不明瞭な情報
大変長らくお待たせ致しました。
異世界長編再開していきたいと思います!
もう第4話しか達していない時点で異世界長編と名乗るのはおかしいですけどね。異世界長編(予定地)みたいなもんですよね。おかしいですよね。ごめんなさい
声に応じて、彼女の前にぱらぱらと人が集まる。
しかし、全員が集まった訳ではなかった。……加えて言えば、二、三人は既に広場から姿さえ消していた。勝手に散策にでも向かったのだろう。
「えっと……あれ? もう少し、人数多くなかったでしたっけ……?」
「全員が貴様の話を聞かなくてはいけない理由でもあるのか?」
低くドスの利いた声が遮るように飛び出す。その声量には威圧めいたものさえ感じられた。
「そもそも、いきなりなんなんだ? 貴様は何者だ?」
真っ赤なベレー帽に、大きな黒眼帯。袖を捲った迷彩服から生える逞しい手足には、至る所に大袈裟な縫い跡が這い回っている。男は、まるでアメコミか何かからそのまま飛び出したような屈強な軍人の出で立ちをしていた。
「な、何者って言われましても……。私はただ……みんなで状況を整理した方がいいかな……って出て来た者で……」
その圧倒的な威圧感に、少女はすっかり縮こまっていた。
彼女はと言えば私よりも一回り背も低く、ショートボブの小顔には赤ぶち眼鏡が掛かっているなどと言う、可哀想な程にごく普通の女の子だ。 その絵面はさながら、大熊に襲われる小動物のそれである。
「ハッ!! 素性も明かせないような小物がでしゃばるんじゃねえよ!! そもそも、俺たちを拉致った野郎はどこにいるんだ? 俺ぁそいつに話があるんだ」
「えと……そのぅ、ですからそれを探すためにも……」
「アンタ馬鹿じゃないの? 素性も何も、私たちは全員記憶喪失なのよ? 大体、アンタだって自分の名前すら思い出せないんでしょ?」
掻き消えそうな声はまたも別の声に遮られる。その主は少し盛り上がった瓦礫の山の上に、足を組んで腰掛けていた。
「自分のことは棚に上げて、何を偉そうに吠えてるのかしら?」
「や、やかましい!! 女の癖に生意気言ってんじゃねえぞ!」
螺旋階段のようにグルグル巻きの金髪ツインテール。黒いニーソックスは、すらっとのびる白い脚を覆っていて、胸元のリボンが仰々しいブレザーに身を包んでいる。
生意気な口振りとは裏腹に、どこか高貴な雰囲気を感じさせる謎のお嬢様感は、どこかで見掛けた安いアニメキャラクターのようだった。
そんな彼女は、男に嫌悪感を抱いたように、つり目を細めていた。
「なんて時代遅れで恥ずかしい台詞を吐くのかしら。典型的な嚙ませ犬ね。……無視して話を進めましょう?」
「あ、はい……。どうも……」
「どうも……? か、勘違いしないでよねぇ!? 別にお礼とか言って欲しくてフォローした訳じゃなくてこのままじゃ話が進まないし……っていうか違う違う!! フォローした覚えもないんだから!! 勝手に感謝の言葉を述べないでよね!?」
「いや……あの、ただの社交辞令で……」
「茶番はそこまでにして頂けぬかな……。拙者、騒々しいものはどうにも好かぬのでな……」
「やれやれ……。どうして平穏無事な生活を送ることだけを人生目標としているこの俺が、こんな驚天動地なシチュエーションに巻き込まれなくちゃいけないのだろうか……。しかも、よりによって特徴の無いのが特徴、そんな俺の周りにこんな個性的なメンツが集まるだなんて……。これを悲劇と呼ばなくて何と形容すればいいのだろう」
最早呟きにも満たない声量でぱくぱくとしている少女を完全に無視する形で立て続けに二つの声が飛び出す……。
テンポよく行こう。
一人は長髪を後ろで結った袴姿の、侍のような奴。もう一人は前髪だけ異様に長いことのみが気になるが、特徴が無いのが特徴……確かにそんな雰囲気を醸し出すごく普通のお喋り男子学生……そんな所だ。
「ちょっと、個性的なメンツって……まさかその中に私が入ってる訳じゃないでしょうね!? 私をこんなみょーちくりんな連中と一緒にしないで欲しいわ!! いい迷惑よ!」
グルグル巻きの甲高い叫び声に呼応するように、少年はオーバーに苦悶の表情を浮かべた。
「うっ! 全くの初対面の善良な市民Aに対して、どんだけ高圧的な態度を取るんだ……! はあ、どうして俺は変な女にばかり絡まれるのだろう。この世に果たして俺以上に不幸な人間なんてものが……」
「貴公は話を聞いていなかったのか……? 拙者たちには記憶が無いと言うに、何故『変な女にばかり』などと、あたかも体験をしたかのような物言いが出来るのか……。よもや、貴公が背後で全ての糸を引く者という訳ではあるまい……?」
「深読みしすぎなんだよサムライ!! ただ妄想癖が強いだけの坊ちゃんに決まってんだろーがよ!? ニッポンの中高生はみーんなこんな偏屈な奴ばっかなんだよ!!」
「ぬ……? 貴公は日本の産まれではないのか……?」
「それこそ深読みに過ぎないわね。自分が日本の産まれじゃないと、この軍人気触れが勝手に予想した上での発言に過ぎないわ。まあ無理も無いわね。どうみても自分の容姿、グリーンベレーかなんかだもの」
「待て待て待て待て。ツンデレに軍人に侍よ。俺を無視して話を進めるな。俺個人の本心を聞かないまま、勝手に妄想だなんて決めつけてもらっちゃ困る。俺の意思の尊重、人としての尊厳がだな……」
「少年漫画の万国博覧会ってとこかな……」
私の隣で終始沈黙を貫いていた黒コートが、とうとう皮肉っぽくこぼした……。まあ確かに、個性的過ぎて胸焼けがしそうな顔ぶれではある。
「ああ……もう、完全に収拾が……」
そして目線をほんの少し下に向ければ、当初話を仕切る予定だった少女が完全に気圧され、蹲っていたのだった。
「……おい、その辺にしとかないか」
そんな調子に痺れを切らしたのか、とうとう黒コートの男が輪の中へ歩み寄っていった。
「話が全然進んでないんだよ……。もっと建設的に話をしていこうじゃないか」
「こ、今度は誰よアンタ……」
「俺は……あー、ったく……。だからこの名前の件もいい加減切りが無いんだよ……。とりあえず便宜的な名前をつけよう。まず俺のことはコートと呼べ」
それから……と、コートは彼の足下に蹲る少女を指差す。
「お前はメガネだ」
「メガネ!?」
その単語が発せられた途端、聞き捨てならないとばかりに彼女はぶんと顔を上げた。
「んな安直な!! そ、そもそもメガネなんていうのは、今や理系大学生だったらつけている方がステータスだという程にまで世間に浸透したパンピーのマストアイテムだというのに、それをあだ名に用いるだなんてのは最早中学生的発想であって……」
「俺だってコートを着ているからコートだ。文句があるのか」
「いや、ないっす……」
勢いも虚しく、ひとたび睨まれればすぐにしゅんと俯いてしまうのだった。
コートはそのまま顔を上げると、再び四人の個性の塊たちに向き直る。
「それからお前らは左から順に、ツンデレ、軍人、侍、ラノベだ。分かったな」
何かぞんざいだな。
私がそう思うまでもなく、すぐさまブーイングが上がる。
「ちょっと待てその理屈はおかしい。軍人っぽい容姿だから軍人、侍っぽい見た目だから侍。それは分かる。では何故この無個性が服を着て歩いているような俺の名前がラノベなどという突飛な発想に至るのだ。今までの理論で言うのなら、俺のあだ名はある種『無個性』と言っても過言ではないだろう」
「ちょっと待って! それを言うなら私のツンデレだってそうよ!? そもそもねぇ!!」
「それで、あと残ってるのは……」
後ろで一際喚き立てている二名を完全に無視する形で、男は最後にこちらを振り向いた。
「お前は……」
そう言ったまま、すぐに押し黙る。
「ちょっと、人の話を……」
散々騒ぎ立てていた他の面々も、改めて私に注目したところで、ぴたりと黙り込んでしまった。
「…………」
「……いや、私で考え込まれる意味が分からない……。ローブでいい。あるいはフードを被っているからフードでもいいし……」
「ちょっと待て。それでは俺とこのツンデレが不公平だ」
ラノベが余計なことを言った。
「大体、アンタってフードはそこまで特徴的じゃないのよね。漆黒要素が前面に出過ぎているというか」
「ウム!! 貴様は怪しげな雰囲気の方が勝り過ぎているな!!」
「いっそ黒幕(仮)と呼んでしまう方がしっくり来るのではなかろうか……?」
「そ、それは流石に失礼過ぎますよ……。ねえコートさん、やっぱりローブ、フード辺りでいいんじゃないですか?」
「ヘビ、だな」
「「「「「え?」」」」」
素っ頓狂な声が、併せて五つ重なった。
「ヘビ、だわな」
「…………」
数刻の間の後、五つの首が揃って深く頷いていた。
「そんなに……」
「そんなに……私はそんなに目つきが悪いのか……?」
気づけば、思わずそんな言葉が口をついていた。
しかもほとんど話が進んでないですもんね。
早く黒幕出てこいよって話ですもんね……。
果報is寝て待て