不確定の目的
なんかもっと纏めようかな。章を。
中身そうでもない長さなのに、プロローグの長さFate並みになってるみたいじゃない。
折角来てくれた人に『なにこれ!? プロローグ長っ!! 呪う!!』って言われても文句言えない・・・
「それで……これからどうします?」
「とりあえず、散策に向かった残りの三人と合流するべきだろうな……。何か新しい情報があればいいんだが、何より奴らにも俺らと同様、呼び名をつけなくちゃならねえ」
「コートさんは呼び方にこだわるなあ……。物は相談なのですが、そこまで呼び名が大切なら、私の安直なこの呼び名をですね……? あの……あ、いえ……はい、なんでもないす……」
メガネとコートが何やら話し合っている傍らで、私はと言えば改めて廃屋の乱立する灰色の風景を眺めていた。
散策に向かったという三人は、本当に何か発見を持ち帰ってくれるだろうか……。こんな何もない空間から、現状を打開する重要な手がかりがあるとは到底思えないが。
「…………」
……どうやら、私という人間を分析するに、大分ネガティブな思考の持ち主らしい。
何が『到底思えない』だ。要は、暗い雰囲気に呑まれてしまっているだけじゃないか。根拠ゼロ。ちっとも論理的じゃない。
「いけないな……。こんなんじゃ」
「おい、何を惚けているんだ……。他の連中を探しに行くぞ」
そうだ。私の記憶を無くしたのはある種のチャンスだ。私の内面に、遺伝子レベルでネガティブな人格が刻まれているとしても、記憶が無ならば今からでもそれを塗り替えることだって可能だろう。今の私には過去に作ったトラウマも、苦い思い出も何もないのだから……。
「大丈夫だ。私に任せろ」
「な、なんですか……? ヘビさん、なんか気合入ってます?」
そうだ。そしてヘビなどという不名誉な呼び名もいい加減に受け入れるのだ。いつまでも上辺では納得したフリをしながら心の隅にしこりを残しているのは女々しいことだ。
「問題ない。ヘビと呼ぶといい」
「べ、別に許可を頂かなくても呼んでますが……」
「おい、貴様ら。ちょいと待てよ」
私たちの様子を一歩離れて見守っていた他の四人も集まってくる。彼らも彼らで何かを話し合っていたようだが……。
「何を勝手に仕切ってんだ? フラフラと別行動していった連中を探しに行く? そんなものはてめえだけでやってくれよ」
「拙者たちが、貴公らの判断に従う義理はないのでな……」
軍人と侍が堅物よろしく駄々をこね始まる。こいつらの話し合いの結論はそれか……。
返答しようと歩み出たコートを制止して、私は口を開いた。
「……いいか。全員で探しに行くのは決定事項だ。従って貰わなくては困る」
「だから、何で従わにゃならねえんだっつってんだよ」
「逆に聞きたいな。何故従わない? 一度冷静になれ。君たちは時間の経過につれて事態を軽視し始めているんだ」
「聞き捨てならぬな……」
……正直言って、呆れを通り越して違和感すら覚える。
まるで、自分たちがそういう『キャラ』だから……それだけの理由で反発しているとさえ思えるような、筋の通っていないつまらない反発じゃないか。
「私は、廃屋から出てこの広場に集まってから今の今まで、一度として『散策に行った三人』とやらの姿を目撃していない。私がここに来てから随分と時間も経つが、一度としてここにいる『七人以外』を目撃していないんだ。何か異常事態が起きたという可能性を考えないのか?」
「だとしても、俺たちが貴様らに従う義理は無い。気になるのなら勝手に……」
「まだ分からないのか……。異常事態が起きていると分かっていながら、バラバラに行動することがどれだけ愚かなことか、少しは考えてみろ。私はそういう楽観的な態度が『事態を軽視している』と言っているんだ」
「それならば、貴公らがこちらに従うべきだ……」
「……なんだと?」
「拙者は、ここで動かないことが賢明だと考えている。何か異常が起きているのなら、その場を離れ、無闇に脅威へ向かって行くことこそが正しく愚の骨頂と言えよう……」
「何を馬鹿な……。今探しに行けば、『三人』の身にもしものことがあったとしてもまだ救出できるかもしれないんだぞ!?」
「それこそ、『一体何の義理があって』というもの……。まだ素性さえ知らぬ者たちのために、我々七人の身を脅威に晒してまで助太刀に参る意味はあると言うのか?」
「……………………」
……洒落臭いな、こいつら。
知った風な口を聞きやがって……。
たった今吐かれた言葉の意味を理解しようと努力した結果、私が導き出せたのはそんな汚い言葉の羅列だった。
結局こいつらは、一つの選択として保守的に徹するという形を取っているように見せかけて、実のところ『非現実な事態にも冷静に振る舞って、順応している自分』を演出したいだけなんだ。
何も考えていないんだろう? 仮にここに留まり、何も行動を起こさないとした場合の、その先のビジョンなど何もないのだろう?
何をすればいいのか分からない。それは、根底では、未だに自分たちに置かれた信じ難い出来事を咀嚼し切れていないからだ。そして、あまりに有り得なさすぎて、『何が起きてもおかしくない状況』を『なんだかんだでなんとかなりそうな状況』に勝手に変換している。
そういう中途半端な思考に冷静な判断が阻害されているから、何の実にもならない適当な発言ができるんだ……。
……って。何を考えているんだ、くそ。情けない。
腹が立っているのか、私は。
「……………………」
「ヘビがすっかり黙っちまったな……」
「あわわ……。ものっすごい剣幕になってるじゃないですかっ。コートさん、助け舟出してあげればいいのに……」
「確かに『散策に向かった三人との合流』を提案したのは俺だったしな……。おーい。ところでそこのお二人さんよ」
コートは軍人と侍の後ろに隠れたラノベとツンデレに呼びかけたようだった。
「お前さんらはどう思ってんだ……? そこの軍人と侍さんと同じで、この場から動きたくないのかね……」
「……え!? わ、私!? そ、そりゃ私だって確固たる意見を持っているわ! べ、別にこいつらの剣幕に気圧されて、意見を言う余地がなかったとかそういうんじゃないんだからね!? 本当よ!?」
「やれやれ……。どうやらこのトンデモ空間に、俺の意見がまかり通る余地など無いらしい。個性の塊のような連中の強烈過ぎる自己紹介。それだけでも俺は食傷気味だったと言うのに、今度は仲間割れで喧嘩と来た。これには流石に三度の飯より平穏を愛する俺とは言え、冷静に仲裁など入れそうも無い。戦闘力村人Aな俺など瞬く間ににミンチに変わっていることだろう。しかし、勿論俺には内に秘めてはいるが……」
「コートさんダメっす。この人たちなんも考えちゃいません!」
ラノベとツンデレが現実逃避を始め、コートとメガネが頭を抱えているそんな時にも、私たちのこう着状態は解かれそうもなかった。
「おい……。どうするつもりだ……。このまま私たちが駄々をこね合っていても何もならないぞ」
「そうでもないぜぇ? こうやって貴様らを牽制できている時点で、貴様らは俺たちの思う壷なのだからなぁ!!」
「…………つまらねぇことを……」
「ちょ、ちょっとコートさん! なんかヘビさんのヤバい部分出てきてません!?」
「ヤバいな……。うん。アイツちょっとヤバいかもな……当初思ってたのと何か違う……」
「ヤバいヤバい言ってないでなんとかしてくださいよ……!」
「いや……ここは女のお前が行った方が……逆にな」
「逆に!? 逆にってなんですか!? なんでこの状況でまさかの私!? ツーストライク満塁で代打に出されたピッチャーっすか私!!」
「しょうがないよ。ここはフェアにじゃんけんといかへんか?」
「そ、そうですね。フェアにね……」
「そうだな。いいこと言うな。じゃんけんがいい。じゃんけんこそいいよ……」
「あ、ちょい待ち。三回勝負? 一回勝負? これ最初にハッキリさせとかへんと絶対後で文句言いよるやん」
「一回勝負でいいよそんなのは」
「いや、待って下さい。私は三回勝負が……」
「待って待って? 三回勝負って何を想像しとる? 三回負けた人が仲裁に行くん? それとも三回勝負して、二回負けた人が行くん? ……あれ? よう考えたらこれ三人の場合成立しないやん? それぞれが一回ずつ負けたらどないしろっちゅうん? まあ、俺が提案しといてなんやけども」
「いや、大丈夫ですよ。だって私とコートさんの二人でじゃんけんを……。えっ?」
「えっ?」
メガネとコートが顔を上げ、その長身の男とばっちり目線を交わす。
「え? なに?」
「「誰っっ!!!??」」
その声にその場の全ての人間が反応した。そして同時に認識する。眩しいまでの白スーツで全身を纏めた『男』の存在を。
「誰って……。誰はないだろーよぉ」
「いや、誰よ……。アンタ……」
ツンデレの問い掛けに、男は口元をにやりと歪ませた。
「ふぅむ……? 誰かって……? クク……。そうさ、この俺こそ……」
「勝手に探索に行っとった三人組の一人ですわ!!」
「……はあ?」
その素っ頓狂な声が、自分の口から発せられたものだということにも気づかず、私は憤りも忘れてただその男を見つめていた。
「いや、『はあ?』ってなるのは分かるんですケドね……」
気障ったらしい金色の前髪を弄りながら、男はうっすらと表情に影を落とした。
「でもね? 自分だって、広場に戻ってみたらこないな状況になっとって『はあ?』って感じですわ。この空気で、どうやって入ってきゃいいっちゅうねん。これはもう、あたかも最初からいました〜みたいに入ってくしかないわな〜とね」
「あ、無事だったんですね……それにしても、今度は関西弁キャラですか……。私、なんだか普通であることに違和感を覚え始めてきました……」
メガネに耳打ちを受け、曖昧に頷いた。まあ、まずは三人の内の一人がいいタイミングで戻ってきてくれてよかったが、それよりも……。
私たちが無作為に選ばれたにしては、彼女の言いたいように、それぞれの個性が強過ぎる。やはり私たちは何かの『選別』を受けて選ばれた人間なのだろうか。
「キーワードは勿論『記憶を無くした』その理由にあるのだが……セオリー通りに考えるのなら、俺たちは記憶があった時、何らかの罪を犯していたという可能性が濃厚だ」
いつの間にか、私の横にラノベが立っていた。いつになく真剣な表情で……なにやら遠くを見つめて。
「それで、我々は人々を苦しめてきた代償に、何かしらの『償い』をしなくてはいけない。記憶を戻したかったら……そしてここから脱出したければ提示される何かしらのミッションを行わなくてはいけない、そうゲームマスターに宣告されてな。そして記憶を手に入れたその時初めて、俺たちは自分たちが過去にしてきた過ちに気づき絶望するのだ」
「ら、ラノベさん?」
虚ろな目をしながら淡々と喋り続けるラノベの顔色を、メガネが心配そうに覗き込んでいる。
「しかしそれはゲームや漫画、そしてライトノベルの世界の話だ。現実問題、『記憶があった時の罪』が理由で集められたとしたら、俺たちがここまで揃いも揃って個性的である説明がつかない」
……ふざけているのかと思ったが、意外とこの男の推理は鋭い。
確かにそうだ。つまり、『私たちの個性』こそがここにこの十人が集められなくてはいけなかった『意味』であって、記憶喪失前の経歴は関係がない可能性が大きい。
「よって、これから起こるであろう出来事の大方の察しはつけることができる」
「そ、それは一体なんなんですか……!」
「ゲームマスターの主催するゲームで争うんだよ。その目的までは分からんがな。だがそれがお決まりだ」
「げ、ゲームですって!? ……ん? お決まり……?」
「個性的なキャラクターが縦横無尽に暴れ回り、ドラマを繰り広げる姿は絵になるだろう。もしかしたら、それを賭け事に利用してどこかの観客が盛り上がってるのかもしれないし、あるいは世界各国の大金持ちの壮大な娯楽に巻き込まれてるのかもしれないし、もしくはゲームマスター自身がゲーム好きなだけの理由なのかもしれない。いずれにしろ、俺たちプレイヤーはゲームを盛り上げるためだけに呼ばれた『駒』でしかないんだろう。俺たちが納得するような結末はこの手のゲームの果てには無いのがお約束だ。覚悟することだな」
……流石に頭の中が少年漫画過ぎるとは思うが、まあこんな状況だ。有り得ない話でもない。
「な、なんか何も始まっていないのに、話を飛躍させ過ぎじゃありませんか……? そもそも、ゲームで争いをさせられることは前提なんですか……? 私たちは何をさせられるって言うんです?」
「ま、一番よくて知能戦……ズルにイカサマなんでも有りのギャンブルってところだろうが、このような場合に、最も恐れなくてはいけないゲームの内容は勿論……」
「なんや!! 人の自己紹介無視してえらい盛り上がっとるやん!!?」
カッカと大口を開けて笑いながら、スーツの関西弁が近寄ってきた。
「兄ちゃん頭ええなあ! ちょこっと話聞いとったでえ? 俺も漫画は読む方やけど、確かにそういう展開あるあるやもんなあ!」
「ていうかラノベさん、キャラ変わってませんでした……?」
その言葉にラノベはようやくハッとして、何故か少し顔を紅潮させた。
「……主人公補正だよ」
「え……なんですかそれ……つよそう」
……最後の言葉は有耶無耶になってしまったが、まあ言いたかったことは分かる。貴重な分析が聞けたかもしれない。……まあ、彼自身については正直漫画の読み過ぎだとは思うが。
色々な人間の登場、様々な考察を交えて、私の中にあった漠然とした不安が、次第に形を帯びてきた気がする。
……私もその『万が一の場合』の時のための覚悟は決めなくてはいけないようだな。
「ねえアンタたち、いつまで無駄話してるつもり!?」
見ると、苛立った様子でツンデレが腕を組んでいた。
「その関西弁に尋問するのが先なんじゃなくて!? 今まで何やってたとか、聞くんでしょう!?」
「え? 関西弁って俺のこと?」
「そうよ! アンタは今から便宜上『関西弁』よ!! どうせ自分の名前なんて知らないんでしょ!?」
「そら覚えとらんけど……だからって関西弁だから関西弁て、んな……」
「あーもうもうもうっ!! その面倒なやり取りもいいわよ!! 私だってツンデレだしあっちはメガネだしそっちはコートなの!! べ、別に私はツンデレではないけど……そういう風に決まって、文句言いっこ無しってことになってるのよ!! べべべ、別に私は自分の不名誉な呼び名に未だに不満を持ってる訳じゃないけどね!?」
「まあ、例によって話が進まない訳だから仕切らせてもらうが……」
何故か一人で真っ赤になり始めたツンデレの前に、コートがずいと身を乗り出した。
「まず、お前が目覚めてから今までの経緯を教えてくれ……。今まで何をしていて、何があった?」
コートの問い掛けに、関西弁は頬をぽりぽりと掻いて唸る。
「んーっと……まず俺が目覚めたら変なボロ屋におってなぁ、それはみんなそうなんやろ?」
「それから? 目覚めた後はどうした?」
「最初はここや。この広場に行ってみたねえ。そしたら、俺の前にもう先客が二人おってな、そいつらとちょいと話し合ったんやけど、俺たちは手分けして散策に行こうってことになったんよ」
手分けして散策、か……。
正直、いきなりそれは無謀過ぎると感じざるを得ないが……まあ、わざわざ話の腰を折るようなことでもないか。
「それで、三十分くらいしたらまた広場に集合ってことにしたんやね? んでまあ……恥ずかしい話、瓦礫ばっかで大した収穫もなくて、俺がとぼとぼ一番乗りに戻ってきてみたら、なんや初めましての人らが揃いも揃って揉めに揉めてたっちゅう感じかな。見た感じ、他の二人はまだ戻っとらんようやね」
揉めに揉めてまではいないがな。
……まあ、つまりこの男も残りの散策組の行方は知らないのか。とは言え彼の発言で、私たち以外の三人の安全は保障されたということが分かった。しばらくすれば残りの二人も帰ってくるということだろうな。
ふとコートの方を見てみると、彼は何やら噛み砕くように大きく頷いていた。
「こんな感じでええか〜? 満足か?」
「ああ……満足だ。これではっきりとした」
「はっきり? 何か分かったん!?」
「ああ。お陰でとても重要なことが分かった……」
コートは向き合った関西弁を鋭く睨みつけると、吐き捨てるように言った。
「関西弁、やっぱりてめえが黒幕じゃねえか」
別に大阪の人が悪いとか、大阪の人は気づいたらいつの間にかいるとか、大阪の人は髪の毛を金髪にするとか、大阪の人はすぐ白スーツを着るとかそういう勝手なイメージからコートは関西弁を黒幕扱いした訳じゃないよ
呪わないで下さい。感想を下さい