」


「いやあー!! 汗水流して働いた後の淹れたてのお茶、そして梅味のおにぎり!! 最高の贅沢だねっ!! ワッショーイ!!」


「ってなんだこれ!!!」


 メガネが、メガネを叩き付ける程の全開ツッコミをしていた。


「キレのいいノリツッコミだ」


「うるさいよ!!」


 親指を立てるコートに、メガネがキャラを忘れて全開のツッコミをしていた。


「というか、何なんですか!? さっきまで今にも殺し合いでも始まるような雰囲気だったのに、なんで急に和気藹々としちゃうの!? なんでみんなでテント設営してるの!?」


「え? みんなが知らない土地に来て、周りに何も無いような状況だったら、まずテントを立てるだろ?」


  おにぎりを貪りながら、大統領は当たり前だろとばかりに言う。


「そりゃキャンプでしたらね!? 今回のケースだと、『知らない土地』のランクが高過ぎる!! 少なくともキャンプしてる場合じゃない!」


 ……そう。

 私たちは今……どういう訳か、キャンプよろしくテントの設営などを行っている。正直言って、最早そんな自分自身にも脱力していた。

 覚悟していたもの、気負っていたものが全て水に流れる虚しさ。黒幕にいいように弄ばれていると自覚した故の情けなさ。


  勿論、物騒なことが起きないに越したことはない……。越したことはないのだが……。何とも言えない煮え切らない靄が残ることを否定できない。

  ふてぶてしく私たちの輪の中に君臨する、『黒幕』という強大な悪を目の前にしながら、ペグ打ちに勤しむ私たちは最早、彼に警戒する気力さえ削がれてしまっていた。

 そしてしっかりと肝に銘じることにする。


  この男の醸し出す雰囲気に呑まれるのは馬鹿馬鹿しいから気をつけよう。


  私だけではない。その時全員がヤツに対し、そんな風に直感めいたものを感じていたはずだ……。

次回、探索が始まります

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