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曖昧模糊な始動

今回で、長い長い前置きは終わり・・・ですかね

次回からはもっとこの世界とシステムに踏み込んだお話を展開していけるようになると思います!

「自己紹介ターイム!!!! そうだよ大統領の自己紹介をしてあげよう!! とても重要なことを言うぞ!! よく聞くのだぞ!! まず僕のことは『大統領』と呼んでくれたまえ!! 職業は、言わずもがなだけれど、『大統領』! 技術は『国境ありきの軍隊』を使う、作中最強キャラなんだぜ! それから、パラメータは『貢献』が10、『発展』が10、『影響』が10、『求心』が10『名声』が10『給与』が10!! まあ俗に言う壊れ性能ってヤツで、あるいはチートキャラってヤツで、言うなれば歩く敗北イベントな訳!! そーいう訳だから恨みっこは無しで頼むぜー!」










 何を言っているんだ?


 長い沈黙を破り、自らをとうとう黒幕と明かした男の口から飛び出したのは、聞き覚えも無い用語の羅列。その飄々とした物言いは、緊張感に満ちたこの重苦しい雰囲気には余りに不釣り合いで、不愉快さを覚えさせた。


「おや!? その沈黙と表情はなんだい!? お望み通り黒幕様が全ての素性を明らかにしてあげたのだよ!? それとも、僕の圧倒的な大統領オーラにあてられたのかな!? カリスマ感じちゃったのかな!?」


「戯言はいい……」


 相手にするのも馬鹿馬鹿しい。そんな思いも微かに脳裏に過らせながらも、私はヤツのペースに呑まれないよう、ゆっくりと言葉を押し出した。


「さっきの関西弁口調はやはり私たちを騙すための演技だった訳だな?」


「まあ、そうだね! だって流石に今時関西弁キャラなんて安直すぎるじゃん? 君らのネーミングセンスくらい安直だぞ!」


「何故そんな真似をした? 私たちを騙してどうするつもりだった?」


 そう問われると、男は大袈裟に唸りながら、悪趣味な真っ青なネクタイを弄り始めた。


「うーんうーん。だってさぁ、これだけ個性的な連中が集まってれば、その中にしれっと関西弁キャラが紛れ込んでいても違和感はないんじゃないかなって思ってよぅ。さっき誰かさんはお粗末な嘘だと言ったけどねえ、大統領は大統領なりになるべくバレないように気をつけたんだぞ?」


「俺たちをそんな風に騙して、どうするつもりだったと聞いているんだ」


 間髪入れずにコートが続く。彼は動揺した素振りを微塵も見せず、変わらず男の目を睨みつけ続けている。しかしこの男もこの男で、まるで意に介さないようにネクタイの長さなどを調節したりしている。


「えー? 別にどうもするつもりはなかったさぁ。もしバレなかったら、途中で自分から暴露しようかなって思ってたくらいだし。いやいや、折角の黒幕でしょ? やっぱり登場演出には拘りたかった訳よ! ま、拘り過ぎた結果何が最善か分からなくなってきちゃって、結局こんなすぐバレるやり方になってしまったのかもしれないねえ? そういう意味では反省かな!」


「つまり、ただの面白半分でこんな真似をしたというのか?」


「しつこいなあ……。どんだけキレてんのさ! 大統領的にもそういう人は嫌いだよ!! 過去のことは水に流してよ! 大統領の不祥事は国民の不祥事!!」


 少し苛ついたように、男は頬を膨らませた。大袈裟に地団駄を踏む様子に脱力しそうになりながらも、ふと引っかかっていたことを口にした。


「さっきから大統領大統領と連呼しているが、一体何のことを言っているんだ?」


「大統領は大統領でしょ? それ以外の何者でもないよ。自分をそう名乗って何がいけないんだい? 国家反逆罪か? ん?」


「貴公は巫山戯ているのか……?」


 その態度を見かねてか、割って入るようにして侍が呟く。彼の言い分は尤もだった。……が、自らを『大統領』と名乗るその男は、彼のそんな言葉ににやついた表情を曇らせた。


「ふざけてんのは君たちの方じゃないかなぁ? 君たちには自分たちが確信を持って名乗れる名前なんてなくて、急ごしらえの名前を名乗ってるだけだろ? そんな存在が不確かな連中に、僕のアイデンティティを否定される筋合いは無いね〜」


「…………」


 名前……。


 そのワードを出された途端、場の空気が再び沈んだような気がした。

 ……そうだ。そのことを聞かない訳にはいくまい。


「私たちに名前が……記憶が無いのは貴様の仕業なのか」


「そりゃ黒幕の仕業じゃなかったら誰の仕業だよってね。もし黒幕の仕業じゃないとしたらその時点でそいつは黒幕じゃないよ。果てしないパラドックスが誕生し得るよ。ああ、でも僕は大統領だからね。黒幕というよりも大統領だからね。そういう意味では黒幕ではないかもね。黒幕1の大統領9でお送りしているイメージ」


 分かってはいたが、本当にこの男の仕業……か。

 では、私はどうすればいい? 今なら人数に物を言わせて、コイツを組み伏せることもできるだろう。しかし、それが果たして最良なのか?


 何度目かの沈黙が場を包み込む。私だけではない。いざ、黒幕という最大の悪に対峙した際の行動を、全員が決められずにいるのだ。


「すっかり黙っちゃったね」


 その沈黙を破ったのは大統領であった。黙り込む私たちをせせら笑うように呟くと、徐にパンパンと手を叩く。


「はいはい! じゃあ、大統領の方からそろそろ進行いいっすか? 君たちはさっきからお喋りが過ぎるよね。お陰で折角のファンタジーがマンネリさ。これから何が起こるかというのか、気が気じゃない癖に、いちいち余分な所で突っかかって人の進行を邪魔するんだ。で、邪魔するだけ邪魔した先に、別に目的がある訳でもなくて結局は黙り込んでしまう。偉そうな顔して、聞きたくないことをただ先延ばしにしているだけじゃないか! 全く、そんなに身構えなくてもすぐ終わるよチキン共め。黙って天井の染みの数でも数えていればすぐさ。って、ここ屋外じゃねーか、っつってな!!」


「そのお喋りな口を二度と開かないか、さっさとお前の目的を話すか……どちらか選んでもらいたいものだな」


 ここぞとばかりに捲し立てる大統領の言葉を遮ったのはコートだった。もしかしたら、この男は……この男なら、自分なりに最善の方法を頭の中で叩き出し、既に実行に移そうとしているのかもしれない。


「だからこっちのテンポ乱すなっつーの! 僕は入念なプランニングと軽やかなテンポを何よりも重んじる紳士なんだ。君たちを騙して関西弁キャラを演じたのも、一発で黒幕だって認識して貰いたかったからだし、最初の自己紹介で大統領のスペックを全部曝け出したのも、後で説明するの面倒だから! さっきから露骨にお喋りなのも、僕のキャラを手っ取り早く理解してもらうため!! 全ての物事には理由があり、背景にはプランニングがあり、最良のテンポがあるの!!」


「そ、そんな理由が……」


「メガネ。納得するんじゃない」


「おい貴様……ふざけるのもいい加減にしろよ……」


 冷静にツッコミを入れられるメガネの脇からずいと現れたのは軍人だった。何をするかと見守っていると、彼は迷わず大統領の目の前まで歩み寄り、そのままその胸ぐらに掴み掛かった。


「おい!!」


「さっき、他の三人はおとなしくしてもらっていると言ったな? どういう意味だ?」


 思わず声を上げるも、軍人は気にせず衣服を掴む手に力を込めた。


「こ、言葉の通りの意味だよぅ……くるしっ」


「ほう。それじゃあ、やっぱり貴様は俺たちの敵だと認識していいんだな? それじゃあ気の毒だが、まずはお前にも『おとなしく』して貰うぜ」


「うぐぇっ……。き、君……理解してる? 君が今馬鹿みたいに力こぶ膨らませながら強引に掴み掛かっているのは、大統領のネクタイなんだよ? BLよろしく引っ張っちゃってくれてんだよ? こ、こんなことをしてどうなるか……」


「そうかよ!!! それならどうなるか教えて貰おうかぁっ!?」


「よせ!! 迂闊に手を出すな!!!!」


 制止の声を払って振り抜かれた拳が、綺麗に大統領の頬に突き刺さった……!!



 かのように、見えた。

 ところがどうして……その屈強な腕から繰り出されたパンチは大きく空を切っていた。


「な、何だ!? う、うおおお!!」


 そのまま体勢を崩し、軍人は勢い余って地面へ転がり込む。支えとなっていた大統領、そいつ自体がどこかに消失していたのである。


「な、何が起きた……!?」


「君にとっては不可解な事態かもしれない。でも、残念ながらこれも僕にとっては予定調和なんだ」


 背後からの声に全員が振り返る。見れば、瓦礫の山の上にそいつはのんびりと胡座をかいていた。


「『君ならここで僕に殴り掛かってくれる』って、大統領は信じていたからね。いや、『そういうヤツだと知っていた』と言ってしまうべきか。まあとにかく、その布石として君たちを苛つかせていたんだし、何でこんなことをしたのかと問われれば、『力』の存在をさっさと理解して貰いたかったから。そして現に君たちは人智及ばぬ力を目の当たりにして、呆気に取られている。ほら、何もかも予定通り。尚且つスピーディでしょ?」


 私たちが立つこの広場は、ぼろぼろに崩れた石畳がかろうじて円形を形作っていることで申し訳程度に形成されている。私たちの遥か後ろに現れた大統領は、本来いた位置から一直線上に結んだ最端……広場の端から端にまで移動したことになる。


「な、何者なんだ貴様……」


「だから、大統領は大統領だってば。それ以外はフツーの男の子さ。どこにでもいるごく普通の人間の一人。君たちだってそうだろう?」


 腰をついたまま立ち上がろうともせず、軍人はただ脂汗を浮かべて大統領を睨みつけている。


「俺たちがお前と同じ……? 笑わせるな、化け物が……。今のは一体」


「異能力バトル物だ!!!!!」


「……あ?」


 見れば、先ほどから沈黙を守っていたラノベだった。……なにやら、また訳の分からない発言が飛び出す予感がする。


「異能力バトル的展開だ……!! おい、大統領……。それは超能力なのか!? いや、魔法か……!はっ。分かったぞ!? VRMMOだな!? そうか……VRMMOは完成していたんだ……! 政府はその存在を隠してきたんだな!?」


 本当に飛び出すとは。


「うーん。詳しい話はともかく、まあ君の順応性は大統領は評価したい。未知の力の存在にワクワクしてくれないとこっちも張り合いがないものね」


 満足げに頷く大統領に対して、


「なんでそんな訳の分からない物にワクワクしなきゃならないのよ……」


 しかめ面をしたのはツンデレ。まあ、私たちとしても大いに同感である。……約一名を除けば、の話らしいが。


「おい。察しが悪いぞ。ツンデレ……」


「はあ!?」


「俺たちは……この魔法が飛び交う世界へ転生したんだよ! 異世界チートの幕開けなんだよ!!」


「「いせかいちーと?」」


 ツンデレとメガネが揃って首を傾げている傍らで、一人大きく頷いている男がいた。


「ラノベの言っていることはよく分からないが……なんとなく察しがついてきたぞ……」


 コートだ。恐らくは、彼の中で一つの解答が生まれたのだろう。顔を上げて、大統領が座り込む瓦礫の方を見つめる。


「お前のさっきの挙動……瞬間移動か何かは知らんが、さっき長々と説明していた『自己紹介』とやらで言っていたことに関係があるのか?」


 思わずハッとする。

 余りに唐突な出来事に、『どうせ戯言だろう』と勝手に断定し、ただ聞き流すしかなかった最初の『自己紹介』とやらを、コートはずっと気に留めていたのだ。

 

「おお、いいね。『一体どんな手品を使ったんだ?』とかいう、冷める尺稼ぎ発言が出ないのは実に好印象です」


 大統領も憎らしいまでににこやかな笑みを浮かべ、コートに拍手を送った。そのまま彼は真っ白なスーツについた砂を払うと、瓦礫をぴょんと飛び降りた。


「じゃあ、みんながいい感じに困惑してくれたし、ラノベくんも突拍子も無いことを言いやすい雰囲気作りに貢献してくれたことだし……ここは一つビシッと本題に移らせて貰おうかな」


 そこまで言って改めて私たちの円の中に入っていくと、大統領は芝居がかった動作で大きく両腕を広げた。そのまますーっと息を吸い込むと、突如大きく口を開く。


「えー、これから皆さんには!!! 『力』を与えたいと思いますっ!!!!」


 高らかに宣言されたその言葉に、私たちは今度こそ、ただ台詞の意味を理解しようと努めるしか出来なかった。




 力……一体何の話だ?


 どうしてそんなものを与えられなくてはいけないのだ……?


 一体今までのどこまでが現実で……これから起こることもどこまでが現実になるのだろう……?



 

「きた……きたっ……」


 ラノベが何やらぶつぶつと呟いていたが、恐らくは皆、同様のことを考えている筈だ……。そんな中、メガネがゆっくりと手を挙げた。


「え、えっと、力ってつまり……さっきの瞬間移動みたいなことですか?」


「さっきそこのコートのお兄ちゃんが似たようなこと言ってたでしょ!! シャラップでお願いします!!」


「あ。は、はい……」


 テンポを乱される、というヤツなのだろうか。ぴしゃりとあえなく黙らされる。メガネも……少々緊張感に欠けるヤツなのかもしれないな。


「まあ、これから与える力が僕の力に到底及ぶとは思えないけど……。まあ無いよりマシでしょう!! んーっとじゃあ早速……」


「ちょ、ちょっと待て!!」


 そこで声を張り上げていたのは……私だった。


 ここで何を言うつもりだ……? そして、何故遮るような真似をした……?

 大統領の吐いた、なんでもないような台詞の一つが不意にフラッシュバックする。


『これから何が起こるかというのか、気が気じゃない癖に、いちいち余分な所で突っかかって人の進行を邪魔するんだ。で、邪魔するだけ邪魔した先に、別に目的がある訳でもなくて結局は黙り込んでしまう。偉そうな顔して、聞きたくないことをただ先延ばしにしているだけじゃないか!』





「な、何故そんなことをする? 我々に力とやらを与える……それは一体何の理由があってだ?」


「一見いい質問のようだが、正直愚問だね。正直察しが悪すぎるってもんだよ」


「は……?」


 やれやれと、呆れたような溜め息をつかれる。しかし大統領は広げた両手を更に天高く掲げると、更に勢い良く続けた。


「こんな廃墟に突然拉致られてさ!! 個性的なメンツが一堂に会してさ!! 怪しいゲームマスターが現れてさ!! 異能力を与えられてさ!? そんなシチュエーションで、やることと言ったら一つしかないでしょう!? なあ、一つしか無いだろうがよおおおおっ!?」


 その言葉で全てが確信に変わる。


 ……確信に変わる?


 なんだ。つまり、やはり私はある程度『予想』していたんじゃないか。

 そうだ……。きっと、この後起こり得る出来事の全容を、ある程度理解できていたのだ。それも今や、ついさっきの話ではない。きっと、この広場でこの連中に会った時から、ずっと最悪の出来事を想定していたんだ……。


 それでも、それを私はなんとか止めたくて……いや、止める術など無い知りながらも認めたくなくて……私の口は制止の声を叫んだのかもしれない。

 

 最悪の事態に向けての覚悟……? 

 はは、そんなもの、一つも出来ていないではないか……。本当に女々しいんだな。私は。










 そうして、ゲームは始まった…………。

一体何が始まるっていうんだーっ!?

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