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俺の虚無

文フリ、趣味じゃない方の文字を書くお仕事、大学など、更新を滞らせる様々なファクターがありましたが、要するに更新遅くなってすみません

とりあえず落ち着いて更新分を読んで下さい

 気がついた時、俺にはほんの一秒前までの記憶が無かった。最初に気づいたのはそんな些細なことだった。


 気がついた、とは言っても、実はまだ意識はどこかに置いてけぼりになっている。そうだな。今の俺は、夢の中で『これは夢だな』となんとなく気づいている状態だとでも思ってくれるといい。


 話を戻そう。

 記憶が無いんだ。そりゃ、些細なこととは到底言えない出来事が俺の身に起きているのは理解できる。しかしそう頭では理解していながらも、これを『些細』だと呼んでしまう所以は、きっと俺がこの事態を軽視しているからなのだろう。


 考えてみて欲しい。確かに、一秒前までの記憶があった俺には背負っている物、築いてきた物、そして帰るべき場所があったことだろう。しかし記憶を失ってしまえば、その存在の全てが初めから無かったも同然なのだ。そうなってしまえばもう手遅れ。今の俺と、一秒前までの俺との繋がりは完全に断たれ、奴とは赤の他人も同然とは言えないだろうか。

 別に共感は求めない。ただ、実際に今の俺には記憶喪失などそのくらいの認識でしかないのだから仕方ないじゃないか。


 ここで正義感溢れる漫画の主人公なら、『失った記憶を返せ!!』などと声高に叫ぶのかもしれない。俺もそれに倣うべきなのだろうか……。


 まあ勿論、俺にはそんな事をする必要性が全く感じられなかったけど。知りもしない俺の過去を返して欲しいとは思わなかったし、むしろ、これから起こるであろう出来事に胸を高鳴らせていくばかりだった……。


 そうだ、それだ……! 


 今の俺には過去を引きずる後ろ向きな気持ちより、新しく生まれ変わったような前向きな気分で満ち溢れていたのだ、とでも言えば少しはこの異常性を否定するための理由付けになるだろうか。


 いや、転生したどころか、今までの自分は人間ですら無かったかのようにさえ感じられる。この世界から俺の新しい人生が始まるんだ。この世界でなら、俺は、今までの俺が成し得なかった何かを成し遂げることができるはずなんだ。


 記憶を失う前の俺が何を成し得なかったかさえ思い出せずにいながら……そして、完全な意識の覚醒を迎えずにありながら、そんな風に思える程に俺の心は踊っていたのだった…………。






◆◆◆






 どこに向かえばいいか分からないので歩いていたのか。

 目的地が分からないのに歩いていることに気づいたのか。


 そのどちらなのかは分からないが、とにかく俺は彷徨い歩いていたことにようやく気づけたのだ。


「え……。ここ、どこ……?」


 意識が覚醒すると同時に、どっと押し寄せる疲労感。一体どのくらいの間、俺はこうしていたのだろうか。

 辺りを見回しても、目に入るのは崩れた住居群に、緑っ気の一つもない枯れ木ばかり。薄灰色の世界が何処までも続いているのみだ。

 まるで何か大きな争いがあった、それっきりのように、荒廃だけが広がる世界。地獄という世界を見た経験はないが、それを地獄絵図と形容せずにはいられない、そんな風景だ。


「案外、本当に地獄なのかも」


「でも地獄って言っても色々種類あるよ。ここが地獄なら、ナニ地獄だっていうんだい」


「んー、いや地獄の内訳とか別に詳しくはないけど、勝手に名付けていいのだとしたら、荒廃地獄だね。そんで受けている罰は孤独刑……って」


 俺たちは同時に顔を見合わせる。


「ん? どうしたんだい?」


 その驚きの余り、俺は言葉を詰まらせずにはいられなかった。


「こ……」


「こ?」


「孤独じゃなかったっ!!」


「まずそのツッコミが出るのか。すごいねキミ」


 暗い世界に一際輝く、全身真っ白スーツの青年。正直、孤独で胸がチクチクしていた俺からすれば、それは俺を導く天使のようにしか見えなかった。


「え!? ていうかいつの間に!? いつからそこにいたんだ!? え!?」


「んー。それはこっちのセリフでもあるんだよなあ」


「……え?」


 気障ったらしく金髪を弄りながら、彼はそう呟く。

 興奮もある程度収まってくると、改めて疑問が湧く。ここはどこなのか、『こっちのセリフ』とはどういう意味か? そしてそもそもこの男は何者なのか? まさか本当に天使な訳じゃあるまいし。


「あの……」


「あー、ちょっと待ち。もういいわ」


「は? なにが?」


 ずいっと腕を突き出し、俺の開きかけた口を抑えんばかりの勢いで遮る。


「もう、大体キミの聞きたいこととか分かるし、こっちも納得のいく説明ができないのは先日証明できたばかりだから」


「あの……。何の話を」


「それよりたまにはこっちが質問させろよ!! こっちも同じやり取り何度もするの嫌なんだよ!!」


 ええー。

 なんなんだこの男は……。最近の若いヤツはみんなこんな感じなの? チャラついた髪型しやがって。


「キミさ。一体どこから来たんだよ?」


「いや、それをこっちが聞きたいんだけど……」


「ダメだ。やっぱ話にならんか!」


 ホントなんなんだコイツ自己解決すんなよ。そもそも見知らぬ廃墟群の中をひたすら歩いている理由を自分で把握できている人間なんて存在するのかよ。自分探しでもそこまで探しに行かないわ。訳分からん。ホント髪型もチャラついてるし。

 俺が悶々としていると、


「大統領」


「……なんて?」


 おもむろにヨイショされてビックリした。妙に古い太鼓持ち文句を使うなコイツ。チャラついてる割に。


「とりあえず僕のことは大統領と呼ぶように。僕からは以上」


 え? まさかのこっちにヨイショを要求するパターン?


「いや……僕からは以上って……。こっちはまだまだ聞きたいことが……」


「…………」


「何で俺がアンタのことを大統領とか持ち上げなくちゃいけないのか、とか。その髪って地毛なのかとか……」


「…………」


「…………はぁ」


 俺はなんとなく空気を察して、大きく溜め息をついた。


「分かったよ……。ヨッ!! 大統領!! カタいこと言わずにもっと情報下さいよ!!」


「違うんだよ!!!」


 何が!?


「あのね。別に『情報が欲しかったらヘコヘコしろ』って言ってる訳じゃないんだよ。大統領は二人称で使ってってこと! 僕を持ち上げて気分良くさせてってことじゃないの!!」


「あ、そうなんだ……」


「あとさ! まだまだ聞きたいことあるってのは分かるけど、全体的にそんなどうでもいい疑問しか持ってないの!? いいの!? 聞きたいのはそんなことなの!? 地毛だよ!!」 


 地毛だったのか。チャラついてるとか思って申し訳なかった。

 初対面の相手に怒濤のツッコミを受けたことで若干メンタルをやられていると、自称大統領の彼は呆れたように顔をしかめた。


「いや……。もういいや。正直言って、キミの存在はイレギュラーだったんだ。どうして『他の連中』と一緒に現れず、今頃になってこんな所を彷徨っている件とか、そもそもキミに見覚えが無い件とか、大統領的には納得のいく説明が欲しかった訳なんだけど……」


 明らかに興味無さげに、下に上にと視線を滑らされる。


「その様子だと、他の連中と変わらない……。いや、それ以下っぽいし、何かの手違いだったと納得しちゃえと、大統領は問題を揉み消すことにします」


 何だかよく分からねえが、盛大に舐められているのは分かるぜ!!

 色々と言ってやりたいことはあったが、それよりもまずは確認しなくてはなるまい。


「あの……。他の連中って……。まさか俺以外にも、俺と同じ境遇の人間がここにいるってことなのか!?」


「あーあ。情報与えちった。大統領一生の不覚」


「ど、どうなんだよ!」


「……ここにいる、か。まあ、正確には『ここにいた』と言うべきだろうね」


 ここにいた?

 過去形……なのか。何故だか、背筋に寒いものを感じる。


「じゃ、じゃあ……。今はいないってことか? そ、それはどうしてなんだ?」


「うーん。その質問に関しては……まあ、今まで大統領が受けたことのない質問だから、答えてあげなくもないか」


 にやり。

 怪しげな微笑み。先程までのおちゃらけた様子とは打って変わり、意味深な雰囲気をその身から漂わせ始める。俺の置かれている空間の異質さを、改めて思い出させるような独特なオーラだ。


「そうだ……。この場所……この空間が、如何にも『何かがあった』としか思えないまでに荒廃しきっているのはどうしてなんだよ? まさか、その『連中』が何か関係を……」


「ちょっと想像してみて欲しいんだ」


「え?」


 悪趣味なまでに真っ青なネクタイを、なぞるような仕草をしながら、世間話でもするように彼は言う。


「記憶を奪われたまま、急に訳の分からない空間に連れて来られてさぁ……。そこで、今まで自分が持っていなかった、何か特殊な『能力』のようなものに覚醒した人間がいるとしてだよ? そういう境遇の人間が一堂に会したとしたら、一体何が起こるんだろうね」


「な、何の話……」

 

 俺が言葉を詰まらせながらそう言おうとした、その時だった。不意に伸びる腕。俺の理解の追いつく前に、顔面ががっしと鷲掴みにされた。


「な、なにを……っ!!」


「そうだよ。縋るものは、その『能力』しかない訳だ。それ以外の全ては不明瞭なのだから。勿論、能力だって当人からすれば不明瞭な概念の一つだろう。でも、間違いなく自分の『味方』だと言うことだけは分かる。そうなれば後の出来事は想像に易い。それを行使するのは時間の問題、って訳さ」


 その言葉を聞いているうちに、不思議と意識が白んでくる。ゆっくりと、時間をかけて麻酔が全身へ回るように……じわじわと、だが確実に俺はまた、世界から切り離されようとしていた。


「君たちが置かれたのは、そういう状況とそういう世界なんだよ」


 世界との繋がりが断たれる瞬間。俺が最後に聞き取れたのは、終わりを暗示するような、真っ暗な、そんな一言だった。




◆◆◆



 廃村の中心で、それは既に発生していた。


 互いの腹を探り合いながらも、ギリギリ保たれていた中立。その均衡が、この大統領という男の存在で、どこまで崩されてしまうのか。私は気が気ではなかった……



 のが、数分前の話だ。



 結論から言おう。

 私たちは今……まんまと大統領という異分子によって、いいように翻弄されてしまっている……。


落ち着きましたか?それとも、案外何も起こらなくて憤慨しましたか?でも、あまり怒ってばかりだと体に良くないんじゃないかなと思います


僕はいつでもみなさんの健康を祈っていますからね

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